東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
Contents
まずは、会社休眠(休業)とみなし解散についてご説明します。
会社休眠とは、会社が休業していることを意味し、会社の登記はされているが長期間にわたって事業活動を停止している状態のことをいいます。
会社法では最後に登記を行った日から12年以上経過している株式会社は、休眠会社とされます。
会社の登記手続きは、役員の変更登記、本店の移転登記、目的や商号の変更登記、取締役会・監査役会の設置や廃止の登記、発行可能株式総数の変更登記など、様々なものがあります。
そして、このような登記は、継続して事業活動を行っている会社であれば更新されるため、その更新が途絶えた会社は事業を停止しているとみなされるのです。
株式会社は、役員変更の登記手続きを少なくとも10年に一度行う必要がありますが、それを行わないまま12年以上が経過した場合には、休眠会社という扱いになります。
また、最後の登記手続から12年以上が経過しない場合でも、経営者自身の判断によって税務署で休業の届出を行えば、会社を休眠状態にすることが可能です。
この会社の休眠に必要な手続きについては、後ほど解説します。
さて、会社休眠の意味を簡単にご説明しましたが、休眠状態がずっと続くと最終的に会社はどうなってしまうのでしょうか。
結論からいうと、休眠会社は解散したものとみなされます。
これを、「みなし解散」といいます。
みなし解散となった会社は、その後一定期間を過ぎると、完全に解散したものとして扱われます。
休眠した株式会社がみなし解散を経て、完全に解散するに至るまでの主な流れは、次の通りです。
休眠会社がみなし解散を経て完全に解散するまでの流れ
登記所から官報公告の通知が届いてみなし解散となった状態でも、基本的に2ヶ月以内に手続きを行い対応すれば、事業を継続できます。
また、みなし解散となったまま手続きを行わず3年以上が経過すると、会社は完全に解散したものとされてしまい、事業の再開はできなくなるため注意しましょう。
会社を存続したい場合には、みなし解散とならないようにすることが必要です。
会社の事業活動を停止する方法には、会社休眠だけでなく、廃業(清算)という選択肢もあります。
ここからは、会社の休眠と廃業についての違いを解説したうえで、どのような場合に休業を選択すべきか、そのケースを一例として紹介します。
まず、休眠と廃業は次の点で違いがあります。
もっとも大きな違いは、会社の存続の有無です。
休眠では事業活動が停止するだけで会社は存続しますが、廃業となると会社自体が消滅します。
そのため、一度廃業してしまうと、休眠のように事業を再開できません。
なお、許認可が必要な事業については廃業後に再度、許認可を取り直す必要があるため、注意が必要です。
また、休眠と廃業では、経営者自身が行う手続きにも違いがあります。
会社を休眠させる場合には、毎年の税務申告や任期満了時の役員の変更登記といった手続きが必要になりますが、廃業の場合はそのような手続きは一切必要がありません。
休眠・廃業の手続きにかかる費用についても違いがあります。
休眠の手続きは、休業の届出を行うだけで済むので費用が発生しません。
しかし、廃業に関わる解散や清算の手続きにはその登記費用などが発生します。
このような違いを考慮すると、以下のようなケースでは廃業よりも休眠を選択した方が良いでしょう。
廃業より休眠を選択した方が良いケース
経営者の突然の病気や事故、または高齢化による体調不良や死亡などの場合には、一時的に事業活動を停止するため、会社を休眠させるのが得策です。
必要な手続きさえ行えば、経営者の体調が回復次第、いつでも事業を再開できます。
また、経営者から次の後継者へ事業を承継するまでの期間、会社を休眠させることで事業の基盤や経営環境を整えることが可能です。
後継者がすぐに定まらない場合や、後継者へ事業を確実に承継してから事業を再開したいという場合には、休眠が適しています。
その他、経営者が複数の事業を行っているため多忙を極めていて、一時的に会社経営ができないといった場合にも、必要な手続きを行って会社を休眠させておけば自身の状況に合わせて会社経営の停止・再開が可能です。
なお、経営状況が芳しくない場合には、それを好転させる目的で会社の休眠を選択する経営者の方もいます。
新規事業を計画しているような段階ではそれに十分な費用を充てるため、会社を休眠させてその他の費用を抑えるというのも一つの方法です。
会社を休眠させるメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
休眠会社は事業活動をしていないため、法人税と消費税が課税されません。
法人税は会社が得た所得のすべてに課税される税金ですが、休眠中の会社からは課税対象の所得が発生しないため、法人税はかからないことになります。
消費税も会社の事業活動(商品販売やサービス提供など)によって発生する税金ですが、会社が休眠中であれば事業活動も停止するため、消費税もかかりません。
なお、売上げや利益がない状態でも、原則として確定申告は必要です。
会社の経営状態に関係なく課税される税金が「法人住民税の均等割」ですが、自治体によっては休眠会社の均等割を免除しています。
均等割の課税額は社員数や資本金によって変わりますが、都道府県民税が最低2万円、市町村民税が最低5万であり、合計7万円を毎年納めなければなりません。
本来は会社が赤字でも納める税金であるため、休眠会社にするときは役所や県税事務所等へ相談しておきましょう。
ただし、少額でも経費や売上げが計上されていれば、免除は認められない可能性があります。
廃業した会社は復活させられませんが、休眠会社は税務署等へ申請すれば事業活動を再開できます。
経営計画をじっくり見直したい場合や再生に一定期間がかかる場合は、会社を休眠状態にする選択肢も検討するべきです。
また、経営者の病気や事故など、やむを得ない事情で会社を休眠したときは、後継者に事業譲渡して再開することもできます。
社名もそのまま残せるので、再開の見込みがあれば廃業よりメリットは大きいでしょう。
休眠会社であれば、事業活動を再開するときに、管轄行政庁の許認可を取り直す必要はありません。
廃業の場合は、許認可が取り消しとなり起業するときに再取得しなければならないため、かなりの時間と労力を消耗します。
しかし休眠会社の場合は、休眠前に取得した許認可が取り消されることはないので、手間や時間をかけずに事業活動を再開できます。
休眠会社にすると、解散や清算にかかる費用を抑えられます。
会社の解散や清算には以下の費用がかかるので、事業を再開する見込みがあれば、休眠状態にしておいた方がよいでしょう。
登記申請の前には現在の登記情報も必要になるため、登記事項証明書の取得費用も発生します。
会社を休眠させるデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
会社が不動産(土地・建物)を取得していれば、休眠会社であっても固定資産税は毎年かかります。
本来であれば、事業用の土地や建物を活用して会社の利益を生み出すところですが、休眠会社の不動産は税金だけが発生する「負の財産」になってしまいます。
固定資産税は休眠会社の維持コストともいえるため、休眠状態が長期化するほど納税負担も重くなり、結果的に廃業となる可能性もあるでしょう。
なお、不動産を取得していなくても、事務所を借りている場合は家賃を支払い続けることになります。
休眠会社であっても、会社が存続し続ける限り申告義務は残るので、毎年決算を行って税務申告しなければなりません。
事業活動の停止によって利益が出なくなるため、無申告でも罰則はないだろうと考える方もおられますが、税務申告を怠ると青色申告できなくなる可能性もあります。
また、申告関連の業務を会計士や税理士に依頼している場合は、毎年報酬を支払わなければなりません。
休眠会社でも任期満了に伴う役員交代が必要であり、その都度変更登記しなければなりません。
株式会社であれば役員の任期は最長10年なので、休眠中であっても10年に1回は役員の変更登記が必要になります。
任期満了後は2週間以内に変更登記しなければなりませんが、期限内に登記申請しなかった場合は、経営者に100万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。
株式会社の場合、最後の登記から12年経過すると、強制的に「みなし解散」となる恐れがあります。
法務局からみなし解散の通知が届いた場合は、2ヶ月以内に事業を廃止していない旨の届け出を提出し、必要な登記(役員変更等)をすればみなし解散は防げます。
ただし、2ヶ月以内に届出しなかったときは、登記官の職権によってみなし解散が登記され、さらに3年経過すると会社を清算するしかなくなります。
会社の休眠(休業)手続きに必要な届出は提出時期に定めはなく、経営者自身の判断によって会社休眠を決めたときに提出すれば問題ありません。
異動届出書に休業する旨を記入したものなどの提出書類を、管轄の税務署・年金事務所・税事務所・市区町村役場へそれぞれ提出します。
提出先と提出書類については、次の通りです。
異動届出書 |
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給与支払事務所等の廃止届出書 | |
消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書 |
異動届出書 |
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健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届 |
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会社を休眠させるためには、休業に関する異動届などの書類を提出することになります。
これらの書類を作成し提出する際に、それぞれの提出先に納付する手数料のような金額はありません。
ただ、休眠の手続きを専門家に依頼する場合には、その専門家に対する報酬が発生します。
一般的には数万円程度になると考えられますが、専門家によって金額は異なるので、確認してから依頼するようにしましょう。
なお、会社が休眠しても、地方税の均等割という金額が発生することがあります。
また、会社が不動産を所有している場合は、固定資産税もかかるので、納税資金は確保しておく必要があります。
休眠会社を復活させるためには、管轄の税務署や都道府県税税務署、市区町村役場へ届出をしたり、休業中の会計処理や確定申告などを行ったりする必要があります。
必要な手続きについて、次のようなものが挙げられます。
休業する際に異動届などを提出した税務署や都道府県、市町村に対して、休業を解除する旨を記載した異動届出書を提出します。
休業期間中に預金が動いたり、債権の回収を行ったりしている場合には、その会計処理を行うと同時に、確定申告を行います。
確定申告を2年続けてしなかった場合には、青色申告は取り消されています。
事業の復活にあたって、事前に青色申告承認申請書を提出します。
休業中も、会社の登記手続きは義務とされています。
役員の任期満了により登記が必要な場合は、さかのぼって登記を行います。
会社の休眠は、一時的に事業活動を停止する際の一つの選択肢です。
みなし解散とならない限り会社自体はそのまま存続させることができ、上手に活用すれば経営状況を好転させる手段にもなります。
会社を休眠させる際には、その期間中にかかる法人税や消費税などを抑えられるといったメリットがある反面、継続して税務申告や役員の変更登記が必要となるといったデメリットがあることにも注意しましょう。
今回ご紹介した内容を参考にして、会社の事業状況や経営計画を十分に考慮の上、必要に応じて検討してください。