東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
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会社が事業を継続しないという結論に至った場合、その会社がとるべき選択は2つあります。
1つが、会社そのものを解散する廃業です。
この場合、会社組織そのものが消滅するため、当然、事業を行うことができなくなります。
したがって、廃業の場合は、その会社や事業を今後一切行わない場合になされる手続きとなります。
もう1つの選択が、会社休眠です。
この場合、会社としての組織(法人格)は残ります。
会社休眠はあくまで一時的に事業を停止させるというものであり、事業を再開させようと思えば、簡単に事業を再開することができます。
そのため、会社休眠はあくまで事業の再開を念頭に置いた手続き・状態であると言えます。
今回は、会社休眠について解説しています。
Contents
休眠会社については、会社法第472項に記載されています。
会社法によると、「休眠会社とは、株式会社であって、その株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した会社」であるとされています。
通常、役員の任期は最長で10年であり、役員の任期満了によって、役員に変更が生じた場合には、役員の変更登記が必要となります。
したがって、10年に1度は変更登記が発生するのが通常であり、12年もの間変更登記がなされていない場合は、その会社が現状で事業を行っていない会社=休眠会社であると考えることができます。
この休眠会社は一時的に事業を行っていない状態にあるに過ぎず、あくまで会社(法人格)自体は存在しているため、事業の再開は容易です。
会社を休眠状態にさせておく理由も様々で、現段階で単純に事業の採算が取れていない場合や、事業に掛ける資源(人・資金)を割くことができない場合、経営者が多忙でその事業に関わっている時間がない場合などが考えられます。
そのため、休眠会社は国内にも多く存在し、その数は数万社にも上るとも言われています。
一方、会社倒産(廃業)では、その会社の清算・解散がなされ、会社としての法人格が消滅したものを言います。
すなわち、会社倒産(廃業)では、会社そのものが消滅するため、当然ながら、その会社が行っていた事業を継続・再開させることはできなくなります。
そのため、休眠会社と会社倒産(廃業)の違いは、
という違いがあります。
休眠会社のメリットについて記載します。
休眠会社とするメリットは、会社倒産(廃業)よりもかかる手続きの手間やコストを抑えることができる点にあります。
会社倒産(廃業)では、その会社の清算・解散までに多くの手間や労力、時間と費用が掛かります。
それに対して、休眠とする場合は、税務署や都道府県、市町村に「異動届出書」を提出するなどの簡易な手続きで休眠会社とすることができます。
その際には特に費用はかかりません。
もっとも、休眠状態にするための手続きを専門家に依頼した場合は、相応の費用が掛かります。
事業を再開するにあたっても、手続きは不要であり、事業の再開が容易な点がメリットの1つです。
事業の再開時には、引き続き、税務申告を行い、税金を納めることになります。
また、休眠会社となり、事業を行っていない場合でも、会社自体は存在しているため、会社(組織)に対して与えられた各種許認可等については、そのまま継続することができます。
もっとも、休眠期間中にも許可の有効期限がストップすることはないため、休眠期間中に到達した有効期限後も引き続き許可を受けたい場合は、許可の更新申請、または許可の取り直しが必要となります。
このように、会社を休眠とするメリットは、一時的に事業を停止するものの、事業に必要な許認可の新規取得が必要とならないことが多いため、事業の再開が容易(再開を前提としている)である点にあります。
休眠会社についても、デメリットは存在します。
休眠会社として事業を行っていない場合でも、法人格は残るため、税務申告や納税の義務からは逃れることはできません。
休眠会社はあくまで事業を行っていないだけであるため、その事業で収益を上げていない場合であっても、税務申告は必要となります。
特に、税務申告・納税を怠ると、青色申告が取り消されたり、遅延金が発生したりするなどのペナルティを受ける場合がありますので、注意が必要です。
事業を行っていない場合でも、役員の変更や、社名、所在地の変更など、登記事項に変更が発生した場合は、変更登記を行う必要があります。
こちらについても、変更登記は法定の義務であるため、変更登記を怠るとペナルティを科されることになります。
最後の登記から12年間、変更等登記がなされていない場合は、法務省から「休眠会社」として新聞等によって公告されます。
この公告から2ヶ月以内に何の届出も行わなかった場合は、「みなし解散」とされ、登記官によって解散登記をされてしまう場合があります。
この場合は、休眠会社→(みなし)解散となるため、法人格が消滅し、実質的には会社倒産(廃業)と同じ結末となってしまいます。
すなわち、事業の再開ができなくなります。
したがって、休眠会社のままで放置しておくことは、「みなし解散」によって、法人格が消滅してしまうことも考えられるため、注意が必要です。
法人格が消滅すれば、もはや休眠会社ではなく、廃業と見なされ、休止していた事業も再開することができません。
「みなし解散」を受けた後で、かつて休止していた事業を開始(再開)するには、新規で事業を行うための会社を設立するか(法人格を取得する)、個人事業主として、個人で請け負ってその事業を行うことになります。
休眠会社としての注意点について記載します。
事業を一時停止している休眠会社でも、税務申告の義務は発生します。
したがって、納税の義務はなくなりません。
また、何らかの形で年会費等を納めている場合は、その年会費等の支払いも継続しなければならない場合があります。
このように、休眠会社といえども、コスト(維持費)は消滅しません。
将来的に事業を容易に再開できるのが休眠会社のメリットですが、そもそもその事業が今後拡大していく見込はあるのか、顧客のニーズに合致しているのかについての見極めが必要です。
休眠している状態でもコストはかかってくるため、今後の展望に見込が薄い事業をそのままの状態で再開に向けて待機させておくことが、必ずしも得策とは限りません。
会社休眠は、あくまで事業を再開することが前提となっています。
事業を再開しても採算が合わない場合や、ニーズや規模が縮小している場合については、事業を先送りにする休眠ではなく、いっそのこと事業自体を廃止してしまう廃業を検討する方が合理的である場合もあります。
休眠会社として再開を目指していても、その会社を運営する資源(人・資金)が乏しければ、十分な運営・事業を行うことができません。
休眠会社は再開の時点で、その事業や組織としての運営をしっかりと支えることができるだけの資源を確保しておく必要があります。
具体的には、
などを総合的に考慮しておく必要があります。
休眠会社するための必要書類について取り上げます。
会社倒産(廃業)と比較して、手間や書類数が少なく、費用も掛からないことが特徴です。
税務署には、「異動届出書」と「給与支払事業所の開設・移転・廃止届出書」を提出します。
「異動届出書」には休業の旨を記載し、「給与支払事業所の開設・移転・廃止届出書」には、『廃止』の欄に休業の旨を記載して提出します。
都道府県・市区町村には、「異動届出書」を提出します。
「異動届出書」には休業の旨を記載して提出します。
労働基準監督署には、「労働保険確定保険料申告書」を提出します。
ハローワークには、「雇用保険適用事業所廃止届」「資格喪失届」を提出します。
年金事務所には、「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」「資格喪失届」を提出します。
今回は休眠会社について解説し、会社倒産(廃業)と会社休眠の違いを取り上げました。
休眠は廃業と異なり、手続きは簡単で、事業の再開も容易です。
しかし、法人として存在していることには変わりないため、税務申告や納税、変更登記など、法人として存在するためにかかるコストは当然に発生します。
また、「みなし解散」による不本意な「解散」にも注意が必要となります。
「解散」してしまうと、もはや事業再開を前提とした休眠会社としての法人格を失い、事業の再開も不可能となります。
事業を停止する場合は、廃業とするのか、休眠とするのか、その事業と今後の見通し、取るべき手続きについてよく考えた上で判断することが大切です。