東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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破産とは、会社の継続的な経営が難しくなった場合に行う、債務整理の手段の一つです。
破産した会社は、すべての債務や資産が清算されるので、法人格が消滅します。
今回は、会社の破産に加えて、経営者(社長)も自己破産した場合の影響について記載していきます。
社長の破産の流れや、就業制限、破産手続き中の生活などを中心に取り扱い、自己破産した社長の再起の可能性について解説していきます。
Contents
社長は、会社の債務(借入金、リース)についても連帯保証している場合が普通です。
また、社長個人としても、会社の運転資金や設備資金について借り入れを行い、会社の資金調達を行っている場合も多いです。
そのため、会社が破産申立てをする場合は、社長個人も自己破産申立てを行うのが一般的です。
もっとも、社長個人の自己破産は会社の破産とセットで(何ら手続きもなく)開始されるのではなく、社長個人の自己破産申立てを会社の破産申立てとは別個に行う必要があります。
社長個人の自己破産の破産申立て手続きの流れについても、基本的には、会社の破産申立て手続きの流れと同じです。
すなわち、破産者である社長の所有財産の多寡によって、「管財事件」「同時廃止」に分かれます。
「管財事件」の場合は、財産を処分、換金して各債権者に配当されます。
この場合は、財産の調査や処分等に少なくとも6ヶ月はかかります。
財産や債権者の多寡によっては、手続き終結まで1年以上かかる場合もあります。
「同時廃止」の場合は、破産手続開始決定と同時に手続きの廃止が決定され、財産の処分や配当は行われません。
社長個人の自己破産について、免責許可を得られれば、社長個人が背負っている債務は帳消しとなります。
また、社長の破産と会社の破産は同時に破産申立てを行うのが普通ですが、手続きの流れについては、両者を同時並行にて進めるため、どちらか片方だけを先に終結させることは少ないです。
なお、社長が自己破産を申立てる場合は、社長個人が換金できる財産を所有している場合が多く、「同時廃止」となることはあまり期待できないのが実情のようです。
会社の債務と社長個人の債務については、別個のものとして取り扱われます。
そのため、免責については、法人の免責許可と、社長個人の免責許可に分けて審査されることになります。
ただし、社長が自己破産を申立てる場合は、債務の原因が会社の運転資金や設備資金の資金調達のための借り入れである場合が多く、会社の破産と関連が密接なため、実質的には会社の破産と社長の同時並行で手続きが進められます。
法人破産については、法人自体が消滅します。
そのため、法人にかかっている債務そのものも消滅することになり、債務は100%免責されます。
社長個人の自己破産については、免責が認められれば、債務は消滅しますが、免責が認められなかった場合は、債務は消滅せず、負債を支払い続けることになります。
なぜなら、個人の自己破産では、法人破産のように個人が消滅することはないためです。
社長が自己破産した場合(破産手続き中)においても、(元)社長が別会社に就職したり、新たに事業を開始したりすることについては、何の制約もありません。
自己破産と新規事業の立ち上げについては、直接的には関係がないためです。
ただし、自己破産後に新規事業を立ち上げることは認められるとはいえ、法律上で制限がかかる場合があります。
破産者については、就職したり、事業を立ち上げたりできない職種が法律上規定されています。
たとえ資格を有していても、破産に至った場合は、「士業」としての資格を一時失うことになり、その間は士業職に従事することができません。
士業とは、弁護士・司法書士・行政書士などを指します。
復権を得れば、資格は復活し、士業職に就くことができます。
破産に至った場合は、警備員や保険外交員、証券外務員などの一部の営業職についても就業制限がかかります。
ただし、これらの職種の多くは破産後に復権を得た場合は、就業制限がなくなり、通常と同じように就職したり、新規に事業を立ち上げたりすることができます。
破産に至った者は、一部の公共的な職業についても就業制限がかかります。
破産者は、公証人や、後見人、保佐人、遺言執行者などの公共の利益のために活動する職業に就くことはできません。
なお、公務員や医師、薬剤師などの職業については破産に至った場合でも、資格を喪失することはなく、通常通り業務を続けることができます。
そもそも、自己破産とは会社の事業が行き詰まった場合に、会社の経営不振とリンクして(社長個人が会社の債務の連帯保証人や保証人となっているため)、社長個人の自己破産に至るケースも多いです。
そのため、そもそも自己破産を検討する必要がない程度には事業プランを練っておく必要はあるかと思います。
しかしながら、いかに洗練された事業計画といえども、実際に事業を開始してみると、想定以上に資金繰りが厳しくなることもあるでしょう。
社長個人の自己破産以外の再建方法としては、「任意整理(私的整理)」「特定調停」「個人再生(小規模個人再生)」などがあります。
以下では、それぞれについて解説していきます。
任意整理とは、裁判所を利用せずに、債権者との任意での話し合いや協議によって返済計画を立てて、計画に沿って債務を返済していく方法のことです。
返済計画には強制力がなく、あくまで当事者間での約束事項として取り交わされることになります。
一般的には、以下のような流れをとります。
このように、任意整理では、裁判所が介入せずに、あくまで当事者間での話し合いによって、債務の負担を図るものです。
しかしながら、任意整理が順調に行われるケースは稀と言わざるを得ないようです。
理由を記載すると、
このように、任意整理は自己破産以外の方法ではありますが、現実的にはなかなか厳しいものがあります。
任意整理は裁判所を通さない話し合いでの決着を図るため、交渉がこじれやすく、交渉が難航しがちです。
事実、任意整理をした人の7割が結局は自己破産しているとも言われています。
特定調停とは、資金繰りや資金不足によって事業に行き詰まった中小企業や、生活に行き詰まった債務者が、裁判所を通じて債権者と返済方法について協議するものです。
したがって、任意整理との違いは、任意整理は裁判所を通さない手続きであるのに対し、特定調停は、裁判所を通した手続きであることに違いがあります。
特定調停は、裁判所を通じて債権者と返済方法や返済期間などを債権者と話し合って経済的な再建を図る簡易・迅速な手続きであると言えます。
特定調停は、自己破産とは異なり、免責の概念はありません。
そのため、特定調停では、債務の免除はなく、あくまで債権者との話し合いでの合意を元に、減額された金額を一定期間に分けて支払っていくことになります。
特定調停のメリットは、以下の通りです。
特定調停の主な内容は、
が挙げられます。
特定調停は裁判所を通じた手続きであり、債権者と債務者での積極的な協議が期待できます。
協議によって、債権者と債務者との間で債務に対して同意が得られれば、「調停調書」が作成されます。
この調停調書には、確定判決と同一の効力(強制力)があり、債務者は調書記載の内容通りに返済しなければ、差し押さえなどの強制執行がなされることになるのです。
逆に、債権者と債務者との間で合意に至らなかった場合は、調停不成立という結果で終了します。
この場合でも、裁判所が調停に代わる決定を出す場合があるものの、決定から2週間以内に異議が出されると、この決定は失効します。
したがって、返済計画に債権者の同意が得られなければ、特定調停は不成立となり、別の借金整理法を検討する必要が生じます。
個人再生は、民事再生法の手続きによって経済的な困難にある個人が自己破産以外の方法で経済的な再生を図る整理法です。
特定調停と同じく、減額した債務を一定期間に渡って返済していくということになります。
特定調停との違いは、特定調停が債務者の同意が必要であるのに対して、個人再生の場合は、債務者の同意が不要である点です。
個人再生では、裁判所の決定に基づいて債務の減免や返済期間の延長が行われます。
自己破産との大きな違いは、自己破産は自己の財産を処分・換金して債権者に配当するのに対して、個人再生では、財産の処分や換金はありません。
そのため、個人再生では財産を失うことはありません。
ただし、個人再生には免責という概念はないため、債務そのものが消滅することはありません。
あくまで減額なされるのみであり、決められた返済計画にしたがって債務を返済していくことになります。
ここで取り扱っている小規模個人再生の対象は、「継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、無担保負債額が5,000万円を超えない個人債務者」とされています。
小規模個人再生の申立ては、申立人の住所を管轄する地方裁判所にて行います。
自己破産同様に、手続きには予納金が必要となり、再生計画を立案します。
これらについても審査が行われ、予納金の納付がなかったり、再生計画に現実性がなかったりするような場合には、申立ては棄却され、手続開始の決定はなされません。
手続きの開始が決定されると、再生開始決定は官報に公告され、債権の調査が行われます。
債権者一覧と実際の債権額が一致しない場合などには、債権者から債権届が提出される場合があり、債権調査に加味されます。
再生手続開始後には、再建計画は債権者の決議に付され、不同意の議決権者(債権者)数が2分の1未満で、その債権額が2分の1未満であれば、その再生案は可決されたとみなされます。
再生案が可決されると、再生計画の認可が裁判所からなされるのです。
再生計画が認可されると、債務者はこの計画に拘束され、計画通りに返済していくことになります。
返済期間については、裁判所が判断します。
返済期間は、通常は3年間で特別な場合は5年間に延長される場合があります。
しかし、再生計画が不許可になる場合も考えられるのです。
主な原因は、債務者が個人再生の基準に合致しない場合や、返済額が最低弁済額をクリアできない場合などが考えられます。
破産手続き中の生活については、ある程度の制約がかかります。
具体的には、「郵便物の転送」「転居・旅行の制限」「破産管財人への説明義務」「『ブラックリスト』への掲載」が考えられます。
特に、「転居・旅行の制限」については、これに反したために、免責が認められなかったケースがありますので、注意が必要です。
管財事件の場合、破産者宛の郵便物は破産管財人の元に転送される措置が執られます。
そのため、郵便物の交付・閲覧については、破産管財人を通して行わなければなりません。
破産手続きが終了すれば、郵便物の転送の措置は終了し、破産管財人を経由せずに、直接受け取ることができます。
破産手続き中は裁判所に無断で転居したり、宿泊を伴う旅行に行ったりすることはできません。
裁判所に無断で遠方に転居したために、誠実性が認められないとして、免責が認められなかったという事例もあります。
破産手続き中に財産について破産管財人から説明を求められた場合は、これに応答する義務があります。
破産者は、その破産の事実が俗に言う「ブラックリスト」に掲載され、しばらくは金融機関から借り入れを行ったり、クレジットカードなどを作りにくくなったりするという不利益(ペナルティ)を科されます。
「ブラックリスト」とは、「個人信用情報」と呼ばれるデータの中の事故情報を指します。
個人信用情報には、個人を特定するための情報(氏名・生年月日など)と個人の経済活動に関する情報が登録されており、各金融機関はこれらの情報を共有して、個人に貸付業務などの金融サービスを提供しています。
個人信用情報のうち、事故情報(返済の遅延、延滞、代位弁済、債務整理、自己破産)と呼ばれる借金の返済に関する情報が「ブラックリスト」と呼ばれているものです。
一旦、「ブラックリスト」に事故情報が記載されると、延滞などでは5年間、自己破産の場合、7年間程度はその記載が残り、「ブラックリスト」の記載が消去されない限りは金融機関からは借り入れが難しくなります。
したがって、「ブラックリスト」に記載されることは、借り入れやカードの作成などのサービスを受けることが難しくなり、手持ちの現金主体の生活となるのです。
自己破産はあくまで破産者個人の問題であり、破産者の債務に直接関係していない家族については、自己破産の影響は及びません。
(ただし、家族が破産者の債務を保証している場合や、共同で債務を負っている場合は、その範囲において破産者の自己破産の影響を受けます)
破産者の財産の処分についても、あくまで破産者個人の財産から処分されますので、破産者と無関係な家族の財産まで処分されるということはありません。
また、破産者の自己破産が原因でその子供の就職先がその子供に不利益(差別)を与えることも禁止されていますので、就職についても問題がないと思われます。
あくまで、破産者個人が生活に不便をきたす(借り入れができない、クレジットカードが作れない、ローンが組めない)だけです。
財産についても、99万円相当までの財産(現金)は手元に残すことができます。
ただし、自己破産事件が管財事件となった場合は、通常、住宅は破産管財人によって競売され、換金された後に各債権者に配当されます。
そのため、管財事件の場合は、自宅からは立ち退かなければならなくなります。
自己破産については、あくまで破産者個人の問題でありますが、自己破産し、再起を図るためには、家族の協力が不可欠です。
理由は、自己破産にもある程度の時間と費用がかかること、破産者個人のペナルティとはいえ、少なからず家族には負担をかけること、債権者からの取り立てや対応が必要なことが考えられるためです。
すなわち、これらを破産者一人で対応するのは事実上困難であり、どうしても家族の理解や協力が必要となってくるためです。
特に、結婚している場合は、配偶者の理解や協力は不可欠です。
民法上でも配偶者は一方と協力することが義務付けられているためです。
これに違反すると相当のペナルティを科されることになります。
違反するケースとしては、配偶者との協力を拒むため、あるいは財産を確保しようとして、偽装離婚をし、配偶者に財産を分与したことにして、破産者の財産を少なく見せるような工作が考えられます。
しかし、このような偽装離婚による財産分与(財産隠し)は民法424条に規定される詐害行為として取消しの対象となり、破産手続きの過程で債権者からの異議を受けることも考えられます。
そうすると、破産者はもちろん、配偶者も共謀して不正に加担したとして詐害行為として訴えられる恐れもあり、自己破産+詐害行為による損害賠償責任という二重のペナルティを受けることになりますので、家族(特に配偶者)の協力は不可欠です。
なお、自己破産については、その流れや免責の範囲については破産法に規定されていますが、破産者を援助するための直接の法律はありません。
そのため、破産者は破産者向けの生活そのものを保障してくれる根拠はないことになります。
ただし、一般的な生活困窮者に向けた制度としては、生活保護や、地方自治体の生活資金融資制度などがあり、それらを利用することで生活の安定を図ることができます。
自己破産の過程においては、その事実が債権者や、会社の取引先等、破産しようとする会社の関係者には当然に知られることになります。
しかし、会社の破産はともかく、社長などの個人の自己破産の事実については、親せきや知人・友人に知られることは非常に少ないです。
破産手続開始決定がなされると、政府発行の官報にはその旨が記載され、その事実が公開されます。
官報は、破産手続開始決定の旨や、新しい法律の成立や公布などのための新聞のようなものですが、一般の人々が官報を購読していることはほぼ皆無に近く、故に官報から破産手続開始の決定の情報を得ることは可能ですが、現実的には、官報からその事実が知られることはほとんどありません。
また、免責が認められなかった場合は、破産者である(元)社長の本籍地がある市町村役場に破産の通知がなされて、市町村役場管理の破産者名簿に破産の事実が記録されます。
この破産者名簿は非公表であるため、一般の人々が破産者についての氏名などの個人情報を得ることはできません。
もっとも、免責が認められない場合自体が非常に稀であるため、市町村の破産者名簿に記載されることもほぼなく、自己破産の事実が周囲に知られる恐れはほぼ皆無です。
基本的には、破産の経験があっても、就職に影響はありません。
なぜなら面接時に破産について聞かれるケースは少ないからです。
もし採用されたあとに、破産が知られたとしても、破産を理由に解雇されることもありません。
破産で悩んだら、弁護士への依頼がおすすめです。
下記では、弁護士に依頼するメリットを紹介します。
弁護士に依頼すれば、最適な手続き方法を教えてくれます。
会社の経営状態が悪くなったときに、破産以外にも債務整理の方法はたくさんあります。
会社の状態・債務金額によって、適切な方法は変わります。
例えば最初は破産がいいと思って手続きを進めていたけど、途中で他の手続きに切り替えることがあるかもしれません。
しかしこの場合は、最初に進めた手続きの時間・手間は完全に無駄になってしまいます。
最初から専門家である弁護士にアドバイスをもらって、最適な方法で手続きをしていくのがいいでしょう。
破産では、裁判所への届出が必要になります。
そのため必要な書類を集めたり、自分で記入したりと、手続きが複雑です。
弁護士に依頼すれば、面倒な手続き・書類の準備を任せられます。
自分は会社のことに専念できるため、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
破産の事実が広まると、取引先・従業員との関係が悪化するかもしれません。
大変な状況で、破産手続きを進めたり、従業員への説明をしたりします。
経営者は破産手続きの中で大きなストレスを感じます。
そこで弁護士がいれば、自分の味方になってくれるため、精神的なストレスが軽減されます。
「法律のプロが自分の味方にいる」という事実だけでも、かなり楽になるでしょう。
弁護士への依頼で気になるのが費用だと思います。
「弁護士に依頼したいけど、そもそも費用がない」という人も多いでしょう。
もし弁護士への依頼費用がなかったとしても、無料の相談は利用できます。
多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で受け付けているので、利用しましょう。
弁護士費用がないことを伝えれば、費用の分割払いに対応してくれるかもしれません。
また法人と同時に個人破産をするなら、法テラスが利用できる可能性もあります。
法テラスとは、個人が無料で利用できる法律相談の窓口です。
このように費用がなくても弁護士への相談は可能なので、まずは相談をしてみましょう。
今回は、会社の破産と社長の自己破産の関係や相互の影響、自己破産後の生活について取り上げました。
社長の破産はあくまで個人の自己破産であり、免責されれば、破産者の債務は帳消しとなります。
破産手続き中は一部の職業についての就業制限はありますが、多くの場合は、時と共に制限はなくなり、十分再起も可能です。
また、自己破産後の生活には家族の理解や協力も不可欠です。
ただし、自己破産の事実そのものが親せきや知人等に知られる恐れはほとんどありません。
もっとも、家族の協力は不可欠な要素となります。
自己破産は一部の金融サービスを受けられなくなるといったペナルティや不便を受けることになりますが、免責を受けられれば、債務の帳消しという大きなメリットを享受することができます。
その点において、自己破産は生活の終了ではなく、再起のきっかけであると言うこともできるでしょう。