東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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会社の事業が継続できなくなり、裁判所の手続で法人破産が認められると、法人格が消滅するとともに債務などが免責されます。
代表者は会社の連帯保証人などになっているケースが多く、法人破産とともに代表者の自己破産を申し立てる場合も多いでしょう。
破産者とは、債務の返済が困難になったため、裁判所に申し立てをして破産手続の開始が認められた人をいいます。
破産手続き中は一定の職業への就職や郵便物の受け取り、転居などが制限されるため、日常生活に不便を感じる場合もあるかもしれません。
破産手続の完了によりこれらの制限は解除され、破産者の権利は復権します。
ここでは、破産手続で受ける制限や義務、破産手続完了後の復権などについて解説します。
Contents
破産者とは、 裁判所による破産手続き開始の決定を受けた債務者を指します。
債務は、法律的にある人が特定の行動や支払いをしなければならない義務です。
この義務を負う人を債務者と呼びます。
破産手続きの流れは以下の通りです。
まずは弁護士に事業継続ができなくなった経緯や借金の総額、残っている資産などを伝え、破産手続きを依頼しましょう。
受任通知とは、弁護士が債務者の代理人として破産手続を行う旨の通知です。
債権者は受任通知を受け取ると、債務者から直接の取り立てができません。
破産手続の申立て後、2週間ほどで破産手続の開始決定が行われ、債務者は法人破産における破産者となります。
従業員説明会や債権者集会が開催された後に財産が債権者へ分配され、破産手続は終了します。
法人・会社が破産手続きを開始すると、破産者には以下の制限が課せられます。
破産手続が開始すると、破産者は自身の財産を自由に管理処分できません。
破産者は財産の管理処分権を失い、破産管財人に委ねられるためです。
会社の財産は破産管財人が売却し、債権者に分配します。
破産手続きが開始されると破産者である法人・会社は、 自らの意思決定で事業継続できなくなります。
破産手続きが始まると、事業を続けるために必要な権限も含めて、破産者の権利が制約されるためです。
法人や会社が解散すると法人格は消滅しますが、破産手続では、手続きが終了するまで法的に存続していると考えられます。
破産管財人は破産者宛の郵便物の中身を確認できます。
裁判所は、破産管財人が破産者の郵便物を調査するために、郵便事業者に指示して破産者宛の郵便物を破産管財人に送るように指示します。
法人や会社の場合、送られるのは法人や会社宛の郵便物で、代表者や役員個人宛の郵便物は転送されません。
破産者の理事・取締役・執行役・これらに準ずる者は、 裁判所の許可を得なければ、居住地を離れられません。
居住地からの移転が制限されるのは、役員の説明義務のためです。
裁判所への出頭や破産管財人との連絡が容易にできる場所であれば、許可されると考えられます。
法人の破産者は破産手続きへの協力が求められるため、破産者と役員に以下の義務が課せられます。
重要財産開示義務や説明義務に違反した場合、刑罰が科せられるケースがあります。
重要財産開示義務とは、 裁判所が指定する重要な財産に関する書類を提出しなければならない義務です。
この書類には、不動産や現金、有価証券、預貯金など、所有している財産の詳細が含まれます。
破産者は、債権調査期日に出頭しなければならず、そこで必要な事項について意見を述べる義務が課せられます。
破産者である法人・会社の理事・取締役・監査役等は、破産管財人等に対して必要な説明をする義務が課せられます。
裁判所の許可がある場合、従業員にも説明義務が課せられるケースもあります。
法人破産すると、以下の書類に情報が掲載されます。
官報とは、法令の公布や行政庁による重要な決定事項などを国民に周知する目的で発行される国の機関紙です。
法人破産をすると、債権者や利害関係者に知らせるため、裁判所によって法人破産の事実が官報で公告されます。
官報は2025年4月1日から電子化され、インターネット版官報で直近90日間はすべて無料で閲覧できるようになりました。
官報を購読する方は限られているため、官報公告によって身近な方に法人破産の事実が伝わる可能性は低いかもしれません。
法人破産の官報公告では、法人の名称、会社の所在地、代表者名などが掲載されます。
代表者も自己破産する場合、法人破産とは別に官報公告が行われ、そちらには代表者個人の住所なども記載されます。
破産者名簿とは、市区町村が管理する破産者の名簿です。
破産者の氏名や本籍地、生年月日、破産手続開始決定の確定の日時、裁判所名などが記載されています。
破産者名簿に登録されると、破産者は市区町村の発行する「破産者ではない旨の証明書」を取得できません。
一定の職業に就業するときは「破産者ではない旨の証明書」の提出が求められるため、該当する職業に就業できなくなります。
破産者名簿に登録されるのは、破産手続を申し立てた後に免責許可が認められなかったなど、限られた場合のみです。
破産者名簿は市区町村の証明書発行に利用される資料であり、公開されていません。
公務員には守秘義務があるため、破産者名簿によって身近な方に破産の事実が伝わる恐れはないでしょう。
破産手続が開始された後、破産者は一定の職業への就業が制限されます。
制限されるのは、主に以下のような人の財産や秘密情報を扱う職業です。
<自己破産によって制限を受ける職業>
・弁護士、公認会計士、司法書士などの士業
・貸金業
・銀行や信用金庫の役員
・警備員や警備業者
・生命保険外交員
・公証人
・質屋営業
一方で、以下のような職業は自己破産をしても制限を受けません。
<自己破産によって制限を受けない職業>
・医師、看護師、助産師、薬剤師など
・介護福祉士、作業療法士など
・教員
・一般の公務員(国家公務員・地方公務員)
・会社員(一般社員)
取締役などの会社役員は、自己破産をすると会社との委任契約が解除されるため、退任しなければなりません。
退任した後、会社から再任されると役員に復帰できます。
就業制限は、破産手続きが完了して免責の許可を得た場合や借金を自力で完済した場合などに解除されます。
破産手続の開始後、手続きが完了して破産者が復権するまでは約3カ月〜1年ほどかかるケースが多いです。
破産手続は、債権者に財産を分配する管財事件と、分配する財産がない同時廃止事件にわかれます。
同時廃止は約3カ月ほどで完了しますが、管財事件では財産の額や権利関係の複雑さによっては約6カ月〜1年ほどかかるケースもあります。
破産手続が開始すると信用情報機関に事故情報が登録され、いわゆるブラックリストに載った状態になります。
事故情報が登録されると、約7年~10年間は新たなローンの利用やクレジットカードの作成などができません。
就業制限は破産手続の完了によって解除されますが、事故情報は抹消されないため注意しましょう。
登録から約7年〜10年ほど経過すると事故情報が抹消され、ローンの審査などで制限を受けなくなります。
破産による制限からの復権は、裁判所の決定謄本などで確認できますが、事故情報の抹消は特に通知などがありません。
事故情報が抹消されたかどうか確認したいときは、各信用情報機関に事故情報の抹消について照会をするとよいでしょう。
破産手続は破産者本人のみに効果が及ぶため、原則として家族の仕事や進学などに影響はありません。
一方で、破産者の家や車などの財産を没収されると同居の家族の生活に支障が出るケースもあるでしょう。
破産者名義でクレジットカードを契約し、家族カードを使用している場合、使用できなくなります。
破産手続により破産者の債務が免責されても、連帯保証人の義務は免除されません。
主債務者が破産すると、債権者は連帯保証人に残債務の全額を一括請求するケースが多いです。
連帯保証人が残債務を支払えない場合、連帯保証人も自己破産などの債務整理を検討しなければなりません。
トラブルを避けるため、破産手続をする前に連帯保証人へ連絡をしておくとよいでしょう。
破産者となっても、以下の債権は免責されません。
それぞれの債権について詳しく見ていきましょう。
破産手続きで免責が認められても、滞納した税金の支払いは免除されません。
具体的には、以下のような税金を滞納している場合は免責許可の決定後も支払う必要があります。
税金の支払いは国民の義務とされており、免責を受けた破産者であっても平等に負担を求められるためです。
滞納を続けると、最終的には給料など財産の差し押さえを受ける可能性もあるため注意しましょう。
以下のような破産者の不法行為に基づく損害賠償請求は、破産手続によって免責されません。
たとえば、相手をだまして金銭を支払わせた、相手に暴力をふるってケガをさせたなどのケースです。
上記の場合では、破産者の不法行為によって損害を受けた相手を保護するため、免責は認められません。
一方で、債務の不履行などを理由とする損害賠償請求権などは破産手続によって免責となる可能性があります。
養育費の請求権とは、子どもを養育するための生活費など、親の扶養義務に基づいて負担する費用を請求する権利です。
子どもの養育費は親が負担するとされているため、破産手続によっては免責されません。
一方で、破産手続をするときは収入や貯蓄が減っており、取り決めた養育費を支払い続けるのが難しいときもあるでしょう。
仕事を失ってしまったなど、事情があるときはお互いの話し合いや裁判所の調停により養育費の減額が認められる可能性はあります。
罰金とは刑罰の一種であり、犯罪などを処罰するために強制的に取り上げられる金銭の請求をいいます。
罰金を科せられるときは、たとえば以下のようなケースがあります。
罰金は処罰を受ける者に等しく科せられるため、破産手続によっては免責されません。
罰金を支払えない場合、財産の差し押さえや労役場への留置などが科される可能性があるでしょう。
法人破産の破産者に関するよくある質問は、以下の通りです。
それぞれの質問について見ていきましょう。
自己破産者マップとは、自己破産した人の氏名や住所などを掲載したインターネットサイトです。
官報で掲載された情報をもとに作成されていましたが、プライバシーの侵害や犯罪への悪用などの恐れがあり、2019年に閉鎖されました。
その後、類似サイトが作成されるケースもありましたが、現在は類似サイトも含めて検索結果から削除されるようになっています。
行政機関によって停止命令や刑事告発などの措置がとられた経緯もあり、今後も自己破産者マップに掲載される心配はないといえるでしょう。
自己破産をした人を年代別にみると、40代が最も多く、全体の4分の1以上を占めています。
一方で、近年の傾向としては20代〜30代の破産者が減り、60代以上の老後破産が増えています。
背景として、日本人口の高齢化などが考えられるでしょう。
一般的に60代以上の高齢になると所得が減りますが、近年の物価高の影響や住宅ローンの返済などで生活に行き詰るケースがあります。
高齢化や物価高が進むと、さらに老後破産が増える可能性があると考えられます。
破産手続を申し立てた後、破産手続の開始決定前に申立人が亡くなってしまう場合もあるでしょう。
破産手続は中断しますが、債権者による続行の申立てが認められると、相続財産について破産手続を継続できます。
破産手続の開始決定後、免責の許可前に申立人が亡くなった場合は、破産手続は中断しません。
裁判所は相続財産に対して破産手続を続行し、相続財産が債権額を下回るときは相続人が返済義務を承継します。
債務額が大きいために相続人から返済できないときは、相続放棄の手続きを検討しましょう。
信用情報機関に登録された自己破産の記録は、約7〜10年ほどで抹消されます。
抹消されるまでの期間は、以下の信用情報機関によって取り扱いが異なります。
各信用情報機関では、相互に情報を交換し、顧客の債務総額を把握できるようにしています。
事故情報の登録が残っているか確認したいときは、各信用情報機関に自身の登録内容を照会しましょう。
会社が債務超過に陥り、事業の継続が困難になった場合でも、破産手続によって代表者は再起できます。
破産手続をすると一定の職業への就業やローンの契約などが制限されますが、制限は手続きの完了により解除されます。
代表者が再起する方法としては、新たな事業の開始や別会社に就職する方法もあるでしょう。
法人破産や代表者の個人破産を検討している場合、破産手続は専門的な知見が必要になるため、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に相談すると、破産手続を行うかどうかや、代表者が破産するときに受ける制限とその対処方法などを確認できます。
会社の資金繰りが行き詰ったまま放置すると状況はより悪化するため、できるだけ早く弁護士に相談するとよいでしょう。