最終更新日:2026/6/11
失業保険をもらいながら起業準備してもいい?失業保険の概要や起業準備の注意点をわかりやすく解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

- 失業保険の基礎
- 失業保険をもらいながら起業準備をしていいのか
- 起業準備と事業開始の違い
失業したり会社を自ら退職したあとに「起業したい」と考える人は少なくありません。その中には「失業保険をもらいながら準備していいのか」「そもそもそれって違法じゃないのか」と不安に感じる人もいるでしょう。
失業保険は原則として「再就職を目指す人」のための制度です。ただし、再就職活動を主軸としつつ、その傍らで事業を開始したと見られないような軽微な準備を行う場合に限り、受給を継続できる可能性があります。
起業準備と失業保険のバランスは難しく、どうすれば正しく給付を受けられるのかは多くの人が気になるところでしょう。
この記事では、失業保険のしくみや受給条件、起業準備と事業開始の違い、注意すべき行為、ハローワークでの申告方法といった失業保険と起業準備の関係をわかりやすく整理します。
※本記事では、正式には「雇用保険の基本手当」と呼ばれる制度を、一般的な呼称である「失業保険」と表記しています。


目次
失業保険をもらいながら起業準備してもいい
結論、具体的な起業準備と見られないような一般的な行為であれば、受給を継続できる可能性があります。ただし、起業準備ではなく事業を開始したと判断されると、その時点で失業保険は停止されます。
失業保険や再就職手当とは?
失業保険とは、会社を退職して失業した人が、次の仕事に就くまでの生活を支えるための制度です。
一方、再就職手当とは、失業保険の受給中に早い段階で再就職した人に支給される給付金です。起業した場合でも、以下の条件を満たせば「就業」とみなされ、再就職手当の対象になるケースがあります。
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上である
- 待期期間(7日間)が経過した後である
- 自己都合退職の場合、給付制限の最初の1カ月はハローワーク等の紹介による就職である(起業の場合、この1カ月を過ぎてからの開業届提出が必要)
- 1年を超えて事業を行うことが確実であると認められる
- 過去3年以内に再就職手当等を受給していない
条件を満たせば起業準備は可能
失業保険の受給中でも、事業を開始していない準備段階であれば、起業準備を行うことは可能です。ただし、準備内容や行動によっては「すでに事業を始めている」と判断される場合もあります。
すでに事業を開始したと判断された場合、失業保険は停止されます。
失業保険は「求職活動」が前提
失業保険は、働く意思と能力があり、実際に求職活動をしている人が対象です。そのため、起業準備だけに専念し、再就職する意思がないと判断された場合や、すでに起業したと判断された場合は受給対象外になる可能性があります。
あくまで再就職活動をしつつ起業も検討していることがポイントです。
失業保険をもらえる期間
失業保険をもらえる期間は、一般的には90〜150日(自己都合退職の場合)ですが、退職理由や年齢、加入期間により最大330日となり、就職困難者になると最大360日になるケースもあります。
自己都合退職の場合、7日間の待期期間に加え、原則2カ月(※2025年4月以降は条件により1カ月に短縮)の給付制限があり、すぐには受給できません。
失業保険をもらえる条件を整理
失業保険は雇用保険に加入していれば、誰でももらえるというものではありません。失業保険をもらうためには、法律で定められた条件を満たす必要があります。
失業保険の受給要件
失業保険は、誰でも無条件にもらえる制度ではありません。「働く意思と能力がある人」「再就職を目指して行動している人」の生活を一時的に支える制度です。
そのため、法律で定められた条件を満たしているかが受給の判断基準になります。
失業保険の受給対象外のケースもある
失業保険をもらうためには、次の条件をすべて満たしている必要があります。
- 働く意思と能力があること
- 積極的に求職活動をしていること
- 離職前の一定期間、雇用保険に加入していたこと
まず「働く意思と能力があること」が前提になります。これは「働ける状態であり、働きたいと考えている」という意味です。
次に「積極的に求職活動をしていること」が求められます。ハローワークでの職業相談、求人への応募、面接などが必要です。単に「仕事を探すつもりです」と言うだけでは足りず、再就職に向けた具体的な行動が求められます。
そして「離職前の一定期間、雇用保険に加入していたこと」も条件です。
失業保険をもらうためには、原則として、離職日以前2年間に被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または賃金支払の基礎となった労働時間数が80時間以上ある月)が通算12カ月以上あることが必要です。ただし、倒産や会社都合の解雇の場合は、6カ月以上で受給できるケースもあります。
これらの条件を1つでも満たしていない場合、失業保険は支給されません。
起業すると失業保険はもらえない
失業保険は「失業している人」が対象の制度です。起業して事業を開始したり、その準備に専念したと判断されると、失業状態ではなくなり、失業保険は受給対象外となります。
「準備」と「事業開始」がポイントになる
失業保険をもらいながら起業準備ができるかどうかのポイントは「準備」か「事業開始」かです。
失業保険は「起業するつもりがある」だけで直ちに停止されるものではありません。起業の準備段階であれば受給可能で、事業を開始したと判断された場合は失業保険の給付は止まります。
起業して事業を開始したら失業保険は停止される
事業を開始したと判断されると、その時点で失業保険は原則として停止されます。代表的な判断材料には、次のようなものがあります。
- 開業届を提出した
- 法人を設立して登記した
- 商品やサービスを提供し、売上が発生した
- 事業を継続的に行っている
上記のような場合は「失業中の人」ではなく「自営業をしている人」と扱われます。失業保険をもらいながら事業を始めることはできません。
失業保険をもらいながらできる起業準備
失業保険は「起業するつもりがある」だけで直ちに停止されるものではありません。起業の準備段階であれば受給可能で、失業保険の給付が止まるのは「事業を開始した」と判断された場合です。
あくまで失業保険は「雇用されること(再就職)」を目的としている方を支援する制度であり、「起業を検討している」という意向だけで受給が制限されることはありません。
ただし、準備段階であっても「失業の状態」には当たらないと判断され受給対象外となることもあります。
市場調査・情報収集
業界の動向を調べたり、競合サービスを比較したりする行為は、失業保険をもらいながらでも問題ないとされるケースが多い起業準備の1つです。
たとえば、インターネットで情報収集をしたり、書籍やセミナー(具体的な事業計画策定や開業を前提としたプログラムなどは除く)で知識を得たりする行為は、失業保険の受給中であっても問題とされにくいでしょう。
事業計画書の作成・ビジネスモデル作成
事業計画書を作成したり、どのように収益を上げるかを試算するといった行為も起業の準備段階に含まれると考えられます。
ただし、作業に専念してハローワークが求める求職活動を怠ったり、面接の打診を断る理由にしたりした場合は、事業開始前であっても受給資格を失う可能性があります。
資格取得
資格の取得や勉強自体は、基本手当(失業保険)の受給中であっても制限はありません。
ただし、勉強に専念するあまり「いつでも就職できる状態にない」と判断される場合(夜間や短時間の勉強ではなく、平日の日中をすべて費やす場合など)は、受給対象外となる可能性があります。
Webサイトや資料の準備
開業前にホームページの画像や文章を作ったり、パンフレットや資料を用意したりする行為も、起業準備として扱われやすい行為です。
ただし「すでに申込フォームがあり実際に受注できる状態」「会社や店舗の情報が公開されている」となると、事業開始と判断される可能性が高くなります。
あくまで公開前の準備であることがポイントになりそうです。
資金計画・融資や補助金を調べる
金融機関への「相談」や制度の「調査」段階であれば問題ありません。
しかし、具体的な「融資の申込み」や「補助金の申請」を行う段階になると、客観的に「自営の意思」が固まっていると判断され、事業開始前であっても受給資格を失う可能性があります。
失業保険がもらえなくなる可能性が高い行為
失業保険は「失業して再就職を目指している人」を対象とする制度であるため、失業状態ではないと扱われた場合は給付が停止されます。
ここでは、起業準備の段階で「起業した」と判断されやすい行為を整理します。
開業届の提出
税務署に開業届を提出すると「事業を始めた」と判断されます。
売上がまだ出ていなくても、開業届の提出は事業を行う意思を示したとみなされるため、原則として事業開始扱いになります。
開業届に関しては「とりあえず出しただけ」「まだ準備段階」という場合もあるかもしれませんが、開業届を出した時点で、原則として失業状態ではないと判断されるため注意しましょう。
法人設立・会社登記
法人を設立して登記を行った場合も、事業開始と判断される可能性が高いです。
登記とは、会社という「事業を行うための組織」を作ったということなので、原則として再就職を希望している状態とは認められず、失業状態ではないと判断されるため注意しましょう。
事務所や店舗の賃貸契約
事業用の事務所や店舗について、賃貸契約を締結し事業所を確保した時点、あるいは内装工事等の着工時点をもって「事業を開始した(あるいは準備に専念した)」とみなされます。
この段階に至ると、たとえ実際のオープン前であっても「失業の状態」には当たらないと判断され、失業手当の受給は終了します。
売上が発生している
継続的な収入はもちろんのこと、たとえ単発の売上であっても、それが事業として行われたものであれば「自営を開始した」とみなされます。
起業に伴う収益は、一般的な「単発のアルバイトや手伝い」とは異なり、金額や作業時間の短さを問わず、原則としてその時点で「失業の状態」ではないと判断される点に注意が必要です。
従業員やアルバイトの雇用
人を雇って業務を行っている場合も、事業を行っていると評価されます。
たとえ家族や知人であっても、継続的に業務を任せている場合は、客観的に「事業主」としての活動を行っていると判断されます。報酬の支払いの有無にかかわらず、他人を使用して事業を運営する実態がある以上、原則として「失業の状態」とは認められません。
判断が分かれやすいグレーゾーン行為
次に解説する行為は「準備」と「事業開始」の境界に位置するため、状況や頻度、継続性などによって判断が分かれやすいため個別の判断が必要になるケースもあります。
SNSでの告知・集客
SNSを使用して起業予定を知らせる程度であれば、準備と扱われることもあります。
たとえば「いつか開業予定です」「準備中です」といった情報発信だけであれば、直ちに事業開始と判断される可能性は低いかもしれません。
しかし、価格を表示している、申込フォームがある、予約を受け付けているといった場合は実質的に営業していると判断される可能性が高くなります。
無料モニターやテスト販売
無料モニターやテスト販売についてもケースごとに判断が分かれる行為です。
その時点で売上が発生していない、あるいは調査段階の場合は判断が難しくなります。
副業・単発案件について
単発で報酬を得た場合も、内容によって判断が異なります。単発で報酬をもらっている場合は、必ずしも再就職の意思がないというわけではないため注意したいところです。
ハローワークが「事業開始」と判断する基準は?
ハローワークによる判断は、1つの行為だけで機械的に決まるものではありません。以下の要素を複合的に照らし合わせ、「客観的に見て、再就職する意思と能力(環境)があるか」を総合的に判断します。
一般的には、売上の有無、契約の存在、設備や拠点の有無、活動の継続性といった客観的な要素が重要とされます。
事業開始についての最終判断はハローワークが行うため、自分では準備だと思っていても事業開始と判断されるケースもあります。
ハローワークでの申告方法と注意点
起業準備をしている場合、ハローワークへの説明の仕方はとても重要になります。ハローワークは再就職へ向けて情報収集などをする場です。
失業保険の受給にあたっては「今は何をしているのか」「収入はあるのか」「再就職活動はどうしているのか」などを正確に伝えることが大切です。
必ず伝えるべきこと
起業準備をしている場合、ハローワークに伝えておくほうが安心です。「起業の準備をしている」「まだ事業は開始していない」「収入はない」といった現状をそのまま説明しましょう。
起業準備をしている場合の説明
起業準備の説明では、嘘をつかずに正直に話すことが大切です。
「まだ準備段階で、売上や契約はない」「再就職活動も並行して行っている」といったように、自分の就職活動の方向性の検討や起業の準備をしていることを整理して説明することになります。
虚偽申告はしない
ハローワークの申告では虚偽を述べないことが大切です。
失業保険欲しさに嘘をつくことは、倫理的な問題にとどまらず、不正受給という違法行為にもつながるため絶対にするべきではありません。
起業したあとにやめた場合
起業して失業保険の受給が停止したあとに事業を廃業した場合、受給期間内であれば残りの基本手当を受給できる可能性があります。
さらに、2022年7月施行の特例により、事業開始後に廃業した場合は受給期間に最大3年間が加算される制度もあります。ただし、事前にハローワークへの届出が必要な場合があるため、起業前に確認しておくことが重要です。
参考:離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます|厚生労働省(PDF)
個別の判断についてはお問い合わせください
起業準備と失業保険の関係は、行動の内容やタイミングによって対応が分かれるため個別の判断が必要です。
インターネットなどの情報だけを見て自己判断すると自分には当てはまらないこともあるため、まずはお問い合わせください。
専門家が個別に判断してアドバイスできます
起業準備と失業保険に関して判断に迷ったら、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談すれば、現在の行動が「準備」なのか「事業開始」なのかを判断してもらえます。
少しでも不安がある場合は、専門家に相談しましょう。
失業保険をもらいながらの起業準備についてのQ&A
失業保険をもらいながらの起業準備には条件がある
失業保険をもらいながら起業準備を進めることは、条件を満たせば可能です。ただし、開業届の提出や売上の発生などにより「事業開始」と判断されると、その時点で失業保険は停止されます。
この、起業準備と事業開始の線引きはあいまいな部分も多く、判断を誤ると不正受給とされるリスクもあります。再就職活動を続けながら準備を進める人は、ハローワークに正しく申告することが大切です。
不安がある場合は専門家に相談し、個別の事情に合った判断を受けることが安全に制度を利用する近道です。


















