最終更新日:2025/4/23
理事と役員の違いとは?役職名や役割の違いを解説します

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
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この記事でわかること
- 理事と役員の違い
- 一般社団法人における理事の役割
- 理事の責任と義務
企業や法人にはさまざまな役職があり、それぞれが異なる役割や責任を担っています。なかでも「理事」と「役員」は混同されがちです。確かに、理事は一般社団法人や公益法人などにおいて業務執行を担当する役職であり、株式会社の取締役に相当する部分が多いのも事実です。ですが、まったく同じではありません。
役員は会社の経営を統括する立場です。役員は株主総会で選任され、委任契約を結んで会社の重要な意思決定を行います。また、理事や役員には忠実義務や善管注意義務などの法的責任があり、職務遂行に過失があった場合には損害賠償責任を負う可能性もあります。この記事では、理事と役員の違いを明確にしてそれぞれの役割や責任について詳しく解説します。
目次
会社の役職一覧
企業には、多くの役職が存在します。各役職にはさまざまな役割や権限があり、それぞれが組織の運営を支えています。一般的な企業の役職には以下のようなものがあります。
役職名 | 説明 | 登記 |
---|---|---|
代表取締役(社長) | 株式会社の最高経営責任者として会社を代表し、経営の最終決定を行う、会社法上の役員 | 必要 |
取締役 | 会社の経営方針を決定する役職。株主総会で選任される、会社法上の役員 | 必要 |
取締役会長(会長) | 代表取締役より上位の立場とされることもあるが、名誉職的なケースもある | 必要 |
副社長 | 社長を補佐し、必要に応じて社長の代理を務めることがある | 取締役でない場合は不要 |
専務取締役(専務) | 経営全般に深く関わる役員。取締役のなかでも上位の地位にあるケースが多い | 取締役の場合は必要。取締役でない専務は不要 |
常務取締役(常務) | 取締役の役職名のひとつで、専務の次の地位であるケースが多い | 取締役の場合は必要。取締役でない常務は不要 |
監査役 | 取締役とは独立した立場で取締役の業務執行を監査する役職。会社法上の役員 | 必要 |
執行役員 | 会社内の役職であり、企業の判断のみで付与される役職。会社法上の役員ではない | 不要 |
理事(一般社団法人・公益法人など) | 法人の経営や業務執行を担う役職。株式会社の取締役に相当する場合があり、理事会を構成することが多い | 必要 |
理事長 | 一般社団法人や公益法人の最高責任者 | 必要 |
理事とはどんな地位の人?
理事は、法人や団体の管理や業務執行を行う人の役職です。株式会社の「取締役」に相当することが多く、一般社団法人や公益法人、学校法人などで設置されています。法人の種類や規模によって、理事の役割や権限が異なります。
理事は一般社団法人などに置かれる役職
理事は、一般社団法人や公益法人などの法人組織で設置されることが多い役職です。株式会社の取締役に相当する役割を持つことが多く、法人の運営方針の決定や業務執行を担当します。法人の種類によっては、理事会を構成し、重要な意思決定を行うこともあります。
株式会社などの企業の場合は、役員として取締役や監査役、会計参与などが置かれます。一方で、一般社団法人などの団体では、役員ではなく理事と理事会が置かれることになります。
企業独自の「理事」を置いているケースもある
一部の企業では、独自の役職として「理事」を設けていることがあります。これは法的に定められたものではなく、企業内での組織運営上の役割として導入されているケースが多いです。たとえば、社内で特定の業務を統括するポジションとして理事を任命する企業もあります。
PTAの理事と役員について
役員や理事という言葉で、PTAを思い起こす人もいるでしょう。
確かに、PTAでも理事や役員といった役職が存在します。ただし、企業や法人と異なり、学校ごとに組織の運営方針が違うため、理事や役員の役割も統一されていません。
マンション管理団体の理事や役員も同様です。こうした民間団体における「理事」や「役員」は、会社法上のものではなく他の団体独自の呼称です。
PTAの場合は学校ごとに異なる呼称
PTAでは、会長、副会長、会計、広報担当などの役員が設置されることが一般的です。そのなかで、理事は各学年やクラスの代表として活動し、PTAの運営を支える役割を果たします。理事の業務は、学校やPTAの規模によって異なります。
理事や役員という役職がつけられることもありますが、会社や一般社団法人の役員・理事とは異なるものです。
理事と役員の違い
理事は、法人の業務執行を担当する役職で社員総会の普通決議で選任されます。一方で、役員は会社の経営方針を決定する役職であり会社の株主によって選任されます。
理事は一般社団法人などの役職
理事は、法人の業務執行を担当する役職です(事務的な役割を果たしているケースも多く見られます)。一方、役員は企業の経営方針を決定し、組織全体の管理や経営判断を行います。
会社法の役員
会社法では、取締役、監査役、会計参与が「役員」として定義されています。これらの役職は、企業の経営に直接関与し、重要な意思決定を行います。株式会社などの会社組織において使用されるのが役員です。
会社法施行規則の役員
会社法施行規則では、法人で管理責任を持つ者を含めた用語の定義がなされ、企業の運営に関与する立場の役職が規定されています。
理事と役員の職務の違い
理事と役員は団体における重要な役割を担っています。
どちらも会社や法人において上位の役職であるため混同されやすいのですが、実際には担う職務などに違いがあります。
役員は会社の経営陣
役員とは、会社の経営陣のことです。役員は株主総会によって選任された経営のスペシャリストであり、株主は役員に会社の運営を任せています。
理事は経営陣ではない?
理事は、一般社団法人などの法人の業務執行者です。どのような役割があり、どのような職務を行うかは、所属している法人によって異なります。もちろん、理事が経営判断をするケースはありますが、理事という役職を持つ人が必ず経営判断をするというものではありません。
一方、会社法上の役員である取締役は、会社の経営判断をして利益を出すための職務を行います。
理事とは何をする人なのか
一般社団法人などの法人の理事は、どのような役割を持っているのでしょうか。
理事には重要事項を決定する権限がある
一般社団法人などの理事には、重要事項を決定する権限があります。この点については、会社の取締役の権限に近いといってもいいでしょう。
理事には、法人の代表者としての顔があります。団体内では上位の役職であるため影響力と責任が生じます。対外的にもその法人を代表していると認識される立場です。
業務執行権について
理事は、一般社団法人と委任契約を結び、法人の業務を遂行する権限を持っています。これを業務執行権といいます。
これは、企業の取締役が委任契約に基づき経営判断を行う権限を持つのと同様のしくみです。ただし、理事の業務執行権は法人の目的に基づき行使されるものであるため、企業の経営判断とは異なる点もあります。
理事の責任
理事にはどのような責任があるのでしょうか。一般社団法人などの理事が負う法的な責任について解説します。
善良なる管理者としての注意義務
理事には、「善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)」が課されています。これは、法人の業務を執行したり重要な判断をするときに、善良な管理者として職務を執行しなければならないというものです。
この「善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)」とは、法律の世界ではよく使用される用語です。簡単に言えば、一般的な常識に従って業務を行うというものであって、ごく小さなミスや誰にも予想できないような事態が起こった場合には善管注意義務は問題になりません。あくまで客観的に見て「それはおかしいのではないか」と判断されることがないようにするという義務です。
万が一、理事の不適切な業務執行によって法人に損害が発生した場合、理事は損害賠償責任を負う可能性があります。
理事の善管注意義務が問題にされるケースとしては以下のようなケースが考えられます。
- 法人の財務管理をしていない
- 契約内容を確認せずに契約したことで不利益が生じた
- 法令や定款に違反した
善管注意義務が問題とされた場合、理事個人が責任を負います。
競業は避止されている
理事には、競業避止義務があります。会社役員の場合にも、会社法で競業が禁止されていますが、理事に関しても⼀般法⼈法にその規定があります。
理事・役員いずれの場合も、競業とされる他の法人や企業、組織への転職や成立を制限するというものです。ただし、方法がないわけではありません。理事の場合は社員総会の決議、役員の場合は株主総会の承認があれば問題はありません。
理事や役員が同じ分野の事業を立ち上げる場合、法人の機密情報を利用したり、取引先と個人的に契約して利益を得たりといった問題が生じ得ます。これらを防止するために競業避止義務が課されているのです。
競業に関しては、不正競争防止法に抵触する可能性もあるため理事・役員ともに慎重に行動する必要があります。
参考:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第八十四条|e-Gov 法令検索
参考:会社法 第三百五十六条|e-Gov 法令検索
参考:会社法 第三百六十五条|e-Gov 法令検索
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の義務
理事には、法人の運営を適切に行うために「忠実義務」と「損害賠償責任」が課されています。
内容 | 具体例 | |
---|---|---|
忠実義務 | 法人の利益を最優先して誠実に職務を遂行しなければならない | ・法人の利益を最優先に考えた意思決定を行う ・個人的な利益ではなく法人の発展のために尽力する ・法令や定款を遵守し、適正に業務を執行する |
損害賠償責任 | 職務を怠ったり、業務執行に重大な過失があった場合や、善管注意義務に反しているとされた場合に、法人に与えた損害の賠償責任を負う可能性がある | ・不適切な経営判断を行なった ・法令違反で法人がペナルティーを受けた ・不正会計などの不祥事を起こした |
理事が忠実義務を果たさなかったり、職務遂行において過失があった場合、法的な責任を追及される可能性があります。
法人の適正な運営を確保するため、理事は法令を遵守し、競業避止義務や善管注意義務を守りながら、常に法人の利益を最優先に考えた意思決定を行うことが求められているのです。
参考:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第八十三条|e-Gov 法令検索
参考:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第百十一条|e-Gov 法令検索
理事とは一般社団法人などに置かれる役職
理事と役員は、類似する部分も多いのですが、それぞれ異なる役割と責任を担っています。
理事は一般社団法人や公益法人の業務執行を担当し、法人の運営を支える立場であり、法人の代表としての役割もあります。一般社団法人の理事は、株式会社の取締役に相当する役割が多いのも事実です。
一方、会社の役員は企業の経営判断を下すポジションで、株主総会で選任される重要な役職です。また、理事には忠実義務や善管注意義務が課されており、職務遂行に過失があった場合、損害賠償責任を負うこともあります。一方、会社の役員は会社法上で定められた法律的な責任を負っています。
法人や企業の組織体系を理解するには、理事と役員の違いを正しく把握し、それぞれの役割を適切に認識することが重要です。法律上の違いや法人ごとの違いを理解しましょう。