東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
目次
むちうち症とは、医学上の定義が大変に難しく、一種の神経症状だとされています。
むちうち症の症状は肩や首のだるさや痛みなどで、長引くと頭痛やめまいが起こることもあります。
症状が重ければ後遺症として認定されることもあるため、肩や首に違和感を感じた場合は早めに病院に行きましょう。
むちうちの治療は長引くことが多く、神経症状が強いため後遺症としても特殊ですので、裁判所も特別な扱いをしています。
むち打ちについて詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
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むちうちとは、後遺症の一つとされています。
傷害事故の場合、被害者は、傷病の治療のために入院をしたり、通院をしたりすることになります。
そして、通常の傷害の治療が終わった時点を症状固定といい、症状固定までの損害を「傷害による損害」としています。
これに対して、症状が固定したあとに残った損害を「後遺症による損害」とします。
むちうちの場合は、症状が固定したあとも痛みとして残ってしまうため、後遺症と認定されているのです。
交通事故にあった場合、後遺症として発生することが多いのがむちうちです。
しかし、むちうちは交通事故の後遺症としての等級認定は受けにくいとされています。
むちうちが後遺症としての認定を受けにくいのは、大きく2つの理由があります。
1つ目は、むちうちは一時的な症状であり、将来的に回復するものであると考えられるためです。
2つ目は、他の後遺症に比べてその症状が軽いためです。
後遺症の認定を受けるためには、医師に作成してもらう「後遺障害診断書」の記載方法を工夫しなければなりません。
むちうちの症状は、他の後遺障害と比較した時に、症状の軽いものと判断されます。
そのため、高い等級を取ることは難しいです。
症状の程度の高い方から第1級、第2級・・・となり、最も症状の軽い人は第14級となります。
むちうちの場合、よく取れても12級であり、14級となることも珍しくありません。
ただ、それ以上の等級で認定されるケースがないわけではありません。
神経系の機能や精神に障害を残した場合、第7級の認定を受ける可能性があります。
また、同じく神経系の機能や精神に障害を残し、その程度が比較的軽い場合は、第9級の認定を受けられることがあります。
交通事故の後遺症としてむちうちが発生しており、なかなか治らない場合には、後遺障害等級認定を受けることができます。
後遺障害等級認定を受ける場合は、まず主治医に診断書を作成してもらいましょう。
診断書の作成を依頼し、後日その診断書を入手したら、相手方の保険会社に提出します。
この時、他の書類もまとめて提出する必要があります。
加害者の保険会社からは支払請求書、診療報酬明細書、事故発生状況報告書などの書類を入手しておきます。
また、勤務先から休業損害証明書と源泉徴収票も入手します。
このほか、印鑑証明書も必要となるため、役場で入手しておきます。
むちうちの後遺障害認定の審査は、提出した書類のみで判断されるので、書類の提出が非常に大きな意味を持つこととなります。
審査の結果は、相手方の保険会社を通じて被害者に通知されます。
むちうちの場合、どのような項目の損害賠償請求ができるのでしょうか。
また、その金額、計算方法はどのようになるのでしょうか。
結論としては、むちうちは後遺症に該当しますので、損害賠償請求としては、症状固定までの傷害による損害と後遺症による損害との両方を請求できます。
症状固定までの損害 | 積極損害である病院代、治療費、通院費などの費用があり、休業補償、慰謝料 |
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後遺症による損害 | 逸失利益と後遺症による慰謝料 |
むちうちの場合、治療が長期化することが一般的ですので、休業補償も一般の傷害事故と同じようには扱うことができません。
そのため、休業補償に関しても、特別な形で扱うことになっています。
たとえば、入院1カ月、通院1年というような場合、入院中の1カ月はもちろん全休とみなされその分の休業を補償してもらえるのですが、通院中の1年に関しては半分の6カ月は全休で、残り半分の6カ月は半休(50%)とするなどの形になるのが一般的です。
あるいは、最初の4カ月は全休、次の4カ月は70%の休業、その次の4カ月は40%の休業など、症状によって段階をつけたりすることもあります。
これは一つの目安ですが、1週間のうち、3日通院したら全休、1週間に1日ぐらいの通院だと半休とされることが多いです。
このように、むちうちの場合の休業補償は、ある程度決まった形になっています。
逸失利益とは、後遺症があった場合にもらえる損害金で、もしも交通事故にあわなければ本来稼げていたはずの収入のことをいいます。
交通事故の後遺症が残った場合、働けなくなった分の逸失利益を損害賠償請求できます。
では、むちうちの場合の逸失利益は、どのように計算するのでしょうか。
逸失利益の計算は、後遺症によって働けなくなった年数に労働能力喪失率をかけ、そこにライプニッツ式をかけて算出します。
逸失利益の詳しい計算方法については、下記の記事をご参考ください。
では、実際に計算してみましょう。
たとえば、年収500万円だった方が、むちうちと診断された場合、逸失利益はどのようになるのでしょうか。
12級12号に該当し、労働能力喪失期間を10年とした場合の計算をしてみましょう。
逸失利益の計算方法は以下の通りです。
ここに実際に各数字をあてはめていきます。
労働能力喪失率は12級12号の場合14%ですから、500万円×14%=70万円が年間の逸失利益です。
ライプニッツ式は10年の場合7.722ですから、10のかわりに7.722を70万円にかけます。
およそ540万円となり、こちらが逸失利益として請求できる金額になります。
慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償です。
交通事故で後遺症があった場合、症状固定までの障害に対する慰謝料と、後遺症があったことに対する慰謝料と両方の慰謝料がもらえます。
むちうち症の場合も同じなのですが、症状固定までの慰謝料は、むちうち症の場合、入院通院が長引くことが多いため、入通院慰謝料としては15ヵ月で打ち切られることになっています。
交通事故後、ずっと治療を続けていると、保険会社から「そろそろ治療を終わりにしませんか?」「症状固定としませんか?」などという連絡を受けることがあります。
安易に保険会社からの打診に応じてしまうと、怪我が「治癒」していないにもかかわらず、治療費の支払いを打ち切られてしまうかもしれないため注意が必要です。
自動車保険業界の中には、症状固定を打診する目安として「DMK136」という基準があるようです。
Dは打撲、Mはむちうち、Kは骨折を、1は1か月、3は3か月、6は6か月を意味します。
このうち、むちうちは3か月に当たります。
すなわち、むちうちの場合、保険会社は交通事故から3か月程度で、治療費支払いの打ち切りを打診するというのです。
しかし、これらの期間はあくまでも「目安」であり、もっと早く打診されることもありますし、遅く打診されることもあります。
また、この期間内に治療を終えなければならないという意味でもありません。
保険会社からの症状固定の打診に応じて、治療をやめたり諦めたりすることによって、どんなデメリットがあるのでしょうか?
治療をやめるデメリット
症状固定前の損害の費目としては、治療費、入院雑費、入通院交通費、休業損害、入通院慰謝料等があります。
症状固定の打診に応じてしまうと、保険会社からこれらの費目にかかるお金の支払いを受けることができなくなり、結果として、その分だけ受け取る損害賠償額が少なくなるかもしれません。
後遺症が残ったあとは、後遺障害等級(1級から14級で、一番高い等級は1級です)の認定を受けた上で、後遺症による逸失利益と後遺障害慰謝料を相手方に請求することができます。
むちうちで後遺障害等級を受けるには、「交通事故直後から継続して病院へ通院していること」も一つのポイントとなります。
ところが症状固定の打診に応じて、治療をやめたり諦めてしまうと、後遺障害等級の認定を受けることができなくなるかもしれません。
症状固定の打診には慎重に対応しましょう。
損をしないために注意すべきこと
では、保険会社からの打診があった後、損をしないためにどんな点に注意すべきでしょうか?
症状固定かどうかは、保険会社ではなく医師が判断すべきものです。
保険会社から症状固定を打診されたとしても、それに応じる義務はありません。
医師から「もうこれ以上、治療の必要はない」と言われて納得がいかない場合は、別の医師の意見を聞いてみることも検討しましょう。
症状固定の打診と、通院・治療の継続は、切り離して考えるべきです。
あなたが痛みを感じているならば、たとえ症状固定の打診があったとしても、通院や治療を継続することが大切です。
もし保険会社から治療費の支払いを打ち切られたとしても、必要なら自己負担で通院、治療を継続しましょう。
その際は、できるだけ負担を減らすために健康保険を使うことをおすすめします。
健康保険を使う場合は、加入している健康保険組合に「第三者行為による傷害の届出」をする必要があるため、手続きを忘れないようにしてください。
保険会社の担当者は、交渉のプロです。
そこで、保険会社から症状固定を打診されて困ったら、泣き寝入りしないためにも弁護士へ相談してください。
弁護士であれば、医師から意見を聴取するなどして、知識や経験に基づき保険会社からの主張に的確に反論してくれるでしょう。
また、治療費等を自費で支払った場合のアドバイスや、その金額分を相手方から回収するための手段も講じることができます。