東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
損害保険料率算出機構による2018年度の自動車保険の概況」では、国内で運行されているすべての車両(自家用・商用・2輪車)について任意保険に加入している割合が、対人賠償で74.8%、対物賠償で74.9%とする統計情報が公表されています。
自賠責保険は、法律で定められた強制保険なので、自動車を使用する目的で所有する車両登録のときに加入して、その後の自動車検査登録の継続検査(車検)の度に自賠責保険の更新手続きをすることになります。
しかし、ごく一部の自動車所有者の中には車検を受けていない(車検切れ)状態で運転している者がおり、この場合、自賠責保険の更新手続きもとられていないので、当然に自賠責保険に未加入(有効期限切れ)となります。
この記事では、交通事故の加害者が自賠責保険や任意保険に加入していないときに、どのようにしたら被害者が賠償金を支払ってもらえるか、またその場合に治療費の工面する方法も併せて説明していきます。
目次
交通事故の加害者が「無保険」であったと聞くことがありますが、この無保険には、次の2つのケースが考えられます。
ここでは、加害者が無保険であったときに生じる問題について説明します。
交通事故の加害者は、被害者の損害を賠償する義務がありますが、保険に加入していれば、その保険から賠償金が支払われることになります。
ただし、加害者が無保険の場合、被害者へ支払う賠償金について全額自己負担しなければならなくなるため、一部の加害者の中には、意図的に被害者との連絡を絶って、賠償金の支払いを逃れようとする者がいます。
加害者が任意保険に加入しており、その保険を利用して被害者への賠償金を支払う場合、保険会社が被害者と示談交渉をすることが一般的です。
ただし、加害者が任意保険に未加入の場合、加害者が問題解決に向けて率先して示談交渉をすすめてくることは少なく、被害者が積極的に加害者に対して示談交渉を働きかけない限り、示談成立が遅れる可能性が高くなります。
加害者が無保険で、経済的な理由から賠償金の支払能力がないときは、被害者が十分に損害を賠償してもらうことが困難または不可能となります。
交通事故の加害者が無保険の場合、被害者は次の方法で慰謝料などの賠償金を請求できます。
人身事故では、加害者が加入している自賠責保険から賠償金が支払われますので、たとえ加害者が任意保険に加入していなくとも、加害者が加入している自賠責保険へ治療費や慰謝料などを請求することができます。
ただし、自賠責保険から支払われる賠償金は最低限の金額なので、これで被害者の損害が十分に賠償されずに不足額が生じるときには、加害者へ請求することになります。
交通事故の加害者が自賠責保険に加入していない場合、被害者は自賠責保険から賠償金を支払ってもらえませんが、加害者に代わって国が賠償金を立替払いしてくれる政府保証制度を利用できます。
この保障制度で支払われる賠償金は、自賠責保険から支払われる金額と同程度になります。
また、ひき逃げ事故で加害者が判明していないときにも、この保障制度を利用することができます。
加害者が無保険であった場合、加害者が逃げ回って示談交渉が行えない、加害者が非協力的で示談交渉が進まないなど加害者の行動に期待できないときは、被害者が裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起して請求することができます。
加害者との示談交渉が決裂した場合、これ以上交渉をすすめても賠償問題の解決に何も期待できない時には、裁判所へ訴訟を提起することも考えてみてはいかがでしょうか。
訴訟手続きでは費用と時間も掛かってしまいますが、加害者が賠償金を支払わずに逃げとおしてしまうことと比べてみれば、被害者のメリットが大きいことは明らかです。
また、加害者と連絡が取れなくなって所在が分からなくなっていても、訴訟を提起することは可能です。
この場合は複雑な手続きとなりますので、弁護士などの専門家に相談することが得策です。
訴訟の提起は、被害者が原告となって、加害者を被告とした訴状を裁判所へ提出することから始まります。
訴状を受け取った裁判所は、裁判の期日を決定して、加害者へ訴状と併せて呼出状を送達します。
裁判が始まると、原告である被害者が加害者の交通事故による不法行為責任を主張立証していくことになります。
原告と被告の主張立証が出尽くすと、裁判所での審理が終了することになり、判決の言い渡しの期日が決定されます。
また、加害者が裁判所へ1度も出頭せず、答弁書などの書類も提出していないときは欠席裁判とよばれ、原告である被害者の請求を全面的に認めた判決がなされます。
裁判官は、原告の請求を全部認めた認容判決、一部しか認められなかった一部認容判決、全く認められなかった請求棄却を言い渡します。
そして、判決が言い渡された後は、原告と被告へ判決書が送達され、これを受取ってから2週間以内に当事者が控訴しないと判決が確定します。
被害者の請求が認められた判決が確定した場合、原告である被害者は、判決書に記載された内容にもとづいて被告である加害者の財産を差し押さえることができるようになります。
差し押さえられた加害者の財産は、裁判所の競売手続きで換価されて、差し押さえをした被害者へ配当されることになります。
配当を受けた被害者は、交通事故による損害を補填されることになりますが、理論上、最後の1円を受け取るまで差し押さえを繰り返し行うことができます。
被害者が加害者の財産を差し押さえた場合、加害者に支払い能力がなく、被害者よりも先順位の債権者などがいるときには、必ずしも強制競売で配当を受取れるとは限りません。
また、被害者が勝訴判決を得ても、加害者に自己破産が認められて免責が決定してしまうと、被害者は1円も賠償金を受け取ることができません。
訴訟手続きでは、裁判所から和解がすすめられて、被害者である原告が請求している損害賠償の減額や分割払いを提案されることもあります。
加害者に支払い能力がないと疑われるときは、加害者を追い詰めて自己破産をされるよりは、賠償金の減額や分割払いに応じることも考えなければなりません。
交通事故の被害者は、加害者から賠償金を受け取ることが難しいときに、次の様な方法で治療費を工面することができます。
被害者が任意保険に加入している場合、その保険の人身傷害特約や搭乗者傷害特約などに加入していると、加害者からの賠償金の支払いを待つことなく治療費の工面ができますので、自身が加入している任意保険会社へ問い合わせてみましょう。
交通事故の被害者の通院治療では、被害者が加入している健康保険を利用できないということを聞くことがありますが、正式な手続きを採れば健康保険を利用して治療費を工面できます。
この場合、被害者自身が加入している健康保険組合へ「第三者行為による傷病届」を提出することで健康保険の利用が可能になります。
「第三者行為による傷病届」とは、本来であれば加害者が支払わなければならない被害者の治療費を健康保険組合が立替払いをして、後から加害者へ精算を求める手続きです。
病院の窓口で交通事故による通院治療では、健康保険は使えないと断られたりもしますが、「第三者行為による傷病届」の手続きをすると正確に伝えてください。
被害者が交通事故に遭ったときが業務中の場合、労災保険の適用が受けられることがあります。
労働災害の認定は、労働基準監督署へ対して行いますが、認定を受けるための要件として、業務中または業務の延長にあることが必要になります。
業務の延長にあるとは、自家用車での通勤を会社に認められていて、その通勤中で交通事故に遭い、通勤経路からも大きく外れていないときなどが該当します。
ここまで、加害者が無保険のときに被害者がどう対応すべきかを説明してきました。
自賠責保険では、強制加入保険なので無保険である加害者は極少数だといわれていますが、任意保険では、先に説明した統計情報で明らかなとおり、約4台に1台は、無保険であることが分かります。
交通事故の被害者が自身の損害を賠償してもらえず泣き寝入りするしかないということは、絶対にあってはならないことです。
不幸にも無保険の加害者に事故に巻き込まれてしまった方が、少しでも不安を取り除けられるようこの記事が参考になれば幸いです。
また、無保険の加害者との遣り取りは、大変に複雑で手間のかかることなので、交通事故の問題解決に実績のある弁護士に依頼することをおすすめします。