最終更新日:2025/3/5
取締役の辞任届とは?雛形の利用や書き方のポイントを解説!

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 取締役の辞任届の書き方
- 取締役の辞任届の雛形
- 取締役の辞任届の基礎知識
この記事では、取締役の辞任届を書くときのルールや記載事項、書き方のポイントについて解説します。また、取締役の辞任届の雛形のダウンロードができるサイトをご紹介しつつ、取締役の辞任届の基礎知識を解説します。
目次
取締役の辞任届の書き方のポイント
取締役の辞任届を書くことに「慣れている」という人は、そう多くないでしょう。どこに何をどう書けば良いのか、辞表や退職届とはどう違うのかという迷いや疑問を解決するために、まずは書き方のポイントから解説します。
タイトルは「辞任届」が一般的
辞任届を書くときに最初に悩むポイントはおそらく「タイトル」ではないでしょうか。
タイトルに法律的な決まりはありませんが、一般的には「辞任届」と記載します。取締役は従業員ではないため「退職届」や「退職願」はやや違和感があります。
宛先と文面の書き方
次に、辞任届の宛名と文面です。取締役の辞任届には以下の要素が含まれていることが一般的です。
そして、文面に関しては「取締役を辞任する意思」と「辞任する日付」が明記されている必要があります。
書き方は手書きでもWordなどで作成したものでもどちらでも構いません。重要な書類ですので、手書きの場合は鉛筆ではなくボールペンや万年筆で書くのが一般的です。
取締役の辞任届の詳しい内容については後述します。
取締役の辞任届の雛形
取締役の辞任届は、雛形を使って自分で作ることができます。
雛形をダウンロードして必要事項を入力するだけなのでとても簡単です。無料でダウンロードできる取締役の辞任届の雛形の中では、法務局のものがおすすめです。
公的機関が公開している雛形は安心して利用でき、形式も整っています。以下のリンクからダウンロードしてご使用ください。
取締役は辞任できるのか
取締役の辞任届のポイントを先に解説しましたが、そもそも取締役は自分の意思や都合で辞任できるのでしょうか。
一般の従業員や部長・課長といった役職とは異なり、取締役への就任には登記が必要で、任期も定められています。以下では、任期の途中でも辞任できるのかを解説します。
自分の意思で辞任できる
取締役は、自分の意思でいつでも辞任できます。任期の途中であっても辞任届を提出して辞任が可能です。会社には「辞任を拒否する」という権限はありません。
もちろん事情によっては会社側から引き止められることはあるかもしれません。それはあくまでも交渉や打診であって、「取締役だから辞任できない」あるいは「辞任させない」という決まりはありません。
会社法では取締役の辞任に関する規定はありませんが、民法では委任契約に関して「本人の意思表示で辞任できる」と規定しています。
取締役は従業員のような雇用関係ではなく委任契約であることが一般的です。つまり、取締役の辞任は本人が「辞任します」と意思表示すればよいということになります。この意思表示は文章ではなく口頭でも成立しますが、重要な決定事項なので文面で辞任届として提出するのが一般的です。
取締役の辞任届の書き方
ここからは取締役の辞任届の書き方を詳しく解説します。前述した「書き方のポイント」をさらに深く解説した内容です。
自分で最初から辞任届を作成する場合はもちろん、雛形をダウンロードして使用する場合でも最終チェックとして活用してください。
取締役の辞任届
取締役の辞任届の書き方を解説します。後述する「代表取締役の辞任届」とは異なる点があるため、注意してください。
記載事項
取締役の辞任届の記載事項は以下のとおりです。
- 会社名
- 作成年月日
- 辞任の意思
- 辞任する日付
- 氏名と住所
- 押印
まず、宛名は会社名を記載しましょう。ここでは、会社名を略さずに正式名称で書くのがポイントです。
続いて、取締役の辞任届を書いた日付を書きましょう。西暦でも和暦でも構いませんが、この書類を作った日を明確にするために記載します。
次に、辞任の意思を簡単な文章にして書きます。ここで自分が辞任する理由を多く語る必要はありません。
一例ですが「一身上の都合により、~年◯月◯日をもって貴社の取締役を辞任することを、お届けいたします。」といった短い文章で十分です。大切なのは、ここで辞任の意思をはっきりと示すことにあります。
そして、ここで辞任する日付を明記します。書類を作成した日と辞任する日は別の日となるため、必ず辞任する日付が必要です。これは、後述する会社が取締役の登記変更をする期限に関わる重要な情報となります。
最後に、自分の住所と氏名を記載して押印します。
印鑑の種類
取締役の辞任届で使用する印鑑は、取締役の場合は実印である必要はありません。認印を使用しても構いません。
とはいえ、取締役の辞任届は非常に重要な文書です。実印を押してもよいでしょう。
取締役辞任後のリスク
取締役が自らその職を辞する理由はさまざまです。なかには、自分で独立して起業するために取締役を辞任するケースや、さらなる活躍の場を広げるために転職するケースもあります。
もちろん、独立も転職も個人の自由ですが、ここで注意すべきポイントがあります。
独立や転職の際に、顧客情報を持ち出したり、機密事項を漏洩させると法律に触れる可能性があります。
不正競争防止法には「営業秘密の侵害」という規定があるため、特に同業他社に転職する場合や、同一業種で独立する場合は慎重に行動しましょう。
代表取締役の辞任届
続いて、代表取締役の辞任届についても解説します。代表取締役が自ら辞任届を提出するケースは多くありませんが、取締役の場合と異なる点があるため解説します。
記載事項
記載事項に関しては、取締役のものと同様です。
辞任届の文面が「代表取締役」に変わるだけで、日付や宛名、その他の記載事項は同様です。
印鑑の種類
取締役の場合は認印でも構わないのですが、代表取締役が登記所に印鑑を提出している場合は、登記所に提出済みの印鑑もしくは実印でなければなりません。
ここが取締役とは異なるポイントです。
会社側から取締役を解任するリスク
取締役が自ら職を辞するケースもありますが、ときに会社が取締役を「解任する」というケースもあります。
会社上層部の人間関係などが理由になることが多いのですが、その場合は取締役が自ら辞任届を提出せずに「解任」となります。
このような場合、会社側にはリスクが発生します。
役員報酬について
取締役には決められた役員報酬が発生します。取締役は、従業員ではないため給与はありませんが、もちろんボランティアで働くわけではないので、役員報酬が支払われます。
この役員報酬について、取締役を会社が解任した場合は、取締役は残りの任期の役員報酬を請求できるのです。
例えば、任期が10年の取締役を1年で解任したとします。解任された取締役は「残りの9年分の役員報酬を支払ってください」と会社に請求できることになります。
ただし、解任に関して正当な理由がある場合などはこれにあたらないという判例もあります。
参考:会社法339条2項の「正当な理由」に関する主張の整理|裁判所
辞任と退任・解任の違い
取締役の辞任と退任、そして解任はどう違うのでしょうか。
まず、辞任は任期の途中で自らの意思で取締役の職を辞することです。まだ任期はあるけど自分から取締役を辞めたということですね。
退任は任期満了に伴って取締役の地位から降りることです。
最後に解任ですが、これは株主総会の決議で任期の途中で取締役を辞めさせるということです。
取締役の辞任届とは
ここまで取締役の辞任届について解説してきましたが、そもそも「取締役の辞任届って何?」と疑問を持っている人もいるでしょう。
取締役の辞任届が必要なのは?
取締役の辞任届が必要なのはどのようなときなのでしょうか。取締役の職から離れる場合でも、辞任届が必要なケースと必要ないケースがあります。
取締役が任期中に辞任するときに必要
取締役が自分の意思で、任期の途中で取締役の職を辞するときには、取締役の辞任届を提出します。
法律上は、口頭でも辞任の意思表示は成立します。ただ、後述する登記などに辞任届が必要になるため、書面で明確に意思表示をする必要があります。
後のトラブル回避のためにも作っておくべき書類と言えるでしょう。
任期満了の場合は必要ない
取締役が、定められた任期を終えて退任する場合は、辞任ではないため辞任届は必要ありません。
この場合、任期満了による退任となります。
辞任届は法務局に提出する必要書類
取締役は会社法上の役員であるため、登記が必要です(執行役員は除く)。
ここでは法務局での手続きに必要な書類をご紹介します。ただし、この登記は会社が行う手続きであって、辞任する取締役がするものではありません。
登記変更の必要書類
取締役の変更では必ず登記をしなければなりません。これは、会社法上の役員として登記が義務づけられているからです。
登記の変更に必要な書類は、変更登記申請書・辞任届・委任状です。
参考:会社法 第九百九条 変更の登記及び消滅の登記|e-Gov 法令検索
取締役が辞任したら会社が登記をする
会社法では、取締役の変更登記が義務づけられています。これは、会社がしなければならない手続きであって、申請期限が2週間と定められています。
この2週間とは、取締役が「取締役の職を辞した日」からです。取締役の辞任届を作成した日ではありません。
登記をしていなかった場合
会社法で取締役の登記が義務づけられている取締役には、会社法上の責任があります。つまり、取締役を辞任しても登記変更がされていない場合には、その責任が継続してしまうリスクがあります。
会社法では、取締役などの株式会社の役員に悪意や重大な過失があったときに、取締役は第三者に生じた損害を賠償する責任を負うというルールがあります。
また、変更登記を怠った場合は、会社の代表者に対して100万円以下の過料が科せられる可能性もあります。
参考:会社法 第四百二十九条 役員等の第三者に対する損害賠償責任|e-Gov 法令検索
参考:会社法 第九百七十六条 過料に処すべき行為|e-Gov 法令検索
取締役の辞任届の雛形を使うときのポイント
取締役の辞任届は雛形を使うと簡単に作成できます。雛形を使うときの注意点も確認しましょう。
信頼性の高いサイトを利用する
まず、最も重要なのが「サイトの信頼性」です。取締役の辞任届は重要書類ですし、パソコンにファイルをダウンロードするわけですから、安全なサイトを利用するようにしましょう。
公的機関や専門家の監修があるサイトが安心です。
記入漏れがないかチェックする
雛形を使用したからといって「絶対に不備がない」という保証はありません。自分で取締役の辞任届の必要事項を確認して、必要な記載事項が抜けていないかをチェックしましょう。
日付や会社名などを間違えていないかも再確認したいポイントです。
取締役の辞任届は雛形を利用すると便利
取締役の辞任届は、取締役という重要なポストを退くための書類です。また、会社が取締役の変更を登記する際に必要な書類でもあるため、慎重に作成する必要があります。
取締役の辞任届を作るときには、信頼できるサイトから雛形をダウンロードするのが便利です。