東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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新しい会社が作られる一方で、消滅する会社もあります。
会社を消滅させる手続きの1つが、会社の倒産ですが、中には違法に会社を計画倒産させる場合もあります。
計画倒産とはどのような行為なのでしょうか。
通常の倒産とどのような違いがあるのかも確認しましょう。
Contents
計画倒産は、通常の倒産と異なる目的を持って会社を倒産させるため、違法です。
「計画倒産」「計画倒産罪」などの言葉が使われる場合がありますが、そのような法律用語があるわけではありません。
では、どのような行為が計画倒産に該当し、通常の倒産とはどのような違いがあるのでしょうか。
通常の倒産手続きで会社を消滅させる場合は、まず会社が保有する財産で借入金などの債務の返済を行います。
この段階で債務の全額を返済できないとわかっていますが、少しでも返済を行うのが会社の責任となるため、財産はすべて返済のための原資として利用します。
換金できるものはすべて換金し、獲得した資金はすべて債務の返済にあてられ、会社の財産や売却により得た現金を、経営者が個人的に使用する行為は許されないのです。
計画倒産とは、経営者が債務や支払いを踏み倒して会社の財産を個人的に得る目的で、計画的に会社を倒産させる手続きをいいます。
経営者が得をして、取引先や従業員、金融機関に損害が出てしまう形となるため、罪に問われる可能性があります。
中には、計画倒産を目的として会社を設立する場合もあります。
会社を消滅させる時に、会社の財産を経営者が個人的に獲得しようとして、計画倒産する場合があるのです。
たとえば計画倒産を目論んでいる経営者は、倒産を隠ぺいして金融機関から融資を受け、あるいは取引先から大量の仕入を行います。
この時に、会社には借入金や買掛金などの債務が発生しますが、その返済時期を迎える前に倒産してしまうのです。
倒産すれば、会社の財産で残った債務の返済を行いますが、計画倒産の場合はその前に現金や商品を払い出してしまいます。
そのため、金融機関や取引先は、融資した金額や売却した商品代金の回収ができなくなってしまうのです。
計画倒産が悪質なのは、倒産しようとしている意図を隠して金融機関から融資を受けたり、大量の仕入れを行ったりする点です。
通常、金融機関は倒産して消滅しそうな会社に対する融資を行いません。
また、取引先も、倒産するかもしれない会社には代金の回収に大きなリスクがあるため、掛売りや手形などの取引は行いません。
しかし、計画倒産を行う会社は倒産する意思を巧妙に隠しているため、融資や信用での取引が成立するのです。
融資を受けて得た現金や商品を経営者が個人のものにして、大きな利益を得ます。
しかし借入金の返済や商品代金の支払いができないため、相手方には大きな損失が生じるのです。
従業員は突然解雇され、給料や退職金を受け取れない可能性があります。
会社を倒産させる予定を隠し、取引先や従業員、金融機関を騙すため、計画倒産は違法とされています。
倒産手続きを進める際に、適法に手続きを進めているように見えても、問題となる行為もあります。
1つは詐害行為と呼ばれるものです。
様々なパターンがありますが、保有していた土地を安く知り合いに売却する、現金を隠してしまうような行為が代表例です。
このような行為を行うと、債権者が本来受けるべき返済を受けられなくなるため、禁止されています。
もう1つは偏頗弁済と呼ばれるものです。
偏頗弁済は、特定の借入先や取引先にだけ債務の返済をする行為を指します。
本来、破産手続きを進める際には、税金や未払給与などの優先債権を除いては、平等に取り扱われなければなりません。
しかし、偏頗弁済を行った場合は、そのような平等が守られていないため、問題となるのです。
なお、詐害行為や偏頗弁済があったからといって、すぐに犯罪に問われるわけではありません。
ただ、倒産手続きを始められない、あるいはその手続きがストップしてしまうといった影響が出てしまうのです。
それでは、実際に計画倒産を行った場合、どのような犯罪に問われる可能性があるのでしょうか。
計画倒産を行った場合、主に犯罪として成立するのは「詐欺罪」と「詐欺破産罪」の2つです。
この両者はどのような犯罪で、どのような違いがあるのかを確認しておきましょう。
詐欺罪は、計画倒産に限らず、一般的に相手をだまして利益を得た場合に問われる可能性のある犯罪です。
詐欺罪が成立すると、10年以下の懲役になります。
計画倒産について詐欺罪が成立するのは、会社が倒産状態にあるのにそれを隠して融資を受け、あるいは仕入をした場合です。
また、最初から返済する意思がないのに上記の行為を行った場合にも、詐欺罪が成立する場合があります。
ポイントとなるのは、金融機関や取引先に何らかの嘘をついている点です。
詐欺破産罪は、会社が破産手続きを行う際に、不適切な行為を行って債権者に損害を与えることです。
詐欺罪との違いは、破産手続きを行う時だけに成立する犯罪である点です。
詐欺破産罪が成立すると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金になり、懲役刑と罰金刑の両方が科される場合もあります。
破産手続きの中で会社の財産を隠したり、財産を破損すると、債権者に対して損害を与え、破産手続きの考え方を踏みにじる行為となります。
そこで、破産手続きの中で、債務者自身に利益がない場合でも、債権者に被害を与えるような行為は厳しく制限されているのです。
計画倒産が犯罪であり、どのようなものであるか、おわかりいただけたのではないでしょうか。
しかし、実際にどのような行為が犯罪行為に該当するかは、罪名だけではわかりません。
そこで、計画倒産として違法行為とされる可能性のあるケースをいくつか紹介します。
ただ、ここで紹介したケースも必ず犯罪となるわけではなく、様々な状況から総合的に判断される点は覚えておきましょう。
経営状態が悪化し、いつ倒産してもおかしくない状態にある会社が、計画倒産を行おうとしました。
そこで、会社の経営状態を隠ぺいするために架空の決算書を作成し、経営状態に問題がないと金融機関に思わせて融資を受けます。
融資により手にした資金は、運転資金や設備投資に使わず、全て経営者個人が持ち逃げし、結果、ただでさえ苦しい状態にあった会社は、新たな融資で債務を増やす一方、財産はまったく増えていない状態となります。
その後、会社は想定通り倒産、会社に残された財産で債務を返済しなければなりませんが、この時点で会社には財産がありません。
そのため、倒産する直前に融資を行った金融機関は、ほとんどその返済を受けられないのです。
このケースでは、会社は融資を受けるために、決算書を偽造したり、倒産する意図を隠しています。
そのため、金融機関に対する詐欺が成立するのです。
計画倒産を行う場合には、そのために新たな会社を作ったり、既存の会社を買収するケースもあります。
計画倒産を行うために、新しく物品販売業の会社を設立しました。
この会社は、仕入業者から商品を仕入れ、消費者に販売する、シンプルな事業を行っています。
会社設立当初は、仕入業者に対する信用がないため、全て現金仕入となります。
つまり、仕入と同時に、あるいは仕入より前に代金を支払わなければ、仕入ができないのです。
しかし、取引を頻繁に行う中で徐々に信用を得た取引開始から半年後に、後払いとなる掛での仕入れができるようになったのです。
掛での取引ができるようになると、仕入より後に代金の支払いができるようになります。
その後、掛でも取引実績を作り、計画倒産を行うためのこれまでにない大量の仕入を行い、仕入れた商品を原価割れとなるような安い値段で売却してしまいます。
そして、手元に残った現金だけを経営者のものとした後、会社が倒産するのです。
このケースでは、会社は仕入代金の支払いを行う意思は、当初からありません。
そのため、仕入業者に対する詐欺が成立するのです。
会社が倒産する際には、全ての財産は現金化され、債務の返済資金にあてられます。
会社が保有している不動産や有価証券などの財産も、そのまま保有できず売却しなければなりません。
たとえば、会社が時価3,000万円の土地を保有していたとします。
土地の時価は約3,000万円ですが、経営者としてはそのまま売却して債務の返済にあてても、経営者個人として得はありません。
そこで、この土地を親族に1,000万円で売却してしまうのです。
本来であれば債務の返済にあてられる資金が3,000万円増えるはずが、1,000万円しか増えなかったとなります。
そのため、債権者にとっては、不利益を被る結果となったのです。
この場合、会社経営者は、計画倒産をするために嘘はついていません。
しかし、不当に安い金額で財産を処分したために、債権者に不利益を与えています。
したがって、債権者に対して詐欺破産罪が成立するのです。
計画的な倒産とは、債務や取引先への支払いを済ませ、従業員や取引先に迷惑をかけないで倒産する方法です。
従業員や取引先を騙したり、借金や支払いを踏み倒したりしないため、罪に問われません。
会社が倒産の手続きを行う際は、事実が表に出ないよう、いつ裁判所に申立を行うのか、清算人には誰が就任するのか、また、会社に対する債権者がどれくらい存在し、債務の額はどれくらいあるのかも調査・準備を進める必要があります。
倒産の準備は、決して違法な行為ではなく、むしろ事前に準備をしなければスムーズに倒産の手続きはできないのです。
そのため、「計画倒産」と「計画的に倒産」は、まったく別のものであると知っておく必要があります。
会社経営者の中には、計画的に倒産を行う行為が計画倒産にあたると勘違いしている方もいて、本来であれば倒産の手続きを始めるべきなのに、何もせずに放置しているケースもあります。
支払いに苦しんでいる場合は、様々な可能性を検討するため、早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
現金が多い日をXデーと定めて適切に手続きや支払いを行うと、取引先や従業員に与える被害を最小限に抑え、精神的な負荷を減らし事業を再開しやすくできます。
最後に、計画倒産に関してよくある質問を紹介します。
計画倒産の違法性や計画倒産後の状況について説明しているので、参考にしてください。
経営者が自身の利益のために債務や支払いを踏み倒す計画倒産は、違法です。
詐欺罪や詐欺破産罪などに問われます。
ただし、計画的に通常の倒産を進める行為自体に違法性はありません。
従業員・取引先・融資先に迷惑をかけないために、専門家に相談しつつXデーを決めて、倒産手続きに臨みましょう。
会社が倒産する場合、経営者は破産申請手続きや債権者への通知などを行います。
そして、経営者は換金できる会社の財産を全てあてて、債務の返済を行います。
法人格が失われ従業員が全員解雇となるため、退職金や未払い賃金の支払いも必要です。
会社倒産の際の資産処分や換金後の債権者への分配は、裁判所から任命された破産管財人が手続きします。
会社が倒産した場合の負債については、連帯保証人の有無により異なります。
基本的に会社が倒産し破産申請した場合、負債は免除されます。
会社の代表者が、個人で債務を処理する義務はありません。
ただし、会社の代表者が連帯保証人を定めていた場合、その人物が代わりに弁済しなくてはならないので、注意が必要です。
会社の倒産は、法律によりその手続きの種類や期限などが定められています。
計画倒産に該当する場合は法律の定めを無視し、債権者に多大な損失を与えるため、懲役刑になる場合があるなど、非常に重い罰則が定められています。
計画倒産と指摘されることのないよう、ルールを守るとともに、会社経営に関しては慎重に行い、他意なく行う取引が計画倒産と疑われないように注意しましょう。