最終更新日:2023/6/29
個人事業主に課せられる税金の種類|計算方法と納税の流れ
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori
個人で仕事をしている方にとって、しっかりお金を稼ぐことができることと同時に、支払うべき税金は非常に気になるものになります。
きちんと納税はしなければならないものの、知らないことがあるために損はしたくない、というのが本音だと思いますが、では税金に関する法律を隅から隅まで調べるのも難しいものですし、面倒です。
そこで、個人事業主の方が税金で損をしないためのポイントを主なものとして2つに絞ってお伝えしたいと思います。
そもそも個人事業主の方に課される税金にはどのようなものがあるのか
税金で損しないポイントについてお伝えするにあたって、個人事業主にはどのような税金が課せられることになっているかを知っておきましょう。
所得税
まず、個人事業主には所得税が課せられます。
所得税というのは、個人の所得に対して課せられる課税です。
サラリーマンであろうと、個人事業主であろうと、個人が生きていくにあたっては通常所得を得ていくことになります。
所得税は、所得の種類を10に分けて、所得の種類ごとに税金の計算方法について規定しています。
サラリーマンの場合には給与は給与所得として計算され、個人事業主は通常事業所得として計算され、株などの運用をしている場合には配当所得、不動産や株の売却で利益を得たような場合には譲渡所得というものが発生します。
所得税は課税の対象となる金額に応じて7段階に税率が分かれており、所得が多い人ほど高い税率が課される累進課税の制度がとられています。
所得税は1年の所得を翌年の2月16日~3月15日までの間に申告をして(確定申告)、納付することになります。
住民税
所得税と密接な関連があるのが住民税です。
こちらも所得に応じて課されることになるもので、確定申告に応じて役所から納付書が送られてくるものに対してコンビニなどで支払いをするのが通常です。
消費税
「消費」という行為に対して広く負担を求める税金である消費税は、買い物をしたときに自動でとられているようなイメージがありますが、実際に納付をするのは法人・個人事業主です。
ただし、売上額が1,000万円を超えない事業者や開始から2年を経過していない事業者については納税義務がないため、小規模の個人事業主の場合には適用がない方が多いでしょう。
個人事業税
地方税法等で定められた一定の事業を営んでいる個人については、個人事業税の支払いをする必要があります。
税率は業種によって3つの区分に異なる税率を設定されておりそれぞれ5%・4%・3%となっております。
参考:個人事業税の概要http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kojin_ji.html#gaiyo_0(東京国税局)
事業税の課税対象となっている場合には、確定申告と同時に申告書の「事業税に関する事項」の記載をすることで一緒に申告をすることができるようになっています。
個人事業主が税金で損をしないための大きなポイントは2つ
以上のような税金において、損をしないためのポイントについては大きく2つの観点から考えることになります。
「経費」の見直し
大きなポイントの1つは経費の見直しです。
上記のように所得税などの税金は「収入」がいくらあるか、ということに対して課税する仕組みになっています。
「収入」はサラリーマンの給与所得と個人事業主の事業所得では計算の方法が少し違うからです。
サラリーマンの場合は受け取った給料から会社が税金を計算して天引きしてくれています。
しかし、個人事業主の場合は売上の金額から必要な「経費」を差し引いて課税の対象となる課税所得を計算して、その金額から適用税率などを計算することになっています。
つまり、本来は課税所得金額の差し引きができる経費であるにもかかわらず、これを知らないで計上していなかったような場合には損をすることになります。
どのような支出を「経費」にしてよいのかは多少知識が必要なことになるので、実は多くの人が適切に「経費」を計上できていないといわれています。
具体的に「経費」にできるものについて把握する
では具体的に「経費」にできるものについて見てみましょう。
日常生活と仕事用の経費として切っても切れないものを経費にする
まず、個人事業主の方で、仕事用のものと日常用のものを一緒に使っているようなケースがあります。
具体的には、自宅で仕事をしているような場合には、自宅を賃貸している場合には賃料、住宅ローンで自宅を購入している場合にはローンの月々の支払いは、自分のための費用ということできる一方・仕事で利用している、ともいえます。
他にも、水道光熱費・固定電話・携帯電話・自動車の費用なども同様といえます。
このような費用は日常生活をしている割合と仕事をしている割合を分けて、仕事として利用している分については経費として計上します。
たとえば店舗が必要な業種で店舗兼住宅になっているような場合で、店舗兼住宅の割合が2/3程度である場合には、家賃が月額15万円である場合には、10万円は費用化できる、ということになります。
ここに「経費」には家賃・水道光熱費・ガソリン代などの直接金銭として支払っているもののみならず、自動車そのものや、備品などの固定資産を購入した後の価値の損耗を会計上計算する「減価償却」という費用計上についてもチェックをしておくようにしましょう。
事業内容に伴う行為
個人事業主の方で自宅で働いている方は多く、自宅に執務や打ち合わせのスペースを用意していないため、他の人と打ち合わせをする場合には外のカフェやレストランを利用するような場合もあるでしょう。
食事や休憩の目的でカフェやレストランを利用するのであれば日常生活なので流石に経費と認めるわけにはいきませんが、会議や打ち合わせの目的であればそれは事業としての利用をするものなので経費にすることができます。
他にも、事業内容としてコンサルティングを行っているような場合には新聞の購読や専門書・雑誌の購読は経費といえるでしょうし、モデルや女優をしているのであれば衣装や化粧品も経費であるといえます。
福利厚生の経費化は慎重に
一般の企業でサラリーマンとして勤めている場合には、会社の福利厚生としてスポーツジムや中にはマッサージの利用を会社の経費で行う事が出来る場合があります。
この費用については会社では当然のように経費として経理処理・法人税申告では計上をしているのですが、同じような感覚で個人の所得税申告にあたって費用にするのは、一般的には認められていないのが税務のルールです。
ただし、個人事業でも複数の人を雇用していて、自分も含めて全員が同じようにスポーツジムやマッサージの利用ができるとしている場合には、会社の福利厚生と認めることができますので、このような場合には経費にすることができると考えましょう。
青色申告制度を利用して節税をする
次に、所得税の仕組みの一つとして、有利な税制の適用を受けるための方法として青色申告制度というものがあります。
青色申告制度とは、収入・支出に関する記帳を正しい方法で行うことを中小の事業者にも徹底させるために、税金面で恩恵をあたえるために設けられた制度です。
この制度によらない申告の事を白色申告と呼ぶので併せておぼえておいてください。
この制度の適用を受けていないと次のような点で損をします。
65万円の特別控除がうけられない
まず、青色申告制度の利用をしていると、それだけで申告する収入を65万円圧縮することができます。
青色申告はいわゆる日商簿記検定などで有名な複式簿記という会計処理方法によって会計記帳を行う必要があります。
このような説明をすると、とても難しい事のように思えますが、最近ではパソコンの会計ソフトやクラウド上の会計処理サービスが発達しており、複雑な会計処理の原則を知らなくても行えるようになっています。
つまり、事実上そんなに難しくなくなっている青色申告をしないだけで、まず65万円分の所得税の基準になる金額の控除ができていないということになります。
家族と一緒に商売をしているような場合に給料を一部しか計上できない
たとえば法人にしていない飲食店などの場合家族に手伝いをしてもらって、その対価として給料を支払っているような場合もあるでしょう。
その場合には給料なのだから全額経費にできるだろう、と思うかもしれませんが、確定申告をしていない場合には給料は全額経費にすることはできず、「事業専従者控除」として、
イ) 従業員が配偶者(結婚相手)の場合には86万円、それ以外の場合には50万円
ロ) 控除をする前の事業所得の総額÷(専従者数+1)
イ)・ロ)どちらかの低い金額を事業所得から控除できるにとどまります。
一方で、青色申告をしている事業者が、
1.青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
2.その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
3.その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
この3つの要件を満たしている者を雇用して給料を支払っている際には、「青色専業専従者」に対する給与の支払いとして、常識的な範囲での給与支払いであれば全額経費にすることができます。
つまり青色申告をしなければ、給料の支払いを経費にできない点で損をしています。
赤字を繰り越すことができない
個人事業主も開業当初は開業準備のための備品の購入や各種サービスの申し込みをするなどして多額の経費がかかることがある一方、軌道に乗るまでは思うように売上があげられず赤字を出すようなこともあります。
赤字になった場合には、当然所得は0ということになるのですが、青色申告をしていると赤字を繰り越すことができます。
赤字を繰り越すというのは、その時の赤字分次の年の経費にできるという意味です。
例えば、初年度に売り上げを300万円・経費で400万円使ったような場合には100万円の赤字となるのですが、翌年に400万円の売り上げがあり、250万円の経費の支出をすると150万円の黒字になるのですが、前年の100万円の赤字をここで差し引き計算をして、50万円の黒字に圧縮することができます。
赤字の繰り越しは3年分できるので、大きな売上をあげられる時期が来ているときに先行して設備投資をして赤字をつくっておいて、翌年以降の大きな売上を繰り越した赤字で清算して黒字を圧縮し、それに伴う納税額を下げるということができないという点で損をしているといえます。
一括減価償却できる資産の上限が狭くなる
個人事業主が事業に関する固定資産を購入した場合には、確定申告では固定資産に関する減価償却を行います。
固定資産というのは、商品のようにすぐに売却するものではなく、事業のために使う資産で消耗品でないものをいいます。
たとえば現在ではどのような業種でもパソコンを使うことが一般的ですが、このパソコンはパソコン自体を販売する目的ではないのであれば固定資産です。
また事業に自動車を使う方も多いのですが、自動車も販売目的ではないのであれば固定資産です。
パソコンにしても自動車にしても使っているうちに損耗したり価値が落ちたりしてきます。
このような価値の減少を会計面から捉えるのが減価償却です。
たとえば軽トラックの新品を期首(1月1日)に100万円で買った場合には、会計処理としては4年で減価償却することになっており、定額法で行うのであれば毎年25万円ずつ(最後の年だけは帳簿に固定資産がある事を残すために24万9,999円にして1円を計上するようにします)経費に計上します。
この減価償却ですが、少額の資産の場合すべて何年かにわけて減価償却をさせるのはあまりにも面倒だという理由で、1回で減価償却をしてしまう会計処理が認められています。
通常は10万円以上20万円未満なのですが、青色申告事業者については10万円以上30万円未満の財産が対象となります。
つまり青色申告をしていないと一括償却できる資産が減るため損をするということになります。
税金で損をしない方法は他にもある
以上の「経費」支出の見直しと、青色申告の適用をするだけでも税金面で損しないようにはなるのですが、お金の使い方次第によっては税金で得をすることができる仕組みもありますので、ご紹介します。
保険の利用
個人事業主をしていると保険会社の方とおつきあいする機会が格段に増えます。
これは保険商品の利用によって節税効果があることに関係しています。
個人事業主だけではなくサラリーマンもそうなのですが、生命保険に加入をすることによって、生命保険料控除という所得税の税額控除を受けることができるようになります。
また保険の中には中小機構が行っている、廃業や退職時に備える小規模企業共済や、連鎖倒産に備える目的でする中小企業倒産防止共済という保険は、政策的に望ましい保険であることから、全額経費に算入することが認められているものです。
積み立てておけば契約者貸し付けの制度の利用もでき、その金額も非常に低いものになっていますので、急に借入をしなければならなくなったような事態が発生した場合にはここから取り崩すことができます。
個人事業主はどうしても収入が安定しない傾向にあることから、「老後や万が一の時のためにしっかり貯めておく」という考えを持ちがちですが、お金が必要になりそうな事態に対応するための保険ですので、非常に使い勝手がよいといえるでしょう。
投資の利用
個人事業がある程度の規模になってくると、お金が入ってくるルートを複数設けることは当然に考えることで、その一つとしてよく使われるのが不動産投資ということになります。
不動産を購入して賃貸すると不動産収益になる……ここだけを切り取ると税金が上がって損をするのでは?という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし不動産所得も事業所得と同じで必要な経費の支出を計上することができ、経費が上回っているような場合には赤字になります。
その赤字はほかの所得と通算することとなっているので、事業所得で大きな黒字になっている一方で不動産所得を赤字にできていれば、所得税における課税の所得は下がることになります。
不動産収益においては費用になるのは、建物の減価償却費用、またローンで借り入れをした場合には返済のための金額なども経費にすることができます。
こういった経費をしっかり先行した支出しておくことによってその期間は節税をすることができ、ローンの支払いが終わったころには事業所得は不動産収益の2本のしっかりした収入で生計をたてることができたり、不動産収益の支出だけで暮らしていくことになって個人事業のほうは後進に譲ったり、引退することも可能となります。
そもそも個人事業主で居ること自体が損な場合も
こちらも事業の規模が大きくなったときに考えたいのですが、そもそも個人に課せられる所得税は累進課税という方式になっており、課税所得が4,000万円を超えると40%の課税がされることになっています(住民税の課税を合わせると半分以上が税金で引かれます)。
そのため株式会社を設立するなどの法人化をすることが適切な場合もあります。
たしかに赤字でも事業税がかかったりしたり、従業員を雇う場合には1人から社会保険の加入が義務付けられる、労務・経理などの手続きが面倒であるというデメリットはありますが、法人のほうが信頼もあり売上を上げやすくなるとともに、税率が中小であれば年800万円以下の部分には19%それを超える部分については23.4%(法人による)にとどまりますので、税率がそもそも低いです。
また、会社でアパートを契約して社宅にすることができるなど、節税のための方法がぐっと増えます。
たとえば個人でプログラミングとwebサイト制作と飲食業をやっているようなケースで考えると、プログラミングとwebサイト制作と飲食業をそれぞれ法人化してしまうことで1社あたりの売上を下げることもできます。
一定程度の規模になってきた場合に、税金で損をしないためには法人化は必須といえるでしょう。
こちらの記事も合わせてチェック!→個人事業主のための7つの節税
まとめ
このページでは、所得税という観点を中心に個人事業主が損をしないための方法についてお伝えしてきました。
小さい規模の個人事業主ですと、すべてを実行するのが難しい部分もあるのですが、経費に関する知識と青色申告に関する知識は必須といえますので、きちんと復習するようにしておきましょう。
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