最終更新日:2022/6/6
法人保険は節税対策になる?令和元年7月の税制改正の内容を解説
この記事の執筆者 税理士 森健太郎
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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この記事でわかること
- 令和元年7月に実施された法人保険に関する改正の内容がわかる
- 税制改正で法人が加入する保険の経理方法がどう変わるかがわかる
- 税制改正により関連した法人保険の注意点について知ることができる
法人が節税目的で生命保険に加入するということは、以前から行われてきました。
ただ、これに対して国税当局は、行き過ぎた節税とならないように損金とすることのできる金額を制限してきました。
長期平準定期保険や逓増定期保険と呼ばれるこれらの保険の中身については、新商品が登場する度に見直されています。
そこで、令和元年7月に行われた税制改正の内容を確認し、どのように損金の額を計算するのかを確認していきましょう。
令和元年7月の税制改正で法人保険の節税効果が変化
令和元年7月8日の改正で、法人が契約者となる定期保険や医療保険について、損金となる金額の計算方法が変更されました。
なお、対象となる保険の被保険者は法人の経営者または従業員、保険期間が3年以上のものとされています。
損金算入の金額は解約返戻率で区分する
損金算入できる金額は、保険契約の解約返戻率の取り決めによって、4つに区分することとされています。
- (1) 解約返戻率のピークが50%以下の商品
- (2) 解約返戻率のピークが50%超70%以下の商品
- (3) 解約返戻率のピークが70%超85%以下の商品
- (4) 解約返戻率のピークが85%超の商品
この区分に応じて、毎年支払う保険料の損金算入割合が定められているのです。
(1) 解約返戻率のピークが50%以下の商品
解約返戻率が一番低い区分となっています。
ピークでも解約返戻率が50%以下の保険商品については、支払保険料の全額を損金とすることができます。
(2) 解約返戻率のピークが50%超70%以下の商品
解約返戻率が50%超70%以下の保険商品については、さらに支払保険料の金額によって区分する必要があります。
年間の保険料が30万円以下の場合は、支払保険料の全額を損金算入することができます。
一方、年間の保険料が30万円を超える場合は、支払時期により3つの経理方法によることとされています。
まず、保険期間の開始から保険期間の4割を経過するまでは、支払保険料の60%を損金、40%を資産計上することとされます。
保険期間の4割が経過してからは、支払保険料の全額を損金算入することができます。
さらに保険期間が75%経過して以降は、当初4割経過するまでの期間に資産計上した金額を取り崩していくこととなります。
(3) 解約返戻率のピークが70%超85%以下の商品
解約返戻率が70%超85%以下の保険商品については、支払保険料の金額による区分はありません。
保険期間の開始から保険期間の4割を経過するまでは、支払保険料の40%を損金、60%を資産計上します。
保険期間の4割が経過してからは、支払保険料の全額を損金算入します。
その後、保険期間の75%を経過した以降は資産計上した金額を取り崩して、その額も損金となるのです。
(4) 解約返戻率のピークが85%超の場合
解約返戻率が85%を超える保険商品の場合、保険期間の最初の時期に損金となる金額は、かなり限定されます。
保険期間の開始から10年間は、「支払保険料×ピークの解約返戻率の90%」を資産計上し、残りを損金とします。
保険期間の11年目以降から解約返戻率のピークまでの期間は、「支払保険料×ピークの解約返戻率の70%」が資産となります。
その後、解約返戻率がピークを過ぎてからは、支払保険料は全額損金となり、資産計上した金額も取り崩して損金となります。
税制改正後の法人保険の経費処理方法
それでは、先ほど紹介した税制改正の内容を、実際の経理処理方法で確認していきましょう。
実際に加入した保険商品がどのパターンにあてはまるのか、事前によく確認しておくことが重要です。
ここでは、保険期間20年、年間の支払保険料200万円の保険商品を例に考えてみましょう。
(1) 解約返戻率のピークが45%の保険商品の場合
解約返戻率が50%以下であるため、支払保険料の全額を損金算入することができます。
たとえば年間の支払保険料が200万円、保険期間が20年の場合、20年間にわたって損金算入することができます。
(2) 解約返戻率のピークが60%の保険商品の場合
解約返戻率のピークが50%超70%未満であるため、まずは支払保険料が年間30万円を超えるかどうかを調べます。
仮に支払保険料が年間200万円であれば、保険期間に応じて資産計上しなければなりません。
保険期間の開始から4割が経過する8年までは、損金120万円、資産80万円となります。
その後、9年目以降は支払保険料の200万円全額が損金となります。
さらに16年目以降は、資産計上されている640万円を残りの5年間で取り崩すため、128万円も損金になります。
(3) 解約返戻率のピークが80%の保険商品の場合
解約返戻率のピークが70%超85%以下であるため、保険期間開始から8年までは、損金80万円、資産120万円となります。
その後9年目以降は、支払保険料の200万円全額が損金となります。
さらに16年目以降は、資産計上されている960万円を残りの5年間で取り崩すため、192万円も信金となるのです。
(4) 解約返戻率のピークが95%の保険商品の場合
解約返戻率のピークが85%超であるため、まずは解約返戻率のピークが何年目に来るかを確認しなければなりません。
たとえば、解約返戻率のピークが15年目にくる場合、以下のようになります。
まずは保険期間開始から10年までは、支払保険料200万円×ピークの解約返戻率95%×90%=85.5%を資産計上します。
したがって、資産が171万円となり、損金の額は29万円となります。
その後、11年目から解約返戻率のピークを迎える15年目までは、ピークの解約返戻率95%×70%=66.5%が資産となります。
したがって、資産が133万円となり、損金の額は67万円となります。
その後、16年目以降は支払保険料200万円が損金となる他、資産計上した2,375万円を残りの5年間で取り崩します。
そのため、475万円も損金となります。
税制改正に関する注意点
法人が契約する生命保険については、税制改正が行われたことで、その経理方法に一層の注意が必要となりました。
この他に、法人が保険契約を利用している場合の注意点をまとめました。
すでに契約している保険は税制改正の対象外
これまでも、法人が行う生命保険契約について、その損金算入に関して一定の制約を受けることがありました。
それが長期平準定期保険や逓増定期保険と呼ばれるものです。
保険期間や被保険者の年齢に応じて、損金算入される割合が変わるため、注意が必要です。
なお、これらの保険契約を令和元年7月8日より前に行っていた場合は、今回の税制改正の影響は受けません。
これまでのルールにしたがって、従来どおりに損金となる金額の計算を行うのです。
今回の税制改正の影響を受けるのは、令和元年7月8日以降に契約したものに限られます。
ハーフタックスについては変更なし
法人が行う生命保険契約の中に、ハーフタックスと呼ばれるものがあります。
これは従業員の福利厚生の一貫として行われるもので、法人が契約者、経営者や従業員が被保険者となるものです。
そして、死亡保険金が発生した場合は遺族が受取人になり、満期保険金が発生した場合は法人が受取人になります。
従業員が亡くなった場合には法人から一定の保障を与えることができるため、従業員の福利厚生目的で利用されています。
このハーフタックスについては、支払保険料の半分は損金、半分は資産計上となりますが、今回の改正の影響は受けません。
税の繰り延べによるメリットも低下
保険契約を解約して解約返戻金を受け取ると、それまで損金経理した金額に対応する益金が計上されることとなります。
そのため、解約したタイミングで次の保険契約を行い、一度に課税されることを回避することが行われてきました。
これは発生していたはずの利益を先送りするものであり、「税の繰り延べ」という考え方となります。
しかし、今回の改正により、返戻率のピークで50%を超える保険契約については、資産計上する金額が発生します。
そのため、保険契約を利用した税の繰り延べを行っても、ほとんど意味がないものとなってしまうのです。
まとめ
法人が節税の一環として生命保険契約を利用することは、かなり以前から行われてきました。
しかし、新たな保険商品が登場する度にそれを封じ込める国税当局とのいたちごっことなっています。
今回の税制改正も、保険商品を利用した節税、あるいは税逃れを封じ込める目的があります。
法人にとっては、生命保険を利用した節税を行う価値が低下する改正となっていますが、今後さらなる見直しの可能性もあります。
本当に保険を利用した節税がいいのか、他の節税方法と比較しながら、最適な方法を選択するようにしましょう。