東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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破産手続きでは「復権」という言葉が登場します。
破産手続きをすると資格の制限などのデメリットがあります。
しかし、復権を得ることで制限がなくなるという話も耳にするはずです。
果たして破産手続きで登場する復権とはどのような意味なのでしょうか。
破産手続きで復権を得たいときはどうしたらいいのでしょう。
この記事では破産手続きの「復権」について知っておきたいポイントを解説します。
復権の意味から復権を得る方法、復権を得たときの注意点などをまとめました。
破産手続きの復権とは「破産者ではなくなる(制限のない状態に戻る)」ことをいいます。
破産手続きをすると資格などに制限を受けることは有名です。
破産手続きがはじまると申立て人は破産者になります。
破産者の間は資格などに一定の制限を受けることになるのです。
復権を得ることで破産者ではなくなり、制限やデメリットを受けている状態から復活するわけです。
資格制限などの破産手続きによる制限が消えることで権利が復活するため「復権」と呼ばれています。
復権には自己破産手続き中にあった各種の制限がなくなるという効果があります。
復権の効果について理解を深めるためにも、自己破産中にどのような資格制限を受けるのか詳しく見てみましょう。
自己破産手続きが開始すると一定の資格が制限されます。
制限の対象になる資格で仕事をしている人は、資格が制限される結果として仕事ができなくなってしまうのです。
自己破産手続きの開始で制限される資格には次のようなものがあります。
上記の資格はあくまで一例です。
この他にも制限を受ける仕事があるため注意してください。
資格を使って仕事をしている人は自己破産手続き前に担当弁護士へ確認しておくことをおすすめします。
自己破産手続きではこの他に後見人や保佐人、補助人、遺言執行者などに就くことができなくなります。
復権を得ていない状態でも会社の取締役に就任することは可能です。
ただし、すでに取締役に就任している人が破産すると委任契約の解除により取締役解任となります。
破産手続きによる資格の制限にはふたつのパターンがあります。
資格制限のパターンによりどうなるかが変わってきます。
まずひとつ目は「資格を喪失し復権を得るまで使えない」というパターンです。
弁護士などの士業や警備人などがこのパターンになります。
このパターンの資格は、資格を持っていても復権を得るまで使えなくなるのです。
資格取得を目指している場合は復権を得るまで資格の取得ができなくなります。
資格を使って仕事をしている人は仕事ができないため、仕事にも影響が出るという結果です。
もうひとつのパターンは「一定の手続きによって資格が使えなくなる」パターンです。
保険の外交員などがこのパターンに該当します。
保険の外交員は復権を得るまで新しく資格を取得することはできません。
しかし破産手続き開始後に当然資格を喪うのではなく、保険会社側が取り消しの手続きを取ることではじめて資格が使えなくなります。
手続きを取らなければ仕事ができるということです。
保険の外交員については破産の報告義務も特に定められていません。
ですが、勤務している保険会社に報告を怠った場合は解雇事由になる可能性があります。
注意してください。
資格を使って仕事をしている人は、自分がどちらのパターンに該当するか確認しておくことが重要です。
破産手続きをすると資格が一生涯使えないのではないかと誤解する人がいます。
破産手続きによる資格の制限は復権を得るまでです。
すでにお話ししたように復権には制限を解除する効果があるため、資格制限の期間は復権を得るまでの期間となります。
自己破産手続きを理由に懲戒解雇することは労働契約法に違反します。
自己破産したからといって、自己破産だけを理由に懲戒解雇(クビ)は基本的にありません。
ただし、自己破産による資格制限が会社の業務に重大な影響を与える場合は例外です。
たとえば、会社にその資格を所持している社員が1人しかいないため、業務ができなくなったなどの場合は解釈が変わってくる可能性があります。
会社側が何らかの対処をしなければ業務に大きな差しさわりが出てしまうからです。
また、社員の自己破産の事情が会社の信頼を著しく傷つけるという場合も別解釈になります。
通常の自己破産手続きで会社をクビになることはまずありませんが、事情によっては例外もあり得るということです。
個人の自己破産はあくまで個人の事情になります。
会社に甚大な影響が出るなどの事情がなければ、個人の事情である自己破産を理由とした解雇は原則的に認められないのです。
職場の信頼を失うことが怖いなどの理由から会社に自己破産手続きを隠す人は少なくありません。
自己破産手続きが避けられない状況で事前に会社へ相談や報告を行うことで、逆に状況がプラスに働くこともあります。
会社側が配置転換などで対処してくれる可能性があるからです。
仮に資格がなければできない仕事をしていたとしても、会社はその資格を使う仕事だけで成り立っているわけではありません。
たとえば保険の仕事の場合は資格に制限を受けても、外交員以外の事務職など別の仕事をすることもできるはずです。
部署替えなどでも対処できます。
会社に自己破産手続きを一切黙っていると資格が制限されてから「仕事ができない」と問題になる可能性がある他、会社も事前に適切な対処ができません。
会社に相談や報告するのが不安ならまずは弁護士に相談してみてはいかがでしょう。
破産手続きで復権を得るためにはどうしたらいいのでしょう。
復権を得る方法と流れを説明します。
自己破産手続きで復権を得る方法にはふたつのパターンがあります。
自己破産手続きを進めて裁判所の免責が確定すると、特に何もしなくても免責を得ることが可能です。
自己破産の債務の免責と復権はセットになっています。
自己破産で免責が確定すると自動的に復権が得られるという仕組みです。
自己破産手続きの免責確定による復権を「当然復権」といいます。
免責を受けると当然に復権するためです。
問題になるのが自己破産手続きで免責を得られなかったケースです。
免責と復権はセットになっているため、免責を得られなかったときは復権も得られないのではないかと不安に思うかもしれません。
債務の免責を得られなかったケースでも裁判所の裁量次第で免責を得ることが可能です。
裁判所から免責されなかったときの復権の方法は3つあります。
債務整理の方法のひとつに「個人再生」があります。
個人再生とは債務を圧縮してもらい、圧縮後の債務を少しずつ返済する方法のことです。
自己破産手続きでは債務は免責されますが、個人再生では免責ではなく払える範囲に圧縮・分割して返済を続けるという点に違いがあります。
詳しくは「破産手続き以外の債務整理方法」の見出しで説明します。
自己破産手続きをしても免責を得られない場合は借金が残るわけです。
そのため個人再生など他の債務整理方法を使って債務へ対処します。
個人再生を裁判所に申し立てて裁判所から個人再生計画の認可決定を受けることで復権を得ることが可能です。
個人再生後に計画で定めた返済を怠ると裁判所の認可決定が取り消される可能性があります。
個人再生計画の認可決定が取り消されると復権も一緒に取り消しになるため注意してください。
自己破産手続きで免責を得られなくても、自己破産手続きから10年経過すると自動的に復権を得られる仕組みになっています。
10年の経過による復権は特に手続きなどをする必要はありません。
時間の経過を待つだけです。
個人再生などを使って復権を得ればいいと思うかもしれませんが、中には個人再生手続き自体が使えないケースもあります。
個人再生は返済を続けるタイプの解決法なので、収入がないなどの事情があれば使えない可能性があるのです。
個人再生が使えないときでも10年間待つことにより手続きなしで復権を得られます。
裁判所に事情を申し立てて復権を得る方法になります。
自己破産手続きで免責を得られなかったケースでも、以下のような事情があれば復権を申し立てることが可能です。
自己破産手続き自体はしたものの、手続きの後で別の債務整理手続きをして債務の返済を終わらせたケースなどが代表例です。
自己破産手続きで免責不許可になった後に相続などで得た財産で債務を完済したなどもケースも考えられます。
いずれにしろ何らかのかたちで債務問題に決着をつけているケースです。
自己破産手続きを管轄した裁判所は、債務者のその後を特に調査しません。
自己破産手続きのときに抱えていた債務を完済できたかなどは特にチェックしないのです。
だからこそ、裁判所は債務問題が片付いても自動的に復権させることはありません。
債務問題に決着がついたら自分から裁判所に申し立てて復権を得るという流れになります。
免責不許可後に申し立てにより復権を得るためには「債務がなくなったという証拠」を準備する必要があります。
復権の申し立て前に債務問題が決着したことを証明できるものを準備しておきましょう。
補足として復権を得た場合の通知についても説明します。
自己破産の手続きで免責されて自動的に復権を得た場合は、復権について特に通知されません。
免責については免責決定に記載がありますが、復権については特に記載されていないのです。
復権の記載自体はありませんが免責があればセットで復権を得ていますので心配する必要はありません。
免責確定の時点で資格制限は解除されていることになります。
裁判所に問い合わせる必要もありません。
自身が破産者の状態かどうかは本籍地が発行する身分証で確認可能です。
破産者名簿については自己破産だけでは記録の対象にならず、免責不許可が確定した場合や免責不許可の可能性が高いケースだけ記録される取り扱いになっています。
復権を得ているかどうか不安な場合は弁護士に確認を取るといいでしょう。
復権を得ると資格制限などは回復します。
しかし、全てが復権を得れば回復するというわけではありません。
中には資格制限のように回復しないものもあります。
自己破産手続きで復権を得ても回復しないものの代表格が信用情報です。
信用情報とは金融サービス利用の記録のようなものです。
金融サービスを契約すると契約情報などが信用情報機関に記録されます。
金融サービスの利用中に滞納や債務整理といった事故があると、信用情報に事故情報が記録されることになるのです。
破産手続きなどの事故情報が信用情報に記録されている状況を「ブラックリスト」「信用情報ブラック」などといったりします。
自己破産手続きで復権を得ても信用情報に記録された事故情報は抹消されません。
そのため、自己破産手続きの後は金融機関からの借り入れなどが難しくなるといわれます。
金融機関にローンの申し込みをしたときの審査では信用情報が参考資料として使われるからです。
ただし、自己破産をすると借り入れが一切できなくなるわけではありません。
信用情報をどれだけ重視するかは金融機関によって違います。
自己破産をしても生活を立て直せれば、金融機関が理解を示して貸してくれる可能性があります。
信用情報に自己破産の記録が残っていると、いつまでもローン審査などで自己記録の残った信用情報が使われることになります。
信用情報の自己破産手続きの記録は抹消できないのでしょうか。
信用情報は自分から抹消を請求することはできません。
ただし、一定の年数が経過すると自動的に事故情報が抹消される仕組みになっています。
自己破産手続きが信用情報に記録されても一定年数で消えるということです。
消えてしまえば自己破産の記録は信用情報からは読み取れません。
自己破産の記録がどのくらいの年数で抹消されるかは信用情報機関によって異なります。
自己破産手続きの場合は5~10年で情報が抹消されます。
債務問題への対処法には自己破産手続き以外にも「任意整理」と「個人再生」という方法があります。
債務や収入の状況などによっては自己破産ではなく個人再生や任意整理で対処できる可能性もあります。
破産手続き以外のふたつの債務問題への対処法について見てみましょう。
破産手続き以外の債務整理方法としては「任意整理」という方法があります。
任意整理はあくまで任意による協力を求めて現在の債務状況を改善する方法です。
任意整理のメリットは、裁判所を通さないため準備も手続きも比較的簡便なことです。
借金の資料を準備して弁護士などが交渉するという流れなので、特別な手続きは必要ありません。
自己破産手続きのように不動産や車といった価値ある財産を手放す必要もなく、家族や職場にも内緒にして進めることもできます。
任意整理のデメリットは交渉決裂の可能性や債務免除ではないという点です。
債権者側は必ず交渉に応じる義務はありません。
これまでの返済状況次第では交渉が決裂する可能性もあるため注意してください。
任意整理はあくまで交渉による減免や分割払い内容の変更ですので、債務が免除されるわけではない点にも注意が必要です。
任意整理は具体的に「弁護士などの専門家が債権者に交渉する」という方法で進めます。
まずは弁護士が借金で悩んでいる債務者の債務状況や契約内容を確認します。
金融機関や消費者金融から取引履歴なども取得して確認するという流れです。
取引履歴や契約書で残債などを確認したら、次は債権者と個別に交渉を行います。
交渉内容は利息の減免や分割払いの回数などです。
金融機関や消費者金融などとの交渉がまとまった後は、交渉で決めた金額で月々の返済を行います。
どのくらいまで返済を減らせるかは残債や月の返済額によって変わりますが、中には月の返済額を半分以下にできるようなケースもあります。
債務利息の減免や月の返済額を少なくしてもらえれば問題なく返済できるケースに有効な対処法です。
任意整理はあくまで交渉により解決する方法なので資格の制限や復権などもありません。
自己破産手続き以外の方法では「個人再生」という対処法があります。
個人再生は自己破産手続きと同じ裁判所を使う方法ですが、手法がまったく違っています。
自己破産は債務そのものの免責を受ける手続きですが、個人再生に債務の免責はありません。
また、自己破産は免責により債務を返済しなくて済みます。
個人再生の場合は裁判所での手続き完了後も返済が続くのが特徴です。
個人再生は裁判所に申し立てて債務の圧縮を行います。
どのくらい圧縮されるかは事情や債権額次第です。
最低弁済額である100万円まで圧縮されるケースもあれば、5分の1や10分の1に圧縮されるケースもあります。
個人再生のメリットはマイホームを残せる可能性があることです。
収入があり債務額さえ圧縮してもらえればマイホームなどで変わらず生活しながら返済できる場合は有効な方法になります。
個人再生のデメリットは裁判所での手続きを終えてもまだ返済が続くことです。
また、自己破産手続きとは異なりますが裁判所手続きのひとつですから、裁判所に提出する書類などを準備しなければいけません。
個人再生には自己破産手続きのような資格の制限はありません。
個人再生には復権もありませんが、自己破産手続きで免責されないときに復権を得る方法として使われることがあります。
破産手続きの復権について説明しました。
復権を得る方法は自己破産手続きの状況次第です。
免責されればその時点で復権を得られますが、免責されない場合は別の方法で復権を得る必要があります。
どの方法で復権を得るかは債務者の状況次第です。
自己破産手続きのときの資格制限やデメリットでわからないことがあれば、まずは弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
事前に相談することで資格が制限の対象になるか、制限がある場合にどのような対処をすればいいか専門家からアドバイスも受けられます。
安心して自己破産手続きを進めるためにも専門家に疑問や不安を打ち明けてみてはいかがでしょう。