東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産しようと考えている人の中には、老後の心配をしている人も多いことと思います。
ただでさえ年金の受給額は少ないのに、自己破産した場合には、年金自体もらえなくなってしまうのではないかと考えるためです。
そこで、自己破産する場合の年金の取り扱いについて解説していきます。
また、すでに年金を受給している人が自己破産する場合の、年金の取り扱いについても確認しておきましょう。
Contents
自己破産すると、基本的に全ての財産は没収されて、債務者への弁済にあてられます。
そして、年金を受給するために長期間掛金の支払いを行い、将来年金をもらうことができる権利も、財産の1つと考えられます。
そのため、自己破産すると年金がもらえなくなってしまうのではないかと心配になる人もいることでしょう。
はたして、様々な種類の年金は自己破産するとどうなるのでしょうか。
公的年金とは、すべての人に加入義務があり掛金を支払っている、厚生年金や国民年金などのことです。
会社員や企業の役員は、厚生年金に加入義務があります。
厚生年金に加入している場合は、加入者自身と会社が厚生年金保険料を折半して負担しています。
また、自営業者などは国民年金に加入し、国民年金保険料を支払っています。
公的年金は、自己破産をした場合であっても差し押さえの対象にならない資産として、法律上規定されています。
このような資産を差押禁止財産といいます。
差押禁止財産については、どのような事情があっても差し押さえをすることはできません。
また、年金の受給資格がはく奪されることもありませんし、受給額が減額されることもありません。
公的年金に含まれる年金の種類は、その受給者の状況や職業によって異なっています。
会社員など給料をもらっている人が加入する厚生年金や、自営業者などが加入する国民年金はよく知られています。
そのほかに、公務員が加入する共済年金、亡くなった人の遺族が受給する遺族年金、障害者となった場合の障害年金などがあります。
名称が異なり、年金の種類も多くありますが、差し押さえできないという点ではすべてが共通となっています。
企業年金とは、企業に勤務する人が加入し、退職金代わりに受給するものです。
企業年金の掛金は、原則として勤務先の会社・事業主が負担することとされ、本人がその一部を負担していることもあります。
この企業年金の受給権については、公的年金と同じように、自己破産によって消滅しません。
また、受給額が減額されることもありません。
自己破産する場合にも、企業年金の額が減ったりすることはないため、安心して自己破産の手続きができます。
個人年金とは、個人で加入して、将来受給することのできる年金をいいます。
最も多いと思われるのが、生命保険会社が取り扱う個人年金契約です。
生命保険会社と契約し、当初予定している積立期間中に保険料の支払いを行い、支払が完了すると、契約で定めた年齢に達したときに、年金を受給することができるようになるものです。
この個人年金については、差押禁止財産の対象から外れています。
したがって、自己破産を行うと個人年金の契約は解約され、解約返戻金が差し押さえを受けることとなります。
個人年金は生命保険金と同じく、個人の財産と考えられており、生活を送るために必要な最低限の資産とは考えられていません。
そのため、個人年金については強制的に解約させられるのです。
個人年金は必ず全額が没収されるのかというと、必ずしもそうではありません。
法律上の規定とは別に、裁判所の運用が定められており、財産の種類ごとに20万円を超えなければ残すことができる場合があります。
そのため、生命保険金と個人年金の解約返戻金の合計額が20万円を超えなければ、強制解約されないことも考えられます。
公的年金や企業年金の受給権のように、自己破産しても差し押さえの対象にならない財産は他にもあります。
このような財産のことを「自由財産」といい、法律上は以下の3つが定められています。
(1) 新得財産
破産者が破産手続開始後に新たに取得した財産のことです。
破産した時点では保有していなかった財産なので、差し押さえることはできないとされているのです。
(2) 差押禁止財産
差押禁止財産には、生活に必要な家財道具、1か月間の食料や燃料、給料及び退職金請求権の4分の3などが定められています。
すべての財産を差し押さえてしまうと、破産者はその後の生活ができなくなってしまうため、保護されているのです。
公的年金や企業年金の受給権についても、この差押禁止財産に該当します。
(3) 99万円以下の現金
99万円以下の現金も差し押さえの対象から除かれています。
こちらも、(2)の差押禁止財産と同じように、生活に必要な財産と考えられているためです。
また、新たに保険契約を締結することが難しい人の生命保険契約については、自由財産と認められる場合があります。
さらに、交通の便が極めて不便な場所では、自動車が生活必需品として認められることもあります。
自己破産の手続きをしようと考えている人の中には、年金保険料の支払いが滞っている人がいるかもしれません。
そのような場合に、年金の支払いを理由として自己破産できないかと考えている人もいるでしょう。
はたして未払い年金を理由とした自己破産は可能なのでしょうか。
また、自己破産をすれば他の債務と一緒に未払い年金も消滅するのでしょうか。
年金保険料が未払いとなっている人の中には、その金額がかなり大きな額になっている人もいるかと思います。
このようなときに、年金の支払いができないことを理由に自己破産手続きをすることはできるのでしょうか。
実は、未払い年金があることを理由に自己破産することは認められません。
これは、年金保険料は「非免責債権」と定められているためです。
非免責債権となっているため、自己破産しても免責されない、つまり消滅しないということとなるのです。
年金保険料以外に借入金などの債務があるために自己破産をすると、その借入金については消滅します。
しかし、自己破産をしても未払い年金については消滅しません。
年金保険料は非免責債権であるため、自己破産をしても消滅せずに残ったままとなるのです。
しかも、支払期限から遅れて年金保険料を納付する場合には、延滞金の負担も発生しますが、そのような罰金も消滅しません。
自己破産しても、これらの支払は継続しなければならないのです。
自己破産しても消滅しない非免責債権には、年金保険料以外にもいくつか種類があります。
これらの支払いが滞っていることを理由に自己破産できないこと、そして自己破産しても消滅しないことは覚えておきましょう。
年金以外に代表的な非免責債権としてあげられるのは、以下の4つです。
(1)養育費
養育費は、夫婦が離婚した際に取り決められたものです。
養育費の支払いがあることを理由に自己破産が認められてしまうと、子供の成長や教育に大きな影響が出てしまいます。
子供の福祉を守る観点から、非免責債権とされているのです。
(2)租税公課
租税公課の支払は、憲法にも定める国民の義務である納税に大きく関わるものです。
租税公課の支払義務を消滅させることは、国民の義務を履行しないこととなるため、認められません。
未払い年金についても、この租税公課の1つとして非免責債権となっているのです。
(3)慰謝料等
慰謝料等の支払い義務がある場合には、一律すべてが非免責債権となるわけではありません。
破産者が悪意で加えた不法行為に対する損害賠償請求権は、破産者に原因があるため、免責が認められません。
また、破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に対する損害賠償請求権も同様です。
不法行為を行っておきながら、賠償を行わないような逃げ得は許さないのです。
(4)罰金等
罰金のほか科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料といったものが含まれます。
ペナルティを科されているものについては、自己破産による救済は受けられないということとなります。
最後に、すでに年金を受給している人が自己破産をしようとする場合の注意点についてまとめておきます。
年金を受給している場合は、これから年金を受給する場合とは異なるポイントがあるため、必ず確認しておきましょう。
年金を受給していても、自己破産できないということはありません。
借入金の返済ができないと判断された場合には、自己破産することが認められます。
しかし、年金以外に財産を保有しており、あるいは年金以外の収入がある場合は自己破産できないことがあるのです。
アルバイトをして収入がある場合や、株式を保有しているような場合は、これらの収入や財産で借入金の返済が可能と判断されます。
そうすると、裁判所で手続きを行っても、自己破産することが認められない可能性があります。
年金以外にどのような収入があり、どのような財産を保有しているのかは、正確に把握しておくようにしましょう。
また、保有している財産を隠すようなことは、絶対にしないようにしましょう。
年金受給者は、これから受給する年金を担保にして借入を受けることができる「年金担保貸付制度」という制度があります。
独立行政法人福祉医療機構が実施している制度であり、2022年3月には新規の受付が終了することが決まっていますが、すでに利用しているは、その後も貸付金の返済が継続することが考えられます。
年金担保貸付を利用している場合でも、自己破産することはできます。
しかし、年金担保貸付については非免責債権とされており、自己破産で消滅することはありません。
そのため、自己破産後も支払い義務は残ったままとなるのです。
年金担保貸付の返済は、受給する年金から天引きされる形となるため、完済するまで年金の受給額が少なくなることを覚えておきましょう。
公的年金の受給権は、自己破産により差し押さえられることはありませんので、年金の受給額自体にも影響はなく安心です。
しかし、すでに振り込まれている年金の額については、預金として差し押さえられることとなるのです。
そのため、今後の年金受給額に影響はなくても、すでに振り込まれた年金については影響が出る場合があります。
また、銀行から借入をしている場合は、銀行口座が凍結されます。
そのため、年金の振込口座をその口座にしている場合、凍結後は振り込まれなくなってしまいます。
この場合、年金の振込口座を変更する手続きが必要となるため、忘れずに変更手続きをしておきましょう。
自己破産をしても年金の受給額に影響はないと説明しましたが、税金を滞納していると年金が差し押さえられる場合があります。
いきなり全額が差し押さえられることはありませんが、一定の割合について差し押さえられる可能性はあるのです。
税金の滞納をしている場合は、今後の納付計画について税務署や役所で話し合い、毎月少しずつでも支払うことが大切になります。
自己破産をしても、公的年金や企業年金については、将来の年金受給額には影響がありません。
一方、個人年金については差し押さえの対象となるため、この点は覚悟しておかなければなりません。
また、年金保険料の支払が滞っている場合、自己破産してもその滞納額は消滅しません。
未納となっている額が大きいのであれば、年金事務所で相談し、毎月少しずつ支払うことを認めてもらう必要があります。
自己破産しても消滅しない債権がある一方で、税金を滞納している場合には年金が差し押さえられる可能性もあります。
このように、例外的な取り扱いを受ける債権・債務についても知っておくようにしましょう。