東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
まず、代表取締役である個人が自己破産しても、会社自体を存続させることは可能なのかについて、説明しましょう。
法律上、会社(法人)と代表取締役(個人)は別人格とみなされ、法人と個人、いずれかが破産手続きを行った場合、他方も破産しなければならないということはありません。
例えば、代表取締役個人の自己破産によって没収されるのは、代表者個人が所有する不動産や預貯金などの個人資産のみです。
不動産等の名義が、個人ではなく会社名義となっている場合は没収されません。
また、中小規模の企業に多いパターンですが、代表者個人が会社の借金の連帯保証人になっていることがあります。
代表者個人のみが自己破産した場合、代表者個人が負っていた保証債務は免責されますが、元々の会社の借金には影響を及ぼしませんので、会社の借金はそのまま残ります。
代表取締役個人の自己破産の原因が、会社の債務と一切関係なく、完全な個人債務のみである場合、個人の自己破産と法人破産は連動しません。
しかし、会社の債務保証等が原因となり、代表者個人の自己破産が必要になるケースが圧倒的に多いので、実際には代表者個人のみが自己破産して会社はそのまま存続させるということは難しいでしょう。
例えば、代表者個人が借金したお金を会社に貸し付けている場合で考えてみましょう。
代表者個人が自己破産すると、個人の借金は免責となりますが、個人の資産も没収され現金化されることになります。
この資産には、当然代表者個人が貸し付けていたお金の債権も含まれます。
そのため、自己破産手続きにおいて、破産管財人は会社に対して貸付金の取り立てを行います。
会社が貸付金の返済ができなければ、結局破産するしかないという結論になります。
同様に、代表者個人の役員報酬を会社が支払っていない場合も、この未払金は取り立て対象となりますので、支払うことができなければ会社も破産せざるを得なくなります。
代表者個人と会社の負債が関連している場合、破産手続きを行う裁判所の運用においても、代表者個人の自己破産と会社の破産はセットで進めることを促されます。
代表取締役と会社とは、民法上の委任契約の関係にありますが、取締役である代表者個人の破産は委任の終了事由となります。
そうすると、会社に代表者がいない状態となってしまいますので、会社が債務超過となっていても、会社の債務整理に関する清算手続きを進めることができません。
このような場合、代表者個人の自己破産手続きを進める裁判所からも、会社の同時破産手続きを促されます。
また、破産手続きでは管財事件となった場合、一般管財で50~100万円程度、少額管財で20万円の予納金が必要になります。
この少額管財は、すべての裁判所で運用されているわけではありませんが、利用できる場合は代表者個人の自己破産と会社の破産手続きをセットで扱ってくれて、予納金も合計20万円で済みます。
中小規模の会社の場合、代表者個人と会社の負債は関連性が高いため、個人と会社の破産はセットで進められることが多く、裁判所もセットでなければ破産申し立てを受理してくれないことが一般的です。
会社を破産させずに、代表取締役個人だけが自己破産した場合、その後も代表取締役を続けることは可能かどうか考えてみましょう。
まず、2006年の会社法施行前の旧商法では、破産者であること(破産手続開始の決定を受け復権していない者)は取締役の欠格事由とされていました。
しかし、会社法の施行によって「破産者であること」は欠格事由ではなくなりましたので、代表者個人が自己破産の手続開始の決定を受けても、取締役になることは可能です。
ただし、代表者個人の自己破産は、会社との委任契約の終了事由となっている為、一旦は代表取締役を解任されることになります。
これらをまとめると、代表取締役である個人は自己破産によって、一旦代表取締役を退任しなければなりませんが、自己破産手続開始決定後すぐにでも再び選任されれば、元の代表取締役社長に戻れるということになります。
ここまで、代表取締役社長個人の自己破産を中心に説明してきました。
中小規模の企業の実情としては、会社と個人の両方が破産するのが一般的です。
ここで、会社が倒産し破産手続きする際に、会社の経営を行ってきた代表取締役社長には法的責任が発生するのかどうかについて解説したいと思います。
取締役である代表者個人は、会社との間で委任契約を締結し、適切な経営と業務執行を行う義務を負っています。
会社が破産したということは、適切な経営を行うべき義務を果たさなかった、経営に失敗したということになりますから、委任契約違反による法的責任を負うと考える方がいるかもしれません。
しかし、会社の経営は単純なものではなく、難しい判断が要求され、経済情勢などの外的環境にも影響されますから、単純に経営に失敗したというだけで委任契約違反にあたるとはいえません。
そのため、経営失敗による会社の倒産・破産に関して、取締役である代表者個人が法的責任を負わされるようなことはありません。
通常の場合、会社に対する損害賠償責任を問われることはありません。
しかし、例えば代表取締役が、自身の家族や親族に会社のお金を不当に貸し付けしたり、会社資産を不当に譲渡したり、会社のお金を私的に流用したりといった違法行為により会社に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負うことになります。
このようにわかりやすい違法行為がある場合はもちろんですが、代表取締役社長を含む取締役はすべて、会社に対する「忠実義務」「善管注意義務」という法的義務を負っていますから、これらの義務に反する行為により会社へ損害を与えた場合は、損害賠償責任を問われることになります。
このような会社への損害賠償責任は、会社の破産とともに消滅するということにはなりません。
代表取締役等の取締役の損害賠償責任は、破産管財人から損害賠償請求を受けることになり、取り立てられた賠償金は会社の破産債権者へ配当されます。
会社破産によって、会社がお金を借り入れていた金融機関や会社の仕入先などの取引企業は、債権を回収できなくなります。
損害を受けた金融機関や取引先からは、経営責任を負う代表取締役に損害を賠償できるように思えますが、通常範囲内の経営判断等の失敗について、個人が責任を負うことはありません。
また、代表取締役等の取締役は、会社とは委任関係にありますが、債権者とは直接の委任関係はありません。
ただし、代表取締役などの取締役個人が、職務執行上、悪意もしくは重大な過失によって債権者へ損害を与えた場合は、損害賠償責任を負います。
例えば、会社が倒産することが明白である状態で、返済の意思なく金融機関から融資を受けた場合や、過剰な設備投資を行った場合、仕入品を売り払うことを目的に過大な仕入れを行った場合などは、債権者に対する損害賠償責任が発生する可能性があります。
会社破産手続きでは、裁判所から選任された破算管財人が、会社の資産や債権をすべて換価処分して債権者へ配当します。
この際、代表者が「財産隠し」を行うと、会社の破産が認められないだけでなく、悪質な行為に関しては「詐欺破産罪」として刑事的な責任を問われることになりますので、絶対にやめましょう。
代表者個人が自己破産した場合、一般的には会社も同時に破産することになるため、社長として再起するためには、新しく会社を立ち上げなければなりません。
再度、会社を設立するためには、開業資金や運転資金が必要となりますが、資金調達を行うには問題があります。
代表者個人が自己破産した場合、いわゆるブラックリストに載ってしまうため、通常のような個人での資金の借り入れが難しくなります。
ブラックリスト掲載期間は、自己破産後5~10年程度ですが、その間は金融機関からの借金、ローン組み、リース契約ができなくなります。
ただし、自己破産後でも資金を得る方法はあります。
ここでは、自己破産後に再起するための資金を得る方法をいくつか紹介しましょう。
個人が自己破産しても、すべての財産を失うわけではありません。
基本的に、個人が抱える債務が免責される代わりに個人の資産の大部分を失うことにはなりますが、生活に必要な最低限の財産は手元に残ります。
この財産を「自由財産」と呼びますが、以下のような財産が認められています。
自由財産と認められる財産
自由財産は、再度会社を立ち上げる資金とはいえませんが、最低限の財産が残ることで生活を維持することができます。
再挑戦支援資金は、その名の通り、廃業歴のある経営者が再挑戦するのをサポートする日本政策金融公庫の融資制度です。
この再挑戦支援資金を利用するためには、新たに開業する方または開業後概ね7年以内の方で、以下の条件を全て満たす必要があります。
再挑戦支援資金を利用できる条件
個人事業主や小規模企業などの国民生活事業にあたる場合は、最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)まで、中小規模事業にあたる場合は、最大7億2千万円(うち運転資金2億5千万円)までの融資を受けることが可能です。
新創業融資制度は、日本政策金融公庫の国民生活事業のひとつで、新しく事業を始める方や事業開始後税務申告を2期終えていない方に向けた融資制度です。
この融資制度を利用するためには、いくつか要件を満たす必要がありますが、審査を通過した場合、最大3,000万円までの融資を受けることが可能です。
この制度を利用するためには、雇用の創出を伴う事業を始めること、創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できること等の要件をクリアしなければなりませんが、自己破産をしていても融資を受けることは可能です。
会社の代表者個人だけが自己破産して会社を残すことは可能ですが、中小規模の企業の場合は代表者個人の負債が会社の負債に関連していることがほとんどですから、実際は代表者個人と会社の破産を同時に行うことになります。
代表者個人が自己破産しても、通常は法的責任や損害賠償責任等を負うことはなく、制約もありませんから、再び代表取締役社長になることもできます。
また、日本政策金融公庫の再挑戦支援資金の利用等、他の資金調達方法もありますから、再び会社を設立し再起を図ることは可能です。
自己破産を決意することは大変ですが、自己破産後も再起する方法はいくつもありますから、早い段階で弁護士へ相談するのがおすすめです。