最終更新日:2022/6/6
会社設立後すぐに福利厚生は充実させるべき?費用や会計処理・注意点について
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 会社で福利厚生を充実させるメリットとデメリットがわかる
- 福利厚生を実施する際にかかる費用の会計処理方法がわかる
- 福利厚生の制度を設ける際に注意すべきポイントがわかる
会社は、従業員がより働きやすい環境で仕事ができるように、様々な福利厚生の制度を設けることが必要です。
しかし、やみくもに様々な福利厚生を実施すればいいというわけではなく、従業員の実態に合ったものを行う必要があります。
また、法律上、会社が従業員のために負担しなければならないものも、広い意味での福利厚生となります。
ここでは、そのような福利厚生を行う際の注意点や、会計処理の方法について解説していきます。
目次
福利厚生とは?
福利厚生とは、会社が従業員やその家族のためにサービスや物を提供することをいいます。
福利厚生の中には、法律上加入しなければならない法定福利と、それ以外の法定外福利があります。
このうち法定福利は、厚生年金保険料、健康保険料、労働保険料といった社会保険関係のものをいいます。
法律で強制的に加入が義務付けられており、未加入とすることはできないものばかりです。
これに対して、法定外福利は会社が自由に定めることのできるものです。
代表的なものとしては、家族手当、通勤手当、保養施設の利用、社員旅行、資格取得の補助などがあげられます。
法定外福利をどのように定めるかは会社の自由であり、従業員に気持ちよく働いてもらうために上手に利用することが必要です。
会社設立後に福利厚生を充実させるメリット・デメリット
会社を設立して優秀な従業員を確保するために、福利厚生を充実させるのも1つの方法です。
しかし、福利厚生を充実させることにデメリットはないのでしょうか。
ここでは、福利厚生にまつわるメリットとデメリットを確認しておきましょう。
福利厚生を充実させるメリット
福利厚生を充実させることで、従業員がより働きやすくなる、あるいは働くモチベーションが向上するということがあります。
たとえば、家族手当や資格取得費の補助を手厚く行うことで、従業員は会社や経営者に対する感謝の気持ちを持つこととなるでしょう。
あるいは、日常的により仕事に打ち込むようになることも考えられます。
福利厚生を充実させることで、従業員がさらに意欲を持って働いてくれるのであれば、大きなメリットがあります。
また、新しく従業員を雇用する場合にも、福利厚生が充実していることで優秀な人材を確保できる可能性が広がります。
さらに、在籍している従業員の離職率が下がることも期待できますし、その結果として人材の確保にかける費用を大幅に削減することが期待できます。
福利厚生を充実させるデメリット
福利厚生を充実させるためには、大きな費用がかかることはデメリットといえます。
たとえば、家族手当や家賃手当などを支給する場合、毎月支払う金額を積み重ねると、やはり大きな支払いとなります。
また、すでに設けられている福利厚生の制度を廃止するのは簡単ではありません。
特に手当など給与に関係する制度は、よほどのことがなければ廃止することはできないため、導入時は慎重に考える必要があります。
福利厚生にかかる費用・会計処理
福利厚生のために会社が支払った費用をどのように会計処理するのかは、その福利厚生の中身によって異なります。
会計上の勘定科目ごとに、その内容を確認していきましょう。
法定福利費になるもの
法定福利費という勘定科目は、福利厚生のうち社会保険料の支払いを行う際に使用します。
社会保険料に含まれるものは、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料、労働保険料があります。
これらの負担は、支払う人件費の額に応じて、その負担額が変わることとされています。
また、健康保険料は加入する健康保険組合によって、雇用保険料率・労働保険料は業種によっても異なります。
たとえば、東京都内に本社があり、協会けんぽに加入する小売業の会社の料率は以下のとおりです。
厚生年金保険料 | 9.15% |
---|---|
健康保険料 | 4.92% |
介護保険料 | 0.9% |
雇用保険料率 | 0.6% |
労働保険料率 | 0.3% |
合計 | 15.87% |
仮に1か月あたりの人件費が合計で1,000万円の会社の場合、毎月158万7,000円が法定福利費となります。
給与になるもの
家族手当や資格手当のような名称で支払う人件費については、給与として会計処理を行うこととなります。
この他にも、家賃補助制度や携帯電話代の補助制度などを導入している会社があるかもしれません。
こういった補助制度も、実質的には従業員に対する給与の支払いとみなされます。
給与となる福利厚生は、支払った時に給与課税の対象となることに注意が必要です。
給与課税とは、給与等を支払う際に源泉所得税の計算を行う課税対象の額に手当の額を含めることです。
つまり、福利厚生制度を充実させることで、対象者の給与の額が増え、それに伴って税負担も増えることとなるのです。
ただ、実際に税金が課されるのは支給額に対して20%程度となる人が多く、手取額が減ってしまうことはありません。
そのため、給与課税されるからといってマイナスに捉える必要はないといえます。
福利厚生費になるもの
法定福利費になるもの、給与になるもの以外の福利厚生に関する費用は、一般的に福利厚生費として会計処理を行います。
福利厚生費として処理するものは多くの種類があるため、その中身に応じた会計処理を行わなければなりません。
特に注意が必要なのは、消費税の課税区分が異なるものが混在することです。
社員旅行や懇親会、保養施設やスポーツクラブの会費などは、すべて消費税が課税されるものです。
多くの法定外福利費用は、消費税がかかる取引となります。
一方、従業員に対して支払う費用の中にも、給与課税されないものがあります。
たとえば、慶弔規程にもとづいて支払われる結婚祝や弔慰金などです。
また、業務に必要な資格を取得した場合に支給する資格手当でも、給与課税されないものと決まりがあります。
このような費用については、消費税がかからないものであるため、福利厚生費として処理しても消費税は発生しません。
このように多くの取引が含まれますので、その取引の内容をよく考えて会計処理を行いましょう。
福利厚生を設けるときの注意点
新たに福利厚生制度を設けようとする場合、あるいは新しい福利厚生を実施しようとすることがあります。
このような場合、どのようなことに注意しなければならないのでしょうか。
福利厚生を行う際の注意点についてまとめておきます。
助成金を利用できる場合がある
会社が福利厚生を実施しようとすれば、必ずその分の費用負担が発生します。
このような会社の費用負担を軽減するため、国や自治体が実施する助成金を利用できる場合があります。
たとえば、従業員の職業訓練やキャリア形成を会社が支援するために、費用を負担することがあります。
このような費用を負担した会社に対して、国や自治体が様々な支援制度を設けており、条件にあてはまれば助成金が受け取れます。
その他、出産・育児や介護を行う従業員、障害者や高齢者を雇用する会社なども、助成金の対象となる場合があります。
どのような助成金を利用できるのかを確認した上で、その制度を利用できるような福利厚生制度を設けるのもいいでしょう。
どのようなニーズがあるかを分析する
会社として多くの福利厚生制度を実施すれば、それでいいというわけではありません。
従業員の年齢層や状況によって、従業員のニーズは変わってきますので、それに合わせた制度を導入する必要があります。
たとえば、結婚して子どもがいる人が多い会社の場合は、家族手当のような手当を充実させると効果的です。
また、業務上に資格を必要とする業種の場合は、資格取得を後押しするような制度を設けるといいでしょう。
一方、一番避けなければならないのは、一部の人だけが何度も恩恵を受けるような福利厚生制度です。
社員旅行などは若い社員を中心にそのニーズが低いため、導入しても利用者が少なくなってしまう可能性があります。
まとめ
会社が導入する福利厚生制度は、単に従業員を喜ばせるためのものではありません。
会社が事業を継続し、あるいはさらに発展していくために、戦略的に利用すべきものといえるのです。
ただ、やみくもに色々な制度を導入しても、その効果は限定的となり、費用負担というマイナスの影響が発生してしまいます。
どのようなニーズがあるのか、会社の事業内容や従業員の状況を分析して、効果的に福利厚生を充実させていきましょう。