記事の要約
- 相続不動産を売却するには、名義を被相続人から変更する「相続登記」が必要
- 売却の手続きは、相続人全員による「遺産分割協議」の成立からスタートする
- 売却で得た利益には税金がかかるが、「取得費加算の特例」や「空き家特例」を活用することで大幅に節税できる可能性がある
相続で実家や土地などの不動産を受け継いだとき、「何から始めればよいのか」「税金や費用はいくらかかるのか」と悩む方は非常に多くいらっしゃいます。
不動産の売却には、一般的な売買にはない「相続ならではの手続きや期限」が存在します。特に相続登記の義務化が始まって以降、手続きを後回しにするリスクは以前よりも大きくなっています。さらに、譲渡所得税などの税金や、数百万円単位で節税できる特例の仕組みを正しく理解していないと、知らず知らずのうちに大きな不利益を被ってしまうことも少なくありません。
この記事では、相続不動産の売却に必要な手続きの流れ、かかる費用や税金、利用できる節税特例まで、税理士の視点から分かりやすく網羅的に解説します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続不動産の売却や税金に関するご相談を無料で受け付けております。「期限内に損せず売却したい」「自分の場合の税金を試算してほしい」など、少しでも不安や疑問をお持ちの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
目次
相続した不動産を売却する前に知っておくべき4つの基礎知識
相続した不動産を売りたいと考えても、すぐに売りに出せるわけではありません。まずは、売却活動を始める前に必ず押さえておくべき4つの基本事項を確認しましょう。
① 売却には「相続登記(名義変更)」が必須(義務化の最新状況)
亡くなった方(被相続人)の名義のままになっている不動産を、そのまま売却することはできません。不動産を売るためには、まず現在の所有者である相続人へ名義を変更する「相続登記」を行う必要があります。
不動産の売買契約や引き渡しを行う際、法律上の権利者が売り主本人であることを証明しなければならないため、相続登記は売却に向けた「絶対の前提条件」となります。
なお、法改正により相続登記は義務化されています。不動産の相続を知った日から3年以内に申請を行わなければならないため、「売るかどうか迷っている」という段階であっても、名義変更の手続きは速やかに進める必要があります。
② 相続登記を怠るとどうなる?(売却不可・ペナルティのリスク)
相続登記をせずに放置してしまうと、売却ができないだけでなく、以下のような大きなリスクを背負うことになります。
- 10万円以下の過料(ペナルティ)の対象になる
- 正当な理由なく、義務化された期限(3年以内)を過ぎても登記を怠った場合、過料の支払いを命じられる可能性があります。
- 権利関係が複雑化し、売れなくなる
- 放置している間に他の相続人が亡くなると、その子供たち(次の相続人)へと権利が枝分かれしていきます。面識のない親族が増えてしまうと、いざ売却しようとしたときに全員の合意を得ることが極めて困難になります。
「いつか売るからその時に…」と考えず、相続が発生したらすぐに登記を行うのが鉄則です。
③ 不動産を売却できるのは「遺産分割協議」が終わってから
不動産を売却するためには、「その不動産を誰がどのような割合で相続するか」が決まっていなければなりません。これを決めるための話し合いが「遺産分割協議」であり、合意内容をまとめた「遺産分割協議書」の作成が必要です。
遺産分割協議が成立していない状態の不動産は、相続人全員の「共有財産」となっています。そのため、一部の相続人が勝手に売却することはできません。売却して現金で分け合う(換価分割)場合であっても、「売却して、経費を引いた残りを全員で等分する」といった内容で協議書を作成し、一度代表者の名義にするなどの手続きが必要になります。
④ 【図解】相続発生から不動産売却までの期限・スケジュール一覧
相続不動産の売却を進めるにあたっては、様々な「期限」を意識する必要があります。全体の大まかなタイムラインは以下の通りです。

特に、相続税の納税が必要なケースで「不動産を売ったお金を納税資金に充てたい」という場合は、相続発生から10カ月以内に売却・決済まで終える必要があるため、非常にタイトなスケジュールになります。
相続不動産を売却するまでの流れ【6ステップ】
実際に相続不動産を売却する際の手続きは、以下の6つのステップに沿って進行します。全体でスムーズにいっても半年〜1年程度の期間を見込んでおくとよいでしょう。

ステップ1:遺言書の確認と相続人の確定
まずは、亡くなった方が遺言書を残していないか確認します。有効な遺言書があれば、原則としてその内容に従って不動産の帰属が決まります。
遺言書がない場合は、亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を集め、法律上の相続人が誰であるかを漏れなく調査・確定させます。
ステップ2:遺産分割協議書の作成
相続人全員で集まり(または連絡を取り合い)、不動産を含むすべての遺産の分け方を話し合います。全員の合意が得られたら、その内容を証明する「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。
ステップ3:相続登記で名義変更
遺産分割協議書や戸籍謄本などの必要書類を揃え、不動産の所在地を管轄する法務局へ「所有権移転登記(相続登記)」の申請を行います。自分で行うことも可能ですが、書類に不備が出やすいため、司法書士などの専門家に依頼するのが確実です。
ステップ4:不動産会社に査定依頼
名義変更の目処が立ったら(または並行して)、不動産会社に物件の査定を依頼します。
この際、売却方法には大きく分けて「仲介」と「買取」があります。
- 仲介:市場で一般の買い手を探す方法。時間はかかりますが、高く売れる可能性が上がります。
- 買取:不動産会社や専門業者が直接購入する方法。市場価格より安くなることが多い一方、短期間で現金化しやすく、古い家でも売主の契約不適合責任(瑕疵担保責任)が免除され、現状のまま安心して手放せるという大きなメリットがあります。相続税の納税期限が迫っている場合にも有効です。
ステップ5:売却活動と契約・決済
「仲介」を選んだ場合は、不動産会社と媒介契約を結び、購入希望者を探す売却活動(広告や内覧など)を行います。買い手が見つかったら売買契約を結び、手付金の受領、残代金の決済、そして鍵と物件の引き渡し(同時に買い手への名義変更登記)を行います。
ステップ6:売却後の確定申告
不動産を売却した年の翌年2月16日〜3月15日の間に、税務署へ所得税(譲渡所得税)の確定申告を行います。
ここで重要なのは、「不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合はもちろん、特例を使って税金を0円にする場合も確定申告が必要である」という点です。申告を忘れると節税特例が受けられなくなるため、必ず期限内に行ってください。
相続不動産の売却にかかる費用・手数料一覧
不動産を売却して現金が手元に入るとしても、すべてが利益になるわけではありません。売却時にはさまざまな諸経費や手続き費用が発生します。あらかじめ「何にいくらかかるのか」の全体像を把握しておきましょう。
① 売却時にかかる諸経費(仲介手数料・印紙税など)
不動産を売り出す際、および売買契約が成立した際に発生する主な経費は以下の通りです。
| 費用項目 | 目安・計算方法 | 支払うタイミング |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 売却価格×3%+6万円+消費税※1 | 売買契約時と引き渡し時に半々、または引き渡し時に一括 |
| 印紙税(契約書) | 売却価格による(例:1,000万〜5,000万円以下は1万円) | 売買契約締結時 |
| 測量費・境界確定費 | 35万〜100万円程度(土地の広さや所在地、隣接者の数による) | 作業開始時と作業完了後に半々、または作業完了後に一括 |
| 解体費(更地にする場合) | 木造:坪4万〜6万円、RC造:坪6万〜10万円程度※2 | 引き渡し前まで |
| 残置物の処分費 | 10万〜50万円程度(一軒家の場合)※2 | 引き渡し前まで |
- ※1
- 売却価格が400万円を超える場合の原則的な上限額です。売却価格が400万円以下の場合は、別の計算式で上限額を計算します。
- ※2
- 解体する建物等にアスベストが含まれると倍以上になるケースもあります。
なお、価格が800万円以下の宅地・建物については、「低廉な空家等」の媒介報酬の特例が適用される場合があります。この特例が適用されると、原則の計算式による上限額を超えて仲介手数料がかかることがあります(上限 税込33万円)。
② 相続手続きにかかる費用(登録免許税・司法書士報酬など)
売却活動の前段階である「相続登記(名義変更)」にかかる費用です。
- 登録免許税(国税):登記時に法務局へ納める税金です。「不動産の固定資産税評価額 × 0.4%」で計算されます。例えば、評価額3,000万円の土地であれば12万円になります。
- 司法書士への報酬:相続登記を司法書士に代行してもらう場合の費用です。戸籍謄本の収集代行や物件の数にもよりますが、6万〜15万円程度が相場です。
- 必要書類の取得費用:戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書などの発行手数料で、数千円〜1万円程度かかります。
相続不動産の売却にかかる税金と「節税特例」
相続した不動産を売却して利益が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税(所得税・住民税)」が課税されます。税理士の視点から、その計算の仕組みと強力な節税特例を解説します。
① 譲渡所得税の計算式(いくら儲かったら課税される?)
税金が課されるのは、売却価格そのものではなく、売却によって得られた「利益(譲渡所得)」に対してです。
譲渡所得の計算式
- 取得費:亡くなった方がその不動産を購入したときの代金や手数料(不明な場合は売却価格の5%で計算)。
- 譲渡費用:今回の売却のために直接かかった費用(仲介手数料や解体費など)。
この計算でプラス(利益)が出た場合、不動産の所有期間に応じた税率を掛け合わせて税額を計算します。相続の場合、所有期間は亡くなった方の保有期間をそのまま引き継ぐことができます。
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):税率 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):税率 39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
② 取得費加算の特例(相続税を売却経費にできる3年10カ月ルール)
相続税を支払った人が、相続した不動産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費(経費)」に上乗せできる特例です。経費が増えるため、結果として譲渡所得税を安く抑えることができます。
この特例を受けるための期限は、「相続開始があった日の翌日から3年10カ月以内」です。相続税の納税負担が重い方にとっては、非常にメリットの大きい制度です。
③ 空き家特例(相続した空き家の3,000万円特別控除)
一人暮らしだった親の実家などを相続し、一定の要件を満たしてその空き家(または解体後の土地)を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円まで控除できる非常に強力な特例です。
主な適用要件は以下の通りです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)であること
- 相続開始の直前において、被相続人以外に誰も住んでいなかったこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 売却時までに新耐震基準に適合させるリフォームを行うか、または家を解体して更地にして売却すること
現在では法改正により、売却後に買主側が翌年2月15日までに耐震リフォームや解体を行った場合でも特例が適用できるようになり、使い勝手が向上しています。
④ 小規模宅地等の特例との併用・注意点
相続税を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」と、売却時の税金を安くする「取得費加算の特例」や「空き家特例」は、制度ごとに併用の可否や注意点が異なります。
- 取得費加算の特例との併用:可能
- 小規模宅地等の特例を使って相続税を抑えた場合でも、売却時に取得費加算の特例を使える場合があります。
ただし、小規模宅地等の特例を使うと、相続税の計算上の土地評価額や相続税額が下がるため、取得費に加算できる金額も小さくなる場合があります。 - 空き家特例との併用:ケースによる
- 空き家特例と小規模宅地等の特例を併用できるかは、状況によって異なります。
空き家特例は、相続開始直前に被相続人が原則として一人で住んでいた家屋などが対象です。一方、小規模宅地等の特例は、配偶者が取得する場合、同居親族が取得する場合、一定の別居親族が取得する場合など、取得者によって要件が異なります。
そのため、被相続人と同居していた親族が自宅敷地について小規模宅地等の特例を使うケースでは、空き家特例の要件と両立できないことがあります。
併用できるかどうかは相続人の状況や被相続人の居住状況によって変わるため、個別に確認が必要です。
なお、同じ不動産について「空き家特例」と「取得費加算の特例」は併用できません。どちらを使う方が有利かは、売却益、相続税額、控除額、相続人の人数などによって変わります。
このように、相続税と譲渡所得税の特例が絡むと、適用の可否や有利・不利の判断が非常に複雑になります。誤った選択をすると数百万円単位で手残りが変わる可能性もあるため、自己判断せず、必ず事前に税理士へ確認することをおすすめします。
⑤ 【シミュレーション】特例の有無で税金はいくら変わる?
実家(親の保有期間5年超、取得費不明のため売却額の5%とする)を3,000万円で売却し、譲渡費用(仲介手数料など)に100万円かかった場合の税金を比較してみましょう。
【ケースA】特例を何も使わない場合
譲渡所得税額:2,750万円 × 20.315% = 約559万円
【ケースB】「空き家特例(3,000万円控除)」を適用した場合
特別控除:2,750万円 - 3,000万円 = 0円(マイナスになるためゼロ)
譲渡所得税額:0円
特例を知っているか・適用できるかで、実に約558万円もの税金の差が生まれます。
相続不動産売却でよくあるトラブルと解決策
相続不動産の売却は、親族間の感情や古い物件特有の問題が絡むため、トラブルに発展しやすい傾向があります。代表的な事例と解決策を見ていきましょう。
売却方針について相続人間で意見がまとまらない
不動産を売るか残すか、あるいはいくらで売り出すかなど、遺産分割協議の段階で相続人同士の売却方針が一致せず、話し合いが平行線をたどってしまうケースです。
解決策
相続人が行方不明
相続人の一人と連絡がつかない、どこにいるか分からない場合、遺産分割協議が進められないため売却も登記もできません。
解決策
共有分割した共有者と売却方針がまとまらない
過去の相続などで不動産を深く考えずに複数人の「共有名義」で登記してしまい、いざ売却しようとした段階で、一部の共有者が売却に反対して話が進まなくなるケースです。共有不動産は、共有者全員の同意がなければ全体を売却することができません。
解決策
境界確定・測量トラブル
地方の土地や古い実家などの場合、隣の土地との境界線がどこにあるか分からないケースがよくあります。境界(筆界)がはっきりしていない土地は、購入後のトラブルを恐れて買い手がつきにくく、売却が進まない原因になります。
解決策
残置物が多い家の売却
家具や家電、衣類などの「遺品(残置物)」が大量に残っていると、そのままでは売却できません。
解決策
地方の空き家・再建築不可物件
過疎化が進む地方の物件や、法律上の理由(接道義務違反など)で一度壊すと二度と家が建てられない「再建築不可物件」は、仲介で売り出しても買い手が見つからない可能性が高いです。
解決策
相続不動産を高く・スムーズに売却するためのポイント
大切な資産である不動産を、損することなく、かつ円満に売却するための4つの鉄則です。
ポイント1:売却のタイミングを見極める
前述の通り、「取得費加算の特例(3年10カ月以内)」などの税制上の期限があるため、相続税が発生している場合は早期の売却活動がカギとなります。また、不動産の所有期間が5年を超える(長期譲渡所得になる)タイミングまで待ってから売る方が税率が半分近く下がるため、亡くなった方の取得時期を必ず確認しましょう。
ポイント2:仲介と買取を比較する
「少しでも高く売りたい(時間に余裕がある)」なら仲介、「相続税の納税期限に間に合わせたい」「近所に知られずに早く手放したい」なら買取を選びます。両方の査定を取って比較することが大切です。
ポイント3:専門家の専門分野を理解する
不動産売却には多くの専門家が登場しますが、それぞれ役割が異なります。
- 税理士:税金の計算、節税特例の適用、確定申告
- 司法書士:相続登記(名義変更)の手続き
- 不動産会社:物件の査定、買い手探し、売買契約の仲介
「税金のことは不動産会社に聞けばいいや」と安易に判断すると、特例の要件漏れなどを見落とすリスクがあるため、税金のことは必ず税理士に相談しましょう。
ポイント4:ワンストップ対応の事務所を利用する
登記は司法書士、税金は税理士、売却は不動産会社…と、個別に自分で探して相談するのは非常に手間がかかり、情報連携のミスも起こりやすいです。
税理士・司法書士・行政書士が在籍し、提携する優良不動産会社とも連携が取れている「ワンストップ対応の士業グループ」に相談することで、窓口が一つになり、最もスムーズかつスピーディーに進めることができます。
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【FAQ】相続不動産の売却に関するよくある質問
日々お客様からいただく、不動産売却にまつわる代表的な疑問にお答えします。
Q.相続税がかからない(基礎控除内)場合でも、不動産を売却したら確定申告は必要?
「相続税がかからなかったから、売却の確定申告も不要」と勘違いされるケースが非常に多いですが、相続税(財産をもらったときにかかる税金)と、譲渡所得税(財産を売って利益が出たときにかかる税金)は全くの別物です。
また、「空き家特例」などを使って最終的な税額を0円にする場合も、「特例を使います」という申告書を国に提出しなければ適用されませんのでご注意ください。
Q.遠方にある実家を売却したい場合、地元の不動産会社と都市部の会社どちらに頼むべき?
Q.古家付きのまま売るか、更地にしてから売るのではどちらが有利?
まとめ|相続不動産売却は「期限」と「税金対策」がカギ
相続した不動産の売却は、単に売りに出すだけでなく、「相続登記の義務化への対応」「遺産分割協議の成立」「各種税金の特例の活用」など、クリアすべきハードルが数多く存在します。
特に税金面においては、数カ月の期限の遅れや手続きの順番の違いだけで、数百万円単位の損をしてしまうケースが珍しくありません。
「損をせずに、できるだけスムーズに実家を売却したい」「自分の場合はどの特例が使えるのか知りたい」という方は、ぜひ一度、相続の手続きから税務申告、不動産売却のサポートまでワンストップで対応可能な、VSG相続税理士法人へお気軽にご相談ください。

