東京弁護士会所属。新潟県出身。
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取引先の倒産などで売掛金等が回収不能になった場合、大きな損失を抱えてしまう可能性があります。
取引先の貸し倒れリスクに備えたい個人事業主や中小企業経営者は、「中小企業倒産防止共済」の加入がおすすめです。
中小企業倒産防止共済は「経営セーフティ」共済という愛称で知られており、独立行政法人中小基盤機構が運営している共済制度です。
この共済に加入することで、万が一取引先が倒産して売掛金等が回収不能になったときに、貸し付けを受けられます。
本記事では、中小企業倒産防止共済のメリット・デメリット、加入すべきケースについて解説します。
Contents
中小企業倒産防止共済とは、取引先が倒産して売掛金等の回収が困難になったときに貸し付けを受けられる制度のことです。
経営セーフティ共済という愛称で知られている制度で、国が全額出資している独立行政法人中小基盤機構が運営しています。
中小企業者倒産防止共済は、個人事業主や会社のうち、所定の要件を満たした中小企業者が加入できます。
中小企業倒産防止共済の貸し付けは、「共済金の貸し付け」と「一時貸付金の貸し付け」2種類です。
共済金の貸し付けは、取引先からの売掛金等が回収困難になったときに無担保・無保証で利用できる、中小企業倒産防止共済のメインとなる貸し付けです。
一方、一時貸付金の貸し付けは、取引先が倒産していなくても、共済契約者が必要なときに手続きをすることで利用できる貸し付けを指します。
一時貸付金も、担保や保証人は必要ありません。
なお貸し付け受けられる金額は、解約手当金の95%が上限です。
では、中小企業倒産防止共済の加入方法や、加入手続きについても確認しておきましょう。
中小企業倒産防止共済は、中小機構と業務委託契約を締結している、以下の委託団体や金融機関で加入できます。
加入時には。主に以下の書類が必要です。
【法人・個人事業主共通の必要書類】
【法人が加入する際の必要書類】
【個人事業主が加入する際の必要書類】
掛金月額は5,000円から20万円で、5,000円単位で変更が可能です。
また預金口座振替で納付でき、毎月27日、休日の場合は翌営業日に掛金が引き落とされます。
掛金は前納も可能です。
前納した場合、「{掛金月額原×(0.9÷1,000)×前納月数}」で計算した金額が前納減額金として支払われます。
そのため前納すれば、実質割引が受けられることになります。
逆に納付期限までに納付がなかった場合、未納となった翌々日に再請求されます。
納付期限後に掛金を納付することを後納と言い、最大年14.6%の後納割増金を負担しなければなりません。
中小企業倒産防止共済のメリット、デメリットについて見ていきましょう。
中小企業倒産防止共済の大きなメリットは、節税をしながら取引先の倒産リスクに備えられることです。
ここでは、主なメリットを6つ紹介します。
主に以下のような理由で取引先が倒産した場合に、無担保・無利子で貸し付けが受けられます。
貸し付け受けられる金額の上限は「回収困難となった売掛債権等の額」と「納付された掛金総額の10倍」のいずれか少ない方」の金額です。
ただし貸し付けを受けられる金額の上限は、8,000万円となっています。
共済契約が解約された時点において、12カ月以上の掛金納付月数があれば、解約手当金が受け取れます。
任意解約やみなし解約の場合、40カ月以上の掛金納付期間があれば掛金総額の100%が受け取れます。
任意契約とは、契約者が任意に行う解約のことです。
またみなし解約とは、契約者の死亡、会社の解散、会社分割、事業の全部譲渡により自動で行われる解約を指します。
解約事由 | 解約の種類 |
---|---|
共済契約者の任意解除 | 任意解約 |
個人事業主の死亡 | みなし解約 |
会社等法人の解散 | |
事業譲渡 | |
会社等法人の分割 | |
共済契約者に対する機構解除 | 機構解約 |
共済サポート navi(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)
【解約手当金の支給率】
掛金納付月数 | 任意解約 | 機構解約 | みなし解約 |
---|---|---|---|
1カ月~11カ月 | 0% | 0% | 0% |
12カ月~23カ月 | 80% | 75% | 85% |
24カ月~29カ月 | 85% | 80% | 90% |
30カ月~35カ月 | 90% | 85% | 95% |
36カ月~39カ月 | 95% | 90% | 100% |
40カ月以上 | 100% | 95% |
共済サポート navi(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)
以下のような場合、一定の要件を満たしていれば、包括承継人あるいは事業の全部譲受人が共済契約を引き継げます。
共済契約を引き継ぐときは、相続のあった日から3カ月以内に登録取扱機関を通じて中小機構に申し出て、承諾を受ける必要があります。
登録取扱機関とは、加入申し込みを委託団体から行ったときは委託団体、金融機関から加入したときは掛金の口座振替をしている金融機関となります。
中小企業倒産防止共済の掛金は、法人の場合は損金、個人事業主は必要経費に算入できます。
税額を計算するもとになる課税所得を減らせるため、中小企業倒産防止共済への加入は節税対先になります。
ただし2024年10月1日以降に解約した共済契約は、解約日から2年間は損金、あるいは必要経費として認められません。
これは解約手当金の支給率が100%になる加入後3,4年目に解約をして、すぐに再加入するという事例があったためです。
脱退・再加入は共済制度の積立額に変動を与えるため、連鎖倒産による防止するという本来の制度利用に基づく行為ではありません。
今回の改正は、過度な節税を目的とした加入を防止するために行われたと考えられます。
一時的に資金繰りが苦くなったなどの理由で事業資金が必要になった場合、解約手当金のうち一定額まで一時貸付金の利用が可能です。
一時貸付金の活用により、万が一の貸し倒れリスクに備えながらも、一時的に自社の資金繰りが苦しくなったときの対策が立てられます。
貸し付けを受けた共済金を、繰上償還で当初の約定償還期間より早く償還することも可能です。
早期に完済し、以下の要件をすべて満たしている場合、早期償還手当金が支払われます。
実質的に割引を受けられることになります。
繰上償還は中小機構に直接申し出て、必要書類を取り寄せます。
早期償還金の金額は「共済金の額(貸付額)×早期償還月数別の手当金率」で計算した金額となります。
中小企業倒産防止共済は、手数料が発生したり、共済金の貸し付けから一部控除されたりするデメリットがあります。
これらのデメリットについて詳しく紹介します。
加入後40カ月未満で解約をすると解約手数料が発生し、元本割れします。
また一時貸付金などの貸付金を受けているときに解約すると、貸付残高分は解約手当金から控除されます。
なお解約手当金を受け取った場合、法人は益金、個人事業主は事業所得として課税対象になります。
共済金の貸し付けは無利子で利用できますが、利用すると貸付額の10分の1に相当する金額が、積み立てた掛金総額から控除されます。
つまり、仮に共済金貸付額上限の8,000万円を利用した場合、800万円が掛金総額から控除されることになります。
なお一時貸付金制度は利息がかかります。
一時貸付金制度の利息は変動金利で金利情勢等によって変動しますが、2024年4月1日時点の金利は年0.9%です。
ここまでのメリットとデメリットを踏まえ、中小企業倒産防止共済はどのようなケースでおすすめなのでしょうか。
主な事例を紹介します。
中小企業倒産防止共済に加入するには、掛金を支払わなければなりません。
掛金を支払わなければ、後納により後納割増金の負担も発生します。
長期的に掛金を支払っていける余力がある個人事業主や法人に、おすすめの制度と言えるでしょう。
自社が健全に運営できていたとしても、取引先が倒産する可能性があります。
新型コロナウイルス禍のように多くの企業が倒産して売掛金の回収ができないと、健全な運営ができている事業者でも資金繰りが厳しくなるかもしれません。
財務状況が安定しているときに万が一のリスクに備えておけば、実際に取引先の倒産に直面したときに大きな助けになるでしょう。
掛金は経費あるいは損金になる上、40カ月以上加入していれば機構解約でない限り、元本割れすることがありません。
そのため財務状況が安定している中小企業者は、中小企業倒産防止共済に加入しておくことをおすすめします。
個人顧客を対象とした小売店や飲食店であれば、すぐに販売代金が回収できるため、取引先の倒産による未回収リスクは低いでしょう。
しかし特定の取引先への依存度が高い場合、取引先一社が倒産して売掛金が回収できなくなったときの影響が大きくなるため、中小企業倒産防止共済に加入して備えておく必要があります。
中小企業倒産防止共済の加入で掛金を支払うと、課税所得を減らせます。
節税対策を検討している方は、中小企業倒産防止共済の加入を検討してみましょう。
たとえば個人事業主の所得税額は「収入-必要経費」を引いた所得から、適用可能な控除額を差し引いた課税所得に税率を乗じて計算します。
仮に収入が1,000万円で必要経費が300万円だった個人事業主が、掛金を毎月3万円支払ったとすると、増加する経費は36万円です。
つまりこの方は「300万円+中小企業倒産防止共済の年間掛金36万円=336万円」から、各種控除を引いた金額に税率を乗じて計算することになります。
各種控除額合計が200万円だった場合、中小企業倒産防止共済に加入することで次のように所得税額が変化します。
中小企業倒産防止共済の加入額 | 収入 | 必要経費 | 各種控除額合計 | 所得税額 |
---|---|---|---|---|
0円(加入しない) | 1,000万円 | 300万円 | 200万円 | 57万2,500円 |
月3万円(年間36万円) | 336万円 | 50万500円 |
法人税の税率は原則23.2%ですが、個人事業主の所得税は超過累進税率というしくみが適用されます。
超過累進税率とは、所得が多くなるにしたがって段階的に税率が高くなるしくみのことです。
個人事業主は課税所得金額が大きいと、所得税率が45%になることもあります。
税率が高いほど課税所得を減らしたときの効果が大きくなるため、課税所得が高い個人事業主も、中小企業倒産防止共済の加入がおすすめです。
【所得税の税率】
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194.9万円 | 5% | 0円 |
195万円~329.9万円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694.9万円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899.9万円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799.9万円まで | 33% | 153万6,000円 |
1800万円~3,999.9万円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
中小企業倒産防止共済に加入する前に、注意点についても確認しておきましょう。
主な注意点は4つです。
事業の支払いを放棄して、夜逃げをする事業主もゼロではありません。
しかし取引先の夜逃げで倒産に至り、売掛債権等が回収困難になった場合は、共済金による貸し付けは受けられないため、注意が必要です。
中小企業倒産防止共済の解約手当金を受け取るためには、少なくとも12カ月以上掛金を納付しなければなりません。
12カ月未満の解約は掛け捨てとなってしまいます。
中小企業倒産防止共済は、あくまでも貸し付です。
貸し付けを受けたら、当然返済が必要になることも心得ておきましょう。
償還期間および方法は、貸付額に応じて変わります。
貸付額 | 償還期間(6カ月の据置期間を含む) | 償還方法 |
---|---|---|
5,000万円未満 | 5年 | 54回均等分割償還 |
5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 | 66回均等分割償還 |
6,500万円以上8,000万円未満 | 7年 | 78回均等分割償還 |
中小企業倒産防止共済は貸し付けを受けられないケースもあるため、事前に確認しておきましょう。
以下のような場合は、中小企業倒産防止共済は貸し付けを受けられません。
中小企業倒産防止共済に加入することで、節税対策をしながら取引先の倒産による未回収リスクを軽減できます。
また一時的に資金繰りが苦しくなったときなどは、一時貸付金で資金調達をすることも可能です。
ただし早期解約をすると元本割れする、また共済金を利用する場合、貸付額の10分の1相当額が控除されるため、注意が必要です。
個人事業主や中小企業にとって便利な制度ですが、加入前にメリットやデメリット、注意点を十分確認しておきましょう。