東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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うつ病を患うと、長期的な治療と休養が必要になるにも関わらず、休職や退職などで収入が減少する場合が少なくありません。
生活費の補填のために借金を重ね、多重債務に陥ってしまえば、さらに症状を悪化させる恐れもあります。
借金問題を解決したい方にとって、自己破産は一つの解決策となります。
この記事では、うつ病でも自己破産が可能であるかを詳しく解説します。
また、借金を放置するリスクや、うつ病で利用できる公的支援制度についても解説します。
自己破産とは、経済的に困窮して借金の返済が難しくなった場合に、その借金を帳消しにしてもらう手続きです。
借金を支払わなくて済む強い法的効果を持っているため、誰もが簡単に自己破産できるわけではありません。
自己破産を認めてもらうには、下記の3つの要件を満たす必要があります。
前述した自己破産の要件はあくまで目安であり、具体的な基準が定められているわけではありません。
要件を満たしていなくても、個別の事情により裁判所が免責許可をする場合もあります。
中でも、「支払不能」は借金と収入、保有財産のバランスをみて判断されます。
うつ病を抱えている場合、治療のための休職・退職が収入に与える影響も考慮する必要があるでしょう。
実務上は借金の36回払いが可能かどうか、つまり3年以内に完済できるかが判断基準となります。
結論として、うつ病で働けずに経済的困難に陥った場合には自己破産ができます。
うつ病を患ったために借金を抱える場合もあれば、他の理由で借金を抱えたためにうつ病を発症する場合もあるでしょう。
いずれにしても、借金問題を片付けることが精神的負担を軽くすることにも繋がります。
うつ病でも自己破産は可能ですが、うつ病だからといって自動的に自己破産が認められるわけではありません。
自己破産による免責の可否は、前述した3つの要件を満たすかどうかによって判断されます。
したがって、うつ病と自己破産の要件の関係を理解する必要があります。
うつ病を患っていること自体が支払不能を意味するわけではありません。
収入や支出、財産の状況から借金の返済が不可能であると証明する必要があります。
うつ病によって働けなくなり、生活費や医療費が支払えない状態であれば、支払不能だと認めてもらえる可能性が高いでしょう。
うつ病は、破産法に定められている免責不許可事由には該当しません。
ただし、他の免責不許可事由に該当する場合には注意が必要です。
たとえば、うつ病に伴う症状が原因で、ギャンブルや浪費を繰り返して借金が膨らんだ場合には、自己破産が認められない恐れがあります。
こうした場合、裁判所の裁量で免責を認めてもらう「裁量免責」を目指す必要があります。
裁量免責を目指す際、精神的疾患を考慮してもらえる可能性があるため、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。
原則として、うつ病を発症している事実が自己破産に不利に働くことはありません。
ただし、自己破産の手続きや判断において、知っておかなければならないポイントがあります。
自己破産を申し立てる際には、うつ病である事実を示す診断書を用意する必要があります。
申立てには収入・資産状況を示す「陳述書」を提出しますが、病気などで働けない場合にはそれを証明しなければなりません。
自己破産の申立て前にかかりつけの医療機関を受診し、医師に診断書を作成してもらいましょう。
診断書の有効期間は約3カ月です。
この他、薬の処方を示す「お薬手帳」や入通院の記録なども用意しておくとスムーズです。
自己破産では、申立人の収入・資産・債務の状況により、同時廃止事件と管財事件のいずれかに振り分けられます。
振り分けは裁判所が判断しますが、うつ病自体は振り分けに直接影響を与えません。
※破産管財人とは、裁判所によって破産者の財産の管理や処分を任された者を指します。
同時廃止事件は破産管財人が選定されない分、短い期間で自己破産が終了し、その分費用も抑えられるでしょう。
なお、管財事件の中でもより簡易的な手続きとして少額管財事件があります。
うつ病によって働けなくなり、生活保護を受けている方も少なくありません。
結論として、生活保護を受けていても自己破産の要件を満たしていれば申立てが認められます。
ただし、生活保護は最低限の生活を保障する制度であり、借金返済にあてるために支給されるものではありません。
このため、生活保護を受けている場合には、早めに借金問題を解決する必要があります。
可能であれば、自己破産をした上で生活保護を申請するとスムーズです。
自己破産の手続きは複雑であり、専門的な知識を要します。
特にうつ病を抱えている場合には、あらかじめ弁護士に相談してサポートを受けるとよいでしょう。
弁護士に依頼すれば、自己破産手続き全般をサポートしてもらえます。
必要書類の準備や債権者とのやりとり、裁判所対応などを任せられるため、自己破産手続きがスムーズに進みます。
うつ病を患っているからといって、借金を放置するのは望ましくありません。
むしろ、ストレスを増幅させ、うつ病を悪化させる原因になる恐れがあります。
ここでは、借金を放置するリスクについて具体的に解説します。
借金を放置すると、債権者からの督促が頻繁に行われるようになります。
電話や手紙による督促が連日続けば、精神的な負担も増してしまうでしょう。
たとえ督促を無視したとしても状況は改善しないため、早い段階で対応する必要があります。
借金の返済が遅れると、その遅れた期間に応じて相手方の損害を補填するための遅延損害金が発生します。
本来支払わなくてはならない金額よりも返済額が大きくなってしまい、返済がより一層困難になります。
遅延損害金は日々増加するため、早急に対策を講じなければ、経済的な負担が雪だるま式に膨らむリスクがあります。
度重なる催促に応じなければ、最終的には差押えや訴訟に発展する可能性があります。
給与や財産が差し押さえられると、生活費の確保が難しくなり、勤務先にも借金問題がバレるかもしれません。
うつ病を発症した場合、様々な公的支援制度を利用できます。
公的支援制度により経済的負担を軽減できるため、借金や自己破産に踏み切る前に検討してみるとよいでしょう。
うつ病を発症すると、長期にわたる継続的な治療が必要となります。
自立支援医療制度を利用すれば、精神通院医療にかかる自己負担額が原則1割に軽減されます(受給者の市町村民税の支払額により異なる場合があります)。
うつ病の治療のための通院やカウンセリング、薬の処方などにかかる費用が対象です。
特に重度のうつ病を患っている場合、心身障害者医療費用助成制度が利用できます。
心身障害者医療費用助成制度とは、身体障害や精神障害を持つ方の医療費を助成する制度です。
お住まいの自治体によって対象範囲が異なるため、まずは最寄りの役所に問い合わせてみましょう。
自治体によっては、自立支援医療制度を利用していると利用できない可能性もあります。
会社に勤めている方がうつ病によって働けなくなった場合、傷病手当金を申請できます。
傷病手当金は健康保険に加入している方を対象に、休業開始4日目から最長1年6カ月間支給されます。
支給額は標準報酬日額の3分の2程度です。
職場のストレスや過重労働が原因でうつ病を発症した場合、労災保険の対象となる可能性があります。
労災保険とは、業務上の事由や通勤途上での事故によるけがや病気を保障する保険です。
ただし、労災保険を受給するには「業務による強い心理的負荷」「業務以外の原因がない」などの要件を満たす必要があります。
生活福祉資金貸付制度とは、低所得者や障がい者などが生活資金を借りられる制度です。
借りた資金は無利子または低利子で返済でき、返済期間も柔軟に設定されます。
金融機関や貸金業者から借金をする前に検討してみましょう。
生活保護とは、生活に困窮している方に対して最低限の生活を保障する制度です。
生活費や住宅費、医療費などが支給され、経済的な負担を軽減できます。
ここでは、うつ病と自己破産に関するよくある質問をご紹介します。
うつ病が原因で財産の差し押さえにつながるわけではありません。
しかし、借金を返済できない状況が続くと、債権者から差押さえの手続きが行われる可能性はあります。
自己破産中にうつ病になっても、手続きを続けられます。
ただし、手続き上、最低1回は裁判所に出頭しなくてはなりません。
病気などの特別な事情により参加できない場合は、弁護士に対応を依頼しましょう。
自己破産をしても、障害年金の受給には影響がありません。
障害年金は、病気や障害によって生活が困難な方に支給される公的年金であり、自己破産により受給資格は失われません。
うつ病を患っていても、自己破産の要件を満たしていれば申立てができます。
申立て前には医師の診断書を用意し、弁護士などの専門家のサポートを受けるとスムーズです。
借金を放置すると、債権者からの督促や遅延損害金、差押えや訴訟などのリスクがあります。
うつ病を悪化させてしまう原因にもなりうるため、できる限り早く公的支援制度や自己破産を検討しましょう。