東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
目次
交通事故は、物損事故と人身事故に分けられますが、主な違いは次の3点になります。
物損事故 | 人身事故 | |
---|---|---|
損害賠償の範囲 | 物的損害のみ | 身体的損害・精神的損害 |
請求できる損害賠償額 | 人身事故より低い | 物損事故より高額 |
刑事処分・行政処分 | 加害者が当て逃げしたとき以外、処分無し | 刑事処分・行政処分ともにあり |
損害賠償の範囲
事故による損害賠償の範囲は、物損事故では物的損害に限られますが、人身事故では身体的損害と精神的損害も含まれますので、慰謝料が支払われる人身事故の方が被害者の受け取れる賠償金が高額となります。
請求できる損害賠償額
人身事故では、加害者が加入している自賠責保険から賠償金が支払われますが、物損事故では支払われません。
刑事処分・行政処分
人身事故では、加害者に対して懲役・罰金などの刑事処分と、運転免許の違反点数が加算される行政処分が科されますが、物損事故では加害者が当て逃げをしたときを除いて、これらの処分はありません。
物損事故には以下の2種類があり、安易に相手方の提案や要望に応じると、必要な補償を請求できなくなる可能性があります。
警察へ物損事故として届出した場合、重要証拠となる実況見分調書が作成されないため、示談交渉で不利な過失割合を提示される可能性があります。
また、加害者が「お互いにメリットがある」などの理由で過失100%を認め、物損事故にしようとする場合もありますが、被害者にはデメリットしかありません。
このようなケースでは、人身事故への切り替えが難しくなる頃に手のひらを返し、「貴方にも過失がある」などと主張してくる可能性もあるでしょう。
被害者には物損事故のままにしておくメリットがないため、人身事故への切り替えは早めに対応するべきです。
交通事故の直後はショック状態になっている人が多く、出血や裂傷、骨折などのケガや痛みなどの自覚症状を感じていなくても、後になって症状が現れてくることがあります。
特にむち打ち症は、事故から数日経ってから痛みや痺れなどの症状が現れてくることが多いです。
後になって症状が現れて通院治療をしたときは、物損事故から人身事故へ切り替えていないと、最終的に加害者から治療費や慰謝料などの賠償金を支払ってもらえなくなる恐れがあります。
人身事故に変更可能な期間や、変更の方法はどうなっているのでしょうか。
物損事故から人身事故に切り替えるためには、事故処理をした警察署で切替えの手続きをする必要がありますが、手続き可能な期間については「事故後〇日以内」などと明確な制限が法律で定められてはいません。
ただし、事故から時間が経過しすぎると、被害者のケガが事故によるものかどうか信憑性を疑われたり、事故現場での証拠収集ができない、当事者の記憶が曖昧になっているなどの理由で、警察による事故捜査が非常に困難になることもあります。
人身事故への変更は、警察から「人身事故に切り替えるときは〇日以内に連絡を」と指示があるときを除いて、一般的に1週間から10日を過ぎると厳しいといわれています。
交通事故が物損扱いになると、加害者には以下のメリットが生じます。
交通事故の行政処分には免許停止や免許取消しなどがあるので、加害者が職業ドライバーであれば、職を失う可能性があるでしょう。
また、刑事処分を免れると過失運転致死傷罪などに問われないため、禁固刑や懲役刑、罰金刑の回避も可能になります。
人身事故では治療費や慰謝料などを加害者に請求できますが、物損事故であれば物的損害の補償しかありません。
被害者への補償は保険会社が支払うため、加害者が自己負担するわけではありませんが、任意保険から支払うと翌年の保険料が上がります。
加害者が「物損事故にしよう」と提案してきた場合、自己都合しか考えていないケースが多いので注意しましょう。
ここからは、物損事故から人身事故へ変更する具体的な手順について説明します。
事故直後に痛みなどの症状がなくて病院を受診していなかった場合でも、事故から遅くとも1週間ぐらいまでに病院を受診して診断書を作成してもらいましょう。
また、診断書には、事故日・初診日・傷病名・治療を要する期間・交通事故による受傷との因果関係などの記載が必要です。
物損事故に対応してくれた警察署へ診断書とともに必要な書類を提出しますが、事前に連絡をして、被害者と加害者の双方が警察署へ出向く必要があります。
また、加害者が協力的ではないときには、警察へ事前に相談するか弁護士に依頼することをおすすめします。
警察が人身事故への切り替えを受理した場合、改めて捜査が開始され、当事者や目撃者からの事情聴取、事故現場での証拠収集などの捜査結果、現場の状況、事故発生時の状況などをまとめた実況見分調書が作成されます。
また、当事者の供述をまとめた供述調書も作成され、実況見分調書と併せて人身事故の重要な証拠資料となります。
被害者は、警察で人身事故への変更手続きが終了したら、交通事故安全センターから交通事故証明書を発行してもらえますので、これを加害者側の保険会社へ提出します。
その後は、通院治療が終わるのを待って示談交渉を開始することになります。
物損事故を人身事故に切り替えようとしたが警察に受理してもらえなかった場合、保険会社へ提出しなければならない交通事故証明書には物損事故とされているので、被害者には治療費や慰謝料などの賠償金は支払われません。
この場合、被害者が物損事故として届けていた正当な理由があるときには、「人身事故証明書入手不能理由書」を保険会社へ提出すると、人身事故として賠償金、治療費や慰謝料などを支払ってもらえる可能性があります。
人身事故を物損事故で処理するということは、被害者にとって百害あって一利なし、事故の責任を負わなければならない加害者にしかメリットのない行為です。
被害者が身体に損傷を負っている可能性があれば、必ず人身事故へ変更することをおすすめします。