東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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法人や会社が債務超過や支払不能となり、負債を返済することができない場合、負債と資産を清算する破産手続きを行うことになります。
この場合、法人や会社の代表者や社長個人も、自己破産や個人再生などの債務整理手続きが必ず必要になるのでしょうか。
法人と個人の責任の範囲、会社の債務を保証している場合の代表者や社長の責任、代表者や社長の債務整理手続きについて、解説します。
Contents
法人である会社が破産する場合、代表者や社長個人の責任は、どうやって決まるのでしょうか。
特に、中小企業の場合には、会社と経営者は一体の責任を負うのでしょうか。
法人と個人の違い、法人と個人の責任について、確認しましょう。
法律によって、権利や義務の主体となることができる「人」として認められる組織を法人と呼びます。
法の下で人格を持つことが許されています。
一方、個人は生まれた時から人格を持つ人ですから、法人とは全く別の人格を持ち、法人に対しては自然人として区別します。
法人には多くの種類があります。
会社や財団法人、社団法人、独立行政法人、非営利活動法人などさまざまです。
会社の場合は、株式会社や合同会社、合資会社、合名会社に分類されています。
これらの会社の大きな違いは、出資者が負う責任の範囲です。
株式会社と合同会社では、出資者は出資額を限度とする有限の責任を負います。
合資会社は、有限責任社員と無限責任社員で構成され、合名会社は無限責社員のみです。
会社が倒産した場合に、有限責任社員は、会社の債権者に対して出資額を限度として責任を負うのに対し、無限責任社員は、負債の全額を支払う責任を負います。
会社が債務を支払いきれない場合、無限責任を負う社員は、個人の財産も弁済の対象となってしまいます。
いずれにしても、出資者は、会社が倒産したときに一定の責任を負う義務があることが分かります。
中小企業の場合には、会社と代表者や社長が一体のものであるかのような認識があるかも知れません。
しかしながら、法の下で人格を持つ会社と、生まれた時から人格を持つ代表者や社長は、別の人格であり、一体ではありません。
つまり、会社が債務を負っている場合でも、株式会社であれば、代表者や社長は出資金の範囲、また、会社に負っている責任の範囲で、債務に責任を持つことになります。
代表者や社長は、与えられた職責を誠実にこなしている限り、必ずしも会社と一体になって債務を負い、個人の財産を会社の債務の支払いに投じなければならない、ということにはなりません。
代表者や社長は、与えられた職責を誠実にこなしている限り、会社と一体になって債務を負うことにはならないのですが、会社が破産した場合はどうでしょうか。
会社が破産しても、代表者や社長であるからという理由だけでは、会社の債務を個人で支払う義務を負うわけではありませんが、一定の場合には代表者や社長も会社の債務に責任を負うことになります。
会社が融資を受ける際に、多くの場合は社長や代表者が保証人、あるいは連帯保証人となっています。
この場合は、保証人や連帯保証人として、共同で責任を負わされます。
会社が清算手続きを行って破産した場合でも、保証人や連帯保証人としての責任はなくなりません。
したがって、代表者や社長が個人の資産を処分して、会社の債務の支払いに充てることが必須になります。
個人の資産で支払いきれない場合、会社とともに、自己破産や個人再生などの債務の整理手続きをしなければいけない状態になるということです。
会社が破産申立てを行い、手続き開始が決まると、破産管財人が選任されます。
管財人は、会社に関する資産や負債について、代表者や社長に不正がないかどうかを調べます。
財産隠しや債権者隠しなどの不正が発覚すると、自己破産は認められなくなってしまい、罪に問われる恐れもあります。
そして破産手続きは成立しないことになります。
なお、会社の破産申立てと同時に、代表者や社長の債務整理手続きを申し立てる場合は、通常、同じ破産管財人が選任されることになり、会社の財産と社長個人の資産の関連も含めて調査が行われることになります。
代表者や社長個人は、会社の債務についての保証人になっていなければ、通常なら会社の債務を個人の資産で支払う義務が生じる訳ではありません。
しかしながら、破産手続きで破産管財人が行う調査において、財産隠しや債権者隠しなどの不正が認められた場合は、代表者や社長が責任を問われます。
その結果、個人としても破産しなければいけない事態に発展する恐れもあります。
つまり、会社の破産手続きを申し立てる際には、財産隠しや帳簿の改ざんなど不正を行うことがないよう、心がける必要があります。
また、破産管財人が、会社の資産や債務に関する不正の有無を調査する際は、代表者や社長が会社についての債務の保証人にはなっていない場合でも、個人の資産が調査の対象となることもあります。
個人の債務整理には、自己破産、個人再生、任意整理、特定調停といった手続きがあります。
それぞれ特徴を理解して、状況に応じた方法を利用すると、債務の問題を効果的に解決することができます。
収入がない、または少ない人、生活保護の人なども利用している債務整理の方法です。
破産手続を始める裁判は「破産宣告」と呼ばれていましたが、現在では「破産手続開始決定」と改められています。
自己破産は、裁判所に申立てをして、負債をゼロにしてもらう債務の整理方法です。
破産申立てをすると同時に、免責許可の申立てをしたことになります。
会社の破産申立てと同時に、代表者や社長が債務整理をする場合は、この自己破産の方法が多く選ばれていると言えます。
他の債務整理手続きの場合では、負債を減額してもらうことはできても、支払い自体は残ってしまいます。
破産手続きには費用がかかりますが、会社の破産申立てと個人の自己破産を同時に申立てる場合は、同じ破産管財人が選任され、手続きも同時に進んでいくため、少なくて済むメリットがあります。
自己破産手続で、裁判所から免責が許可されると、保証債務も含めて債務は免除になります。
ただし、その代わりに、生活に必要な最低限の自由財産を除き、財産は換金して処分されることになります。
なお、換価される財産は、不動産や自動車、現金、預貯金、他人への貸付金、生命保険の解約金、将来の退職金など、すべての財産が対象となります。
ただし、免責となっても、税金や罰金、隠ぺいした債務、不法行為による損害賠償など免責されない債務については、支払い義務が残ります。
また、負債の保証人に対しては、この免責の効果は及びません。
個人破産では「自由財産」の保持が認めれています。
法人破産と違って、個人破産の場合は破産後も生活しなければいけません。
そのため、99万円以下の現金といった自由財産は手元に残せます。
ただし自由財産を残すためには、裁判所に自由財産拡張の申立という要請を裁判所に提出しなければいけません。
そして裁判所が認めた範囲で、自由財産の保持ができます。
裁判所に申立てをして、負債を大幅に減額してもらう債務整理が、個人再生です。
個人再生の場合は、元本を含めた額の20%~10%まで減額の可能性があります。
大幅に減額された債務は、3年から5年の分割で支払い、残りの債務は免除してもらう手続きです。
自己破産と異なり、個人の財産処分は必須ではありません。
なお、この後で紹介する任意整理や特定調停の場合は、負債の元本を減額することは困難です。
代表者や社長の債務整理方法として、選択されることもあります。
継続的な収入がある場合に利用できますが、破産した会社の代表者や社長の場合は、継続的な収入を期待することが難しいため、利用が困難なケースも見られます。
裁判所が関与しない状態で、債権者と交渉して分割払いにしてもらうという手続が、任意整理です。
代表者や社長が債務整理をする方法として、利用されることもあります。
任意整理では、債権者との間で、支払い利息のカットや、無利息での返済期間の繰り延べについて合意を取り付けることになります。
裁判所が関与しないため、簡略な手続きで行うことが可能です。
ただし、会社の保証債務は高額な場合が多いため、分割払いになったとしても支払えない場合も多く、利用するケースは多くありません。
なお、任意整理での債権者との交渉を、簡易裁判所の調停手続きによって行う特定調整と呼ばれる方法もあります。
経営者の個人保証について、中小企業庁が「経営者保証に関するガイドライン」を定めています。
ガイドラインは、経営者の個人保証の弊害を解消することを目的として規定されていますが、法的な拘束力はありません。
保証債務については、返済しきれない債務残額について、原則として免除することが定められています。
また、多額の個人保証を行っていても、一定の生活費を残すことや自宅に住み続けられることの検討を求めています。
一定の生活費については、自由財産99万円に加え、年齢などに応じて約100~360万円とされています。
特定調停などで、債権者の同意を得ることができれば、経営者保証ガイドラインを利用した一定の財産を残しつつ、保証債務の免除や減額が認められることが期待できます。
金融機関の信用情報に瑕がつかないとのメリットもあります。
なお、経営者保証ガイドラインは、原則として、金融機関等からの保証債務が対象とされ、金融機関には該当しない取引先や買掛先の保証債務や、個人の債務などは対象外です。
破産の流れについては、下記のような6つの流れがあります。
まず自分ひとりで破産手続きを行う前に、弁護士への相談をしましょう。
ひとりで悩まずに専門家からアドバイスをもらうことで、スムーズな破産ができます。
次に債権者に破産予定であることを通知してください。弁護士に依頼して、文書での通知もできます。
そして申立書・必要書類の準備をしてください。
参考までに代表者の個人破産に必要な書類を紹介します。
必要な種類を準備して、裁判所に破産申立てをしたら、実際の手続きが進みます。
場合によっては破産管財人がつき、自分の財産を換金して、債権者に配当します。
財産の配当が終わったら、裁判所から免責の許可決定がでます。
破産するときに気になるのが「費用」だと思います。
破産の手続きは裁判所への申告も必要で、そのときに「予納金」という費用をあらかじめ裁判所に支払います。
予納金は会社の規模によって違いますが、20~1000万ほど。
先ほども説明しましたが、法人破産と個人破産を一緒に行うと、予納金の節約になります。
それぞれを個別に行うと予納金を2回分支払う必要がありますが、一緒に行えば1回だけの支払いで問題ありません。
たとえば予納金が20万の場合は、法人と個人の破産を同時に行うだけで20万円分の節約に繋がります。
「破産すると、なにか罰則があるのでは?」と思う人もいるかもしれません。
破産手続きを完了したとしても、法的な罰則はないです。
法人破産をして1つの会社を消滅させたとしても、新しく会社を立ち上げられます。
破産について勘違いされやすいのが「破産した人は、会社を作れなくなる」ということでしょう。
実は破産の法的なペナルティはなく、過去に法人破産を経験している代表者でも、新しい会社を立ち上げられます。
もし新しい事業を立ち上げて、大きな売上が出た場合、破産寸前の会社を経営してれば、負債の返済にお金を使わなければいけません。
一度破産してゼロの状態からスタートすれば、新たなビジネスで得た売上も、すべて自由に使えます。
破産をするときには、今の会社のことで頭がいっぱいだと思いますが、破産の法的なペナルティないので、新しい状態でスタートするために破産という選択肢は考慮してみてください。
破産による法的なペナルティはないですが、融資を受けることは難しくなるかもしれません。
破産したら、信用情報に傷がつくため、新しく会社を立ち上げても融資を受けにくくなります。
自己破産した情報は、破産から5~10年間は残っているため、その期間に融資を検討しているなら注意しましょう。
もし自己破産後に会社を立ち上げて、融資を受けるなら、下記のような手段がおすすめです。
費用のかかるビジネスだと、継続が難しいため、最初は運転資金のかからない事業選択もいいでしょう。
破産を検討しているなら、1日でも早い破産がおすすめです。
なぜなら破産までの時間がかかってしまうと、それだけ会社の負債が増えるかもしれないからです。
早い段階で破産を行えば、負債額も少なく、代表者が自己破産することなく、法人だけの破産で問題ないかもしれません。
負債を1円でも少なくして、損をしない破産をするためにも、手続きは早めに行いましょう。
破産を検討しているときに、気になるのが費用だと思います。
下記では法人破産・個人破産で、それぞれかかる費用を紹介します。
法人破産なら、最低でも70万円以上の費用がかかります。
破産費用は、裁判所に支払う予納金・弁護士に支払う報酬金の2つが主になります。
まず裁判所に支払う予納金に関しては、負債額の合計金額によって異なります。
法人が破産する場合は「管財事件」として扱われて、負債の金額によって下記の予納金がかかります。
負債額 | 引継予納金の額 |
---|---|
5,000万円未満 | 700,000円 |
5.000万円以上1億円未満 | 800,000円 |
1億円以上5億円未満 | 1,500,000円 |
5億円以上10億円未満 | 2,500,000円 |
10億円以上50億円未満 | 4,000,000円 |
50億円以上100億円未満 | 5,000,000円 |
100億円以上 | 7,000,000円 |
管財事件の場合は負債額が少なくても、予納金は70万円かかります。
しかし少額管財といって、予納金が20万円しかかからない破産の方法もあります。
少額管財を適用するためには、弁護士の申立が必須になるため、必ず弁護士に依頼しましょう。
また法人破産は手続きが専門的になるため、弁護士に依頼することが一般的です。
そのため弁護士への依頼費用もかかります。
個人破産の費用は、最低で30万円以上かかります。
法人破産とかかる費用は同じで、裁判所に支払う予納金・弁護士に依頼した場合の報酬の2つになります。
ただし個人破産の場合は、裁判所へ支払う予納金が1~3万円まで抑えられるかもしれません。
個人破産が資産がない場合はに「同時廃止」という手続きが行われます。
同時廃止とは、破産手続きの開始と終了を同時に行う手続きです。
一般的な破産だと、下記のような流れになります。
管財人とは、破産者の資産を換金したり、借金の返済をうながす役割を持った人です。
裁判所から選定されます。
資産がない場合は管財人の選定や換金も必要ありません。
裁判所としても手間がかからないため、その分費用が安くなっています。
破産を検討しているなら、弁護士への依頼がおすすめです。
なぜなら破産の手続きは、書類の作成や準備が大変で、法的な知識がなければ時間がかかってしまうからです。
弁護士に依頼すれば、書類作成を代行してくれるため、基本的に自分は署名・捺印するだけで問題ありません。
また破産手続きは半年〜1年ほどかかるため、その期間になにをすればいいのか?といったアドバイスがもらえます。
破産手続きに入ると、従業員・取引先との関係もこじれる可能性があるので、法律のプロである弁護士に相談できると、精神的にも楽でしょう。
現在は初回の相談を無料で行ってくれる弁護士事務所も多いため、まずは気軽に無料相談してみてくださいね。
経営が傾く前に手を打つべきだった、破産に至る前に事業再建手続きを図るべきだったなど、反省すべき点も多く残ることは事実です。
多くの中小企業の場合、融資の借入に際して代表者や社長が保証人となるため、会社が破産すればともに破産の道をたどることになります。
しかしながら、破産手続きは、不正がない限り、自己破産や個人再生など法的にもきちんと整備されていますから、清算を終えたら反省点を踏まえ、新たな気持ちで再スタートを切ることができます。