記事の要約
- 生前整理で自分の財産状況を「見える化」しておくと、スムーズな相続準備にもつながる
- 「デジタル遺品」や借金などの「マイナスの財産」も、もれなく整理しておくこと
- 財産を洗い出したら「遺言書作成」や「生前贈与」などの相続対策をすすめるとよい
「将来、家族に負担をかけたくない」
「財産や身の回りをすっきりさせて、これからの暮らしを安定させたい」
そう考えて、生前整理を始める方が増えています。
生前整理は、単に身の回りの物品を片付けるだけの作業ではありません。
ご自身の財産を把握し、管理しやすい状態に整えるプロセスは、そのまま「相続の準備」へとつながります。
残されるご家族の手続きや心理的負担を減らし、スムーズな資産承継を実現するための大切な第一歩です。
この記事では、生前整理の基本から、具体的な手順・進め方、そして生前整理を相続の備えやトラブル防止につなげるコツまで、詳しく紹介します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するお悩みに無料でお答えしています。
何かお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。
目次
生前整理とは
生前整理とは、生きているうちに、自身の持ち物や財産、デジタル情報などを把握し、整理しておくことです。
「終活」の一環として行われ、近年は体力や判断力に余裕のある60代を中心に取り組む方が増えています。
不要な物を手放すという意味では「断捨離」にも似ていますが、生前整理は「捨てる」ことだけが目的ではありません。
本当に大切な物を選ぶこと、そして残されるご家族に負担をかけないようにする思いが根底にあります。
なお、生前整理と「遺品整理」「老前整理」との違いは、記事の最後の「よくある質問」でまとめてお伝えします。
生前整理をするメリット
生前整理には、自身にとってもご家族にとっても、多くの利点があります。
(1)残された家族の負担が軽くなる
相続が起きると、遺族は公的手続きや税務申告などを、期限内に進めなければなりません。
この多忙な時期に、大量の遺品整理が重なると、心身ともに大きな負担となります。
生前整理で持ち物や書類を整理しておけば、残された家族が片付けに追われる時間が大幅に減り、負担が軽くなります。
(2)もしものときに、家族の対応がスムーズになる
急な病気や入院の際、常備薬や通院先の情報がまとまっていれば、付き添うご家族も落ち着いて準備ができます。
また、実印や権利証、保険証券といった重要な書類の保管場所を整理しておくことで、万一のときにもご家族が困らずに済みます。
(3)部屋と気持ちがすっきりして安全性が増す
高齢になると、床に置いた物につまずいて、思わぬ転倒やけがをしてしまうことがあり、生活の質(QOL)を大きく損なう一因となります。
不用品を減らすことで、生活動線がすっきりとし、部屋にも心にもゆとりが生まれます。
(4)今後のライフプランを考えるきっかけになる
生前整理は、本当に大切な物や、これからやってみたいこと、大事にしたい人間関係を見つめ直すきっかけにもなります。
整理を進めるなかで、「残りの時間で何をしたいか」が見えてくる方も多くいらっしゃいます。
また、自身の財産を把握できていれば、有料老人ホームなど施設への入居を考えるときにも、資金計画が立てやすくなります。
生前整理が「相続」にもたらす効果
生前整理は、日常生活の利便性向上だけではなく「相続準備」にもなります。
(1)故人の財産をすぐに把握でき、相続手続きがスムーズになる
残された家族にとっては、故人の財産状況が整理されていないと「何が、どこに、どれだけあるのか」を調べるだけでも一苦労です。
仮に、遺産分割協議が成立したあとに新たな財産が見つかった場合、話し合いを最初からやり直さなければならない可能性もあります。
また、「財産を隠していたのではないか」と、親族間の不要な不信感を招く原因にもなりかねません。
あらかじめ財産目録を作成して資産状況をまとめておくことで、相続手続きが円滑に進むでしょう。
(2)相続トラブルの防止につながる
生前整理において「誰にどの資産を引き継がせるか」という自身の意思を明確にして、遺言書やエンディングノートにまとめておくと、相続争いのリスク低減につながります。
生前整理を怠ると、相続人が知らなかった借金が見つかったり、貴重な財産をうっかり処分してしまったりといったトラブルが生じることもあります。
相続トラブルの原因を予防するためにも、生前整理は有効です。
(3)相続税対策が早めにできる
生前整理をした結果、財産の全体像と時価(評価額)が見えてくると、「自分が亡くなったら、相続税はかかるかどうか」の判断がしやすくなります。
相続税の節税対策や納税資金の確保は、準備期間が長いほど、利用できる制度や手法といった選択肢が多くあります。
具体的な対策については、この記事の後半で詳しくお伝えします。
生前整理はいつから始めるべき?
生前整理は、どの時期や年代から始めても構いません。
あえてベストな時期を挙げるなら、それは「思い立った今」です。
定年退職や、子どもの独立、住居の建て替えや引っ越しといったライフプランの節目を、生前整理を始めるきっかけにするのもよいでしょう。
年齢を重ねるほど、重い荷物の移動や細かな判断は負担になっていきます。
心身ともに活力のあるころから少しずつ進めておくと、無理なく取り組めるでしょう。
生前整理の進め方:6つのステップ
生前整理は、以下の順序で進めるとはかどりやすいです。
まずは「物の整理」から始め、段階的に「財産の整理」へと進んでいきます。

ステップ1 身の回りの物を仕分けして処分する
まずは、身の回りの物を「使う」「使わない」「保留」の3つに分け、不要な物を処分していきます。
「1年以上使っていない物は処分する」など、自分なりのルールを決めておくと、迷いが少なくなり仕分けがはかどります。
判断に迷う物は、無理に捨てず「保留ボックス」に入れましょう。
期限を決めて、その間に一度も使わなければ、改めて処分を検討します。
捨てるだけでなく、リサイクルショップへの売却、知人への譲渡、寄付なども選択肢です。
なお、手紙や日記など、ご家族にも見られたくない物があれば、優先的に片付けておくと安心です。
自分で難しいときは業者に頼む方法もある
大型の家具や大量の不用品があるときは、不用品の回収や買取を行う業者に依頼する方法もあります。
費用はかかりますが、手間と時間を大きく省くことができます。
業者に頼む場合は、複数の業者から見積りを取り、料金や対応を比べてから選びましょう。
費用の目安については、記事の最後の「よくある質問」をご参照ください。
近年は、「終活支援事業」の一環として、不用品処分の相談窓口を設けている自治体も増えています。
お住まいの地域のサービスを確認してみるのもよいでしょう。
ステップ2 財産や預貯金を洗い出す
持ち物の整理が済んだら、預貯金や有価証券、不動産などの財産を一つずつ洗い出していきます。
このとき、「プラスの財産」だけでなく、住宅ローンや借入金などの「マイナスの財産」もまとめておきましょう。

長期間使っていない銀行口座や不要になったクレジットカードは、気づかないうちに手数料がかかってしまっているケースもあります。
この機会に、解約手続きをしておきましょう。
財産情報は、通帳や権利証などとともに、できるだけ1カ所にまとめて保管しておきましょう。
| 主な財産 | 必要となる書類・情報 | 相続発生時の注意点 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 通帳、届出印、キャッシュカード | 金融機関および店舗ごとに個別の相続手続きが必要。 |
| 土地・建物(不動産) | 固定資産評価証明書、登記事項証明書、名寄帳 | 評価額の算出が複雑なため、税理士による確認がおすすめ。 |
| 株式・投資信託 | 証券会社の名義、口座番号、年間取引報告書 | 相続手続きが完了するまで原則売却不可。価格変動リスクを伴う。 |
| 生命保険 | 保険証券、契約内容確認書 | 受取人によって課税の扱いが変わる。 |
| 自動車 | 自動車検査証(車検証) | 遺産分割協議書に基づく名義変更、または廃車手続きが必要。 |
| 手許現金(タンス預金) | 保管場所の明示 | 税務調査において申告漏れを指摘されやすく、注意が必要。 |
| 貸金庫 | 貸金庫契約書、専用鍵、暗証番号 | 家族が存在を知らないと見落とされやすい。 |
| 美術品・貴金属類 | 購入時の領収書、専門家による鑑定書 | 1個または1組の評価額が5万円を超えるものは、相続税申告時に個別の査定が必要。 |
| 借入金(債務) | 金銭消費貸借契約書、残高証明書 | 相続放棄等の期限(3カ月)に影響する。 |
相続人が「相続放棄」や「限定承認」をするかどうかの判断は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に行う必要があります。
マイナスの財産の発覚が遅れると、残された家族に思わぬ債務を負わせてしまうこともあるため、隠さずにまとめておきましょう。
また、美術品や骨董品など、一定の資産価値がある財産は、適正な相続税申告を行うために購入店情報や鑑定書を破棄せず、セットで保管してください。
ステップ3 デジタル遺品を整理する
近年は、「デジタル遺品(デジタル遺産)」に関するトラブルが増えています。
対象となる主なデジタル遺品は、以下のとおりです。
- パソコンやスマートフォンに残されたデータ
- ネット銀行、ネット証券の口座
- 暗号資産(仮想通貨)のウォレットおよび取引所アカウント
- 電子マネー、ポイントサービスの残高
- クラウドサービス(Googleドライブ、iCloudなど)内のデータ
- SNSや電子メールのアカウント
- サブスクリプションサービスのアカウント
不要なデータは生前に削除し、家族に引き継ぐ大切なデータは外付けハードディスクなどへ保存しておきましょう。
ログインIDやパスワードは、後ほどお伝えするエンディングノートにまとめておくと便利です。
また、最近はスマートフォンを使った二段階認証が主流です。
手続きが終わるまで、本人のスマートフォンや携帯回線を解約しないよう、家族に伝えておきましょう。
ステップ4 各種契約やアカウントを整理・解約する
なかには、解約の手続きをしない限り、自動的に課金が続いてしまうものもあります。
特に月額・年額のサブスクリプションサービスは、本人も忘れたまま料金が引き落とされ続けているケースが少なくありません。
不要なサービスは、早めに解約しておきましょう。
ステップ5 財産目録を作成する
ステップ2およびステップ3で洗い出した内容は、財産目録(保有財産の内容をまとめたリスト)としてまとめておきましょう。
財産目録があると、遺産分割の話し合いや相続税の試算がしやすくなり、相続の手続きがスムーズに進みます。
財産目録の形式に決まりはありませんが、裁判所や国税庁のホームページにあるテンプレートを使うと便利です。
ステップ6 エンディングノートを作成する
エンディングノートは、自身の希望や、持ち物の情報などを家族に伝えるためのツールです。
遺言書とは異なり法的な効力はありませんが、希望する医療や介護の方向性、葬儀やお墓のこと、家族へのメッセージなどを自由に書き残せます。
ステップ3で整理したIDやパスワード、デジタル遺品の情報も、ここにまとめておくことができます。
また最近では、生きているうちにやりたいことを自由に書き出す「バケットリスト」も広まりつつあります。
エンディングノートのなかに、バケットリストを併記することで、単なる備忘録にはとどまらず、今後のライフプランを充実させるための指針としても使えます。
生前整理を円滑に進めるためのコツ
生前整理は作業工程が多いため、張り切りすぎると、途中で疲れて挫折してしまいかねません。
まずは玄関やトイレ、洗面所など、狭い場所から始めてみましょう。
短時間で目に見えてきれいになるので、達成感が得られ、やる気も続きやすいです。
また、一気に終わらせようとせず、コツコツと進めることも大切です。
捨てすぎて後悔しないことも大切ですので、迷ったときは判断を保留し、時間を置いてからあらためて考えましょう。
財産目録やエンディングノートについては、定期的に情報をアップデートする必要があります。
特にパスワードなどは、定期的に見返して最新の情報を残しましょう。
家族と一緒に生前整理をするときのポイント
生前整理は、家族と一緒に進めることで、「何を残したいか」がはっきりしてきます。
思い出話を巡って家族感の絆を再確認できるほか、デリケートな終末期医療の希望についても、自然と切り出しやすくなります。
なお、高齢のご親族の生前整理を手伝う場合は、「片付けを急かさない」ことと、「持ち物を勝手に処分しない」ことを心がけましょう。
相続の話を急に持ち出すと、気分を害される方もいます。
生前整理をするのは本人ですので、コミュニケーションを大切にしながら、無理なく進めていきましょう。
生前整理を具体的な「相続準備」へつなげよう
生前整理によって財産が可視化されると、「相続」に関する疑問や不安が浮かんでくることがあります。

ここでは、生前整理の次の一歩として考えておきたい、相続の準備をお伝えします。
(1)「相続税がかかるか」を確認し、試算する
相続の準備で、最初に確認しておきたいのが「自身の財産に対し、相続税がかかるのか」という点です。
相続税には基礎控除があります。
財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
基礎控除額の計算式
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人であれば、法定相続人は3人です。
基礎控除額は 3,000万円 +(600万円 × 3)= 4,800万円 ですので、総資産が4,800万円を超えている場合は、相続税の課税対象となります。
最近では、都市部にある不動産の価格上昇や、保有株式の値上がりなどにより、思いがけず基礎控除額を超えるケースも増えています。
生前整理で財産を把握できた段階で、相続税のシミュレーションをしておくことをおすすめします。
(2)遺言書を作成する
確実に財産を渡したい相手がいるなら、遺言書の作成を検討しましょう。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、実務上推奨されるのは「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成し、原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクが少なくなります。
専門家に依頼すれば、法律や税務の知識にもとづいた、質の高い遺言書を作成できます。
(3)生前贈与を検討する
生きている間に自分の財産を家族などに渡す「生前贈与」も、相続対策として有効な方法のひとつです。
あらかじめ財産を渡しておくことで、将来の相続財産を減らし、相続税額を低減させる効果があります。
生前贈与には、おもに次の2つの課税方式があります。
いずれの方式が向いているかは、保有資産の額や種類、相続人の状況によって異なります。
判断に迷うときは、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
(4)認知症のリスクに備える(任意後見・家族信託)
相続の準備とあわせて考えておきたいのが、認知症などで判断能力が低下したときの備えです。
医学的に判断能力が不十分だと判断されると、銀行口座は凍結され、財産の管理や処分、売却も自由にできなくなります。
判断能力が十分なうちに、以下の準備をしておきましょう。
判断能力が低下した後に利用する「法定後見制度(成年後見制度)」もありますが、家庭裁判所の職権によって、弁護士や司法書士などの専門職が後見人に選任されるケースが大半を占めます。
したがって、必ずしも親族が財産管理を行えるとは限りません。
また、親族が選任されたとしても、原則として親族の一存で財産の利用・処分をすることができません。
万一に備え、元気なうちから生前対策を講じておくことが大切です。
生前整理に関するよくある質問
Q1:生前整理と遺品整理、老前整理の違いは?
Q2:早めに生前整理を始めたほうがよいのは、どんな人?
Q3:生前整理を業者に頼むと、費用はどれくらいかかる?
まとめ:生前整理は相続対策にもつながる
生前整理は、決して「死への準備」という後ろ向きなものではありません。
これからの人生をより自分らしく過ごし、そして残されるご家族を思いやる、前向きな営みです。
- 生前整理は、残される家族の負担軽減と確実な資産承継の土台づくり
- プラス・マイナスの財産を正確に把握し、財産を可視化することが相続準備の第一歩
- 相続準備は、体力・判断力があるうちに専門家と連携して進めること
資産規模や親族の状況によっては、自己流の対策が、かえってトラブルを引き起こす引き金にもなりかねません。
VSG相続税理士法人では、相続や生前対策に詳しい税理士のほか、司法書士、行政書士など、資産承継に必要なあらゆる専門家が連携し、グループ全体でお客様のご相談に対応しています。
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