東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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人身事故の被害者は、加害者側に運行供用者がいるときにその者に対して「運行供用者責任」を追及して自身の損害を賠償するよう請求できます。
しかし、この交通事故の損害賠償も、一定の期間で行使しないと時効によって請求権が消滅してしまって賠償金を受け取れなくなることがあります。
この記事では、交通事故の損害賠償請求権と保険金請求権の消滅時効について、運行供用者責任も含めて解説していきます。
目次
日本の民法では、所有権を除いた様々な権利について、一定の期間で行使されていない権利があるときにその権利を消滅させることができる消滅時効の制度があります。
交通事故では、被害者が加害者の不法行為責任を追及して損害を賠償してもらいますが「被害者が加害者と損害を認識した時から物損事故で3年、人身事故で5年」または「事故の時から20年」の期間が経過するまでに請求をしないと、時効により損害賠償請求権が消滅するとされています。
また、人身事故被害者の救済目的である運行供用者責任も人身事故と同様に5年で時効により消滅してしまいます。
ちなみに、2020年4月1日より施行された改正民法では不法行為の損害賠償請求権の消滅時効について時効が成立する期間が変更になりました。
これまでは身体的損害(人身事故)と経済的損害(物損事故)の賠償請求権の消滅時効について、損害の内容によらず3年とされていましたが、改正法では身体的損害について5年に引き上げられ、経済的損害について3年、併せて長期の消滅時効が設けられて損害の内容によらずに不法行為の時から20年とされました。
交通事故の損害賠償請求権が時効により消滅するためには、短期消滅時効で被害者が権利を行使できるようになった日(時効の起算点)から時間が経過(時効の進行)して、3年または5年の期限が到来(時効の完成)するか、長期消滅時効で交通事故から20年が経過することが必要です。
運行供用者責任でも人身事故と同様に5年で短期消滅時効が完成してしまいます。
短期消滅時効の起算点である「被害者が権利を行使できるようになった日」とは、被害者が「加害者を知ったとき」と「損害を知ったとき」の2つの要件を満たした時のことで、この時から消滅時効が進行していきます。
「加害者を知ったとき」とは、被害者が損害賠償を請求できる程度に加害者の氏名・住所を知った時のことです。
また、運行供用者責任では、運行供用者が判明した時となりますので、運転者よりも後になってから被害者が知ることもあります。
当然ですが、当て逃げやひき逃げ事故などでは、加害者が判明するまで短期の消滅時効は進行しませんが、長期の消滅時効の「事故から20年」は進行していきます。
「損害を知ったとき」とは、被害者が損害の程度や額までを知る必要はなく、損害が発生した事実を知った時のことです。
具体的に損害が発生した事実を知った日とは、損害別に見ると次のとおりとなります。
物損 | 事故発生日 |
---|---|
傷害 | 事故発生日 |
後遺障害 | 症状固定の日 |
死亡 | 死亡の日(相続人が被害者の死亡を知ったとき) |
交通事故の被害者が受け取ることのできる賠償金や保険金などの請求権は、その請求する相手先や内容によって消滅時効の完成する期間が異なります。
また、消滅時効が完成して相手方が時効を援用する手続きをとると、被害者は賠償金や保険料などを受け取れなくなりますので、注意が必要です。
被害者が加害者へ損害の賠償金を直接請求するときは、これまで説明してきたとおり加害者と損害を知ったときから、物損事故で3年、人身事故で5年、または交通事故の時から20年で請求権の消滅時効が完成します。
また、人身事故の被害者に後遺障害の認定がなされた場合、後遺障害についての賠償金請求権は症状固定から5年で消滅時効が完成します。
被害者が加害者の加入している自賠責保険へ賠償金として保険金を直接請求する(被害者請求)ときは、交通事故の時から3年で請求権の消滅時効が完成します。
これは、保険法の保険金請求権の消滅時効の規定が適用されるからですが、加害者の不法行為責任、運行供用者責任の消滅時効の期間が短縮されるものではありません。
また、後遺障害の慰謝料と逸失利益についての保険金請求では、被害者の症状固定がなされてから3年で請求権の消滅時効が完成します。
交通事故の被害者が加害者の加入している任意保険へ賠償金として保険金を請求するときも、自賠責保険へ請求するときと同様に保険法の消滅事故の規定が適用されるため、交通事故から3年で請求権の消滅時効が完成します。
時間の経過とともに時効が進行して、期間が満了すると消滅時効が完成してしまいますが、民法に定められた手続きをとると、消滅時効の完成を遅らせることが可能になります。
具体的には、時効の進行を一時的にストップさせる「時効の完成猶予」、時効の進行をリセットする(起算日に戻す)「時効の更新」に分けられます。
当然ですが、消滅時効をなくすことはできませんので、時効を完成させたくないのであれば時効の完成猶予や時効の更新の手続きを繰り返し行う必要があります。
交通事故の損害賠償について時効の完成猶予と時効の更新を行うためには、次の手続きを採る必要があります。
被害者は、裁判所の手続きである「訴訟の提起、調停の申立て、支払い督促」などによって、加害者へ賠償金の請求をします。
判決や調停が確定または和解が成立したときは、時効の更新にあたり、確定または成立の時から新たな時効が進行していきます。
また、訴えの却下や手続きが取り下げられて終了した時は時効の完成猶予にあたり、終了の時から6ヶ月間は時効が完成しません。
被害者は、加害者に交通事故の損害賠償責任があることを認めさせる、または保険会社に保険金の支払い義務があることを認めさせることになります。
この承認は時効の更新にあたり、この時から新たな時効が進行していきます。
被害者は、加害者や保険会社に対して賠償金の支払いを文書で催告します。
この催告は時効の完成猶予にあたり、この時から6ヶ月間は時効が完成しません。
被害者と加害者は、交通事故の損害賠償について協議を始める事とその期間(1年未満)を文書で合意します。
この合意は、時効の完成猶予にあたり、このの時から定められた期間または1年間は時効が完成しません。
交通事故では、加害者の不法行為責任と運行供用者責任による損害賠償債務、加害者が加入している保険会社の保険金支払債務について、それぞれ消滅時効の起算点と完成期間が異なっているため、経験や知識のない被害者にとっては理解しがたいことがあります。
そして、これらの消滅債務が完成して被害者が賠償金を受け取れないという悲劇が起こらないためには、専門家である弁護士を頼ることをおすすめします。