東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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自動車事故が起きた場合、当事者(自動車✕自動車、自動車✕人、自動車✕バイク、自動車✕自転車)のどちらの方が不注意や過失の責任が大きいかが問題となります。
その責任の割合のことを過失割合と言います。
基本的な過失割合は過去の判例の蓄積から作成された認定基準によって算定されています。
多くの場合、警察署で作成した事故証明書や過失割合認定基準(別冊判例タイムズ『民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準』)に基づいて当事者の保険会社同士の協議で決められます。
被害者に過失がある場合、慰謝料は過失割合に応じて減額されることになります。
前述のように、基本的な過失割合は過去の判例蓄積によって算定された認定基準に基づきます。
しかし、個々の事故状況は様々であり、具体的な事故状況を考慮して基本的な過失割合を修正しなければならない場合があります。
その個々の事故状況に応じて過失割合を修正するのに参考にされるものを修正要素と言います。
たとえば、基本的には歩行者は道路上への飛び出しや、道路上で立ち止まることは過失となり過失割合が加算されます。
しかし、歩行者が高齢者・児童・幼児・身体障害者である場合は配慮されるべきであり、そこで修正要素の必要性が生じます。
ところで過失割合の修正要素を検討する上で、「著しい過失」「重過失」という考え方が重要となります。
そもそも交通事故は、過失や不注意によって起こるものです。
そのため通常の不注意や過失は基本的な過失割合に含まれていて、特に加算されることはありません。
しかし、過失にも通常範囲の過失とは別に「著しい過失」「重過失」に分類されるものがあり、事故状況によってはさらに修正割合が大きく加算される場合があります。
「著しい過失」「重過失」は車両である自動車・バイク・自転車に適用されますが、歩行者には適用されません。
過失割合の修正要素は主な事故パターン別に次の4つのケースに分けられます。
基本 | 歩行者0 | |
---|---|---|
修正要素 | 夜間 | +5 |
幹線道路 | +5 | |
直前直後横断 佇立・後退 | +5〜15 | |
住宅地・商店街など | -5 | |
歩 自動・高齢者 | -5 | |
歩 幼児・身体障害者など | -10 | |
集団横断 | -5 | |
車の著しい過失 | -5 | |
車の重過失 | -10 | |
歩車道の区別なし | -5 |
通常、交通弱者である歩行者は保護されるべき対象として認識されています。
しかし、歩行者に過失があった場合、歩行者にも過失割合が加算される場合があります。
もちろん、自動車側にも過失割合が加算されるケースもあります。
では、歩行者に過失割合が加算される具体的な例を見ていきましょう。
【夜間】
自動車から歩行者を視認しにくい一方、歩行者は自動車をライトで視認されやすいので歩行者側に過失割合が加算されます。
【幹線道路】
自動車が高速で走行する幹線道路では、歩行者は注意を払うべきと考えられるので歩行者側に過失割合が加算されます。
【自動車の直前直後の横断】
自動車の直前直後で道路を横断した場合、歩行者側に過失割合が加算されます。
【横断禁止場所の横断】
横断が禁止されている道路での横断は歩行者側に過失割合が加算されます。
【飛び出し】
道路上への飛び出しは、歩行者側に過失割合が加算されます。
【立ち止まり】
道路上での立ち止まりは、歩行者側に過失割合が加算されます。
次に、自動車側に過失割合が加算される場合を確認していきます。
【歩行者が児童・高齢者・幼児・身体障害者などの場合】
これらの歩行者を保護する観点から、自動車側が配慮して運転すべきとして、自動車側に過失割合が加算されます。
なお、ここでのそれぞれの条件は以下のようになります。
【集団での横断・通行】
自動車側から視認が容易であるため、自動車側に過失割合が加算されます。
たとえば集団登下校などがそれにあたります。
速度など | AB同程度の速度 | A減速せず B減速 | A減速 B減速せず | |
---|---|---|---|---|
基本 | A40:B60 | A60:B40 | A20:B80 | |
修正要素 | Aの著しい過失 | +10 | +10 | +10 |
Aの重過失 | +20 | +20 | +20 | |
見とおしがきく交差点 | -10 | -10 | -10 | |
夜間 | -5 | -5 | -5 | |
Bの著しい過失 | -10 | -10 | -10 | |
Bの重過失 | -20 | -20 | -20 |
自動車同士の事故では、次の場合に過失割合が加算されます。
運転者は進路変更、右左折、転回、徐行、停止、後退などの時に交差点の30m手前もしくは進路変更の3秒前にウインカーで合図する義務があります。
ウインカーの合図なしで事故が起きた場合、過失割合が加算されます。
また、進路変更の直前または同時のウインカーの合図は「合図なし」の扱いになります。
ただし、車線変更、追い越しなどの際は「合図遅れ」として「合図なし」の半分の過失割合となる場合もあります。
見通しのきく交差点では左方の車両は認識されやすいことから、左方優先となります。
したがって、右方車両側に過失割合が加算されます。
右折が禁止されている交差点での右折は右折禁止違反車両に過失割合が加算されます。
右折時の危険行為として以下のものが挙げられますが、これらはすべて右折車に過失割合が加算されます。
交差点では右折車は直進車、左折車の進行を妨害してはいけません。
徐行せずに右折して、事故が発生した場合には右折車に過失割合が加算されます。
交差点においては直進車が優先でされます。
しかし、侵入すると交差点内で停止しなければならない状況になる場合は侵入してはいけません。
そのような状況で、右折車と事故になった場合は直進車に過失割合が加算されます。
夜間においてはライトで車両の確認が容易なため、同じ幅員の道路の交差点では右方側の車両に過失割合が加算されます。
運転者及び同乗者はシートベルトを着用し、、幼児はチャイルドシートに着座させなければなりません。
これらを怠ると、過失割合が10%程度加算されます。
自動車の著しい過失と重過失の例としては以下のものが挙げられます。
(1) 著しい過失
(2) 重過失
大型車は普通車に比べ運転技術も必要であり、危険な車両と言うことができます。
そのことから、大型車には5%ほどの過失割合が加算されます。
速度など | AB同程度の速度 | A減速 B減速せず | A減速せず B減速 | |
---|---|---|---|---|
基本 | A30:B70 | A15:B85 | A45:B55 | |
修正要素 | Aの著しい過失 | +10 | +10 | +10 |
Aの重過失 | +20 | +20 | +20 | |
見とおしがきく交差点 | -10 | -10 | -10 | |
Bの著しい過失 | -10 | -10 | -10 | |
Bの重過失 | -20 | -20 | -20 |
基本的に自動車同士のケースが準用されます。
バイクの「著しい過失」「重過失」は以下のものが該当します。
(1) 著しい過失
(2) 重過失
自転車は免許がなくても運転ができますが、軽車両に該当し、以下のような規制があります。
これらのルールが守られていない場合、過失割合が加算されます。
(1) 著しい過失
(2) 重過失
示談とは裁判によらず当事者の間で話し合って合意することです。
お互いの責任の割合、すなわち過失割合についてお互い納得して合意します。
その当事者間の合意に基づいて、損害賠償額を決定して示談を成立させます。
そして成立した示談は当事者の合意のしるしとして示談書にされます。
後になってその示談書を撤回することは非常に困難です。
ここでは、示談交渉の注意点を挙げていきます。
示談交渉の注意点の説明の前に、事故発生から示談までのフローをご覧ください。
ケガをした場合、警察が作成する事故報告は必ず「人身事故」にしてもらってください。
事故直後は症状がないと思っていても、後から症状が出る場合があります。
「物損事故」で処理されていて、後から症状が出た場合は病院に行って診断書を警察に提出し「人身事故」に切り替えてもらいましょう。
治療中は医師に症状をきちんと伝え、記録を証拠として残しておきましょう。
事故時の医師の診断だけでなく、治療経過のデータなども、後の後遺症障害の等級認定の判断材料となります。
整骨院や接骨院に通っている場合でも、定期的に病院で医師の診察を受けるようにしてください。
後遺障害の等級認定の時に医師が作成した文書が必要になる場合があります。
「症状固定」とは、これ以上治療を続けても症状が良くなる見込みがない状態を指します。
治療が始まってから症状固定までは治療費や休業補償を相手方の保険会社から受け取れますが「症状固定」になると相手方の保険会社は治療費などの支払いの打ち切りを要請してきます。
そして、ここで支払い打ち切りに同意すると治療費などの支払いが打ち切られます。
残った支障は後遺障害としての扱いとなり、「後遺障害慰謝料」「逸失利益」として相手方保険会社に賠償請求を行うことになります。
しかし、無理に固定症状とする必要はなく医師と十分に相談して判断してもらうようにしましょう。
後遺障害診断書等の書面を認定機関に提出して等級の認定を受けます。
原則は書面に基づく審査になります。
ここで問題となるのが、医師は医学の専門家ですが法律の専門家ではないということです。
後遺障害診断書等の文書は医学的な書類であると同時に法的な書類でもあります。
記載要件を満たしていない場合などの不備があると認定されません。
医学的と法的観点、二つの観点からのチェックが必要です。
申請書類を医師に一任してしまうのは大きなリスクがあります。
弁護士等の法的専門家に依頼して書類を作成することをお勧めします。
被害額が確定してから、ようやく示談に入ります。
示談と言っても多くの場合、双方の保険会社同士の話し合いになりますが、多くの場合がとことん争うという形にはならず、妥協案を模索することになります。
お互いが強く主張しすぎて、交渉決裂になると裁判に発展してしまいます。
それを避けるためにお互いに妥協点をすり合わせる場合が多いです。
しかし、被害者は相手側から提示された賠償額を安易に受け入れることはお勧めできません。
弁護士等の専門家に相談することで、賠償金の増額が見込めるかもしれません。
賠償額に納得ができない場合は、相談できるところを早めに見つけておくことも大切です。
交通事故の修正要素、過失割合についての解説でした。
代表的な事故のパターン別に修正要素の事例を挙げました。
車両(自動車、バイク、自転車)には「著しい過失」「重過失」というより大きな過失割合が加算される概念がありますが、歩行者には適用されないことや、示談交渉の注意点について説明いたしました。
交通事故は無数の組合せがあり類型パターンは例示しきれません。
また、それぞれの事故には固有の事情があるのが現実です。
代表事例を参考にある程度は判断の助けにはなるでしょう。
一般人の感覚としては納得いかない事例も沢山あるのが交通事故の特徴です。
事故の際は、こうあるべきだと思い込むのではなく一度、弁護士等の法律の専門家に相談することをお勧めします。