東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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直近3年間の日本における中小企業の年間倒産件数は、2021年6,030件、2022年6,428件、2023年8,690件となっています。
このうち、取引先などの倒産による連鎖倒産も2021年299件、2022年401件、2023年476件と増加しています。
連鎖倒産とは、一企業の倒産によって関連企業も倒産してしまう現象です。
特に中小企業では、大口の取引先が倒産すると売掛金の回収が困難になり、自社も経営難に陥るケースが珍しくありません。
中小企業を連鎖倒産から守るためのセーフティーネットとして、中小企業倒産防止共済というしくみがあります。
ここでは、中小企業倒産防止共済について詳しく解説します。
※参考 中小企業庁HP(中小企業は、中小企業基本法第2条第1項に該当する中小企業者をいう)
Contents
中小企業倒産防止共済は、経営セーフティ共済とも呼ばれる共済制度です。
まずは制度の概要や加入した場合の借入できる共済金について、確認していきましょう。
中小企業倒産防止共済とは、取引先の倒産によって資金回収が困難になったときに無担保・無保証人で共済金の借入ができる制度です。
運営元は、独立行政法人である中小企業基盤整備機構です。
この共済制度は、中小企業を連鎖倒産による経営難から防ぐ目的で昭和53年4月1日に発足しました。
その後、数次にわたる制度改定が行われ、現在に至ります。
令和5年3月末では、約62万の企業や事業者が加入しており、共済金の貸付け実績は累計で約27万件、約1兆9,000億円となりました。
共済金は、以下の条件で借入できます。
共済金は、以下のうちいずれか少ない額の範囲内で借入できます。
たとえば納付済の掛金が200万円の場合、「掛金総額の10倍に相当する額」は2,000万円です。
取引先の倒産により売掛金1,000万円が回収できなくなった場合、共済金は1,000万円まで借入できます。
このとき、もし回収できなくなった売掛金が3,000万円だった場合、借入できるのは掛金総額の10倍に相当する2,000万円までになります。
返済期間は、共済金の借入額によって5年~7年で設定されます。
借入額 | 償還期間 (6カ月の据え置き期間を含む) | 償還方法 |
---|---|---|
5,000万円未満 | 5年 | 54回均等分割 |
5,000万円以上~6,500万円未満 | 6年 | 66回均等分割 |
6,500万円以上~8,000万円以下 | 7年 | 78回均等分割 |
貸付から6カ月間は、掛金の支払や借入の返済が据え置きされます。
6カ月の据え置き期間が過ぎた後、残りの期間で借入金を均等分割し、毎月返済します。
原則として、利子・担保・保証人は必要ありません。
ただし、共済金を償還期日までに償還しなかったときは年14.6%の違約金が課されるため、注意しましょう。
共済金の借入が受けられるのは、以下の条件を満たす場合です。
取引先の倒産事由として認められるのは、以下の7つの場合に限られます。
倒産事由 | 具体的なケース | 倒産日 |
---|---|---|
(1)法的整理 | 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始、特別清算開始の申立 | 申立日 |
(2)取引停止処分 | 手形交換所(電子交換所)に参加する金融機関による取引停止処分 | 取引停止処分の日 |
(3)私的整理 | 債務整理の委託を受けた弁護士などからの共済契約者への支払停止通知 | 通知がされた日 |
(4)でんさい(電子記録債権)ネットの取引停止処分 | でんさいネットに参加する金融機関による取引停止処分 | 取引停止の日 |
(5)災害による不渡り | 甚大な災害の発生による手形などの不渡り | 手形などの交換日または呈示日 |
(6)災害によるでんさいの支払不能 | 甚大な災害の発生によるでんさいの支払不能 | でんさいの支払期日 |
(7)特定非常災害による支払不能 | 特定非常災害により代表者が死亡等した場合の弁護士などによる共済契約者への支払停止通知 | 通知がされた日 |
たとえば取引先が夜逃げをした場合、法的な手続きを経ていないため、倒産事由にはあてはまりません。
前述の「共済金の借入を受けられるケース」にあてはまる場合でも、以下のケースは借入れを受けられなくなります。
共済金の借入を受けられないケース |
---|
(1)貸付請求額が少額であり、次の①と②のいずれの額にも達しないとき ① 50万円(共済契約締結時の掛金月額が5,000円であり、かつ共済契約が効力を生じた日から共済金の借入手続きの日までの期間が6カ月以上10カ月未満の場合、金額は「5,000円×掛金の納付をすべきであった月数×10」 ② 共済契約者の月間総取引額の20% |
(2)共済契約者に倒産または倒産に準ずる事態があるとき |
(3)共済契約者がすでに借り入れた共済金の返済を怠っているとき |
(4)倒産した得意先から売掛金などの回収が困難となったことについて、共済契約者に悪意または重大な過失があったとき(取引先が倒産するのを予見しつつ売掛金を増やしていった場合など) |
(5)重要事項(反社会的勢力の排除に関する同意など)について同意できないとき |
(6)共済金の貸付請求について、偽りその他不正の行為をしたとき |
(7)上記の他、倒産した得意先への販売額や代金の支払方法などを確認できないとき |
取引先が倒産をしていない場合でも、設備投資などで一時的にキャッシュが不足するケースもあるでしょう。
事業資金にあてる目的で資金が必要となるときは、これまでに納付した掛金から一時的に借入を受けられます。
一時貸付金の借入限度額は、納付した掛金の月数や金額で以下のように変わります。
掛金の納付月数 | 一時貸付金の借入限度額 |
---|---|
1~11カ月 | 利用不可 |
12~23カ月 | 掛金総額×75%×95% |
24~29カ月 | 掛金総額×80%×95% |
30~35カ月 | 掛金総額×85%×95% |
36~39カ月 | 掛金総額×90%×95% |
40カ月~ | 掛金総額×95%×95% |
一時貸付金の場合、借入限度額の上限は760万円です。
金融情勢に応じて、返済までの利息も設定されます(令和6年4月1日時点の利率:年0.9%)。
借入金の使途は事業資金(運転資金、設備資金)に限定されており、1年以内に一括返済しなければなりません。
返済が難しい場合、借換の手続きをすると再び1年後を返済期日として貸付を受けられます。
借換の手続きでは、当初の一時貸付金の返済は不要ですが、新たな返済期日や借換額に応じて利息を負担しなければなりません。
通常の共済金の借入とは条件が大幅に異なる点に注意しましょう。
中小企業倒産防止共済へ加入するには、中小企業とみなされる要件を満たさなければなりません。
具体的な要件について確認していきましょう。
加入できる事業形態は「個人事業主」「会社」「組合」です。
個人事業主は、事業所得があって確定申告しており、雇用契約以外で他者の事業に従属しながら独立経営している個人をいいます。
会社は、一部の事業形態では加入できない場合があります。
加入できる事業形態 | 株式会社、有限会社、合名会社、合資会社、合同会社、士業法人(監査法人、弁護士法人など) |
---|---|
加入できない事業形態 | 医療法人、農業組合法人、NPO法人、外国法人など |
組合も同様に、一部の事業形態は加入ができません。
加入できる事業形態 | 企業組合、協業組合、事業協同組合、事業協同小組合、商工組合 |
---|---|
加入できない事業形態 | 森林組合、農業協同組合など |
個人事業主、会社、組合に共通して、1年以上の事業継続が要件になっています。
「常時使用する従業員数(個人事業主、法人の場合)」と「資本金または出資総額(法人の場合)」が一定の基準以下でなければなりません。
基準は業種によって異なり、具体的には以下のように定められています。
業種 | 常時使用する従業員数 (※個人事業主、法人の場合) | 資本金または出資総額 (※法人の場合) |
---|---|---|
ゴム製品製造業 (自動車や航空機用タイヤ、チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) | 900人以下 | 3億円以下 |
製造業、建設業、運輸業、その他 | 300人以下 | 3億円以下 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 | 300人以下 | 3億円以下 |
旅館業 | 200人以下 | 5,000万円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
「常時使用する従業員」とは、以下2つの要件を両方満たす従業員をいいます。
法人の役員や事業主本人は従業員ではなく、雇用期間2カ月以下のアルバイトなどは常時使用にあたらないため、従業員数には含めません。
前述の加入要件を満たさない場合のほか、不正受給防止などの観点から、以下に該当する場合は加入できません。
中小企業倒産防止共済に 加入できない場合 (個人事業主、会社、 組合で共通) | ・住所や主たる事業内容に度重なる変更があり、継続的な取引の状況把握が困難な場合 ・事業の経理内容が不明瞭な場合 ・中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金などの返還を怠っている場合 ・納付すべき所得税や法人税を滞納している場合 ・掛金を12カ月以上滞納したために共済契約を解除された後、解除後12カ月を経過していない場合 ・不正行為により共済金、一時貸付金、解約手当金の支給を受けた、 または受けようとした日から12カ月を経過していない場合 ・既に共済契約者となっている場合(重複加入) |
---|
これらの事由によって加入できないケースは限定的なので、通常、該当する恐れはないでしょう。
ここからは、中小企業倒産防止共済に加入するメリット・デメリットについて確認していきましょう。
加入するメリットは、主に以下のものがあります。
取引先が倒産した場合、銀行に融資を依頼しても連鎖倒産のリスクから借入できない可能性があります。
借入をするために、担保や保証人を求められる場合もあるでしょう。
中小企業倒産防止共済に加入していれば、担保や保証人も不要で、取引先が倒産した場合でもスムーズに借入ができます。
中小企業倒産防止共済の掛金は、法人の損金や個人事業主の必要経費に算入できます。
売掛金が回収できない場合の備えとして内部留保を貯めておく方法もありますが、内部留保が大きくなると課税される税金も多くなります。
税務上、掛金を損金や必要経費として算入した場合は節税効果があるため、黒字額が大きい年度では大きなメリットがあるでしょう。
ただし個人事業主の場合、必要経費として算入できるのは事業所得のみであり、不動産所得には算入できません。
取引先が倒産していない場合でも、前述の一時貸付金という形で借入ができます。
また、詳細は後述しますが、解約した場合はこれまでの掛金総額や納付月数に応じて解約手当金を受け取れます。
中小企業倒産防止共済は連鎖倒産を防ぐという趣旨ですが、倒産がない場合でも掛金が掛け捨てにならないのは大きなメリットでしょう。
ただし、掛金の納付期間によっては受け取れないため、注意が必要です。
掛金の支払を毎月積み立てにしている場合、希望する月から積立額を変更できます。
掛金は合計800万円まで積み立てできますが、掛金総額が毎月の積立額の40倍に達している場合、掛金の払い止めも選択可能です。
経営状況や資金繰りに応じて、毎月の積立額を少なくできるのもメリットの一つでしょう。
一方、場合によってはメリットよりデメリットの方が大きくなってしまうケースもあります。
主に以下のようなデメリットに注意しておきましょう。
事業を開始した直後は、特に資金が不足する可能性が高く、取引先との関係も安定していない時期でしょう。
いざというときの備えがほしい時期ではありますが、中小企業倒産防止共済の加入要件は「1年以上の事業継続」となっています。
事業開始直後の資金繰りとしては利用できない点に注意しましょう、
1年以上事業を継続して加入しても、さらに一定期間以上は加入を継続しなければ借入や解約手当金を受け取れません。
具体的に必要な加入期間は、それぞれ以下の通りです。
実質的に利用できるのは、最短でも「事業開始から1年+上記の加入期間」を経過した後になります。
加入期間を満たさないままでは、取引先が倒産しても借入を受けられないため、納付した分が掛け捨てになってしまいます。
取引先が倒産する見込みがなく、掛金を回収したい場合は、任意解約すると解約手当金を受け取れます。
ただ、詳細は後述しますが、掛金の納付月数が40カ月以上ないと、任意解約をしても納付額を下回る金額しか戻ってきません。
掛金の納付期間が短い場合、解約しても元本割れした金額しか戻ってこない点には注意しましょう。
掛金の支払は損金や必要経費に算入できるため、内部留保で備えるよりも節税効果があります。
ただし、解約手当金の受け取りは雑収入として課税対象となります。
特に掛金の納付月数が長くなっているときは解約手当金も多くなるため、税負担も重くなる可能性があります。
ここからは、中小企業倒産防止共済への掛金の支払と、解約手当金について解説します。
掛金は、以下のうちどちらかの方法で支払います。
最大で800万円まで積立可能ですので、自社の経営状況に応じて支払方法を選択しましょう。
解約した場合、実質的には掛金の返還にあたるものとして解約手当金が支払われます。
ただし、解約手当金は掛金総額のすべてを受け取れるとは限らず、掛金の納付月数や解約の理由によっては減額されます。
まず、解約の理由は以下の3つにわかれます。
解約手当金は、下表の支給率に「納付した掛金総額」を乗じた額が支払われます。
解約の理由 | ||||
---|---|---|---|---|
任意解約 | 機構解約 | みなし解約 | ||
掛金の納付月数 | 1~11カ月 | なし | ||
12~23カ月 | 80% | 75% | 85% | |
24~29カ月 | 85% | 80% | 90% | |
30~35カ月 | 90% | 85% | 95% | |
36~39カ月 | 95% | 90% | 100% | |
40カ月~ | 100% | 95% | 100% |
元本割れがなく100%支払われるのは、以下のケースのみです。
機構解約でも解約手当金は支払われますが、不正行為など悪質な事由の場合、解約手当金は支払われない可能性があります。
中小企業倒産防止共済への加入は、以下の流れで行います。
加入完了には申し込みをしてから約2カ月かかるため、事前に手続きの流れやスケジュールを確認しておきましょう。
加入に必要となる書類として、以下のものを用意しましょう。
(法人、個人事業主で共通)
書面は中小機構のHPから資料請求やダウンロードができます。
※参考 経営セーフティ共済 様式一覧
(法人の場合のみ)
(個人事業主の場合のみ)
加入の手続きは、必要書類を以下いずれかの窓口に提出して行います。
委託団体や代理店である金融機関は中小機構のHPで公開されているため、事前に調べておきましょう。
契約成立後、以下の書類が送付されます。
これらは共済金の貸付や解約手当金を受け取るときなどで必要になるため、紛失しないよう大切に保管しておきましょう。
中小企業倒産防止共済は、取引先の倒産による資金不足に備えるための方法として非常にメリットの大きな制度です。
中小企業やベンチャー企業などは、自社の
いざというときの備えとして、中小企業倒産防止共済に加入しておくのも一つの方法でしょう。
ただし、加入期間が短いと共済金を借入できないなどのデメリットもあるため、事前に制度をよく理解しておかなければなりません。
制度のメリットとデメリットを理解した上で、加入をぜひ検討してみましょう。