
Contents
「みなし解散」とは、一定期間、登記(役員変更や本店移転など)を行っていない会社を活動実体のない会社と判断し、登記上解散した会社と扱う制度です。登記官が職権で解散登記を行うため、通知に気づかず放置してしまうと、知らない間に会社が解散状態になります。
解散状態になると、銀行取引や契約更新など事業活動に多くの制約が生じます。事業を続ける意向がある会社であっても、「登記をしばらく行っていない」というだけで対象になる点に注意が必要です。
みなし解散制度には、放置されたままの会社を整理し、商業登記の正確性・信頼性を維持する目的があります。たとえば、すでに実質活動していない会社が存在し続けると、第三者が誤解し、取引上のトラブルを招く危険があります。
また、犯罪や脱税・粉飾決算などの不正利用に悪用される可能性を減らす効果もあります。休眠状態の会社がそのまま残るほど、反社会的勢力に利用されるリスクも高まるためです。
なお、法務省の「休眠会社・休眠一般法人の整理作業について」によると、令和6年でみなし解散の登記が行われた件数は、株式会社で26,885件、一般社団法人・一般財団法人で1,994件でした。
みなし解散の対象となるのは、次の条件にあてはまる会社です。
なお、登記事項証明書や印鑑証明書の交付請求を行っていても、登記をしていない限り「最後の登記からの期間」は更新されません。
みなし解散の主な流れは以下のとおりです。
登記所からの通知が届いていない場合であっても、官報広告から2カ月を経過するとみなし解散の登記手続きが進められるため、注意が必要です。
なお、令和7年度においては、令和7年10月10日(金)に法務大臣による官報公告がなされました。令和7年12月10日(水)までに必要な登記申請もしくは届出がなかった場合には、令和7年12月11日(木)付けで解散したものとみなされます。
みなし解散の通知が届いたら、期限までに必ず以下のどちらかを行う必要があります。
役員変更や本店移転などが行われたものの登記に反映されていない場合には、必要に応じた登記申請を行います。登記事項に変更は生じていないものの事業を継続したい場合には、「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行う必要があります。
「まだ事業を廃止していない」旨の届出については、登記所から通知書にある「届出書」に必要事項を記載し返送します。何らかの理由で通知書が手元にない場合には、以下の事項を記載した書面を提出します。
なお、この届出をしても必要な登記申請義務が免除されるわけではありません。また、登記申請や届出を行ったとしても、それまで登記を放置したことについて過料が科される可能性があります。
登記所からの通知書を無視すると、会社には大きな不利益が生じます。主なリスクは次のとおりです。
通知から2カ月以内に登記や届出を行わない場合、登記官が会社を休眠状態と判断し、職権で解散登記を行います。会社側の申請や同意がなくても手続きが進むため、通知に気づかなければ、知らない間に解散扱いになる可能性もあります。
解散登記がされると、登記簿上「清算中の会社」という扱いになり、代表者を含む役員の地位は終了します。取締役会の権限や経営判断を行う立場ではなくなるため、事業を続けるつもりであっても、会社として通常の活動に支障が出ます。
長期間登記を放置していた事実そのものに対して、過料と呼ばれる行政上の制裁が科される可能性があります。正当な理由なく登記を怠った場合、代表者個人が最大100万円の過料に処されます。過料は会社の経費として処理できず、代表者が自ら支払う金銭負担となります。具体的な金額は、懈怠期間に応じて数万円〜十数万円程度になることが多いです。
解散登記がされると、会社は清算手続きに入った存在と扱われます。そのため、利益を追求する通常の営業活動はできず、新規契約の締結、銀行取引、入札や許認可が必要な業務の継続が難しくなります。
また、取引先や金融機関からは「解散した会社」と判断されるため、信用低下による契約停止や融資打ち切りのリスクも発生します。従業員の雇用や顧客との関係にも悪影響が及ぶため、事業が継続中の会社ほどダメージが大きい点に注意が必要です。
通知を無視することは、実質的に会社の活動停止につながる結果となります。
みなし解散により解散登記が行われると、その時点で事業年度が区切られるため、「解散事業年度」における確定申告(1回目)が発生します。さらに、継続手続きを行った場合には、みなし解散日から事業年度終了日までの期間についても法人税申告(2回目)が必要となるため、同じ年度に2回の申告が必要になる可能性があります。
本来の決算期とは別に決算処理を行うことになるため、税務書類の作成や会計処理が複雑になり、顧問税理士費用や社内の事務負担も増加します。事業再開の手続きと並行して税務対応を進める必要があるため、時間的・経済的なコストが大きくなる点も見逃せません。
みなし解散の通知を受けた時点で、会社は「解散の危機状態」にあります。放置すれば職権で解散登記が進み、通常の事業が続けられない状況に陥ってしまいます。しかし、通知が届いた段階であれば、まだ対応の余地があります。
ここでは、「会社を閉鎖する場合」と「事業継続を希望する場合」の対処法について解説します。
通知を受けたあと、会社を続ける予定がない場合には、法的に会社を片付ける「清算手続き」を進めます。みなし解散後に放置していると行政罰を受けることもあるため、未払いの負債や契約、取引先の対応など、整理すべきことが残っている場合は正式な清算を行うのが適切です。
清算の主な流れは次のとおりです。
清算手続きは、ひとつひとつのステップに法律上の期限があるため、専門家のサポートを受けながら進めることが安全です。契約や負債が残っている会社ほど、早期に対応することがトラブル防止につながります。
通知を受けても事業を続ける予定がある場合、期限内に適切な手続きを行えば、会社を存続させることができます。ただし、その方法は「公告からの経過期間」によって大きく異なります。時間が経つほど手続きが複雑になり、最終的には継続できなくなるため、早期の対応が欠かせません。
最も負担が少ないタイミングです。この期間であれば、役員変更など最新の内容に更新する登記申請を行うことで、みなし解散を避けられます。取締役の任期切れが多くのケースで該当するため、その再任登記を行うことが一般的ですが、他にも変更事項があればまとめて申請します。
この期間はすでに解散扱いとなっているため、手続きが増えますが、まだ会社を存続させることが可能です。
ここまで経過すると、株主総会による会社継続は法律上できません。精算手続きに進むしかなくなるため、事業を継続したい場合には新たに法人を設立する必要があります。
みなし解散の通知が届いた瞬間、会社は大きな岐路に立たされています。「継続するのか」「閉じるのか」「費用はいくらかかるのか」など、短期間で重要な判断をする必要があります。
しかし、法律や登記手続きに不慣れなまま進めると、期限に間に合わなくなったり、思わぬトラブルに発展するおそれがあります。そこで、早い段階で弁護士に相談することで、次のようなメリットが得られます。
通知からの期限が過ぎると、会社は強制的に解散扱いとなり、手続きは格段に重くなります。事業を継続したい場合は、なるべく早めに弁護士へ相談することが最善策です。
税務署から「みなし解散に関するお知らせ」などが届いた場合、それはすでに解散登記がなされたか、解散手続き中の可能性を示しています。登記事項証明書で会社の登記状況を確認し、速やかに必要な対応を行いましょう。
みなし解散登記がなされても、解散登記の日から3年以内に「清算人の選任・登記」「事業継続のための株主総会決議(特別決議)」「役員の再選任と継続登記」を行えば、事業を継続することができます。
みなし解散制度自体は昭和49年から始まっており、平成26年以降は毎年行われています。例年、10月ごろに対象法人に対して通知書が発送されます。
会社が「休眠会社」と判断されるには、最後の登記から12年が経過していることが条件です。この期間は、株式会社において取締役の任期が最長10年であることを踏まえています。任期満了後も同じ取締役が続く場合は、再任登記(重任登記)を行う必要があるため、10年を超えて登記がない会社は、実質的に役員の任期が切れたまま放置されているとみなされます。
みなし解散の通知が届いた会社は、解散の危機に直面しています。期限内に必要な対応を行わなければ強制的に解散登記がされ、取引停止、金融機関からの信用失墜、税務申告の増加など、多くの不利益が生じます。さらに、過去に登記を放置していた期間に対して、代表者個人が過料を負担する可能性もあります。
ただし、通知を受けた段階であれば、まだ道は残されています。事業を続けたい会社は速やかに継続手続きを行うことで、通常の法人としての活動へ復帰できます。会社を畳む場合も、清算人の選任や債務整理など、法律に沿って進める必要があります。
登記所からの通知を受け取ったら放置せず、まずは状況を確認し、必要な手続きに着手しましょう。相談先に迷ったら、法人の労務関係に精通している「VSG弁護士法人」までぜひお気軽にご相談ください。