東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、関連取引先が倒産した場合に借入を受けられる制度ですが、任意のタイミングで解約も可能です。
ただし、掛金の納付月数が短い場合は解約手当金が受け取れないなど、いくつか注意しなければならないポイントもあります。
ここでは、経営セーフティ共済を解約したときの解約手当金の計算や手続き方法、必要書類などをご紹介します。
経営セーフティ共済の解約を検討中の方や、加入しようか迷っている方は、事前に解約の方法や注意点などを確認しておきましょう。
Contents
経営セーフティ共済のポイントは、主に次の4つがあります。
それぞれについて確認していきましょう。
銀行に融資を依頼した場合、財務状況によっては担保や保証人がないと借りられないケースがあります。
特に密接な関連取引先が倒産した直後は、財務状況の悪化や連鎖倒産を恐れて融資を断られてしまう状況になりかねません。
経営セーフティ共済の借入は、無担保・無保証人で受けられるメリットがあります。
取引先の倒産により売掛金を回収できなくなった場合、資金難に陥るのを防ぐため、すぐにでも資金を補填したいと考えるでしょう。
経営セーフティ共済は、倒産した事業者との取引が確認でき次第、迅速に借入を受けられます。
借入の金額は、原則として掛金の10倍(上限8,000万円)まで可能です。
掛金は法人税や個人所得税の事業経費として算入できるため、節税効果があります。
連鎖倒産の備えとして、内部留保で対応するよりも税制面のメリットは大きいといえるでしょう。
掛金は、毎月5,000円~200,000円の定額払い、もしくは全額の一括払いを選択できます。
共済契約を解約した場合、掛金の総額や納付月数に応じて解約手当金が受け取れます。
共済契約者からはいつでも任意のタイミングで解約でき、解約事由も問われません。
ただし、解約のタイミングによっては解約手当金を受け取れない可能性があるため、注意しましょう。
共済契約を解約すると、これまでに納付した掛金総額と納付月数に応じて、解約手当金が支給されます。
解約のケースは、次の3種類があります。
解約の種類 | 請求権者 | 具体的な解約事由 |
---|---|---|
任意解約 | 共済契約者 | 共済契約者から申出 |
機構解約 | 中小機構 | 掛金の延滞など |
みなし解約 | 条件を満たした場合に 自動で解約 | 個人事業主の死亡、法人の解散、事業譲渡、会社分割など |
それぞれの取り扱いについて確認していきましょう。
任意解約は、共済契約者が任意で行う解約です。
解約をすると、実質的には掛金の返金にあたる解約手当金が支給されます。
ただし掛金の納付期間が11カ月以下の場合、解約手当金を受け取れません。
具体的な金額の計算方法は、次章以降で解説します。
機構解約は、共済契約者が掛金を12カ月以上滞納した場合などに中小機構側から行う解約です。
掛金を滞納した場合、「掛金納付兼解除予告兼解除通知書」が共済契約者に送付されます。
指定期日までに未納分の納付がないと解約となります。
機構解約の場合でも、解約手当金は掛金の納付が12カ月以上あれば支給されます。
ただし、不正行為により共済金の借入を受けようとした場合などは解約手当金を受け取れません。
個人事業主の死亡、法人(会社など)の解散、事業の全部譲渡などが共済契約者に発生した場合、その時点で共済契約は解約されたものとみなされます。
これをみなし解約といい、解約事由の発生により自動的に解約したものとみなされます。
解約手当金は、掛金を12カ月以上納付しているときに支給されます。
経営セーフティ共済を解約するには、解約手当金請求書を含む必要書類一式を登録取扱機関に提出します。
登録取扱機関の窓口は、加入手続きをした委託団体、もしくは金融機関の掛金振替口座のある店舗です。
加入したときの窓口 | 解約手続きの窓口 | |
---|---|---|
委託団体 | 委託団体 | |
金融機関の本支店 | 掛金振替口座をその店舗の口座で設定している場合 | 加入手続きをしたときの店舗 |
掛金振替口座を別の店舗の口座で設定している場合(別の金融機関や同じ金融機関の別の店舗など) | 掛金振替口座のある店舗 |
提出する必要書類は、解約の事由によって異なります。
解約の事由 | |
---|---|
個人事業主の場合 | 任意解約 |
共済契約者の死亡 | |
法人の場合 | 任意解約 |
破産手続き開始 | |
解散(清算中) | |
吸収合併による解散 |
解約の事由ごとに必要書類を確認していきましょう。
個人事業主である共済契約者が、任意解約により本人または代理人弁護士から解約手当金を請求する場合の必要書類です。
以下の必要書類を登録取扱機関に提出します。
必要書類 | 備考 |
---|---|
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 請求者の実印を押印する |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
委任状 | 解約手当金の受取を代理人弁護士に委任する場合のみ必要 |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | |
代理人弁護士の受任通知など |
個人事業主である共済契約者が死亡した場合、その相続人から解約手当金を請求できます。
相続人から請求する場合、共済契約者の死亡や請求者である相続人との関係を証明する資料が必要です。
具体的な必要書類は次の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 請求者の実印を押印する |
戸籍謄本など(発行後3カ月以内の原本で、除籍されていないもの) | 請求者が共済契約者の相続人であるのがわかる戸籍謄本を提出する 法定相続情報一覧図で代用可能 |
除籍謄本(原本) | 共済契約者の死亡がわかる除籍謄本を提出する 法定相続情報一覧図で代用可能 |
解約手当金の支給を受ける権利を有することの書面 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 解約手当金の支給を受ける権利を他の相続人から譲り受け、もし後日紛争が生じたときは返金と紛争の解決を中小機構へ宣誓する書面 |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | 請求者である相続人の印鑑登録証明書を提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
法人である共済契約者も、任意解約により解約手当金を請求できます。
法人または代理人弁護士から請求する場合の必要書類は次の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 法人の実印を押印する |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
委任状 | 解約手当金の受取を代理人弁護士に委任する場合のみ必要 |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | |
代理人弁護士の受任通知など | |
履歴事項全部証明書(発行後3カ月以内の原本) | 商号変更(組織変更)について共済契約の変更手続きが済んでいない場合のみ必要 |
法人破産をすると、換金できる価値のある財産は清算して債権者に分配しなければなりません。
法人の破産手続き開始決定により、共済契約はみなし解除となります。
みなし解除により発生する解約手当金は、破産者の財産を管理するために裁判所から選任された破産管財人から請求します。
請求するときの必要書類は以下の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
破産手続開始決定通知書の写し | 破産の事実や、請求者が破産管財人であるのがわかるものを提出する |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | 裁判所から発行された、破産管財人の印鑑証明書を提出する |
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 破産管財人の実印を押印する |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
履歴事項全部証明書(発行後3カ月以内の原本) | 商号変更(組織変更)について共済契約の変更手続きが済んでいない場合のみ必要 |
株主総会で法人の解散が決議されると、通常は代表清算人が選任されて法人を清算するための手続きを行います。
同時に、共済契約はみなし解除となります。
みなし解除による解約手当金は、この代表清算人が請求します。
請求するときの必要書類は以下の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
履歴事項全部証明書(発行後3カ月以内の原本) | 請求者が清算人であるのがわかるもの、また、法人の解散の記載のあるものを提出する 商号変更(組織変更)について共済契約の変更手続きが済んでいない場合、変更前後のつながりが確認できるものを提出する |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | 法務局から発行された、請求権者が清算人になっているのがわかる法人の印鑑証明書を提出する 清算人個人の印鑑証明書ではないため注意 |
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能 法人の実印を押印する |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
共済契約者である法人が合併により解散すると、 合併後の法人が解約手当金を受け取る権利を承継します。
請求するときの必要書類は以下の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
閉鎖事項全部証明書(発行後3カ月以内の原本) | 共済契約者である被合併法人の合併や解散した日がわかるものを提出する |
印鑑証明書(発行後3カ月以内の原本) | 合併後の新法人の印鑑証明書を提出する |
解約手当金請求書 | 中小機構HPよりダウンロードもしくは資料請求フォームより入手可能。合併後の新法人の実印を押印する |
共済契約締結証書 | 掛金月額や社名(屋号)の変更などで新しい証書が発行されている場合、最新のものを提出する |
振込先口座の通帳などの写し | 解約手当金の振込を希望する口座情報(金融機関名・支店名・口座番号・口座名義)を確認できる資料を提出する |
履歴事項全部証明書(発行後3カ月以内の原本) | 商号変更(組織変更)について共済契約の変更手続きが済んでいない場合のみ必要 |
ここからは、解約手当金の計算方法について確認していきましょう。
解約手当金は、次の計算により算定されます。
掛金の納付月数 | 任意解約 | 機構解約 | みなし解約 |
---|---|---|---|
11カ月以下 | 0% | ||
12~23カ月 | 80% | 75% | 85% |
24~29カ月 | 85% | 80% | 90% |
30~35カ月 | 90% | 85% | 95% |
36~39カ月 | 95% | 90% | 100% |
40カ月以上 | 100% | 95% | 100% |
掛金の納付月数や解約の種類により、支給率が変わります。
特に掛金の納付月数が11カ月以下の場合は解約手当金が支給されないため注意しましょう。
また、支給率が100%未満の場合、掛金に対し元本割れとなってしまいます。
任意解約の場合、掛金を40カ月以上納付していると100%の支給率です。
掛金の支払方法は、毎月定額もしくは一括納付を選択できます。
掛金を前納している場合、前納金を充当する月が到来した後、はじめて掛金として扱われます。
そのため、充当する月が到来していない分は解約手当金を算定する際の掛金総額に含まれません。
この場合、前納分は過払い金として返金されます。
2024年度税制改正では、経営セーフティ共済の税制上の扱いについて見直しが行われました。
前述の通り、経営セーフティ共済の掛金は法人税や個人所得税の事業経費として算入できるため、節税効果があります。
ただし、税制改正で「解約後に再契約する場合、解約日から2年経過するまでに支払った掛金は事業経費へ算入不可」という制限がつきました。
借入の上限は8,000万円(掛金総額の10倍)であるため、掛金の支払いも800万円に達するとストップします。
掛金が支払えないと、事業経費として算入できないため節税効果もなくなります。
この場合に、共済契約を一度解約してすぐに再契約し、掛金を支払うことで節税効果を復活させる方法ができなくなりました。
制度の目的は中小企業の連鎖倒産による経営難の回避であり、本来の目的に沿った加入を継続してほしいという趣旨でしょう。
経営セーフティ共済は中小企業にとって、いざというときの備えになるだけでなく、解約した場合には解約手当金も支給されます。
たとえば急な設備投資資金が必要になった場合など、中小企業の資金繰りに応じて任意のタイミングで解約できるメリットがあります。
ただし、掛金の納付月数が短い場合は解約手当金を受け取れません。
ある程度長い期間加入するのが前提となる制度であり、加入や解約は資金状況に応じて計画的に行うとよいでしょう。