東京弁護士会所属。
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会社を解散・清算する際に、それまで会社の役員となっていた者は全員退職することとなります。
そのため、退職する役員に対して役員退職金を支払うことができます。
役員退職金を支払うことで、税金面などにどのような影響があるのでしょうか。
また、役員退職金を支払った方が得になるケースとはどのような場合なのでしょうか。
今回は、会社の解散・清算時の役員に対する退職金について詳しく説明します。
Contents
会社を解散し清算する際には、会社が保有している財産ですべての債務を返済しなければなりません。
また、債務を返済しても余った財産は、1株あたりの金額を計算し、株数に応じて株主に分配されます。
もし残余財産が多くあり、借入金や未払金などの債務をすべて返済してもまだ財産が残りそうな場合、役員退職金を支払うことができます。
会社が解散した時点で、すべての取締役は退職したこととなるためです。
会社が解散した後、清算に移りますが、解散した時点で役員の退職が確定するため、その日以後に退職金を支払うことができます。
なお、会社の代表取締役が清算に入った時に、引き続き清算人として清算事務を行うケースが多いでしょう。
そのため、代表取締役が会社を退職したといえるのか疑問が起こるかもしれません。
しかし清算を行う会社は、それまでのように事業活動を行うことはできず、清算中に取締役の業務が継続するとは考えません。
そのため、解散の決議を行った時点で、清算人となる代表取締役に対しても退職金を支払うことができるのです。
会社を解散した時に支払う役員退職金の額は、残余財産の範囲内となるようにその金額の計算を行います。
株主に残余財産を支払う場合と、役員退職金を支払う場合では、どちらが有利になるのでしょうか。
残余財産がない場合、あるいはあっても少額な場合は、役員退職金を支払うことはないでしょう。
残余財産が少額しかなければ、余裕を持って清算ができるよう、役員退職金の支給は行えないのです。
ただ、残余財産の額が多い会社の場合は、そのまま残余財産の分配を行うと株主の税負担が大きくなってしまいます。
そこで、役員退職金として役員に支給することも考える必要があるのです。
残余財産の分配を受けた株主は、その分配された金額のうち当初出資した金額を超える部分を配当金として受け取ります。
つまり、株主には配当所得が発生することとなり、その税負担をしなければならないのです。
非上場会社から受け取る配当金については、給与所得や事業所得と同じく総合課税の対象となります。
総合課税の場合、金額が大きくなるほど適用される税率も大きくなるため、多額の所得税が発生する可能性があります。
一方、残余財産の分配を行う前に役員退職金を受け取ると、役員に退職所得が生じます。
この退職所得の金額は、受け取った退職金の額から退職所得控除を差し引いた金額です。
退職所得控除の計算は、勤続20年以下の場合、勤続年数×40万円となります。
また、勤続年数が20年超の場合は、800万円+70万円×(勤続年数-20年)となります。
たとえば、勤続年数が25年の場合、800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円となるのです。
退職金の額が退職所得控除の金額より少なければ、退職所得はゼロとなります。
また、退職金の方が大きい場合も、退職所得控除の額を差し引いた後の金額を2分の1した額で税金の計算を行います。
そのため、課税対象となる金額はかなり少なくなります。
一般的に、残余財産が多くあるために配当金となる金額が大きくなるほど、役員退職金として支給する方が有利になります。
そのため、解散・清算をする前に、残余財産がどれくらいになりそうかの見通しを計算しておき、役員退職金の試算を行いましょう。
そして、役員退職金の額をできるだけ多く支給し、残余財産の分配にあてる金額が少なくなるようにしましょう。
もう1つ、役員退職金を支給するメリットがあります。
それは、会社にとって損金となるため、法人税の金額を少なくできることです。
解散する日の属する事業年度であっても、通常の法人税計算を行うため、利益が出ていれば法人税は発生します。
そこで、役員退職金を支給し、利益の額を圧縮して法人税の額を減額することができるのです。
ただし、注意点が1つあります。
役員退職金の額は、大きすぎる場合には損金として認められないということです。
そのため、それまでに支払った毎月の報酬の額や勤続年数などを考慮し、高額となりすぎないことが求められます。
これは、退職金として支給する方が有利になるため、税務署としてもむやみに退職金とすることは認めないこととしているのが理由です。
もし、残余財産の額の大半を役員退職金とした場合、過大であると指摘される可能性がある場合は、金額を見直す必要があります。
会社が解散・清算する際にも法人税が発生する場合があります。
ここでは、解散する時、そして清算する時にそれぞれ発生する法人税の計算方法や申告上の注意点をまとめます。
会社を解散する場合、会社の解散の決議を株主総会で行います。
解散の決議を行った後もまだ会社自体はありますが、解散以後はこれまでの事業活動を行うことはありません。
その代わり、会社の消滅に向けた清算に入ることとなります。
そこで、会社が解散した日までを1つの事業年度として利益を計算し、法人税の計算と申告・納税を行います。
会社の解散の日が、通常の事業年度終了の日とは異なる場合も多いでしょう。
この場合は、12か月に満たない期間を1つの事業年度として決算を行うこととなります。
会社が解散すると、会社は清算事務に入り、取締役をおく必要はなくなります。
清算事務を行う清算人が選任される一方で、それまでの役員はすべて自動的に退職することとなるのです。
そこで、会社が解散した日を役員の退職日として、役員退職金の支給を決議できるようになります。
解散の日までに役員退職金を支給することは難しいのですが、あらかじめ金額を算定しておき、株主総会で決議します。
こうすれば、役員退職金の金額を解散の日の属する事業年度の損金とすることができます。
なお、役員退職金の金額が過大な場合は、その過大な部分を損金とすることが認められません。
過大かどうかの判定は難しいのですが、役員退職金の算定根拠はきちんと残しておく必要があります。
「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で算出することが多いので、まずはこの金額をベースにして考えてみましょう。
会社の清算とは、会社に残された資産と負債をすべて整理し、最終的にすべてを株主に分配することです。
清算中に売上が計上されることは原則ありませんが、保有している不動産や株式を売却して利益が出る場合はあります。
一方、清算が完了するまでは家賃や人件費などの費用が発生するため、これらを利益の額から差し引きます。
その結果、最終的に利益が計上されるのであれば、法人税が発生することとなるのです。
なお、法人税が発生してもしなくても、法人税の申告は行う必要があります。
会社が解散・清算する際には、「利益は出ない」「税金は発生しない」と思っている方もいるかもしれません。
しかし、会社を解散・清算する際も通常と変わりなく利益計算を行い、その結果、法人税が発生する場合があるのです。
解散する際に会社に大きな利益が計上されそうな場合、役員退職金を支払って法人税の額を減らすことができます。
また、みなし配当の額が大きくなりそうな場合は、役員退職金を支給する方が個人の税負担が少なくなります。
その点からも、役員退職金をうまく利用して、節税に努めることには大きなメリットがあるのです。
役員退職金の検討などに時間を割くことができるように、会社の解散・清算には余裕をもったスケジュールで臨むことをおすすめします。