2017年のデータからみる「全国新設法人設立の現状・動向について」
一からビジネスを立ち上げるのは、「起業してから3年以内に70%が倒産する」といわれる厳しい世界ですが、起業家として新たに事業を始める人は近年大幅な増加傾向にあるといえます。
東京商工リサーチの調査では、2017年に新設された法人の数は13万1981社となっており、前年比では3.1%増加、2007年の調査開始以降は最多となっています。
東北や北陸地方での震災復興需要はひと段落した感があるものの、東京・大阪・神奈川などの大都市圏では継続的に新設法人数は増加、観光需要が高まっている沖縄県は前年比増加率で全国トップとなっています。
この記事では、全国333万社に対して行われた「2017年度全国新設法人動向調査」を参考に、「どういった業種の人たちが、どのような形で起業に挑戦しているのか」を解説させていただきます。
新設法人は8年連続で増加:2017年は前年比3.1%プラス
新しく設立された法人の数は2009年から継続的に増加しており、2017年には初めて13万社を超えました。
これは東京商工リサーチが調査を始めた2010年以降では最高の数字です。
また、前年比の増加率では2014年、2015年とやや鈍化していましたが、2017年は3.1%と大幅に改善し、調査開始から最高の伸び率となっています。
近年、起業が増加している要因について
このように、近年になって起業にチャレンジする人の数が増加している理由は、次のようなことが挙げられます。
- ①自分らしい働き方を重視する人の増加
- ②社員教育や管理に関する企業側の取り組みの変化
- ③行政によるサポート
- ④法律も起業家の実態に合わせて変化している
- ⑤事業拡大や利益追求以外を目的とする起業
以下、順番に解説します。
①自分らしい働き方を重視する人の増加
現在、30代後半~40代前半にかけてのいわゆる働き盛りの世代は、かつて「就職氷河期」といわれた時期に就職活動を経験した世代です。
彼らの中には1つの会社に高い帰属意識をもって自分のキャリアを構築していくことに懐疑的な人が少なくありません。
短期間のうちに所属先企業を転々としてしまい、キャリア構築そのものに失敗するいわゆるジョブホッパーなどの事象が注目されがちですが、そういったネガティブな面だけが強調されすぎることは適切ではありません。
これらの世代に属する人たちの中には、1つの企業に帰属意識を持つというよりも、自分の職業分野や業界全体に対して帰属意識を持っていることが多く、「自分の能力をいかせるのであれば、所属先企業がどこであるかはあまり重要視しない」という意識でキャリアを構築している人が少なくないのです。
こうしたキャリア意識を持つ人にとって、起業が現実的な選択肢となることは想像に難くありません。
②社員教育や管理に関する企業側の取り組みの変化
社員を雇用する企業の側からも、上で見たような働く人の意識の変化を肯定的にとらえる向きが顕著になってきています。
かつては、雇用している従業員の企業に対する帰属意識を高めることが、企業の競争力の源泉と考えられてきました。
しかし、「失われた20年」ともいわれた長期の不況は、企業側に従業員の終身雇用を維持することは人材戦略として非効率であることを認識させるきっかけとなりました。
このような流れを受けて、上場企業などの大手企業の中にも、従業員の副業を積極的にサポートしたり、テレワークやリモートワークといった新しい形の雇用形態を積極的に導入したりといったとりくみを行う企業が増加しています。
その一環として、従業員に自社と同分野での起業を行うことを認めたり、社内ベンチャーなどの形で起業に積極的な人を評価したりする向きが拡大しているといえます。
③行政によるサポート
新しく事業を開始する人や、先代の経営者から事業を引き継いで経営者となる人に対しては、行政によるさまざまなサポートの制度が設けられています。
具体的には、助成金や補助金といった形で新規事業者に対して返済の必要がない資金を与える仕組みが充実しつつあります。
行政が発注する公共事業などに対して新規事業者が入札しやすくするための制度として、「トライアル発注制度」などの新しい取り組みも注目されています。
資金調達の方法についてもベンチャーキャピタルやクラウドファンディングのような新しい調達方法に関する法整備が進められており、新規開業者が資金力のある民間団体や行政の支援を受けるチャンスは拡大しているといえるでしょう。
④法律も起業家の実態に合わせて変化している
会社設立に関する法律上のルールとして「会社法」という法律がありますが、この会社法の内容も近年の起業に関する社会情勢の変化を反映する形で改正が行われています。
具体的には、LLC(合同会社)やLLP(有限責任事業組合)といった小規模事業者の組織運営によりマッチした会社形態が認められるようになったことが注目されます。
これらの組織制度には経営陣に柔軟な組織運営の決定権を認めることや、外部の資金提供者による買収行動への対策が取りやすいといった長所があり、小規模事業を開始しようとする人のニーズに合致する形で法整備が行われています。
また、最低資本金制度の撤廃(いわゆる「1円起業」の容認)や、取締役の人員条件の撤廃(従来は会社設立にあたって3名以上の取締役が必要でしたが、現在は1名いれば足ります)といった、起業に関する規制緩和の方向性も、起業にチャレンジする人の増加を後押ししているといえるでしょう。
⑤社会問題の解決を目的とする起業
近年、待機児童の問題や介護を必要とする人の増加など、さまざまな社会問題に営利追及を原則とする事業者がその解決にとりくむというスタイルが注目されつつあります。
実際にはNPO(非営利団体)や社会福祉法人といった組織がこれらの活動の受け皿となるケースが圧倒的に多いのが実情ですが、営利活動との両立を目指す形でこれらの問題に取り組む事業者が増加していることに注目する必要があります。
社会問題に取り組むことを起業の動機として浸透していくようになれば、今後さらに起業家を目指す人のすそ野を広げることにつながっていくでしょう。
行政の側でもこうした事業者に対して、助成金や補助金その他の資金調達の援助、事業の発注や組織認可の柔軟化といった形でサポートしていくことが地域生活で必須のサービス拡充につながることから、新たなビジネスチャンスを生む可能性があります。
都道府県別の新設法人ランキング
都道府県別に新設法人の数を見ると、圧倒的に多いのは従来通り東京都の4万311社(構成比30.5%)で、2007年以降では初めて4万社を突破しています。
新設法人の数で見ると、2位以下は大阪(1万1767社)、神奈川(8569社)、愛知(6373社)といずれも大都市圏に属する地域が並びます。
一方で、前年比の増加率でみると沖縄県が9.5%でトップとなっています。
沖縄県の新設法人のうち、業種として圧倒的に多いのが宿泊業で、外国人訪日客の増加にともなう観光関連事業や不動産業が好況を呈している様子が見て取れます。
資本金500万円未満の小規模な法人が増加
新しく設立される会社が増えているといっても、その内実が大企業による子会社の量産が原因である場合には、実質的に新しい事業者が増えているとは言えません。
この点を見る際の指標としては、資本金別の新設法人の割合を見るのが適切です。
新設法人のうち、資本金が500万円未満である小規模法人の数は8万7561社と、前年比で5%以上増加しています。
一方で、資本金が500万円以上である企業については前年比で減少しており、新設法人全体に占める小規模企業の数の割合が高くなっているといえます。
従来は1000万円以上の資本金が必要だったところ、最低資本金制度の廃止が起業家の間にも浸透してきた結果とみることができるでしょう。
合同会社を選択する人が全体の2割を突破
特に注目すべきなのは、会社設立の際に合同会社の形を選択する人が増えているという点です。
2017年は、新設法人全体に占める合同会社の数がはじめて20%を超えました。
具体的には、2017年の新設法人総数13万1981社のうち、株式会社が9万1694社(69.4%)、合同会社が2万7039社(20.4%)、その他一般社団法人やNPO法人が全体の10%程度を占めています。
- 株式会社:9万1694社(69.4%)
- 合同会社:2万7039社(20.4%)
- その他 :1万3248社(10.2%)
- 新設法人総数(2017年):13万1981社
依然として7割弱を株式会社が占めていますが、2016年のデータと比べてみると、合同会社を選択する人が近年増加していることがわかります。
- 株式会社:9万1100社(71.19%)
- 合同会社:2万3627社(18.46%)
- その他 :1万3247社(10.35%)
- 新設法人総数(2016年):12万7974社
有名企業の中にも合同会社を選択する会社が増加
法人格を持てるということ、税金の計算方法に関しても株式会社と合同会社とはまったく同じ扱いとなりますから、主に節税目的で個人事業主から法人なりすることを検討する人の中や設立費用を抑えたい人に、合同会社形態を選択する人が増加しているものと思われます。
※有名企業の中にも合同会社を選択する会社が増加
一般的には、起業してから間もないスタートアップ期の事業者の利用が想定されている合同会社ですが、近年では世間に名の知られた有名企業でも合同会社を選択するケースが増加しています。
有名どころでいえばアマゾンジャパンやアップルジャパン、ユニバーサルミュージックや西友などが合同会社形態を選択していますね。
これらの企業が、証券取引所への上場による株式市場からの資金調達というメリットを放棄してでも、あえて合同会社を選択している背景としては、会社の運営について外部からの影響力を極力排除したいというニーズがあることが考えられます。
産業別の増加率トップは金融・保険業(16.5%増)
産業別に2017年度新設法人の増加率をみると、トップは金融、保険業の16.5%となっています。
金融業の新設法人は、再生可能エネルギーに着目した投資運用業が前年比で25.7%増となったこともあり、大幅に増加する結果となりました。
金融関連サービスは大手企業のブロックチェーンの導入とともに、中間事業者の淘汰が今後進んでいくことが予想されます。
窓口業務の簡素化、インターネット取引の圧倒的な増加が見込まれるのと同時に、新しい形の金融サービス(投資助言や起業支援など)が開発されていく可能性が高いです。
従来は銀行を中心とした間接金融が圧倒的な優位にあった企業の資金調達についても、ソーシャルレンディングやクラウドファンディングといった市場から直接的に資金を集める新しい手法が注目されています。
新設法人の保険業とは
保険業というと~生命保険、~損保といった大規模な保険運営会社をイメージしがちで、新設法人が多数あるというとやや違和感を持つ方もおられるかもしれません。
新たに保険会社を設立するためには金融庁の免許が必要であり、現在金融庁の免許を取得している保険会社は日本全国でも41社しかありません。
実際には、小規模法人として保険業を開業する人としては従業員数人程度で構成される保険募集人や保険代理店が多数を占めていると思われます。
金融業界においては大手企業がブロックチェーンの導入に積極的に動いていることから、人件費カットのためのリストラが今後増加していくものと考えられます。
様々な投資対象に着目した金融サービスが今後増加していくとともに、雇用者の立場を離れて保険代理店として自ら起業するという人たちも今後増加していく可能性があるでしょう。
不動産業が6年連続で増加している
不動産業は2012年以降、6年間連続で新設法人数が前年比で増加しています。
2017年は前年比で11.5%の増加率となっており、これは金融、保険業の16.5%につぐ第2位の結果です。
不動産業界の活況の一番の要因として考えられるのは、2020年の東京オリンピック開催に向けた需要の高まりです。
東京オリンピックが終わるまでは都市部を中心に譲渡益を目的とした不動産価格の高騰が予想されるとともに、新設法人の数も増加することが考えられます。
東京オリンピック後の不動産業界
ただし、東京オリンピック後のことを考えると不動産業界は恒常的な不安を抱えているといえるでしょう。
東京オリンピック終了後の地価の低下に加えて、若年層の人口減少によりアパートやマンションの需要が低下することが予想されます。
また、金融業で見たブロックチェーンの導入は不動産業にも今後応用されていく可能性が高いです。
不動産業界において、物件の広告や入居者ニーズの把握、契約締結などに関しては定型的な取引内容が多く、従来は不動産仲介業者との個別対応がメインとなっていた不動産仲介業においても一括サービスが浸透していくことが予想されます。
ただし、ブロックチェーンによって物件販売の流通網が構築されていくことは、長期的な目線で見ると不動産業界全体にとってプラスに働くと思われます。
物件に関する情報収集については無店舗化が進んでいくことが予想されますが、物件購入の判断などについては不動産業の専門家が付加価値を発揮する余地は広く、今後様々な形で新しいサービスが生まれていくことでしょう。
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