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交通事故後に作成する実況見分調書とは?取り寄せ方と注意点

弁護士 石木貴治

この記事の執筆者 弁護士 石木貴治

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/ishiki/

交通事故後に作成する実況見分調書とは?取り寄せ方と注意点

この記事でわかること

  • 実況見分調書がどのようなものかわかる
  • 実況見分の流れがわかる
  • 実況見分調書を入手する方法がわかる

交通事故に遭ったあと、相手と言い分が食い違って示談交渉が進まなくなることがよくあります。

そのようなときに自分の言い分を証明して適切な損害賠償金を支払ってもらうために重要な証拠となるのが「実況見分調書」です。

とはいえ、実況見分調書がどのようなものかを知っている人は少ないでしょう。

ここでは、実況見分調書とはどういったものなのか、作成段階で交通事故の被害者として注意すべきことは何かなどを解説します。

実況見分調書とは?

実況見分とは、交通事故の現場で警察官が事故の詳細を調査することです。

事故の当事者や参考人の立会いのもと現場検証を行い、その調査結果をまとめた書類を「実況見分調書」といいます。

警察官が道路脇にパトカーを止めて、道路上にチョークで印をつけたり、写真を撮ったりしているシーンを見たことがある人も多いと思います。

そのシーンが「実況見分」です。

実況見分調書を作成する理由は、事故の当事者の刑事処分を決める際の証拠を集めるためです。

人身事故では事故の当事者が刑事事件として立件されることがあるため、警察による犯罪捜査として実況見分が行われます。

なお、物損事故の場合は事故の当事者が刑事事件として立件されることはないので、実況見分調書は作成されません。

「物件事故報告書」という簡潔なA4一枚の報告書が作成されるだけです。

ただし、実況見分調書は事故の当事者が書くものではなく、警察官が書くものです

当事者は警察官に事故の発生状況などを話すだけになります。

実況見分調書の記載内容

実況見分調書には以下の内容が記載されます。

  • 実況見分の実施日時
  • 実況見分の実施場所
  • 実況見分時や事故当時の天候
  • 立会人の氏名・住所および職業や年齢
  • 事故当時の路面状況(舗装または未舗装の道路、乾燥または湿っていたかなど)
  • 事故現場の道路状況(道路の勾配や障害物、交通規制の有無など)
  • 事故の証跡の有無(ブレーキ痕やスリップ痕の有無など)
  • 事故の発生状況(走行速度や信号の色、衝突時の車両位置など)
  • 事故車両の状態

実況見分では事故現場を撮影し、見取り図も作成されるので、実況見分調書は客観的な証拠になります。

実況見分調書は証拠能力がある

実況見分調書は刑事手続きに利用するためのものですが、民事上で損害賠償請求をする際にも証拠能力がある資料として利用できます。

事故の発生状況について当事者の言い分が食い違う場合は、過失割合などの話し合いがまとまらず、示談交渉が進まないことがあります。

ここで実況見分調書が有力な証拠となるのです。

ただし、自分の言い分を証明して適切な損害賠償金を受け取るためには、実況見分調書に事故の発生状況などが正確に記載されていることが前提です。

記載内容が間違っていると、自分の言い分を証明できないだけでなく、場合によっては相手の言い分が証明されてしまいます。

逆にこちらが多くの損害賠償金を支払うことになる可能性もあります。

したがって、実況見分調書に何が記載されるかは、民事で損害賠償請求をするためにも非常に重要です。

供述調書との違い

供述調書も、人身事故で警察が捜査をする際に作成する書類です。

通常、実況見分調書は交通事故の現場で立会人が説明した客観的な事実を記録します。

ただし、供述調書はその人が話した内容を物語式の文章でまとめるものです。

客観的な事実だけではなく、加害者に対する感情なども記載されます。

また、供述調書を作成する際には、警察官が記載した内容を読み上げて間違いないかどうかを確認します。

間違いないことを確認して初めて、調書への署名・押印を求められるという流れです。

それに対して実況見分調書を作成する際には、記載内容に間違いないかどうかを立会人に求める手続きはありません。

立会人が調書に署名・押印することもありません。

したがって、実況見分調書には自分の言い分と違う内容が記載されてしまう危険性が供述調書よりも高いという問題点があります。

実況見分の流れと調書の作成の際に聞かれること

実況見分調書に何が書かれるかは、当事者が何を話すかに左右されます

つまり、何を話すかが非常に重要になりますが、そのためには実況見分でどのような捜査が行われるのかを知っておく必要があります。

実況見分で行われる捜査内容は「現場の客観的な状況」と「事故の発生状況」の2つです。

現場の客観的な状況

現場の客観的な状況の調査においては、立会人が説明をすることはありません。

現場の状況を警察官が現認するのみです

警察官が現場の客観的な状況を確認して実況見分調書に記載する事項は、以下のようなものです。

確認項目内容
事故現場の条件
  • ・現場の交通量
  • ・市街地、郊外、山道などの場所的条件
  • ・道幅や勾配の角度、見通しの良し悪し
  • ・家屋や樹木など見通しを妨げるものがあるか
交通規制の有無
  • ・規制速度や優先道路の有無
  • ・信号の有無や信号の表示サイクル
  • ・標識の内容と設置場所
道路の条件
  • ・舗装された道路か砂利道か
  • ・路面が乾燥しているか濡れているか
  • ・事故当時の天候、事故当時の明るさ

事故の発生状況

事故の発生状況は、立会人の指示説明に基づいて警察官が現場の状況と照らし合わせて確認したり、距離を計測したりします

以下のように分析的に細かく立会人から聴き取り、調査が行われます。

  • ①お互いの車がどの方面からどの方面に向かって進行していたか
  • ②相手の車を発見したときのお互いの車の位置
  • ③危険を感じたときのお互いの車の位置
  • ④ハンドルを切ったときのお互いの車の位置
  • ⑤ブレーキを踏んだときのお互いの車の位置
  • ⑥衝突地点
  • ⑦衝突後、お互いの車が停止した位置
  • ⑧道路上のブレーキ痕の位置、長さ

実況見分に立ち会う際に注意すべきこと

実況見分は、関係者の立ち会いを得て行い、実況見分調書に正確に記載することが犯罪捜査規範によって規定されています。

実況見分に立ち会う際には、以下の4点に注意しましょう。

実況見分の立ち会いを拒否しない

実況見分の立ち合いは任意ですが、拒否せずに警察へ事故状況を伝えるべきでしょう。

交通事故の発生状況や、事故直後の初期対応は当事者しか見ていないため、実況見分調書を作成する上での重要な補完情報になります。

立ち会いを拒否した場合、警察は相手側の主張だけ聴取することになり、事実と異なる内容で実況見分調書が作成される恐れがあります。

実況見分調書は過失割合に影響するので、可能であれば実況見分に立ち会ってください。

実況見分に立ち会い、事故の発生状況を正確に警察官に伝えることが何よりも重要です

事故の相手と議論しない

事故の相手と一緒に実況見分に立ち会っていると、「それは違うだろう」などと自分の主張を押し付けてくることがあります。

しかし、ここで相手と議論してはいけません。

実況見分は議論をして真実を確定するものではなく、立会人の記憶を警察官に伝える手続きです。

相手が何を言ってきても、自分の記憶のとおりに警察官に事実を伝えましょう。

警察官の説得に応じない

自分の記憶のとおりに話していても、警察官から「こうでなければつじつまが合わない」と言われることもあります。

しかし、上でも述べたとおり、実況見分は記憶を正確に伝える手続きです。

警察官から言い分を変えるように説得されても、応じてはいけません。

警察官としては、当事者のお互いの言い分が合っていれば実況見分調書の作成は1通で済みます。

しかし、言い分が食い違っていれば別々に実況見分調書を作成しなければなりません。

警察官は多忙なので仕事が増えるのを嫌がって、言い分を変えるように勧めてくることもあるのです。

記憶が曖昧なそぶりを見せると、警察官は相手の言い分とつじつまが合うように誘導してくる可能性があります。

自分の記憶に自信を持って、毅然とした態度で警察官に伝えましょう

実況見分調書が作成されたら、こちらの主張と差異がないか、内容を丁寧に確認してください。

実況見分調書に間違いがあれば、内容の訂正を申し出る必要があります。

冷静に証言する

自分が警察官に伝えた記憶が間違っていたために、実況見分調書に間違った内容が記載されることもあります。

このような場合、後日誤りに気づいて警察官に申し出ても、訂正に応じてくれることはまずありません。

警察官としても、当事者が後で言ってくることより、事故から時間が経っていないときの方が当事者の記憶が正確だと考えるからです。

人間の記憶にはそもそも曖昧なところがあります。

事故直後に実況見分が行われる場合は、事故によって精神的に動揺している状態なので、事実と違う内容を話してしまうこともあります。

できる限り冷静になって、事故の瞬間をよく思い出して、その内容を正確に伝えるようにしましょう。

事故の発生から実況見分が行われるまで、ある程度の期間が経過している場合は、自分の記憶も変化している可能性が十分にあります。

事故に遭った当日のうちに、事故の発生状況を自分でメモして記録を保管しておくことも大切です。

実況見分に立ち会えないときの対処方法

事故の影響で大きな怪我を負ってしまい、救急搬送された場合は実況見分に立ち会えないので、以下のように対処してください。

  • 立ち会い可能になったら改めて実況見分してもらう
  • 警察に供述調書を作成してもらう

事故直後の実況見分に立ち会えない場合、相手側の主張だけが実況見分調書に残ってしまうので、怪我が回復したら改めて実況見分してもらいましょう

ただし、長期の入院になると事故当時の記憶が薄れてしまうため、正確な情報を早く警察に伝えたいときは、供述調書を作成してもらう方法もあります。

記憶が鮮明なうちに作成された供述調書であれば、相手と過失割合を争うときにも証拠能力の高い書類として扱われます。

実況見分調書を取り寄せる方法

実況見分調書を取り寄せる方法は以下のようになっており、加害者の処分状況で請求先や請求方法が変わります。

【不起訴処分】

加害者が不起訴になった場合、以下のいずれかの方法で検察庁に開示請求します。

  • 被害者が自分で開示請求する
  • 弁護士から申請を受けた弁護士会が開示請求する(弁護士法23条照会)
  • 代理人弁護士または法律事務所の事務スタッフが開示請求する

自分で開示請求するときは、以下の流れになります。

自分で開示請求をする流れ

  1. (1)安全運転センターで交通事故証明書を発行してもらう
  2. (2)警察に交通事故証明書の内容を伝え、検察庁や送検番号を教えてもらう
  3. (3)検察庁に管轄警察署や送検番号、加害者名を伝える
【公判中】
公判中の場合は被害者や遺族、代理人弁護士が裁判所へ閲覧謄写の申請をします。
【確定判決後】
確定判決後の場合は被害者本人、代理人弁護士または事務スタッフが検察庁に開示請求します。

実況見分調書を入手するときの注意点

実況見分調書を入手するときは、以下で紹介する3点に注意してください。

判決が下されるまでは入手できない

実況見分調書を入手できるタイミングは加害者の不起訴処分、または裁判中や確定判決後です。

加害者が不起訴処分になったときや、確定判決後は検察庁への開示請求となり、裁判が行われている間は裁判所へ閲覧謄写申請して実況見分調書を入手します。

したがって、警察が捜査している段階では実況見分調書を入手できません。

物損事故では実況見分調書を作成しないことが多い

物損事故の場合、警察が実況見分調書を作成しないケースが多いので注意してください。

物損事故で作成される書類は「物件事故報告書」になっており、以下の情報が記載されます。

  • 事故の発生場所
  • 車両の破損個所
  • 車両の進行方向を記載した図面など

実況見分調書に比べて情報量が少ないため、事故状況の証拠にはなりにくいでしょう。

実況見分調書の保管期限を過ぎると入手できない

実況見分調書は法律によって保管期間が定められており、以下の期間を過ぎると廃棄処分になる可能性があります。

不起訴処分になった人身事故事件内容によって1~5年
起訴処分になった人身事故事件内容によって3~10年

実況見分調書が10年保管になるケースは加害者が懲役刑、または禁錮刑になったときです。

過失運転致死傷罪でも5年間しか保管されない場合があるので、実況見分調書はできるだけ早めに入手してください。

まとめ

本記事では、実況見分調書の記載内容や入手方法、実況見分に立ち会えないときの対処法、その他注意点について詳しく解説しました。

民事上の損害賠償請求で実況見分調書は重要な証拠となりますが、記載内容が正確でないと問題になります。

実況見分や実況見分調書の問題で困ったときは、交通事故の問題に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。

なお、実況見分調書は検察庁や裁判所から取り寄せできますが、時間と手間がかかってしまい、記載内容が専門的でわかりにくいケースもあります。

ベンチャーサポート法律事務所では無料相談を受け付けていますので、実況見分の流れや調書の取り寄せ方、調書の見方について悩みがあれば、ぜひご相談ください。

保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。 保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。

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