東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
保有している株式の中に解散・清算した会社があると、その株式の価値はゼロとなります。
ただ、経営不振による倒産とは異なり、株主が会社の残余財産の分配を受けられることがあります。
残余財産の分配を受ける場合、会社から金銭を受け取ることとなるため、何らかの税金が発生するのではと考えることでしょう。
そこで、清算した会社から残余財産の分配を受けた株主に対する税金や申告の必要性の有無について解説していきます。
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会社を解散・清算する際に、会社が有する財産より債務の方が大きければ、会社に財産は残りません。
このような場合、会社に残された財産でどれだけの債務を弁済できるのか、裁判所のもと手続きを進めることとなります。
ただ、会社に残された財産の方が債務より多い場合は、すべての債務を弁済することができます。
そのため、会社が有する債務をどのような割合で弁済するかという計算を行う必要はありません。
会社が有する債務はすべて弁済したうえで、残された財産については株主に分配することとされるのです。
この株主に対する会社の財産の分配を、残余財産の分配といいます。
清算会社から株主に分配される残余財産は、大きく2つの金額から構成されています。
1つは、株主が会社の設立や増資の際に、会社に対して出資した金額です。
そしてもう1つは、会社が事業を行う中で獲得してきた利益の金額です。
株主に対する残余財産の分配として支払われる金額の中にも、この2つの金額が含まれています。
残余財産として受け取る際にはその区分はされませんが、税務上はこの2つの金額を明確に区分する必要があります。
残余財産のうち出資した金額に相当する金額は、株主に分配されると出資した金額の払い戻しとなります。
この部分の金額については次に説明しますが、課税関係が生じる場合と生じない場合があります。
一方、出資した金額を上回る部分の金額については、会社が獲得した利益を株主に分配していることとなります。
これは、会社から配当金を株主に支払っているのと同じこととなります。
したがって、この部分の金額については受け取った株主の配当所得として課税対象となります。
会社から配当金を支払う際には、会社は配当金の額に一定の税率を乗じて計算した所得税額を源泉徴収しなければなりません。
非上場会社が解散・清算した場合、みなし配当の額に対して20.42%の税率で所得税が源泉徴収されます。
株主が残余財産の分配を受ける際に、みなし配当の額が発生している場合には、源泉徴収された後の金額となっているのです。
残余財産の分配を受けた際に、税務上の資本金等の額の払戻しに相当する金額は、株主にとっては株式の譲渡収入となります。
譲渡収入の金額は、出資した金額と一致することが多く「譲渡収入-取得費」で計算される譲渡所得の額はゼロとなります。
譲渡所得がゼロとなるのであれば課税関係は発生しないため、株主として特別な処理は必要ありませんし、税負担が生じることもありません。
これに対して、譲渡収入が出資金額を上回る場合があります。
この場合「譲渡収入-取得費」の計算をするとプラスとなり、譲渡益が発生することがわかります。
ここで発生した譲渡益は、譲渡所得として課税の対象となり、税金が発生することとなります。
一方で、譲渡収入が出資金額より少なくなる場合もあります。
この場合「譲渡収入-取得費」の計算をするとマイナスになり、譲渡損が発生します。
譲渡損が発生した場合、税金が発生することはありません。
残余財産の分配を受けた株主は、「みなし配当」と「株式の譲渡益」という2つの所得が発生する可能性があります。
また「株式の譲渡損」が発生することもあり、この場合も税務上の影響があります。
残余財産の分配を受けた株主が、どのような場合に確定申告しなければならないのか解説していきます。
残余財産の分配を受けてみなし配当が発生した場合、その株主は確定申告をしなければなりません。
非上場会社から受け取った配当所得は、給与所得や事業所得など他の所得と一緒に所得税の計算を行う総合課税の対象となります。
そのため、確定申告を行って総合課税の金額を計算しなければならないのです。
この時、注意しなければならない点が2つあります。
1つめは、みなし配当を確定申告する場合、配当控除の適用を受けられるということです。
配当控除とは、配当金を受け取って総合課税により確定申告をした場合、配当所得の10%または5%の税額が控除されるものです。
みなし配当が発生した場合も、配当控除の適用を受けられるため、忘れないように計算をしましょう。
2つめは、みなし配当の額から源泉徴収されている税額があることです。
配当所得×20.42%の税額が源泉徴収されているため、忘れずに確定申告書に記載しなければなりません。
また、配当控除と源泉徴収税額を正しく計算すると、納め過ぎとなった税額が還付されることも少なくありません。
必ず、みなし配当がある場合は確定申告するようにしましょう。
残余財産の分配を受けた時に、株式の譲渡益が発生していることがあります。
この譲渡益は、譲渡所得として課税対象となるものです。
ただ、残余財産の分配を受けた時点では納税を行っていないため、確定申告をして所得金額を計算し、税額を支払わなければなりません。
株式の譲渡所得は、給与所得や事業所得など他の所得金額と合算して所得税額の計算を行うわけではありません。
株式の譲渡所得だけを他の所得金額と分離して、所得税の計算を行います。
この時、同一年内に他の株式の売却がある場合は、その売却から発生した譲渡損益を合算する必要があります。
そのため、株式の売却については、1年間にどの銘柄をいくらで売却したのか、その取得費はいくらなのか、整理しておくようにしましょう。
なお、株式の譲渡益が発生した場合、注意点があります。
それは、株式の譲渡損益を通算できる場合は上場会社同士、あるいは非上場会社同士に限定されることです。
非上場会社の残余財産の分配により発生した譲渡益と通算できる譲渡損は、非上場会社の株式から発生したものに限られるのです。
この時、上場会社の株式を売却して損出しをしても、残余財産の分配により発生した税負担を軽減することはできません。
残余財産の分配を受けて、株式の譲渡損が発生する場合があります。
譲渡損が発生した場合、そのこと自体で確定申告をしなければならない事態にはなりません。
そのため、みなし配当も発生していないことが確認できれば、確定申告する必要はありません。
しかし、確定申告することにメリットがあるケースはあります。
株式の譲渡益がある場合でも説明しましたが、他に非上場会社の株式の譲渡益が発生している場合、譲渡益と損益通算することができるのです。
ただ、上場会社の株式を売却して発生した譲渡益とは損益通算できないため、間違えないようにしましょう。
また、非上場会社の譲渡損は、翌年以降への繰り越しもできないため、その年内に非上場会社の譲渡益がなければ申告不要です。
保有する会社が解散・清算を行い、残余財産の分配を受けるケースは必ずしも多くありません。
ただ、グループ内の子会社の整理・統合を進める中で、このようなケースが今後増加することも予想されます。
残余財産の分配を受けた株主は、必ず確定申告しなければならないわけではありません。
しかし、確定申告しなければならない、あるいは確定申告した方がいいケースに該当することは多くあります。
残余財産の分配を受けたら、自分がどのケースのあたるのかを判断し、申告や納税の必要性の有無について確認しましょう。