最終更新日:2022/6/6
一般社団法人を使用した相続税・贈与税節税はもうできない?2018年の法改正の内容とは
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 一般社団法人とは何か理解できる
- 一般社団法人を使って贈与税・相続税を節税する仕組みがわかる
- 2018年の法改正で贈与税・相続税の節税効果は減少したことがわかる
- 節税効果は低いが不動産分割への対策として有効なことがわかる
- 相続対策で一般社団法人を設立するのが向いているケースがわかる
一般社団法人は2006年に、それまでの社団法人に代えて設立が認められた法人です。
設立許可が必要とされた社団法人とは異なり、一定の手続きと登記によって誰でも設立でき、相続税や贈与税など税制上の恩恵が与えられました。
ただし、租税回避の批判の高まりを受け、2018年には法律が改正されたことによって、節税効果が薄れています。
以下では、一般社団法人とは何か、贈与税や相続税が節税できる仕組み、節税効果が低下した2018年法改正の内容について紹介します。
また、改正後も不動産分割を避ける相続対策として有効なことや、相続対策で一般社団法人を設立する方法が向いているケースについても紹介します。
目次
一般社団法人とは
一般社団法人は、株式会社や合同会社などと異なり、営利を目的としない「非営利法人」です。
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」において、この法人の設立や組織・運営・管理に関する規定が定められています。
非営利法人は、利益が発生する事業を行うことも報酬や給与を支払うこともできますが、事業によって得た利益を配当することはできません。
株式会社であれば、株主に利益を配当して還元するところですが、非営利法人の場合は、利益は翌年度以降の活動資金に充てることになるのです。
非営利法人としてはNPO法人や公益法人が知られていますが、活動内容についての制約など設立の要件が厳しく、設立までに実績期間がかかります。
これに対し、一般社団法人については活動内容が自由で、設立までの期間も多くを要しません。
このような設立しやすさもあって、任意団体の法人化でも、一般社団法人を選択する組織が多くなってきたのが実態です。
一般社団法人を使って贈与税・相続税を節税する仕組み
一般社団法人は、設立が容易で税制上のメリットがあることから、贈与税や相続税の節税対策としても利用されてきました。
一般社団法人を使った節税の仕組み
一般社団法人は、株式会社のような利益配当はできないものの、収益事業を営むことができ、不動産や有価証券などの収益財産を所有することも可能です。
一方、資本金に相当する出資が不要で、設立時に2名以上の社員がいれば設立できます。
出資がないため、一般社団法人には株式会社のような持分もなく、法人が所有する財産についての所有割合に定めがありません。
このような法人は、持分の定めのない法人と呼ばれています。
つまり、一般社団法人の財産は、持分の定めがないため相続財産の対象にならず、相続税が課されることにもならないのです。
また、税制上も、定款で余剰金の分配を行わないことを定め、主たる事業として収益事業を行わないなどの要件を満たすと優遇措置が与えられます。
要件を満たしていれば、物品販売業や物品貸付業など34種類に該当しない事業で得た利益や、受けた寄付が非課税になるのです。
不動産についての節税効果が大きい
特に、不動産については税の圧縮効果が大きく、法人名義に変更した後で理事に据えた子の名義に変更すれば、贈与税が課されることはありません。
なぜなら、株式会社で言えば役員の選任手続きに当たり、贈与にも相続にも該当しないことになるからです。
さらに、不動産の運用が可能で、理事への報酬額も規制がないため、実質的には不動産などの資産を所有していることと変わりがありません。
しかしながら、制度を悪用した租税回避が多発したことで批判が高まり、2018年に改正が行われたため、この仕組みはあまり機能していないようです。
改正内容については、この後紹介します。
一般社団法人を使用した贈与税・相続税の節税効果は減少
2006年に制度が創設されて以来、仕組みをうまく利用すれば相続税が節税できることになったものの、悪用する税金逃れが多発しました。
このため、2018年度の税制改正において制度が見直され、贈与税や相続税の節税効果は大きく低下することとなっています。
当初の規制
実は改正前も、一般社団法人を使用した相続税の税金逃れは相続税法で規制が行われていました。
持分の定めのない法人において、財産の贈与または遺贈があった場合、親族などの税負担が不当に減少するケースでは、法人に課税できるとの規定です。
ただし、「不当に減少する」のかどうかについては、一定の要件が定められていたものの、規定が曖昧で実効性がありませんでした。
2018年度税制改正
そこで、2018年の税制改正では、曖昧で実効性に乏しかった一定の要件について、明確に規定されることになったのです。
これにより、親族などの税負担が「不当に減少する」ケースの要件が明確化され、一般社団法人でも贈与税や相続税が課されることになりました。
次のような要件に一つでも該当すれば、一般社団法人でも贈与税や相続税が課されることになっています。
- ・法人役員のうち親族が3分の1を超える
- ・解散した場合、残った財産が国や公益団体ではなく、理事や親族、営利団体のものになる
- ・前の所有者が名義変更前の3年以内に、給与の支払いや貸付け、施設の利用などの利益を受けている
さらに、相続税については、一般社団法人のうちでも特に同族経営の色合いの強い特別な法人について、大きな改正が行われています。
相続税が課される一般社団法人と相続税の計算
2018年の税制改正では、資産を一般社団法人に移動すれば相続税が課されない点も対象になりました。
つまり、一般社団法人に移された資産についても相続税を課す方向で改正が行われたのです。
ただし、公益のために活動している法人など、一般社団法人として適切に活動をしている法人については、課税の対象外のままです。
このように、改正の対象となる法人と対象外の法人についてのルールが定められました。
そのルールとは、まず、相続時点で法人の理事のうち同族理事が2分の1を超える一般社団法人には、相続税を課すとしたものです。
また、相続開始前5年以内の役員割合についても規定され、同族理事が3年以上過半数であった場合も同様に、相続税がかかることとされました。
ここで「同族理事」とは、被相続人および被相続人から見て次のような親族などが理事となっている場合が該当します。
- (1)配偶者(事実婚を含む)
- (2)三親等内の親族
- (3)被相続人と特殊な関係がある者(被相続人が役員となっている会社の従業員、被相続人によって生計を維持している者など)
また、課税の対象となる金額は、相続開始時の純資産額を同族理事の数に1を加えた数で除した額となり、遺贈により取得したものとみなされます。
節税効果は低いが不動産分割への対策として有効
税制改正後の一般社団法人については、基本的に節税にはならないものの、不動産を分割しなくてよいというメリットはあります。
したがって、相続時に不動産を分割するのが難しいケースや、分割したくないケースでの対策としては魅力があります。
基本的に節税にはならない
改正後も、役員に占める親族の割合を減らすなど「親族などの税負担が不当に減少しない」条件を満たせば、贈与税や相続税がかかりません。
つまり、親族役員の割合が3分の1以下で、解散したら財産は国や公益団体に帰属し、以前の不動産所有者が特別な利益を受けていないなどの法人です。
しかし、このような場合は相続させたい人に限定して財産を与えることができず、相続対策としての効果はほとんどありません。
不動産の相続時に分割しないですむ
一般社団法人を設立して不動産の名義を法人名義にしても、以前のような節税対策にはなりません。
ただし、一般的な相続で発生しがちな、不動産の分割で生じる問題が解決できる可能性があります。
複数の相続人が不動産を相続する場合は、金銭のように均等に分割して相続することができません。
売却すれば均等に分割できるものの、不動産として所有したい場合は、共有名義などにしてしまえば後の売却や賃貸などが困難になってしまいます。
また、土地は分筆して相続する方法も考えられるものの、一定の面積や面する道路などがなければ資産価値が劣ってしまいます。
このようなケースでは、不動産の価値を報酬として均等に配分すれば、不動産を売却や分割せずに済むため、資産価値を保つことができます。
相続対策で一般社団法人を設立するのが向いているケース
一般社団法人の設立が、相続税の節税対策となる効果は大きく低下したものの、相続で不動産を分割せずに済むメリットがあります。
また、非営利型としての一般社団法人であれば、非収益事業が非課税になる利点などもあります。
ここまでの流れを踏まえ、一般社団法人の設立が向いている人のケースを紹介します。
相続で不動産を分割してほしくない人
不動産を一般社団法人の名義にすることによって分割しないで済む方法は、株式会社を設立する場合でも可能です。
しかし、非営利型法人に該当すれば、非収益事業が非課税となるメリットが加わります。
また、収益不動産を個人で所有し、課税所得が900万円をこえるようなケースでは、法人税の実効税率を利用する方が得になるでしょう。
個人の所得税率は累進税率であるため、このようなケースでは30%を超えることになり、法人の実効税率の方が得になる可能性があるのです。
つまり、不動産の資産価値を下げずに所得を確保したい場合などは、相続対策として一般社団法人を設立するのが向いていると言えます。
親族以外にも財産を分けたい人
収益財産がある場合など高額な所得を得ている場合は、個人と法人での税率の差だけでなく、所得の分散効果にも注目する必要があります。
一般社団法人を設立して役員に報酬を支払えば、所得が分散できるため節税になるとともに、大規模修繕費や退職金の積み立てなどで将来に備えることも可能です。
また、親族以外の信頼できる方などにも財産を分けることによって、個人への資産集中を防ぐことにつながり、相続対策としても魅力があります。
まとめ
一般的に、節税効果が高い制度ができたときなどは様々な情報が溢れますが、逆の場合はあまり注目を集めず埋もれてしまいがちです。
一般社団法人を使用した相続税や贈与税の節税についても同様で、未だに税制改正前の情報を多く見かけます。
同族役員の数を減らすなど、相続税を課されない対策などもあり得ますが、法人の運営が難しくなることや脱税となってしまうリスクもあります。
判断に迷うときや正確な情報を得たいときなどは、会社設立のコンサルティング会社など専門家に相談することがおすすめです。