令和8年度税制改正において貸付用不動産の評価方法の見直しを行う方針が示されていましたが、9月18日に「貸付用不動産の評価についての法令解釈通達(案)」に対するパブリックコメントが開始されました。10月18日まで意見募集をしています。
目次
法令解釈通達(案)の内容
貸付用不動産の評価は通常の取引価額
貸付用不動産の評価についての法令解釈通達(案)では、土地等並びに家屋等のうち、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築された貸付用不動産の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとされました。
必ず80%とは限らない
ただし、貸付用不動産の取得価額がその取得等の時における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、次に定める金額の80%相当額によって評価することができます。
- 土地等:取得価額に地価変動率(課税時期の属する年に係る評価基準額※/土地等の取得の時の属する年に係る評価基準額)を乗じた金額
- 家屋等:取得等の時から課税時期までの期間の償却費を控除した金額
- ※
- 評価基準額は、路線価や倍率方式により評価した土地等の価額、これらが不適当と認められる場合は公示価格など
貸付用不動産を取得したときの価額が、「通常の」取引価額(時価)であれば、取得価額×80%で評価できることになりますが、取得したときの価額が時価とかけ離れているような場合は80%は使えず、通常の取引価額(時価)となります。
貸付用不動産の意義
家屋又は宅地
新通達案では、貸付用不動産を「その全部若しくは一部が借家権の目的となっている家屋・・・又は当該家屋の敷地の用に供されている宅地若しくは宅地の上に存する権利」としていますので、建物の賃借権の目的になっている家屋と、その敷地(借地権を含む)となります。
借家権の目的となっている家屋のうしろにはかっこ書きで「当該家屋とともに賃貸されている附属設備又は構築物を含む。」とありますので、家屋と一体で貸しているものは貸付用不動産として扱います。
宅地若しくは宅地の上に存する権利の後ろにはかっこ書きで当該宅地又は当該権利とともに賃貸されている土地等を含むとありますので、貸付用不動産に賃貸アパートに併設されている駐車場敷地や専用の庭、通路なども含まれます。
対価を伴う取引により取得した者から相続しても適用あり
相続等により取得した貸付用不動産であっても、その不動産自体が「課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築(取得等)」されたものであれば、原則として通常の取引価額(市場価格)での評価となります。
被相続人が対価を伴う取引により取得等した場合はもとより、夫が貸付用不動産を購入した後相続が発生し、妻がその物件を相続し、妻の相続が発生した場合も一連の流れが5年以内であれば今回の通達が適用されることになります。
また、収用等の代替資産として取得したものや、特定の買換え・交換の特例等の適用を受けたものなど、もともと所有していた不動産が他の不動産となっただけであり、現金を不動産に変えることで税負担を軽減しようとしているわけではない、一定の要件を満たす不動産については除外される規定が盛り込まれています。
課税時期前5年以内に、「取得等」ではなく、「増築又は改築」された場合は、母体となる家屋等の取得等が課税時期前5年超の場合、新通達は適用されません。これは取得理由が「相続等」であっても同じです。
相続を一度挟んでも変わることはなく、家屋等の対価を伴う取得等が課税時期前5年以内であれば新通達が適用されますが、課税時期前5年超の場合、新通達の対象とはなりません。
貸家建付地評価は?小規模宅地等の特例は?非上場株式の評価では?
公表された案の冒頭では、「・・・「財産評価基本通達」・・・第2章から第4章まで及び・・・「居住用の区分所有財産の評価について」・・・の定めにかかわらず」とあることから、貸付用不動産の評価額が下がる原因となっていた貸家建付地評価はできないことになります。
また、今回は通達であり、租税特別措置法については何ら触れられていないことから、3年以内貸付宅地等に該当しないのであれば小規模宅地等の特例の適用は可能と考えられます。
今回の新通達は、財産評価基本通達185非上場株式の評価時の純資産価額評価において、土地等又は家屋等を評価する場合には適用がないとされました。
不動産の評価は年々複雑となってきています。3年、5年と規定によって異なりますので、どのような物件か、適用される法律や通達はどの通達かをひとつひとつ確認することが大切です。
1. 経過措置
通達制定日前5年以内に取得された土地等以外のもの、通達制定日前5年以内に相続により取得された土地等に新築された家屋等(同日において建築中のものを含む)については、今回の新通達の対象にはなりません。
この「建築中」に対しては家屋等の請負契約その他新築に係る契約が締結され、通達制定日において当該家屋等の新築に係る工事が行われており、その費用の全部又は一部が支払われていることをいうとされており、実際に着工され支払いも一部なされていることが必要とされています。通達制定日までに建築を考えている場合はタイムリミットがせまっています。
不動産小口化商品はどうなる?
1. 新通達の対象となる小口化商品は
不動産特定共同事業法第2条第3項第1号(①)及び第3号に掲げるもの(②)と、土地等又は家屋等の管理及び処分を行うことを目的とする信託に係る信託受益権(③)の目的となっている貸付用不動産の価額は、新通達の適用対象となります。
上述の①は組合を通じて出資者は不動産を共同所有している扱いになり、②は不動産を持ち分によって直接所有する形態です。
③は実質的に不動産の所有・運用をしている信託から利益の配分を受けるものであることから、これらは相続税評価において現物不動産として扱われ、不動産としての評価減が可能とされていますが、新通達が適用されると課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することになります。
2. 適正な価格情報に基づくなら90%
原則は「通常の取引価額」、つまり時価です。
ただし、特定小口化商品の元本等相当額が適正な価格情報に基づくと認められる場合には、精通者意見価格、売買実例価額、定期報告書等の不動産の価格等を参酌して評価することができるとされ、この場合、以下のP1の金額によって評価しますが、P2、P3の金額が明らかであるときは、P1、P2、P3のもっとも低いもので評価できます。
- P1
- 特定小口化商品の元本等相当額の90%での評価となります。
また、課税時期前5年以内に開始された事業に係る特定小口化商品の場合、95%相当額となります。
課税時期前5年超に開始された事業の場合でその元本等相当額によって評価することが不適当な場合、売買実例価額などの価格情報で変動割合を明らかにするものに基づいて元本相当額を修正した金額とすることができます。
ここでの「5年」は小口化商品のもととなっている事業がスタートしてから相続開始までの5年であり、投資家が取得してからではないことに注意してください。 - P2
- 課税時期における貸付用不動産の精通者意見価格(事業者が有する適正な価格情報を含む。)
- P3
- 課税時期前1年以内に行われた鑑定評価による貸付用不動産の鑑定評価額(事業者の依頼により不動産鑑定士が鑑定評価した価額で、当該課税時期に最も近い日におけるものに限る。)の100分の95に相当する金額
おわりに
賃貸併用住宅の場合の評価方法や、空室のある場合の評価方法、長期的に空室の場合や貸し出し前の物件、居住用として取得したものを賃貸用に変えるつもりがまだ店子がついていない状態など、まだ不明な部分が残っています。パブコメで論点となりそうな部分でしょう。
不動産小口化商品は、相続税評価額が時価の2割から3割となる商品もありましたが、今後は9割となることから、かなりの影響が出ることになります。
通達案は令和9年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与に適用されることになりますので、令和8年中の贈与であれば現状の評価方法が可能ですが、小規模宅地等の特例が使えませんし、暦年贈与だと税額が高くなることから相続時精算課税制度の活用も検討すべきでしょう。
登録免許税や不動産取得税などの支出も伴いますので、財産を動かす前に、専門家に相談しましょう。

