東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
自動車損害賠償保障法3条では、交通事故による人身に対する損害について、加害者である運転手と併せて被害者に対して賠償をしなければならない者を定めています。
これが「運行供用者責任」で、その責任を負わなければならない者を「運行供用者」と呼んでいます。
この運行供用者は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」で、運行責任と運行利益の要件に当てはまる者が該当します。
運行責任とは、実際に自動車を運転していなくても、その運転と走行をコントロールできる立場、その自動車の保管や事故を起こした運転手を指導監督する立場にあることです。
また、運行利益とは、自身または他人に自動車を運行させて経済的な利益を得ることに限定されず、非経済的な利益を得ている場合も含まれます。
民法では、「故意または過失によって他人の権利を侵害して損害を与えた者は、その損害を賠償しなければならない」とする不法行為責任を定めています。
しかし、「自分の業務のために他人を雇用している者は、業務中の従業員が第三者に対して損害を与えたときには、その賠償をしなければならない」とする雇い主の責任についても定められていています。
この「業務中の従業員が第三者に対して損害を与えたとき」と従業員の不法行為責任があることを前提にしたものを「使用者責任」と呼んでいます。
使用者責任は、運行供用者責任の成立要件である運行責任及び運行利益と類似した、危険負担の原理と報償責任の原理から認められたものです。
危険負担の原理とは「危険を発生させる行為(業務)から利益を得ている者は、その危険により生じた他人の損害について、過失の有無によらず責任を負うべきである」とする考えです。
報償責任の原理とは「ある行為で利益を得ている者が、その行為の過程で他人に与えた損害を補填して被害者との均衡をとる」という考えです。
具体的には、つぎのような事故が当てはまります。
使用者責任が問われる事故
交通事故の他、業務中の様々な事故が当てはまります。
次に運行供用者責任と使用者責任の違いについて表でみていきましょう。
運行供用者責任 | 使用者責任 | |
---|---|---|
損害賠償の範囲 | 交通事故による人的損害のみの賠償 | 交通事故による物的損害と人的損害の全て |
損害責任を負う者の範囲 | 事故を起こした従業員の雇い主、自動車の所有者・保管者・賃貸人・賃借人など | 従業員の雇い主や指導監督する立場にある者 商号や名義の使用を認めていた者 |
立証責任の負担 | 被害者が使用者責任で求められた事実の証明をすることなく、損害賠償の請求が可能 | 加害者の4つの事実について証明が必要(立証責任) |
運行供用者責任と使用者責任は、被害者が加害者の雇い主に対して自分が負った損害を賠償請求できる制度ですが、個別の法律によって定められたものであることから、次の通り大きな違いがあります。
使用者責任では、業務中に従業員が起こした事故による物的損害と人的損害の全てについて賠償しなければなりません。
運行供用者責任では、交通事故による人的損害のみの賠償に限られますが、業務中の従業員が起こした事故に限られず、一定の事情や要件のもとで雇用関係のない者が起こした事故も含まれることがあります。
使用者責任では、事故を起こした従業員の雇い主や指導監督する立場にある者が賠償責任を負います。
運行供用者責任では、事故を起こした従業員の雇い主だけではなく、次の者にも責任が問われる可能性があります。
責任を負うべき者が広く捉えられています。
使用者責任と運行供用者責任では、被害者が損害賠償責任を追及するときの「立証責任」の負担に大きな違いがあります。
まず、交通事故の被害者が損害賠償を請求するときは、被害者が次の4つの事実について証明しなければなりません。
これを被害者の「立証責任」または「挙証責任」とよびます。
そして、使用者責任を追及するときには、被害者が次の4つの事実についても重ねて証明しなければなりません。
ただし、運行供用者責任を追及するときには、被害者が使用者責任で求められた事実の証明をすることなく、損害賠償の請求が可能となります。
これは、運行供用者責任が交通事故によって人身に損害を負った被害者の救済を目的としたもので、立証責任の負担を軽減して賠償を受けやすくするための制度であるからです。
交通事故によって被害を受け、損害賠償請求をする際のポイントについては「交通事故の損害賠償請求をする上で確認すべき7つのポイント!」の記事で詳しく説明しているため、ぜひ読んでみてください。
加害者の使用者に交通事故の損害賠償の請求ができる事例としては、以下の5つに分類されます。
加害者の使用者に損害賠償の請求ができる事例
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
加害者が業務中に社用車を運転していた場合、使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められるので、使用者に対して損害賠償の請求ができます。
業務上保管・管理する自動車を加害者が運転していた場合、業務中や業務外でも使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められるので、使用者に対して損害賠償の請求ができます。
加害者が業務外で社用車を運転していた場合で使用者の承諾があるときは、使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められるので、使用者に対して損害賠償の請求ができます。
使用者の承諾のない加害者による無断運転の場合、一般的に業務と連続性があると外観上認められるときには、使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められるので損害賠償の請求ができます。
使用者の承諾がなく業務との連続性も認められない場合、加害者による社用車の運転をもって、人身事故に限って運行供用者責任が認められるので損害賠償の請求ができます。
加害者が業務中に自家用車を運転していた場合、使用者が業務中で自家用車を利用することを承諾または黙認していたときには、使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められるので、使用者に対して損害賠償の請求ができます。
加害者が自家用車で通勤・退勤をしていた場合、使用者から自家用車での通勤退勤を承諾または黙認されていたときは、次の2つの要件を満たしていれば、使用者責任と人身事故に限って運行供用者責任も認められる可能性があるので、使用者に対して損害賠償の請求ができることがあります。
また運行供用者責任は自賠責保険や加害者などの請求先によって、時効で消滅する時期も決まっています。
時効までに請求しなければ請求権が消滅し、賠償金を受け取ることができません。
詳しくは「運行供用者責任に対する損害賠償請求権の消滅時効と起算点について」の記事で解説しているため、ぜひ読んでみてください。
加害者の使用者に交通事故の損害賠償の請求ができない事例としては、加害者が自家用車を運転していたときで、次のような事例があります。
加害者の使用者に損害賠償の請求ができない事例
従業員が業務中に起こした交通事故の場合、一般的に運行供用者責任が認められるときは使用者責任も認められます。
また、運行供用者責任は、被害者が損害を十分に賠償してもらえるために特別に人身事故について認められた制度です。
物損事故の場合、被害者が十分な損害の賠償を受けるためには、使用者責任を加害者の使用者に対して追及していくことになります。
交通事故で損害賠償請求をするためにはある程度専門的が知識が必要になり、自分だけで交渉を行うのは難しい部分があるでしょう。
交通事故に詳しい弁護士に依頼することで適正な損害賠償を受け取れる可能性が高くなるため、損害賠償でお困りの方は弁護士に相談することをおすすめします。
最後になりますが、交通事故の被害者が抱える賠償問題を一日でも早く解決するために、この記事が参考になれば幸いです。