東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故の被害者が学生であっても、加害者に慰謝料を請求できます。
ただ、学生が交通事故の被害に遭った場合、実際問題として、慰謝料をどのくらい請求できるのかわからない人もいるのではないでしょうか。
この記事では、学生が交通事故の被害に遭った場合に請求できる慰謝料とその種類、金額の相場、計算方法などについて解説していきます。
また、実際の交通事故案件の裁判例や相談窓口についても紹介していきます。
学生が交通事故に遭ったとき、実際に請求できる慰謝料額の相場や計算方法などを詳しく知りたい人は参考にしてみてください。
目次
人が交通事故の被害にあった場合、加害者に対して損害賠償を請求できるのが原則です。
なぜなら、加害者の過失ある運転によって事故が発生し、その結果、被害者は財産的な損害や精神的な損害を被っているからです。
上記の結論は、交通事故の被害者が学生であるか否かを問いません。
そこで、被害者が学生である場合の話を進める前に、3種類の交通事故に関する慰謝料について見ていきましょう。
また、3種類の交通事故の慰謝料額をどのように計算するのか、その基準についてもあわせて解説します。
交通事故に関する慰謝料には、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類があります。
上記の慰謝料はそれぞれどのようなものなのか、具体的に解説していきます。
入通院慰謝料とは、交通事故による負傷を治療する目的で入院したり、通院したりしたときに認められる慰謝料をいいます。
入院したり、通院したりして負傷を治療する場合、暗い気持ちになったり、不安に感じたりするのが通常です。
そのようなことから、交通事故で精神的な損害を被ったことになるため、被害者は加害者に対してこのような慰謝料を請求できるのです。
後遺障害慰謝料とは、交通事故の被害を受けた後、負傷によって後遺障害が残ってしまった場合、その精神的な苦痛の賠償を目的とする慰謝料です。
負傷の治療を行なっても、完全に治すことができなくなってしまった状態を後遺症といいます。
そして、交通事故の負傷で後遺症が残ってしまった場合のうち、自動車損害賠償保障法施行令の等級に該当するものを後遺障害といいます。
後遺障害と認められるような後遺症が残ってしまった場合、被害者が今後生活していくにおいて、さまざまな場面で支障が出てしまいます。
また、症状によっては、被害者がこれまでに思い描いていた目標を実現できなくなる可能性も否定できません。
そのような状況になり、被害者が精神的な苦痛を受けたことに対する賠償として、後遺障害慰謝料を請求することができるのです。
死亡慰謝料とは、交通事故の被害者が死亡したときに請求する慰謝料のことです。
被害者は交通死亡事故に遭遇する際、身体的な損害や精神的な損害を受けています。
また、加害者の過失ある運転によって交通事故が発生しています。
そのため、被害者は加害者に対して不法行為による損害賠償として死亡慰謝料を請求できるのです。
交通事故で被害者はすでに死亡しています。
したがって、被害者の相続人が加害者に死亡慰謝料を請求することになります。
また、法律(民法)では、加害者が不法行為によって被害者を死亡させた場合、被害者の父母、配偶者、子などの遺族に対しても損害を賠償しなければならないとされています。
そのため、交通事故で被害者が死亡した場合、本人だけではなくその父母、配偶者、子などの遺族も加害者に対して死亡慰謝料を請求することが可能です。
慰謝料は、交通事故で被害者が被った精神的な苦痛に対する損害賠償です。
しかし、被害者の精神的な苦痛がどの程度なのかは、交通事故の状況や事情の解釈によって変わります。
そのため、交通事故の慰謝料額を計算するための基準がなければなりません。
交通事故の慰謝料には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの算出基準が定められています。
上記3つの算出基準は、それぞれどのようなものなのか具体的に見ていきます。
自賠責保険基準とは、自賠責保険で補償される範囲を基準とする慰謝料の算出方法です。
自賠責保険とは、自動車を購入する際に加入しなければならない保険をいいます。
自動車事故の被害者に対して最低限の範囲内で補償する役割を果たしているのが自賠責保険です。
そのため、この保険を基準として慰謝料額を計算した場合、実際の損害額よりもかなり少ない額になってしまいます。
任意保険基準とは、任意保険を取り扱う保険会社が定めた補償額を基準とする慰謝料の算出方法です。
各保険会社は、任意保険の補償額を自社の基準で定めています。
そのため、任意保険基準で算出される慰謝料額も、各保険会社によって異なります。
各保険会社は、任意保険基準を公開していないため、この基準で計算された慰謝料額を正確に把握することはできません。
しかし、大半の保険会社は、過去にあった任意保険の統一基準をベースに決めているといわれています。
そのため、この基準を参考にすれば、任意保険基準で計算した慰謝料額の目安を把握することが可能です。
任意保険基準で算出された慰謝料額は、自賠責保険基準よりは高くなります。
しかし、保険会社の経営利益を考慮して基準を定めているため、実際の損害額よりは少なくなります。
弁護士基準とは、過去の裁判所の判例で示された慰謝料額を基準にして算出する方法です。
弁護士が交通事故の被害者の代理人となって加害者と示談交渉する際、この基準で計算した慰謝料額を主張します。
弁護士基準で計算した慰謝料額は、実際の損害額に近い金額になることが多いです。
また、自賠責保険基準や任意保険基準で計算するよりも高い金額となります。
学生が交通事故に遭った場合、それにより生じた財産的損害と精神的損害に対する慰謝料を加害者に請求できます。
財産的損害の中には、積極損害と消極損害があります。
積極損害とは、被害者が交通事故によって出費を余儀なくされた部分の損害です。
一方、消極損害とは、交通事故の被害に遭わなければ得られた利益を失ったことによる損害で、休業補償や逸失利益がこれにあたります。
そして、交通事故の被害者である学生が、財産的損害のうち積極損害について請求できるか否かは特に問題となりません。
なぜなら、交通事故によって出費を余儀なくされた部分の損害は、被害者が学生であるか否かは関係ないからです。
一方、消極損害である休業補償や逸失利益について請求できるか否かが問題になることがあります。
そこで、交通事故の被害者である学生が、休業補償と逸失利益を慰謝料として請求できる場合について見ていきましょう。
また、その前提として休業補償と逸失利益の詳細についても解説していきます。
休業補償とは、交通事故被害により、働けなくなってしまったことに対する損害の補償をいいます。
たとえば、定職に就いて仕事をしている社会人が交通事故の被害にあって、治療のために一定期間の入院を余儀なくされたとしましょう。
入院している期間は、当然仕事を休まなければならないため、原則としてその分の収入を失ってしまいます。
交通事故がなければ得られていた収入の損失は、消極的な財産的損害にあたります。
そのようなことから、交通事故の被害者は加害者へ休業損害に対する補償として慰謝料を請求することができるのです。
交通事故の被害者が学生でも、継続的な収入を得ている人であれば、休業損害による慰謝料を加害者に請求できます。
学生の中には、学校以外の時間を利用して、生活費やお小遣い稼ぎのためにアルバイトをしている人も少なくありません。
記事作成、動画編集、アフィリエイトなどの仕事を行ない、個人で継続的な収入を得ている学生もいるでしょう。
このような人が、交通事故の被害にあって、一定期間上記の活動ができなくなってしまった場合、その分の収入を得られなくなってしまいます。
したがって、交通事故の被害者が継続的な収入を得ている学生である場合、状況によっては加害者に対して休業補償を慰謝料として請求することが可能です。
また、交通事故の被害を受けた学生が長期間怪我の治療を余儀なくされ、就職の内定が取り消されたり、学校を留年してしまったりする場合もあります。
このような場合も交通事故の被害者の学生は、加害者に対して休業補償を慰謝料として請求することが可能です。
交通事故被害を受けた学生が、加害者に対して休業補償を慰謝料として請求する場合、休業損害証明書が必要となります。
休業損害証明書とは、被害者が交通事故により働けなくなった期間に発生した損害を証明する書類です。
休業期間や自分の収入など、休業損害の証明に必要な事項をこの書類に記載します。
休業損害証明書は、加害者側の保険会社から入手して、勤務先の人にその内容を記入してもらいます。
また、休業損害証明書には、源泉徴収票を貼り付けなければなりません。
そのため、休業損害証明書と一緒に源泉徴収票も準備しておく必要があります。
ただ、源泉徴収票がない場合、貸金台帳、交通事故発生前の3カ月分の給与明細などで代用できます。
もし、事情により源泉徴収票を入手できない場合、上記の書類を用意しておきましょう。
逸失利益とは、交通事故で本来得られていたはずの利益を失ったことに対する損害をいいます。
たとえば、料理人、建築職人など腕を使う職業の人が、交通事故被害により、腕に後遺症が残ってしまったとしましょう。
それにより、交通事故被害を受ける前と同じ形で働けなくなってしまうため、その分収入など本来得られるはずの利益を失うことになります。
このような場合、加害者に対して逸失利益を慰謝料として請求できるのです。
学生が交通事故の被害に遭った場合、逸失利益を慰謝料として請求することが可能です。
原則として、学生は仕事をして収入を得ているわけではありません。
そのため、逸失利益はそもそも存在しないのではとも考えられます。
ですが、学生は、将来学校を卒業した後、長い期間働くことになるのが通常です。
もし、学生のときに交通事故の被害を受けて負傷部分に後遺障害が残ってしまった場合、将来仕事をする上で支障が出てしまいます。
その結果、将来的に得られるはずだった収入を失ってしまうことになるため、逸失利益を慰謝料として請求できるのです。
交通事故の被害を受けて働けなくなり、本来得られたはずの収入を失ったことに対する損害が休業損害です。
そのため、交通事故の被害者が継続的な収入を得ていない学生の場合、休業損害を慰謝料として請求できません。
交通事故の被害により、一時的に学校を休まなければならなくなったときでも、その結論は同じです。
交通事故で重傷を負い、治療のために長期間学校を休まなければならない場合、就職の取消や留年扱いになることで、将来的な収入の損失が発生します。
したがって、このようなケースでは、休業損害が認められて慰謝料の請求も可能です。
しかし、一時的に学校を休まなければならなくなっただけでは、収入の損失が発生したとはいえません。
ですから、加害者に休業損害として慰謝料を請求できないのです。
休業補償を請求するには、休業損害証明書と源泉徴収票が必要になるのが原則です。
しかし、休業損害を慰謝料として請求できない場合、これらの書類の準備も必要ありません。
学生が交通事故の被害を受けた場合、請求できる慰謝料額は状況によって異なります。
そこで、学生が請求できる慰謝料の相場と計算方法をケース別に解説していきます。
学生が交通事故で死亡した場合、まず被害者側は加害者に対して逸失利益を慰謝料として請求できます。
なぜなら、学生が死亡したことで、将来就職した後に得られるはずであった収入を失ってしまうからです。
交通事故の被害に遭った学生が死亡した場合に慰謝料として請求できる逸失利益の額は、「賃金センサスに基づく基礎収入額×(1-生活費控除率)×ライプニッツ係数」の式で計算します。
賃金センサスとは、学歴、年齢、性別などを下に国が算出した平均年収額のことです。
原則として学生はまだ収入を得ていないため、賃金センサスをもとに基礎収入額が決定されます。
生活費控除率とは、交通事故で死亡した学生がもし生存していた場合に発生する生活費を控除する割合をいいます。
交通事故の被害者が学生の場合、男性の場合は50%、女性の場合は30%となるのが通常です。
ライプニッツ係数とは、後に得られる収入分を賠償金として事前に受け取る際に発生する利益を控除するための指数のことです。
また、慰謝料として逸失利益の他に葬儀費用も請求可能です。
葬儀費用とは、葬儀、墓石や墓地の購入、火葬などで発生した費用をいいます。
慰謝料として請求可能な葬儀費用は、弁護士基準で算出した場合、原則150万円の範囲内となっています。
学生が交通事故で負傷した場合、入院または通院して治療することになるのが通常です。
そのため、被害者側は加害者へ入通院慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料の額は、被害者が治療のために入院または通院した期間によって異なります。
また、交通事故被害で生じた負傷が軽い場合と重い場合によって、請求できる入通院慰謝料の相場も変わってきます。
そこで、軽傷の場合と重傷の場合に分けて、請求できる入通院慰謝料の相場について見ていきましょう。
なお、交通事故被害による負傷で後遺障害は発生しなかったケースを想定しています。
治療により1カ月間通院を余儀なくされた場合、被害者は加害者に対して19万円の慰謝料を請求できます。
また、軽傷の場合はあまり入院して治療ケースは多くありませんが、もし1カ月間の入院による治療を余儀なくされたときは、35万円の慰謝料を請求できます。
交通事故被害による負傷が重い場合、軽傷のときよりも請求できる金額の相場が大きくなります。
たとえば、治療のために1カ月の入院を余儀なくされたとしましょう。
この場合、請求できる慰謝料の金額は53万円となっています。
軽傷のときに請求できる金額(35万円)と比較して、18万円も多くなっているのです。
さらに、1カ月の入院に加えて、1カ月の通院による治療が必要になった場合、請求できる慰謝料の金額は77万円となっています。
交通事故の被害を受けて学生が負傷後、後遺障害が残ってしまったとしましょう。
この場合、入通院慰謝料の他、逸失利益を慰謝料として請求することが可能です。
後遺障害が残ったときに慰謝料として請求できる逸失利益の計算方法も定められています。
具体的には、「賃金センサスに基づく基礎収入額×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」の式で計算します。
労働能力喪失率とは、後遺障害で失われた労働能力に対する割合のことです。
基本的に後遺障害が重いほど、その割合も高くなります。
学生が交通事故の被害にあった場合、実際にどのくらいの慰謝料額が認められているのでしょうか。
実際の裁判例を2つ紹介していきます。
平成17年の大阪地方裁判所の事例です。
大学生の女性が、自転車で横断中に走行車に衝突されて、脳挫傷、くも膜下出血、骨盤骨折などの重傷を負いました。
裁判所は、加害者に対して、入通院慰謝料410万円、後遺障害慰謝料2,800万円の支払いを命じています。
また、賃金センサスを基準に7,500万円程度の遺失利益の発生を認めています。
平成13年の東京地方裁判所の事例です。
大学進学を目指していた男性が、交通事故の被害に遭い、進学が1年遅れてしまいました。
その影響で、就職する時期も1年遅れてしまい、結果的に得られる収入もその分少なくなってしまいました。
当該事件において、裁判所側は322万円程度の休業損害による慰謝料支払いを命じています。
また、交通事故による負傷で後遺障害が残ったことから、入通院慰謝料と遺失利益を合わせて1億円以上の慰謝料支払いが命じられました。
実際に学生が交通事故の被害に遭い、加害者に慰謝料を請求しようとする際、わからないことについて相談したいと考える人も多いでしょう。
また、交通事故の慰謝料請求の手続き方法について、最初から最後まで相談したいという人もいるかもしれません。
そのようなことから、交通事故に関する相談窓口となる機関について把握しておいたほうがいいでしょう。
学生の交通事故慰謝料の請求に関する相談窓口は複数あります。
たとえば、交通事故専門の弁護士、市区町村役場の無料相談機関、NPO団体などです。
また、弁護士の団体の「日弁連交通事故相談センター」では、全国で交通事故に関する無料相談を行なっており、相談窓口としてこの機関を利用する人も少なくありません。
交通事故の慰謝料を請求する場合、加害者に具体的な金額を提示した上で交渉しなければなりません。
そのため、交通事故被害に遭った学生が請求できる慰謝料の種類や慰謝料額の計算方法を正確に理解しておく必要があります。
逆にこの点さえしっかり理解しておけば、実損害額に相応する金額の慰謝料を請求しやすくなるでしょう。
もし、請求できる慰謝料の種類や慰謝料額の計算方法がわからない場合でも、交通事故専門の弁護士に相談すれば問題ありません。
交通事故で加害者に自分の権利を侵害されたのですから、それに見合った慰謝料をしっかり請求しましょう。