東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
弁護士特約とは、自身が加入している任意保険についている特約のことです。
弁護士特約の内容としては、交通事故の相手方との示談交渉を弁護士へ依頼する場合、300万円を限度として、弁護士費用を保険会社が支払ってくれるというものです。
また、弁護士に正式に委任する前の弁護士相談料についても、この弁護士特約をつけていれば、保険会社から10万円を限度として支払われることになります。
このように、任意保険で契約している内容に弁護士特約がついていれば、交通事故に遭った場合に弁護士費用を自費で負担せずに弁護士に依頼することができます。
弁護士費用は決して安いものではありません。
例えば、弁護士に依頼して加害者に100万円を請求する場合と10万円を請求する場合では、弁護士側にかかる労力はほぼ同じのため、請求額が少ないほど弁護士費用倒れのリスクが高くなります。
また、加害者が任意保険に加入していない場合には、加害者から修理費の回収をすることが困難です。
そのため、このようなケースで弁護士に依頼していると、回収額よりも弁護士費用の方が高額となってしまうこともあります。
そして、弁護士費用を出せないために加害者への請求も諦めてしまう人もいます。
そんな時に、弁護士特約を利用できれば、保険会社が負担してくれる上限までは弁護士費用の心配はいらなくなります。
また、弁護士特約は自動車保険のみならず、火災保険や医療保険にもつけることができ、その弁護士特約で、交通事故についても利用できる場合があります。
任意保険会社によっては、自賠責保険から支給された分を経済的利益に含まないとして、自賠責から支給された金額分の支払を拒否される場合があります。
つまり、すべてのケースで弁護士費用がゼロになるわけではないのです。
弁護士特約を利用しても弁護士費用がゼロとならないケースは、次のとおりです。
最近の弁護士費用のパターンで最も多いのが、『着手金が無料、成功報酬が20万円+回収できた賠償額の10%(税抜)』というものです。
例えば、交通事故の被害者が弁護士に示談交渉を委任して、賠償金2,000万円を相手方から回収できた場合で、上記の弁護士費用を計算すると、220万円です。
しかし、保険会社から「2,000万円のうち120万円は自賠責保険から支給されることになるため、経済的利益は1,880万円」と主張される場合があるようです。
その場合、弁護士費用の支給額は208万円となり、経済的利益2,000万円の場合の弁護士費用と比べると12万円の差があります。
この差額分を被害者の負担とするか、弁護士がその分を値引きするかは、被害者と弁護士の契約内容次第、もしくは別途検討することとなります。
このように、弁護士費用が弁護士特約の上限300万円を超えない場合であっても、弁護士費用が被害者の負担となってしまう可能性が考えられるのです。
例えば、6,000万円の賠償金を回収できた場合に、前述している弁護士費用の計算方法で計算すると、620万円となり、弁護士特約の上限300万円を超えることになります。
このように、弁護士費用が300万円を超えることになると、超える分については被害者の自己負担となってしまいます。
しかし、裁判によって相手から差額分の弁護士費用も回収できる可能性があり、弁護士費用を支払っても、回収できる賠償金の手取金額が増えるケースも多くあります。
弁護士特約がついている場合、「弁護士保険における弁護士費用の保険金支払基準」という基準に沿って、保険会社から弁護士費用が支給されます。
しかし、現在では弁護士の料金設定は自由化されているため、保険会社の支給基準を超える内容で弁護士と委任契約を締結した場合には、差額分を自費で負担しなければならない可能性があります。
弁護士特約のデメリットは、どんなケースでも必ず弁護士費用の負担がゼロになるわけではなく、弁護士費用が自費になるケースもあるという点です。
さらに、弁護士特約をつけている場合は、弁護士特約をつけていない場合と比べて保険料が月々数百円上がることが多いです。
交通事故に遭わなければ、弁護士特約をつけた分の保険料が無駄になってしまうと考えられますが、万が一に備えるという意味では、決して無駄な保険料の支払いではないと思われます。
また、交通事故の被害者となった場合で、弁護士特約のみを利用した場合には、保険の等級が下がることはありません。
弁護士特約は、保険契約者本人だけが利用できるものではありません。
交通事故被害者が弁護士特約をつけていない場合、家族が弁護士特約をつけていれば利用できる可能性があります。
弁護士特約を家族が利用できる範囲としては、記名保険者と被害者の関係が下記の場合です。
上記の他にも利用できるケースがあるので、保険会社へ問い合わせるとよいでしょう。
ここからは、弁護士特約を使ってみた方の感想を見てみましょう。
弁護士特約は、人身事故の場合のみでしか利用できないというイメージを持つ方が多くいるようですが、物損事故についても弁護士特約は利用できます。
弁護士特約の契約約款の「保険金を支払う場合」という項目の中で、「人的損害」や「物的損害」といった表現が記載されています。
つまり、人身事故でも物損事故でも、弁護士特約を利用できるのです。
また、物損事故は人身損害を伴わない事故なので、交通事故としては比較的軽微なものといえます。
したがって、物損事故は人身事故に比べると損害額も少額となる場合が多く、弁護士特約を利用しても弁護士費用倒れの可能性は非常に低いでしょう。
弁護士特約を利用すれば、物損事故の場合でも相手方(もしくは相手方保険会社)と交渉をする際の弁護士費用の負担を減らすことができます。
次は、物損事故の場合の弁護士特約の使い方について解説します。
交通事故に遭ったら、まずは自身の契約している保険会社に事故発生の報告をしましょう。
保険会社によって書式は異なりますが、「事故発生状況書」という書式に事故の情報を記入して、保険会社に提出するのが一般的です。
電話等で直接保険会社に交通事故の報告をする時には、事故発生日時、発生場所、事故状況や加害者の情報等も併せて伝えるとスムーズです。
保険会社へ弁護士特約を利用する旨を伝えた後、早速依頼する弁護士を探すことになります。
多くの場合、弁護士特約を利用するとなると、保険会社から弁護士を紹介してくれます。
しかし、保険会社からの紹介ではなく、自分で依頼する弁護士を探すことも可能です。
自分で弁護士を探す場合には、必ずしも弁護士費用全額が弁護士特約から支払われるというわけではありません。
もし、自分で探した弁護士に依頼して弁護士特約を利用したい場合には、事前に保険会社へ確認することが重要です。
自分で弁護士を探すとなると、知り合いに弁護士がいる場合はともかく、どの弁護士に依頼すればよいのかと不安になるかと思います。
インターネットで弁護士を探す場合には、交通事故問題に強い弁護士を探すようにしましょう。
検索エンジン等で「交通事故 弁護士」等のワードで検索し、上位に出てくる弁護士や法律事務所のホームページのうち、交通事故事案の情報が詳細に載っているところをおすすめします。
無事、弁護士特約を利用して依頼する弁護士が決まった場合には、被害者本人と依頼する弁護士の間で締結された委任契約の内容を保険会社に通知します。
保険会社の中には、着手金や成功報酬について記載のある委任契約書の提出が必要な会社もあります。
弁護士特約をつけると保険料が割高になるし、交通事故に遭っても保険会社が相手方と示談交渉をしてくれるなら、弁護士特約はいらないのでは?とお考えの方もいると思います。
しかし、交通事故の内容によっては、保険会社が被害者の代わりに示談交渉をできないケースがあります。
そのため、保険会社が示談交渉を行ってくれない場合には、被害者自身で示談交渉を行うか、弁護士に示談交渉を依頼するかということになります。
保険会社が被害者の代わりに示談交渉できないケースでこそ、弁護士特約が役立ちます。
また、評価損や修理費の請求にも弁護士特約は役立ちます。
ここでは、上記の場合に弁護士特約がどのように使えるかについて解説します。
交通事故の中で、保険会社が被害者の代わりに示談交渉をできないケースは、追突事故・当て逃げ・もらい事故等があります。
上記の3つの事故の共通点は、被害者の過失がゼロであるということです。
なぜ、これらの事故のケースは保険会社が示談交渉を代行できないかというと、被害者に過失がないため、保険会社は被害者に保険金を払う義務がないということになるからです。
保険会社には、法的に追突事故・当て逃げ・もらい事故の示談交渉の代行権限がなく、万が一これらの事故ケースの示談交渉を保険会社が代行してしまうと、非弁行為とされ違法行為となります。
被害者に過失のない追突事故・当て逃げ・もらい事故に遭った場合、弁護士特約をつけていれば、スムーズに弁護士に依頼し、示談交渉を代行してもらうことが可能です。
しかし、弁護士特約をつけていない場合の追突事故・当て逃げ・もらい事故では、弁護士費用を自費で負担しなければならない点と、弁護士費用倒れのリスクがある点から、示談交渉を被害者自身で行うことになります。
被害者自身でも、当然ながら示談交渉を行うことはできますが、被害者側に過失がない事故であっても、加害者が自身の非を認めないことも考えられます。
そのような場合には、弁護士費用も自費となり、加害者とまともに示談交渉ができないことから、被害者が泣き寝入りするしかないというケースが多くなります。
このように、弁護士特約をつけていなければ諦めるしかなかった慰謝料や損害賠償請求も弁護士特約をつけていれば弁護士費用の負担を気にすることなく回収できるのです。
加害者側が任意保険に入っていれば、被害者車両の修理費は加害者側保険会社から出ることになります。
しかし、被害者車両が高級車であった場合、車両を修理しても、その車両自体には事故歴や修理歴がついてしまいます。
そのため、被害者車両を後々売却しようとしたとしても、事故車扱いとなってしまい、評価額が大幅に低くなります。
特に高級車の場合には、元値が高いので、その分値下がり額も大きくなってしまいます。
このように、事故や修理等で評価額が下がることに対する損害を評価損といい、高級車であれば、評価損は非常に重要な損害となります。
しかし、評価損は被害者自身が加害者側の保険会社と交渉しても支払ってくれることはほとんどありません。
評価損は、損害賠償請求訴訟を提起することで初めて認められる可能性があります。
弁護士特約を利用して弁護士に示談交渉を依頼すれば、上限300万円の範囲で、費用を心配することなく、適正な主張のもと加害者側の保険会社に請求することが可能です。
また、事故の相手方の車両が高級車であった場合、修理費が高額となってしまう可能性があり、高額な修理費が不当であることを保険会社が主張してくることもあります。
このように、物損事故での損害賠償請求は、ディーラー作成の車両の修理費の見積書を保険会社へ提出すればよいというわけではありません。
以上のように、被害者の過失がゼロの事故の場合や、高級車が事故に遭った場合等には、弁護士に依頼することで相手方との示談交渉がスムーズに進み、適正な損害賠償額を回収することが可能となるのです。
そして、弁護士費用の負担だけでなく、自分で示談交渉を行うという身体的・精神的負担も減らすことができるため、弁護士特約は物損事故においても非常に役立ちます。
弁護士特約は、被害者にとって非常にありがたい特約ですが、弁護士特約を利用できないケースもあるので注意が必要です。
弁護士特約を利用できない交通事故は、次のとおりです。
弁護士特約は、基本的に「自動車事故弁護士費用等補償特約」のことを示します。
その名のとおり、自動車事故にのみ適用できる弁護士特約です。
ここで自動車に含まれるのは一般的に原付バイクまでとされているため、自転車同士の事故や、歩行者と自転車の事故の場合には、弁護士特約を利用できません。
しかし、交通事故は車同士で発生するものだけではありません。
自分が自転車に乗っていて、車と衝突したといったような交通事故も発生します。
原付バイクを含む車と自転車の交通事故の場合には、弁護士特約が対象となります。
自動車同士(または自動車と自転車)の交通事故では、過失割合が重要になります。
過失割合は、人身事故でも物損事故でも関係してくる割合です。
例えば、自分は赤信号で停車中に、後ろから別の車両に追突された交通事故の場合なら、明らかに自分に過失はありません。
しかし、被害者であっても交通事故の状況によっては過失がある場合があります。
被害者の過失が小さければ、弁護士特約を利用できますが、被害者に故意または重過失があった場合は弁護士特約を利用することができません。
たとえば、過失割合として加害者9、被害者1という場合には弁護士特約を利用できますが、加害者2、被害者8という過失割合となった場合には、保険会社が例外的に同意した場合をのぞき、弁護士特約は利用できないのです。
なぜ被害者に過失が大きいと、原則として弁護士特約を利用できないのでしょうか。
その理由は、保険会社側としては、できるだけ保険金を支払いたくないという思いがあるため、弁護士費用を支払うという名目の弁護士特約を利用されることについてもあまり前向きに考えていないことです。
また、被害者側に過失が少しでもあれば、最終的に被害者側の保険会社が保険金を相手方へ支払うことになるため、被害者側の保険会社は相手方との示談交渉を行うことになります。
そのため、保険会社が被害者の代理で示談交渉できる場合には、別途費用が発生する弁護士に依頼したくないのでしょう。
このような事情があるため、保険会社は弁護士特約の利用に積極的ではなく、弁護士特約を利用できる場合でも、保険会社側から保険会社で提携している弁護士を紹介しようとします。
このように、弁護士特約を利用できないケースも存在しますが、示談交渉は被害者本人で行うよりも弁護士に依頼して行う方がより確実に交渉できます。
弁護士特約に不明点がある場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。
加入している任意保険に弁護士特約が付いていれば、交通事故の示談交渉を弁護士へ依頼した際の弁護士費用を保険会社に負担してもらえます。
上限300万円という金額の制限はありますが、人身事故でも物損事故でも弁護士特約は使えます。
弁護士特約を使いたい場合は、保険会社へ事故状況を報告するときに弁護士特約を利用する旨も伝えましょう。
交通事故の示談交渉は自分で行うよりも弁護士に依頼した方がより確実に交渉でき、精神的なストレスも減らせます。
示談交渉の進行に不安がある場合には、弁護士特約を利用して弁護士に依頼することをおすすめします。