最終更新日:2025/5/14
役員と管理職の違いとは?雇用形態や報酬・役割の違いを解説します

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 役員と管理職の違い
- 役員と管理職の役割や責任
- 役員と管理職それぞれに求められるスキル
会社において「役員」と「管理職」はどちらも重要な役職です。似たような立場に見えますが、役割や責任、契約形態、任命の過程に大きな違いがあります。役員は会社の経営陣であり、方向性を示す役職です。一方、管理職は特定の部署を統括して、現場の業務を円滑に進めるための指揮を執ります。
役員は株主総会の決議で選任され、会社法上の責任を負いますが、管理職は社内の昇進制度により任命され、自分の業務にのみ責任を負います。また、契約形態も異なっており、役員は「委任契約」、管理職は「雇用契約」です。
この記事では、役員と管理職の違いを詳しく解説し、それぞれに求められるスキルや向いている人の特徴について紹介します。
役員と管理職の違い
会社では「役員」「管理職」ともに重要な役職ですが、その役割や権限には明確な違いがあります。ここでは、管理職と役員の違いについて、契約形態や任命の過程も含めて詳しく説明します。
管理職は広い意味の責任者
管理職は、組織の中で部下を持って指示を出し、業務全体を指揮する役職です。管理職という言葉は法律用語ではないため、法律上の明確な定義はありません。
明確な定義はなく広い意味で「部下を持つリーダー」のことを管理職と呼ぶのが一般的です。もちろん、会社ごとに「管理職」とされる範囲は異なります。一般的には、部長や課長といった中間管理職や取締役のような上位の役職まで幅広い立場の人が管理職に該当します。
役員は従業員と契約が違う
管理職のなかでも、役員と呼ばれる「取締役・監査役・会計参与」は一般の従業員と契約が異なります。
管理職には、部長や課長といった役職も含まれますが、これらの職種は基本的に 「雇用契約」 に基づいています。雇用契約では、会社が従業員を雇用して賃金を支払う代わりに、従業員が会社の指揮命令に従って働く義務を負います。労働基準法が適用され、給与、労働時間、残業代、福利厚生などが法律に基づいて定められます。
一方、役員(取締役・監査役・会計参与)は、従業員とは異なり、会社と 「委任契約」を結びます。雇用契約のように「勤務時間」や「賃金の保証」といった労働者の権利は保護されません。役員報酬は「給与」ではなく、契約に基づいて支払われるものです。従業員にとっての勤務時間も存在しません。
役員は会社の意思決定や経営判断を行うための契約を結ぶため、通常の管理職とは異なる法的な位置づけとなります。ただし、役員と呼ばれる役職のなかでも「執行役員」は会社法上の役員ではなく、従業員として雇用されている従業員です。
任命される過程の違い
役員ではない一般の管理職は社内の昇進によって任命されます。会社ごとに人事評価制度があり、それに従って業績や経験、スキルなどが評価されて役職が与えられます。
管理職は、企業内のキャリアパスであるため、社内での業績や評価が重要になります。直属の上司や人事権を持つ役職にある人の権限で昇進が決定します。
一方で、役員の場合は株主総会で選任され法務局で登記されることが必要です。これは会社法に基づく重要な手続きです。正式な登記手続きを経て会社法上の役員となり、会社法上の責任を負うことになります。
一般管理職 | 役員 | |
---|---|---|
任命方法 | 社内の昇進 | 株主総会の決議 |
決め方 | 会社の経営陣や人事権を持つ上司が決定 | 株主総会で決定 |
評価基準 | 業績・スキル・経験・人望 | 経営判断能力 |
法的な手続き | 特になし | 登記が必要 |
契約形態 | 雇用契約(従業員) | 委任契約 |
一般の管理職は社内の昇進によって任命され、特定の部署やチームの運営を任されます。しかし、役員は会社全体の経営を担う存在であり、株主総会の決議で選任されるため、より大きな責任を負っています。
また、一般の管理職は各部署のリーダーですが、役員は会社全体を見て経営判断をする立場です。そのため、求められるスキルや視点も大きく異なります。
役員ってどんな人
役員とは、企業の経営に関わる重要な役職です。会社法上の役員は「取締役」「監査役」「会計参与」です。
また、会社によっては、「執行役員」「専務」「常務」も役員と呼ばれることがあります。これらの役職は、会社法上の役員とは異なりますが、会社の経営や意思決定に関与する重要なポジションです。ここでは、それぞれの役職について詳しく解説します。
役員という名前で呼ばれる役職一覧
役員と呼ばれる役職は複数存在します。会社ごとに違いはありますが、ここでは一般的な役職について説明します。
取締役
取締役は、会社の経営方針を決定する役職です。会社法上の役員であり、会社の種類によって必要な人数が定められています。
取締役は、会社の経営方針・事業計画を策定し、取締役会で重要な経営判断を行います。取締役の任期は最長で10年(定款による)です。取締役の選任・解任は株主総会によって決定されます。また、取締役は会社法上の役員であるため、登記が必要です。
役員の数や取締役については、以下の記事をご確認ください。
監査役
監査役は、取締役の業務執行をチェックするための役職です。会社法上の役員であるため、法務局で登記する必要があります。監査役は、企業の経営判断を行う取締役とは異なり、第三者的な立場から取締役の行動をチェックする役割を担っています。
会社の財務状況や、経営方針の適正性(法令や定款に違反していないか)を監査します。
会計参与
会計参与は、会社の財務や会計を管理するための役職です。
会計のプロフェッショナルである税理士や公認会計士が就任するケースが多く、取締役や執行役員と連携しながら決算書の作成や財務諸表の適正性の確保に努めます。
会計参与は、取締役や監査役と協力して、財務諸表の作成や会計処理のチェック、財務リスクの把握などを行います。
会計参与も会社法上の役員であるため、法務局で登記を行う必要があります。
執行役員
執行役員は、取締役会で決定された会社の方針を現場に伝えるポジションです。経営陣と現場の橋渡しをします。
執行役員は、取締役のような会社法上の役員ではないため、登記の必要がありません。会社の内部規定で昇進して任命されます。そのため、会社の経営戦略の実行役として柔軟に運用されることが一般的です。
執行役員は取締役と混同されることが多いですが、会社法上は「役員」ではなく、雇用契約のもとで登用されることが多いという特徴があります。
執行役員については、以下の記事で詳しく解説しています。
専務・常務
専務取締役や常務取締役は、会社法上の役員である取締役です。特に、大企業では「専務取締役」「常務取締役」といった役職を設けることが一般的です。
一方で、「専務」や「常務」であっても、役職が取締役でない場合は、会社の内部規定に基づく役職であり、会社法上の役員には該当しません。そのため、取締役として登記される「専務取締役」「常務取締役」と、社内の役職としての「専務」「常務」では、立場が異なります。
会社法上の役員は取締役・監査役・会計参与
会社法で定められている「役員」は取締役・監査役・会計参与です。
会社法上の役員は、株主総会や取締役会の決議を経て正式に任命されるため、一般の従業員とは異なる契約形態をとるのが一般的です。また、会社法上の役員は法務局への登記が必要なため、企業の組織図において対外的にも明確な役職として位置づけられます。
管理職とはどんな人
管理職は、組織の中で部下を統括し、業務を円滑に進める役割を持つ現場のリーダーです。業務に関しての裁量を与えられており、部署の目標達成のためにリーダーシップを発揮します。
管理職という言葉には明確な定義はありませんが、一般的に 「部長」「課長」などの役職を持つ人を管理職や中間管理職といいます。会社によって管理職の範囲は異なりますが、基本的には会社と雇用契約を結んでいる従業員であり、役員とは異なる立場になります。
管理職とされる役職一覧
ここでは、管理職と呼ばれる役職について説明します。
管理職は組織の目標達成のために現場を統括するリーダーです。役職ごとに責任範囲や求められるスキルが異なりますが、いずれも部下のマネジメントと統率を行い、組織の運営に関わる重要なポジションです。
もちろん、会社ごとに役割や立場には違いがありますが、ここでは一般的な管理職について解説します。
本部長
本部長は会社の全社的な戦略を把握する立場であり、各部門を統括する現場の最高責任者です。企業の中長期的な戦略を各部門に伝えるポジションであるため、管理職のなかでは執行役員に近い立場といえます。
部長
部長は、企業の1つの部署を統括し、担当部署の目標達成のためにリーダーシップを発揮するポジションです。担当部署内で大きな権限を持っており、 業績管理・人材管理・業務管理を行います。会社の方針を現場で実行する役割を果たします。
次長
次長は部長を補佐するポジションであり、部門の業務遂行を円滑に進めるためにさまざまな役割を担います。企業によっては、次長を置かないケースもありますが、組織が大きい場合には次長という役職が置かれているケースが多いです。
次長は、部長を補佐しながら課長以下の管理職と連携し、部署内を管理し日々の業務がスムーズに行われるよう調整を行います。
課長
課長は、部署の中でさらに小さい単位である「課」の責任者です。部長の指示のもとで、部署の業務を統括し、部下の指導や業務の効率化を進めるポジションです。
係長
係長は、課の中のさらに小さい単位のチームの業務進行管理や部下の育成・統率をするというポジションです。自らも業務をこなしながら、チームを統率する役割があります。
少人数のチームのリーダーであり、業務だけでなく人間関係の調整なども行うポジションです。
主任
主任は、課に与えられた特定のプロジェクトの責任者です。人材の得意分野や専門知識を把握して、それを活かしつつ自らも業務を行いチームを支える役職です。
主任に関しては、管理職というよりプロジェクトリーダーという認識の方が一般的です。
役員と管理職の役割の違い
会社という組織において、役員と管理職はそれぞれ異なる役割を担っています。
役員が会社全体の経営を指揮し、長期的な経営戦略を決定する立場であるのに対し、管理職は担当部署を統括し、現場の業務を円滑に進めるのが業務です。
ここでは、それぞれの役割の違いについて詳しく解説します。
役員は会社全体を指揮する
役員は、重要な意思決定を行い会社の方向性を決定するポジションです。会社法上の役員は、株主や取締役会の決議に基づいて選任され、会社の長期的な成長戦略を立案し経営判断を下して、業績向上を目指します。
管理職は自分の部署を統括する
管理職は、会社の経営方針を現場で実行するための現場のリーダーです。管理職は、担当部署内のチームやプロジェクトを統括します。
管理職のなかでも上位である本部長や部長は、役員が策定した戦略を部署単位で実行し、業務が円滑に進むよう指揮を執ります。
執行役員は管理職と役員の中間
執行役員は「役員」という役職名ではありますが、会社法上の役員ではありません。雇用形態も従業員であるケースがほとんどです。登記は必要なく、株主総会の決議ではなく社内の昇進で任命されます。
執行役員は、一般的に本部長より上位であることが多く、管理職よりも広範な業務執行の権限を持っています。経営陣と現場の橋渡し役として、取締役などの経営判断を部長以下の現場に伝える役割を担っています。
役員と管理職それぞれに求められるスキル
役員と管理職にはそれぞれ異なるスキルや能力が求められます。
役員と管理職にそれぞれ求められるスキルと、向いている人・向かない人の特徴について解説します。
役員に向いている人
役員には、会社全体を俯瞰で見ながら社会全体の流れを把握することが求められます。長期的な視点での経営判断能力が必要です。また、経験や人脈も役員に求められるスキルといえます。
経営判断能力
役員のなかでも、特に取締役には企業の成長を左右する経営判断を的確に行う能力が求められます。市場や社会の動向やトレンド、競合の状況を把握して適切な戦略を立てるスキルと能力が必要です。
また、ただ経営戦略を立てるだけではなく、リスクを想定しながら、企業が持続的に成長できる環境を作る役割も担います。
リーダーシップ
役員は会社の経営陣であり上層部に位置する役職ですが、現場のリーダーや従業員を統括する立場でもあるためリーダーシップも必要です。企業の方向性を示す上で、組織を牽引する強いリーダーシップ が求められます。
企業のビジョンや戦略を明確にし、従業員が一体となって目標を達成できるよう調整する必要があります。
管理職に向いている人
管理職としての役割を果たすためには、会社の目的を理解した上で現場の作業を行う能力や、担当部署内でのコミュニケーション能力が求められます。
役員の経営判断を理解して現場で動く能力
管理職は、役員と現場の中間に位置する役職です。経営陣が決定した方針を理解した上で、現場の業務を行う必要があります。
自らも現場の戦力として働きつつ、部下や他部署との連携を図りながら動くマルチな能力が必要です。
従業員とのコミュニケーション能力
管理職としての役割を果たすためには、コミュニケーション能力が不可欠です。部署内の士気を高め、業務をスムーズに進めるためには、一方的な指示ではなく現場の意見を尊重して、臨機応変に対応しなければなりません。
また、部署内の人間関係を良好に保つための調整も行います。
役員に向かない人
役員は、会社の重要な意思決定を行う重要なポジションです。そのため、経営判断能力が不足している人や経験が足りない人、リスクを回避しがちな人には向いていません。
経営判断をする経験や知識がない
役員は、市場分析や経営戦略の作成、経営判断といった多方面の知識と判断力が求められる 役職です。そのため、経営に関する知識や経験が不足している人や、市場を冷静に見極める力がない人は、役員としての適性が低いといえます。
適性がない人が役員になると、会社は社会の変化やニーズに対応できなくなり成長できなくなってしまう可能性があります。
リスクを負いたくない人
会社法上の役員には、会社法で定められた責任が伴います。また、会社を経営する上では、リスクを承知で難しい判断をしなければならないケースや、市場のニーズに合わせた新しい挑戦が必要なケースもあります。
こうしたリスクを負いたくないという人は役員には向いていないといえます。
管理職に向かない人
管理職には、担当部署での作業をスムーズに行うためにさまざまな能力が求められます。そのため、コミュニケーション能力や統率力が不足している人や、人に仕事を任せられないタイプの人は向いていません。
コミュニケーションが苦手
管理職としての役割を果たすためには、コミュニケーション能力が欠かせません。担当部署内の部下や他部署、そして、上位の管理職の場合は役員とのコミュニケーションも必要です。
コミュニケーションが苦手な人が管理職になると、現場での作業がスムーズに進まなくなる可能性があります。
統率力がない
管理職は、担当部署をまとめて、目標達成に向けて計画的に作業を進める役割を担っています。
そのため、人をまとめる統率力がないと、ひとりひとりがバラバラに動き、業務がスムーズに進みません。
役員と管理職は任命される過程や責任が異なる
役員と管理職は、それぞれ異なる役割を担う役職です。役員は会社の経営全体を指揮し、中長期的な戦略を決定します。一方で、管理職は担当部署を統括し、日々の業務を指揮しています。両者は契約形態も異なっており、役員が「委任契約」であるのに対し、管理職は「雇用契約」です。労働基準法の適用や雇用保険についても違いがあります。
また、役員は株主総会の決議を経て選任されますが、管理職は社内の昇進制度により任命されます。役割が異なるため、それぞれに求められるスキルも異なっていて、役員には経営判断能力やリーダーシップ、管理職には現場の統率力や部下とのコミュニケーション能力が必要です。