東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
目次
後遺障害等級は、後遺障害(後遺症)の程度を介護を要する等級の2等級、介護を要しない等級の14等級(全16等級)に分け、その等級に応じて保険金額(後遺障害慰謝料と後遺障害による逸失利益)を定めたものです。
自動車損害賠償保障法施行令の別表第2に、等級ごとに各等級に該当する後遺障害の内容が細かく規定されています。
号数 | 症状の内容 |
---|---|
1 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
2 | 3歯以上に対し歯科補綴(てつ)を加えたもの |
3 | 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
4 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
5 | 下肢の露出面にてのひらの大きさ醜いあとを残すもの |
6 | 1手のおや指及びひとさし指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
7 | 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
8 | 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
9 | 局部に神経症状を残すもの |
以下、各内容を詳しく解説します。
■後遺障害等級14級1号
まぶたの一部に欠損を残すとは、まぶたの一部により角膜を覆うことができるが、球結膜(しろめ)が露出してしまう状態をいいます。
「まつげはげ」とは、まぶたの周囲にはえているまつげの2分の1以上がはげてしまった状態をいいます。
■後遺障害等級14級2号
歯科補綴(てつ)とは、現実に3本以上の歯を損失したり、著しい損傷で欠けた場合に人工物で補強することをいいます。
■後遺障害等級14級3号
耳に対しては純音聴力検査という検査が行われ、検査結果は聴力レベルとデシベル(dB)という単位で表されます。
「1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」とは、3回の検査の平均の聴力レベルが40dB~70dB未満のものをいいます。
■後遺障害等級14級4号
上肢の露出面とは人の腕(肩関節以下)から指先までをいいます。
この部分に、てのひら大の醜いあと(いわゆる傷跡)が残った場合が4号に当たります。
「醜い」かどうかは人の主観にもよりますが、認定の際は主観ではなく客観的な基準により判断されます。
■後遺障害等級14級5号
下肢の露出面とは太もも(股関節以下)からつま先までをいいます。
その他に関しては、4号と同様です。
■後遺障害等級14級6号
指骨は、末節骨、中節骨、基節骨からなります。
つまり、手先から手の半分くらいまでの骨を構成している骨が指骨です。
これらの一部でも失った場合は6号に当たります。
■後遺障害等級14級7号
遠位指節間関節は、指の途中にある関節のうち指の根元に近い関節で、一般的には第二関節とも呼ばれています。
中節骨と基節骨をつないでいて、この関節が強直するなどした場合は7号に当たります。
■後遺障害等級14級8号
第3の足指以下とは、中指、薬指、小指のことを指します。
足指の用を廃したとは、これらの足指の遠位指節間関節以上を失ったこと、または中指指節関節もしくは近位指節間関節に著しい運動障害を残したことをいいます。
■後遺障害等級14級9号
局部(多くは首や腰)に神経症状(痛み、しびれなど)が残った場合です。
他覚的所見の難しい症状です。
交通事故の中の後遺症の中で、後遺障害第14級(10 局部に神経症状を残すもの)に認定される可能性が高いものにむち打ちがあります。
追突などの衝撃で首に大きな力が加わることで、頚椎の神経がダメージを受け、各種の不快な症状が残ることをいいます。
むち打ちでみられる症状には、耳鳴り、頭痛、うつ状態などがありますが、人や事故の程度によってもさまざまです。
上述のように、後遺障害等級第14級は、後遺障害等級の中では一番下の等級であり、比較的軽症の後遺症がこれらにあたります。
そのため、むち打ちになったとしても後遺障害等級認定がなされるほどのものではないと判断されてしまうこともあります。
むち打ちについて詳しく知りたい方は、「交通事故後遺症率1位「むちうち」|症状と支払われる保険金について教えます」を参照してください。
後遺障害等級14級が認定されるポイントとして、認定の際の判断要素を見てみましょう。
むち打ちが後遺障害等級14級に該当するかどうかは、さまざまな要素により検討されますが、事故が症状を引き起こす程度のものであるかどうかは一つのポイントになります。
後遺障害等級は、後遺症の存在と後遺症と交通事故との因果関係を被害者が証明しないと認定してもらえないため、事故の程度がむち打ちを引き起こしたといえるほど大きいものでなければ、否定されます。
例えば、後ろから追突され、被害者としては交通事故のせいでむち打ちになったと考えていたとしても、加害者の車がアクセルもブレーキも踏んでいない、いわゆる、クリープ現象を起こしているという低速度だったという場合は、交通事故とむち打ちの症状の因果関係が薄いと判断され、後遺障害等級認定されないこともあります。
むち打ちは、交通事故以外の日常生活でも起こりうる疾患なので、交通事故の直後からむち打ち治療を開始しているかどうかも判断要素となります。
事故直後から入院や通院をしていなければ、むち打ちが交通事故により引き起こされたかどうかが確定できないからです。
後遺障害等級認定申請は症状固定後でないとできないため、事故直後から症状固定までは継続的に病院に行っていたことを立証する必要があります。
むち打ちは自覚症状の要素が大きい後遺症ですが、事故直後から症状固定するまでの間、継続的に同じ自覚症状が出ていたことも必要です。
例えば、被害者本人の自覚症状が雨の日は首が痛むというムラのある訴えである場合は、後遺障害等級14級非該当になりやすいといえるでしょう。
また、症状が一定以上重度であることも必要です。
なんとなくだるい、疲れやすい、首に何か違和感があるというような症状だと、気の持ちようや元々の体質にもよるものではないかと判断されて、後遺障害等級非該当になりやすいでしょう。
むち打ちは、骨折などのように画像診断に表れづらいので、医学的証明テストを受けていて、そのテスト結果を添付できれば、むち打ちが確かに存在していることの説得力が増します。
むち打ちの検査にはスパーリングテスト・ジャクソンテストなどのテストが有名であり、このテスト結果が陽性であれば、後遺障害等級14級を認定してもらいやすいといわれています。
後遺障害等級14級に無事に認定された場合に請求できる慰謝料の項目と慰謝料相場の計算方法をご紹介します。
請求できる項目 | 内容 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 後遺障害に伴う肉体的苦痛や精神的苦痛への支払い |
入通院慰謝料 | 入院や通院に伴う精神的苦痛への支払い |
逸失利益 | 交通事故の被害がなければ得られたとされる将来的な収入 |
治療関係費 | 治療費やリハビリ費用、車いすの購入費など |
休業損害 | 休業によって生じた損害への補償 請求先は相手方の自動車保険、または勤め先の労災保険 |
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は障害等級が認定された場合に請求できますが、書類審査のみで決定されるため、診断書や補足資料などの内容が重要となります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は治療期間や入院日数が金額に影響するので、具体的な計算方法は以下の解説を参考にしてください。
逸失利益
逸失利益は基礎収入(事故の前年の年収)をベースに計算しますが、後遺障害等級が大きく影響するため、適正な等級認定を獲得しなければなりません。
治療関係費
治療費全般は治療関係費として請求できるので、車いすや歩行器、装具などの購入費やレンタル料を漏らさないように注意しましょう。
交通事故の影響で休業することになり、給与や事業収入に影響が出たときは、以下の休業損害を請求できます。
休業損害補償は自動車保険から支払われるので、自営業者や専業主夫、学生なども補償の対象になります。
「後遺障害慰謝料」はどのような慰謝料を請求できるのでしょうか。
後遺障害慰謝料の算定基準は自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つで、慰謝料相場は自賠責基準がもっとも低額となり、弁護士基準が最も高額となります。
任意保険基準は、保険会社によって異なりますが、大体の場合はこの2つの基準の間ということになります。
ここからは、後遺障害等級14級で請求できる慰謝料のうち、以下の項目の計算方法をご紹介します。
それでは1つずつ見ていきましょう。
自賠責基準の場合、入通院慰謝料は「日額4,300円×対象日数」で計算しますが、対象日数は以下のどちらか短い方となります。
例として、治療期間30日、入院3日、実通院日数が10日だったケースで計算してみましょう。
後者の方が短い期間となるので、入通院慰謝料は「4,300円×23日=9万8,900円」となります。
任意保険基準の計算方法は非公開ですが、かつて使われていた統一基準に従っている保険会社が多いため、1ヶ月の通院(入院なし)の場合は12万6,000円程度が相場です。
なお、弁護士基準で算定すると、通院1ヶ月(入院なし)だったときの入通院慰謝料は19万円程度が相場となります。
自賠責基準の約2倍になりますが、過去の判例などを参考にした算定基準となるため、弁護士以外が用いることはほぼ不可能です。
後遺障害等級14級の認定を受けた場合で、精神的損害の金銭的補償を自賠責基準で計算することになった場合は、被害者の個別具体的な症状や事情は関係せず、一律、32万円となります。
一方、もっとも高い基準である弁護士基準で計算すると、およそ110万円が慰謝料相場となりますので、適用する基準によってかなり金額に差が出ることをご理解できると思います。
後遺障害が残った場合、労働能力が下がるため、将来の年収が減ってしまう可能性が高い分、逸失利益(後遺症による逸失利益)という項目も支払の対象になります。
むち打ちによるめまいや耳鳴りで、仕事に集中できず処理能力に影響を及ぼす可能性があるからです。
■自賠責基準
自賠責基準の場合に後遺障害等級14級の逸失利益を計算する場合は、多くの場合は43万円が支払われます。
■弁護士基準
弁護士基準の逸失利益の計算式は、基礎収入×労働能力喪失率(5/100=0.05)×ライプニッツ係数(むち打ちで認められる14級9号の場合は、ほとんどの場合5年=4.3295)で計算することができます。
基礎収入とは、会社員であれば前年のボーナスを含む給与、自営業であれば確定申告で申告した前年度収入となります。
専業主婦のように外部からの収入はなくても家事労働を担っている場合は、厚生労働省が毎年労働者の平均年収を調査する賃金センサスを使って、女性労働者の平均年収をベースにします。
ライプニッツ係数とは、将来毎月や毎年ごとに受け取るはずだった年収を逸失利益としてまとめて早く受け取るので、利息相当分はもらいすぎということになるため、それを控除するためにかけあわせる係数となります。
たとえば、年収500万円の被害者が、交通事故のむちうちで後遺障害等級14級9号の認定を受けた場合の計算式は次の通りです。
後遺障害慰謝料の請求の方法としては、事前申請と被害者申請の2つがあります。
事前申請は、加害者の任意保険会社が被害者の代行をして、後遺障害等級認定申請の手続きを行ってくれるので、被害者としては煩雑な手続きを回避できるというメリットがあります。
しかし、デメリットとして、加害者の任意保険会社は、後遺障害認定をされてもされなくてもメリットがない立場なので、あまり熱心に申請書類について準備をしてくれないということがあります。
任意保険会社が手続きを代行してくれる理由としては、被害者に支払いをする際に自賠責分もまとめて、いったん慰謝料の立替をして支払うため、立替払い分がいくらになるのかを確定させたいためです。
被害者申請は、被害者自らが申請書類を用意して自賠責事務所に申請をするため手間はかかりますが、納得がいくまで申請書類に創意工夫をこらすことができます。
後遺障害等級14級の症状の中でも、むちうちは画像診断などには写りづらく、また既往症との関係も疑われやすい部分もありますので、入念に申請書類を用意することが重要です。
被害者申請をする場合には、交通事故の取り扱い件数が多い弁護士に、作成のアドバイスをもらうことがおすすめです。
たとえば、重要な資料の一つである後遺障害診断書は主治医に作成してもらいますが、医師は治療のプロであっても後遺障害慰謝料の請求に精通しているとは限らないので、あまり説得力のない診断書になってしまうこともあります。
そのため、最終的にむち打ちの存在と交通事故との因果関係を立証し、説得力のある後遺障害診断書に適宜書き直してもらうなどの調整役として、弁護士のサポートが必要になるケースもあります。
むち打ちは、後遺障害等級14級のほかに、もっと上の等級である後遺障害等級12級に該当する可能性もあるので、なるべく高い後遺障害等級認定を勝ち取ることができるように、弁護士にも相談してみましょう。
なお、自動車保険の弁護士特約に加入している場合、相談費用は無料です。
今回は、後遺障害等級14級の具体的な症状や慰謝料相場について解説してきました。
後遺症認定を申請してもすべての後遺症が認定されるわけではないため、後遺障害等級14級が認定されるポイントを押さえておくことが大切です。
特にむちうちは画像診断などには写りづらく認定されないこともあるので、交通事故の取り扱い件数が多い弁護士にアドバイスをもらうのがおすすめです。
また、後遺障害慰謝料には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があり、自賠責基準が最も低く弁護士基準が最も高くなります。
それぞれの基準でもらえる慰謝料の額がかなり違うので、なるべく多くの慰謝料をもらいたい方はぜひ一度弁護士に相談してみましょう。
弁護士への相談には費用がかかりますが、自動車保険の弁護士特約に加入している場合の費用は無料になりますので、加入しているかどうか確認してみるのがおすすめです。