東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
自己破産は、裁判所を通じて借金などの返済を原則としてすべて免除するための手続きです。
借金の返済が困難になった場合、経済的な負担だけでなく精神的な負担も重いケースが珍しくありません。
借金のために日々頭を悩ませている人にとっては、重い負担から解放されるため、自己破産をしてよかったと実感できるでしょう。
一方、借金を返済している人からすると自己破産は「したもん勝ち」の印象を受けるかもしれません。
自己破産は借金が免除される一方、同時にさまざまな制約を受けるため、必ずしも「したもん勝ち」とはいえない側面があります。
ここでは、自己破産は本当にしたもん勝ちなのか、自己破産によるメリットとデメリットを含めて解説します。
Contents
自己破産は「したもん勝ち」のイメージをお持ちの方もいるかもしれません。
主な理由は、自己破産に以下のような先入観があるためだと考えられます。
それぞれの内容について見ていきましょう。
借金問題の解決方法として、自己破産以外に後述する4つの債務整理の方法があります。
しかし、毎月の支払額の減額などにとどまり、手続き後も返済が必要となるケースがほとんどです。
自己破産は借金がゼロになる数少ない方法であるため、したもん勝ちと思う方もいるでしょう。
自己破産は破産法と呼ばれる法律で定められた手続きです。
一定の制限はあるものの、手続きを進めながら就業など通常の社会生活を続けられるメリットがあります。
一方で、ドラマや映画などで借金を抱えた家族が「夜逃げ」をするシーンもありますが、現実的に逃げ続けるのは難しく、問題解決できません。
債権者は弁護士からの受任通知などで債務整理への着手を知った後は、代理人である弁護士以外の方に取り立てをできません。
債務者は借金の取り立てによるストレスからも解放されるため、「してよかった」と感じる方が多いでしょう。
自己破産はしたもん勝ちと言われますが、ずるいとは言えません。ずるいと言えない理由は、以下の通りです。
それぞれの理由について詳しく解説します。
自己破産は、裁判所を通じた手続きであり、国が認めている法的な制度です。
自己破産というと、ギャンブルや遊興費などの浪費を帳消しにするイメージを持つ方が多いかもしれません。
実際はそうでなく、自身や家族の病気により就業が困難になったなど、通常の社会生活を続けていたにも関わらず破産に至るケースも多くあります。
借金の理由は、裁判所による厳格な手続きで審査されます。
借金生活に陥ると、利息や遅延損害金の発生により抜け出しにくくなってしまう可能性があるでしょう。
自己破産は、そのような方々へ生活を再建する機会を与えるために国によって認められている救済措置です。
法律上、自己破産ができる回数に制限はありません。
ただし2回目以降の自己破産で免責を認められるには、以下の条件を満たす必要があります。
自己破産は債権者にとっては大きな損失になる手続きです。
簡単に何度も免責ができてしまうと、債権者にとっては貸付などの金融取引の継続が困難になりかねません。
そのため、2回目以降の自己破産には制度の不正利用を防止するための条件が課せられています。
条件を満たしている場合でも、裁判官の心証によっては2回目以降の破産が難しくなるケースもあるでしょう。
実際のところ、必ずしも「自己破産はしたもん勝ち」とは言いきれない側面があります。
言い切れない理由は、次の通りです。
それぞれの理由について見ていきましょう。
借金をした経緯によっては、自己破産が認められない免責不許可事由に該当します。
免責不許可事由と判断される代表的な借金の例を見ていきましょう。
多額の借金をギャンブルや趣味娯楽、飲食費などの遊興費に使っていた場合は免責が得られません。
また、仮想通貨や不動産投資などで自己資産に見合わないほどの投機をしていた場合の借金も該当します。
破産をすれば免責されるからといって、無計画な借金や散財を繰り返した場合、免責が許可されません。
実際は返済できないのにもかかわらず、返済能力があるように見せかけ、相手をだまして借入れをする行為も免責が許可されません。
悪質な場合、詐欺罪が適用される恐れがあります。
自己破産が認められても、一部の債権に対しては支払い義務が免除されません。
免除されない代表的な債権について、詳しく解説します。
国民健康保険や国民年金の保険料など、国税徴収として定められている税金の支払は免除されません。
破産者が積極的な害意をもって相手に損害を与えた場合、不法行為に基づく損害賠償請求は免除されません。
また、故意や重過失による不法行為に基づく被害者からの損害賠償請求権も同様に免除の対象外です。
養育費といった要保護性が高い親族関係からの請求は非免責債権とみなされます。
自己破産で免除されるのはあくまでも債務であり、養育費は債務に該当しないためです。
破産手続き中は債権者への支払いのため、破産者の財産は清算されます。
特に、不動産や自動車といった換金価値のある財産は手放さなければならないケースがほとんどです。
自己破産によって、職業や郵便物の受け取りなどに制限を受ける可能性があります。
制限の概要について見ていきましょう。
破産手続き中は、主に他人の財産や重要な情報を預かる職業に就けません。
例えば、弁護士や公認会計士、宅地建物取引士、警備員などです。
破産者の財産を清算するため、裁判所の許可により破産者宛の郵便物を破産管財人に転送する場合があります。
破産管財人とは、裁判所が選任した破産者の財産を管理・処分する権利を持つ人で、通常、弁護士が選任されます。
なお、破産手続きに関係のない個人的な手紙といった郵便物は、基本的に破産管財人から受け取れます。
破産手続き中は、裁判所の許可を得ずに転居や旅行などで居住地を離れられません。
ただし、事前に許可を得れば、転居や長期の旅行などはできます。
信用情報とは個人の年収や借入金、ローンの有無、支払いの状況を示す情報です。
自己破産の手続きがされると、信用情報が信用情報機関に登録されます。
信用情報が登録されると、、一般的に「ブラックリストに載った」といわれます。
ブラックリストに載ると、新たなローンを契約できません。
またクレジットカードの作成や利用も難しくなります。
信用情報機関に登録される期間は、一般的に5年~10年程度です。
他の債務整理の方法でも同様に登録されますが、自己破産の場合は登録期間がより長くなる傾向があります。
自己破産を選択した方がよい人のケースは、以下の通りです。
それぞれのケースを詳しく解説します。
借金が非常に高額で自力返済が難しい場合は、他の債務整理の方法で解決できないケースがほとんどです。
自力返済が難しい場合、借金問題から解放されるためには債務のすべてを免除する自己破産の選択が望ましいでしょう。
制限される職業に就いている方は、破産手続き中に収入を得る手段がなくなります。
手続き期間中に収入が心配な方は、自己破産の手続きが向いていないでしょう。
ただし、破産手続き中のみと割り切って職業制限を受け入れられるのであれば、自己破産を選択するのも方法の一つです。
自己破産は換金価値のある財産は基本的に清算されてしまうため、手元にある財産は原則として手放さなければなりません。
たとえば思い入れのある家や自動車など、どうしても手放したくない財産がある場合、財産を残せる他の手続きがおすすめです。
なお、生活の維持に不可欠な財産である自由財産は、手元に残せます。
自由財産は、99万円以下の現金や家財道具などです。
自己破産を裁判所へ申し立てるには、次の条件を満たさなければなりません。
自己破産は債務整理の手続きの中でも、借金が大きく自力返済が困難な場合の最終手段として扱われます。
ただし、自力返済が困難になっていても、債権の種類や借金の経緯が自己破産をするのに不適切なときは認められません。
支払不能状態とは、収入や資産がない、もしくは、収入や資産が借金と比べて少ないため完済が困難になっている状態をいいます。
たとえば、借金は500万円あるが、年収は800万円あるケースでは、返済可能として自己破産が認められない可能性があります。
自己破産の手続き方法は、以下の種類ごとに異なります。
それぞれの種類について詳しく解説します。
破産手続きの開始決定と同時に破産手続きを終了させる手続きを、同時廃止といいます。
同時廃止がされるのは、破産者に換金価値のある財産がない場合や、破産者の借金を免除するのに問題がないと証明できた場合などです。
同時廃止がされると破産手続きが簡略化されるため、手続きに必要な期間が短くなります。
同時廃止でかかる期間は、一般的に4カ月から6カ月ほどになるケースが多いです。
自己破産をする場合、手元に換金できる財産がほとんど残っていないケースも珍しくありません。
日本弁護士連合会の調査によると、自己破産の申立てのうち、約7割が同時廃止として扱われています。
参考:日本弁護士連合会 消費者問題対策委員会 2020年破産事件及び個人再生事件記録調査【報告編】
なお、法人の場合は調査が必要な財産や権利関係が複雑なケースが多く、通常は同時廃止が認められません。
管財事件とは、破産者が換金価値のある財産を保有している場合に行われる手続きです。
裁判所から選任された破産管財人が破産者の財産を調査し、換金して債権者へ分配します。
同時廃止と比べて破産手続きにかかる期間が長く、通常は申立てから終了するまでに6カ月から1年ほどかかります。
また、裁判所に予納金を納付する必要があり、金額は一般的には40万円ほどです。
なお、資産総額が少ない場合や換金が容易な財産しかない場合は少額管財事件として扱われ、手続きが通常の管財事件よりも簡略化されます。
少額管財の場合、手続きにかかる期間は3カ月ほどです。
裁判所への予納金も少なくなり、裁判所によって異なりますが、おおよそ20万円ほどになります。
借金問題を解決するには、ご自身に合った債務整理方法の選択が大切です。
自己破産以外の債務整理方法は、以下の通りです。
それぞれの制度の特徴や違いなどを見ていきましょう。
任意整理とは裁判所を介さず、債権者との交渉により解決する方法です。
自己破産より手続きが簡易で、原則として財産を手元に残せるメリットがあります。
任意整理では、支払総額や毎月の支払額の減額を債権者に交渉します。
通常、元金の減額はできないものの、利息の軽減や長期分割払いの交渉は比較的応じてもらえるケースが多いです。
任意整理のメリットは、大きく分けて3つ挙げられます。
任意整理は債権者と直接交渉するため、裁判上の手続きは不要となり、手間と労力が抑えられます。
また、裁判上の手続き・官報への掲載がないため、任意整理は周囲の人に比較的知られる可能性は低いといえます。
とはいえ、任意整理にはメリットだけでなく、以下のデメリットがあります。
自己破産と違い、任意整理は免責とはならないため、手続き後も借金の返済を続ける必要があります。
将来的には完済が前提となるため、任意整理は安定した収入がないと交渉に応じてもらえない可能性が高いです。
個人再生は借金を一定の基準で減額し、3年~5年程度の分割払いにする手続きです。
自己破産と異なり、一定の条件を満たせば持ち家を残せる特則があります。
手続きには、以下の2つの種類があります。
なお個人再生は安定した収入があり、住宅ローンを除く総負債額が5,000万円以下が条件となります。
個人再生には、以下のメリットがあります。
個人再生は、一定の基準によって減額される額が決まっていますが、任意整理よりも大きく借金の総額を減らせる可能性があります。
個人再生の最低弁済額は、次の通りです。
借金の総額(住宅ローンなどを除く) | 最低弁済額 |
---|---|
債務額が100万円以下 | 全額 |
100万円超~500万円以下 | 100万円 |
500万円超~1,500万円以下 | 総額の5分の1 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 総額の10分の1 |
5,000万円越~ | 利用不可 |
参照元:民事再生法231Ⅱ
個人再生は上記の最低弁済額を、原則3年~5年程度の分割払いで返済します。
なお、サラリーマンが主な対象の給与所得者等再生手続の支払う金額は、上記の最低弁済額と「自分の可処分所得の2年分」を比較し、いずれか高い方の金額です。
また「自分の財産をすべて処分した場合に得られる金額」の方が大きい場合、その額を36回分割して支払います。
個人再生には、持ち家を手放さず、住宅ローンの支払いを継続できる住宅資金特別条項があります。
住宅資金特別条項の条件は、次の通りです。
なお、別荘やセカンドハウスは住宅資金特別条項の対象にならず、通常は手放さなければなりません。
では、個人再生のデメリットについて見ていきましょう。
個人再生は任意整理より借金の総額が減額できる可能性は高いものの、免責とはならないため、借金を返済する必要があります。
裁判所へ提出する書類や手続きなどを個人で行うのは非常に困難なため、一般的には弁護士などに依頼するケースがほとんどです。
裁判所への提出書類として収入証明などが必要となるため、家庭や勤務先の人に手続きを知られる可能性があります。
特定調停とは簡易裁判所の仲裁で債権者と話し合い、返済計画を立てる手続きです。
自己破産よりも簡易迅速な手続きで、債権者との和解の成立を目指せます。
自己破産や個人再生は、一般的に手続き開始から完了まで半年程度かかります。
一方、特定調停では原則として裁判期日は2回程度しかなく、手続き開始から2カ月程度で終了します。
手続きがすぐに完了するため、心理的負担が少ないでしょう。
特定調停のデメリットは、以下の通りです。
個人再生と同じく、裁判所を通じた手続きとなり、提出書類の準備や期日内に出頭する必要があります。
ただ、自己破産や個人再生と比べ、裁判所へ提出する書類や手続きなどは比較的簡易です。
収入を申告するための書類など裁判所に提出する書類を準備する過程で、関係者に手続きを知られる可能性があります。
借金の一本化とは、複数の借入先がある場合、金利の低い金融機関などに借金を一本化する手続きです。
裁判所を介さず、金融機関の提供するおまとめローンなどを利用し、利息や毎月の支払額を軽減します。
借金の一本化には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
現在支払っている利息の支払総額を試算し、より負担の少ない金利に一本化すると、利息分の支払額を減らせる可能性があります。
また、他の債務整理の手続きと異なり、事故情報として登録されない点が大きなメリットといえます。
借金の一本化のデメリットは、次の通りです。
借金の一本化は、あくまで利息を見直す手続きであり、原則借金の元金を減らせません。
毎月の支払額を減らすために返済期間を長くした場合、最終的な支払総額が大きくなる可能性もあります。
また、おまとめローンを利用するためには、実施する金融機関の審査を通過する必要があります。
自己破産のしたもん勝ちに関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問について回答します。
自己破産をしてよかったこととしてあげられるのが、債務の免除により経済的負担や精神的負担が軽減され、生活を再建できる点です。
自己破産をしても、滞納税金など一部の債務は返済を続けなければなりません。
ただし、金融機関からの借入など債務の大部分については返済が免除されるケースがほとんどです。
自己破産をする方の中には、返済の督促などで精神的に追い詰められ、再起できなくなっているケースが少なくありません。
特に闇金融などから借入をしている場合、執拗な督促を受け、心身ともに疲れ切っている場合もあります。
この場合、自己破産の申立てだけでなく、債権者への対応なども含めて弁護士へ委任できます。
借金による負担を免除し、生活を再建できるのが最大のメリットでしょう。
自己破産が認められると、破産者本人の返済は免除されます。
闇金融などから借り入れをしている場合、本人が自己破産をした後にご家族へ請求を求めるケースがあります。
本人が破産をした場合でも、ご家族に返済義務はありません。
本人以外に返済を請求する行為は貸金業法違反となるため、悪質な場合は弁護士や警察に相談しましょう。
ただし、ご家族が保証人になっている債務の場合、保証人として返済をしなければなりません。
法人の場合、借金は会社の債務であり、代表者である個人に返済義務はありません。
ただし、代表者が法人の借金の保証人となっている場合、代表者に返済義務が残ります。
そのため代表者が会社の保証人となっている場合、法人と共に代表者も破産するケースが一般的です。
処分対象となる財産は、一般的に20万円以上の換金価値のある財産です。
次のような財産は処分の対象となる可能性が高くなります。
一方、財産をすべて処分してしまうと破産者が生活できなくなってしまうため、次のような財産は原則として処分を免れます。
なお、破産手続開始後に取得した財産は新得財産とよばれ、処分の対象となりません。
自己破産をしても、スマホの端末が没収されるケースはほとんどありません。
スマホの端末料金を一括払いで購入している場合、そのまま使用を継続できます。
ただし、端末代金を分割払いで支払っているケースでは、自己破産をすると分割払い中の契約は解除されてしまいます。
分割払いの残額は自己破産による免責の対象となり、支払不能となるためです。
この場合、別のスマホを一括払いで購入すれば、新規契約したスマホを利用できます。
また、破産者の名義から家族名義へ変更すると使用を継続できる場合があるため、事前に携帯電話会社へ確認しておきましょう。
信用情報機関に登録されている記録は5年~10年で抹消されるため、抹消後は再び機種代金の支払いに分割払いを利用できます。
自己破産は裁判所を通じた手続きであり、債務者の生活の再建を図る方法として法的に認められています。
借金が免除される一方で、日常生活でさまざまな不便が生じるため、必ずしも「したもん勝ち」とはいえないかもしれません。
自力で解決が難しくなった借金問題は、放置するとより問題が深刻になります。
返済額が収入を大きく超えているなど、借金問題が現実的に解決できなくなった場合は、自己破産を検討しましょう。
破産後の生活や財産の処分など、自己破産にまつわる不安を解消するためには専門家である弁護士への相談がおすすめです。
ケースによっては、自己破産以外の債務整理方法で解決できる可能性があります。
自己破産によって借金問題を解決すると、将来的な生活の再建の見通しを立てられる可能性が高くなります。
できる限り早めに弁護士へ相談し、借金問題の解決へ踏み出しましょう。