最終更新日:2025/5/2
役員になるにはどうしたらいいのか?役員に必要な能力とリスク・手続きについて解説します

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 役員になるために必要なスキルや経験
- 役員の報酬の相場
- 役員が負う責任
企業の上層部にあたる「役員」には、経営判断力やリーダーシップ、コミュニケーション能力などが求められます。役員は会社の舵取りをする重要なポジションであるため、実績やスキルが必要です。
さらに、役員の報酬は一般的な会社員よりも高額ですが、そのぶん責任やリスクも大きくなります。この記事では、役員になるための条件や求められる能力、役員の報酬、役員になった後の手続きや責任について詳しく解説します。役員を目指している人や、役員の仕事に興味がある人は、ぜひ参考にしてください。
目次
役員になるにはどうすればいいのか
会社の上層部である役員になるためには、ただ長く同じ会社に勤めていればいいわけではなく、役員という立場に見合った経験や能力が必要です。
役員は会社の経営に深く関わる立場であるため、経営判断能力や過去の実績、コミュニケーション能力やリーダーシップが重要になります。
役員になるために必要な資格はなく、実力次第で役員になることが可能です。
実績と経験が求められる
役員になるためには、会社経営に活かせる経験と実績が必要です。単に勤続年数が長いというだけでなく、企業の成長や業績向上にどのように貢献できるのかがポイントになります。
例えば、多くの企業では、管理職を経験して実績を残した人が社内で昇格して役員に昇進するケースが見られます。
管理職としての実績は、経営判断能力やコミュニケーション能力を裏付けるだけでなく、会社の内部事情や経営戦略を理解していることの現れでもあります。なので管理職は、昇格後も役員として業務をスムーズに遂行できると判断されます。
他にも、会社の利益を向上させたり、社内改革や組織改善に貢献したりして評価されると、役員に推薦される可能性が高まります。
資格は必要ない
役員のなかでも取締役は企業経営の中枢であり経営判断が主な役割であるため、資格よりも経験やスキル、リーダーシップが重視されます。
ただし、会計参与に関しては公認会計士・税理士・税理士法人・監査法人のいずれかである必要があります。
会社役員の報酬はどのくらい?
役員の報酬は、企業の規模や業績によって大きく異なります。一般的に、役員の報酬は高額だというイメージがあるでしょう。ここでは役員報酬について解説します。
役員がもらえる報酬の平均
人事院の「令和4年 企業規模別・役名別平均年間報酬」によると、役員報酬の平均は下表の通りです。
会長 | 副会長 | 社長 | 専務 | 常務 | 監査役 | |
---|---|---|---|---|---|---|
従業員数3,000人以上 | 9,306万円 | 7,579万円 | 8,603万円 | 4,545万円 | 3,355万円 | 2,693万円 |
1,000人以上3,000人未満 | 5,813万円 | 6,206万円 | 5,276万円 | 3,344万円 | 2,464万円 | 1,658万円 |
500人以上1,000人未満 | 5,636万円 | 3,063万円 | 4,226万円 | 2,543万円 | 2,154万円 | 1,327万円 |
役員報酬の額は会社の規模によっても変わりますが、特筆すべきポイントは以下の3点です。
- 社長より副会長のほうが報酬額が低いこともある
- 常務より専務のほうが報酬額が高い
- 監査役でも1,000万円以上の報酬になる
社長より副会長のほうが低い報酬額になることがあるのは、副会長が名誉職扱いになっているケースが影響しているのかもしれません。常務と専務の報酬額に大きな差がある点、監査役でも一般的な会社員を大きく上回る年収になる点も興味深いです。役員の報酬が高額であるというイメージは決して間違っていないことがわかります。
もちろん、スタートアップ企業や中小企業の場合、上記の平均額より役員報酬が少ないケースもあります。
役員に求められるスキル
役員には、さまざまなスキルが必要です。特に求められるのは、経営判断力やリーダーシップなどです。
リーダーシップ・コミュニケーション能力
役員は、企業のトップとして会社を代表する存在であり、対外的なコミュニケーションも仕事のひとつであるためコミュニケーション能力がとても重要です。社内においても、従業員に適切な指示を出したり、他の役員と意思疎通をしたりするコミュニケーション能力が求められます。
経営判断をする能力
役員のなかでも取締役にとっては特に経営判断能力が重要です。
会社を成長させるための経営判断を行う取締役には、社会の変化に迅速に対応し、的確な経営判断を下す能力が必要です。市場の動向やトレンドを見極め、事業の方向性を決定する力が求められます。
専門知識・能力
経営に関する深い知識や経験、財務・法務・マーケティングなどの専門知識は役員として職務をまっとうする上で非常に役立つものとなります。
役員としての業務に専門知識やスキルを活かせるケースは少なくありません。
経験と人脈
実績と経験、人脈は役員としての職務を遂行する上で重要です。
特に、経営やマネジメント、社内改革や事業拡大などの経験があるとよいでしょう。また、社内外の人脈も経営戦略を進める上で大きな武器となります。
信頼関係
役員となるためには、既存の経営陣との信頼関係がとても重要です。また、株主や従業員、取引先との信頼関係を築くことも求められます。
特に会社が懸念するのは、役員が独立してライバルになることでしょう。役員になっても辞任して独立することは原則として問題ありませんが、そうした将来的な不安を抱かせない信頼関係の構築がとても大切です。
役員はどうやって選ばれるのか
役員は、株式会社であれば株主総会の決議によって正式に選任されます。企業にとって役員は、経営の方向性を決定し重要な経営判断を下すポジションであるため、株主総会による承認が必要です。
株主総会の決議で選任される
株式会社において、役員は株主総会の決議をもって正式に選任されます。これは会社法で定められた手続きであり、役員の交代や新たな役員の就任の際には、株主の承認を得る必要があります。
役員選任の決議では、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会において過半数の賛成が必要です。
役員とは?会社法上の規定と責任
ここからは、会社法上の役員と役職名としての役員について解説します。役員は会社法で定義されており、会社法上の役員は一定の責任を負う立場になります。
取締役・監査役・会計参与の総称
会社法上の役員とは、取締役・監査役・会計参与のことです。それぞれの役割は異なり、取締役は経営の意思決定、監査役は業務監査、会計参与は財務管理を担当します。
執行役員は会社法上の役員ではない
執行役員は、名称に「役員」が入っていますが、会社法上の役員ではありません。
執行役員は、会社の業務執行を担う重要な役職のひとつではありますが、会社の内部規定で設置される役職です。
執行役員については、以下の記事で詳しく解説しています。
役員には会社法上の責任がある
役員には、会社法上の責任があります。取締役には忠実義務があるほか、一定の場合には第三者に生じた損害の賠償責任を負うという規定もあります。
こうした責任は、従業員にはない法的な責任です。
参考:会社法 第三百五十五条|e-Gov 法令検索
参考:会社法 第四百二十九条|e-Gov 法令検索
役員は委任契約
役員は、会社の従業員(雇用契約)ではなく、会社と委任契約を結んで業務にあたります。労働者ではないため労働基準法は適用されず、就業時間がなく残業手当や失業保険なども対象外となります。
場合によっては深夜や休日であっても業務にあたる必要があるため、従業員とは働き方が異なります。
役員と役職の違い
会社には、役員と役職が存在します。どちらも社内の指揮系統を表すものですが、役員と役職は全く別のものです。
役員と役職は全く別のもの
役職は、社内における役割と順位を示すものです。部長や課長、主任などは役職であり役員ではありません。また、取締役ではない専務や常務、執行役員などは役職です。
一方、役員は会社法上の経営者を指していて、取締役・会計参与・監査役のいずれかです。
社長やCEOが役員ではないケースもある
社長やCEOといった企業の上位の役職に就いている人は、必ずしも役員であるわけではありません。会社の内部での地位を表す役職としての社長やCEOということもあります。もちろん、会社法上も問題はありません。
役員になるデメリットとは
役員になると、会社の中枢で経営判断を下すというやりがいのある仕事ができるだけでなく、魅力的な報酬も得られます。
ですが、同時にデメリットもあります。
雇用保険の対象にならない
役員は雇用契約ではなく委任契約もしくは請負契約で業務にあたるため、雇用保険の対象になりません。
仮に突然、株主総会の決議で解任されたとしても失業保険をもらうことはできないのです。
また、労働者ではないため労働基準法の適用はなく残業手当なども支給されません。
経営判断の責任を負う
役員は、会社の経営判断に責任を負っています。もし役員が忠実義務に反した場合はその責任を負うことになり、第三者に対する損害賠償責任が発生する可能性もあります。
解任や株主代表訴訟
役員は、株主総会の決議で自分の意思とは関係なく解任されるリスクを常に負っています。
また、誤った経営判断や自らの不祥事が原因で会社に損害を与えた場合には、株主から訴訟を提起されるというリスクもあります。
役員の仕事内容は?
役員の主な役割は、会社の経営に関する重要な意思決定を行い、企業全体の方針を決定することです。業種や企業規模によって役員の業務範囲は異なりますが、ここでは一般的な役員の仕事内容を解説します。
会社の経営判断
役員のなかでも取締役は会社の経営判断をするポジションです。会社の重要な意思決定を行い、会社の利益と成長のためにさまざまな判断をします。
市場環境や経済動向、トレンドなどを分析し、会社全体を俯瞰しながら競争力を高める戦略を策定します。
会社全体の管理・監督
役員は、会社全体の業務を管理・監督する立場です。取引先との関係構築や交渉、社内外のステークホルダーに対する説明責任を果たすのも重要な役割です。
また、企業のコンプライアンス違反や不祥事を起こさないようにするため、社内環境の構築と監督も求められます。
役員になったらやるべき手続き
役員に就任した際には、会社法の規定に基づいて、一定期間内に登記を行うことが義務付けられています。
登記の変更が必要
会社の役員に変更が生じた場合は、定款変更に加えて2週間以内に登記が必要です。これは、就任した役員ではなく会社が行う手続きとなります。
役員になるにはさまざまな能力が求められる
役員になるためには、経営判断力やリーダーシップ、コミュニケーション能力といった、さまざまな能力が求められます。
また、役員の選任では株主総会の決議を経る必要があり、株主からの同意も必要です。
役員は、就任後、会社を俯瞰して経営判断を下すという立場になります。役員の報酬は一般的な会社員よりも高額ですが、そのぶん経営判断の責任や株主総会決議による解任のリスク、株主代表訴訟といった責任を負っています。
役員を目指す場合は、報酬や仕事内容だけでなく会社法上の責任についても理解しておきましょう。