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病院やクリニックの閉院・廃業手続きの流れ|閉院後の義務や医療継承についても解説

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

病院やクリニックの閉院・廃業手続きの流れ|閉院後の義務や医療継承についても解説

この記事でわかること

  • 病院やクリニックの廃業・閉院理由や手続きの流れがわかる
  • 病院閉院後の義務について理解できる
  • 廃業以外の選択肢や医院継承の注意点がわかる

病院やクリニックが後継者不足やコロナの影響から閉院を考えた場合に、問題になるのが廃業手続きです。

病院やクリニックの場合は、閉院後も一定の義務が定められています。

また、そもそも本当に病院の閉院が必要なのかどうかを検討する必要もあります。

この記事では、病院やクリニックの廃業・閉院理由や手続きの流れ、閉院後の義務について説明します。

また、病院の閉院理由が後継者不足などであった場合に検討したい医院継承についても合わせて解説します。

病院業界の直近の動向

病院やクリニックの廃業手続きや閉院後の義務について説明する前に、病院業界の動向やよくある閉院理由について説明します。

まずは、病院業界の直近の動向について見てみましょう。

病院業界の注目すべき直近の動向は以下の3つです。

病院業界の高齢化

病院業界の直近の動向として注目したいのが「病院業界の高齢化」です。

厚生労働省の「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によると、病院に勤務する医師の平均年齢は約47歳で、診療所の医師の平均年齢は約60歳になっています。

病院に勤務している医師や診療所の医師の平均年齢から、病院業界全体で高齢化が進んでいることがわかります。

高齢化が進むと病院の維持や診察などにも支障が出てしまい、病院の廃業問題や後継者問題につながります。

病院業界の後継者不足

病院業界は後継者不足も問題になっています。

病院業界全体が高齢化しても、病院やクリニックの医院継承をしてくれる若手が育っていれば問題ないかもしれません。

しかし、病院業界は平均年齢が高いため、若い医師に医院を継いでもらいたいと思っても、なかなか後継者が見つかりません。

また、若手の医師は必ずしも病院の継承を望むわけではなく、開業医になる若手医師や、医院継承自体を望まない医師などもいます。

仮に病院の後継者が見つかったとしても、後継者自体も高齢であるというケースもあります。

病院業界はコロナの影響により収益低下

病院業界にさらなる追い打ちをかけているのは新型コロナの問題です。

新型コロナにより、病院業界全体は赤字傾向にあるといわれています。

これは、新型コロナなどの優先度の高い患者を治療し、優先度の低い治療や手術を後回しにせざるを得ない状況が一因と考えられています。

また、新型コロナの影響で不要不急の外出を控える人がいることなどから、外来の収益が落ち込んでいることも原因です。

帝国データバンクの調査によると、2021年のクリニックの倒産件数は前年同期比32.2%増となっており、収益の悪化から閉院に追い込まれるケースが増えています。

また、病院の医師や看護師、スタッフなどのコロナへの感染リスクもあります。

病院やクリニックの医師や院長などがコロナに感染したり、体調を崩したりすると、病院の継続も危うくなりかねません。

後継者が決まっていればスムーズに病院の引き継ぎができるケースもありますが、医院継承や後継者などを考えていない場合はそのまま廃業という流れになる可能性もあります。

後継者不足や高齢化が問題になっていた病院業界に、新型コロナが追い打ちをかけているのが直近の病院業界の動向です。

病院・クリニックの閉院でよくある理由

次に病院やクリニックの閉院でよくある理由について見てみましょう。

病院やクリニックのよくある閉院理由はふたつです。

理由1:医師や院長の体調や高齢

病院やクリニックのよくある閉院理由のひとつが、院長や医師の高齢化です。

医師がいなければ病院の継続はできません。

しかし高齢のために病院や治療を継続できず、やむを得ず閉院するケースがあります。

病院の院長の体調不良も閉院理由のひとつです。

医師が院長のみの病院などは院長が体調不良で倒れてしまうと病院の継続が難しくなります。

また、少人数の病院の場合も、医師やスタッフなどが体調を崩して倒れてしまうと人手不足におちいり、病院の継続が困難になります。

理由2:後継者がいない

病院の閉院理由には、後継者不在もあります。

すでにお話ししたように、病院の継承を考えていても後継者自体が不在であったり、後継者が見つからなかったりします。

病院業界で後継者不足や高齢化が問題になっているため、急に病院継承という話になっても後継者が見つからないことも珍しくありません。

病院を継いでくれる医師が見つからなければ、閉院を検討すべき状況になります。

帝国データバンクの調査によると、クリニックの経営者で最も多い年齢は、2021年は66歳となっています。

2011年は56歳、2016年は61歳となっており、高齢化が進んでいるのがわかります。

また、医療業界の後継者不在率は73.6%で、全産業平均の65.1%と比べるとかなり高くなっています。

このような病院業界の後継者不足がよくある閉院理由のひとつになります。

病院・クリニックの廃業・閉院の手続きの流れ

病院を閉院するときは、医療法人と個人病院・個人診療所で手続きの流れが異なります。

病院を閉院するときの流れを、医療法人と個人病院のふたつにわけて説明します。

医療法人を廃業するときの手続きの流れ

医療法人は医療法55条に定められている事由により廃業します。

医療法55条に定められた事由とは「定款に定めた解散事由の発生」や「社員総会の決議」「社員の欠乏」などです。

医療法55条に定められた事由により解散する場合は、ケースにより解散認可申請の提出や解散届の提出が必要になります。

解散認可申請と解散届の提出では、それぞれ細かな添付書類のルールもあるため注意してください。

医療法人の解散届などを提出した後の基本的な手続きの流れは以下の通りです。

医療法人の解散届提出後の基本的な手続きの流れ

  • ・解散の登記と清算人就任の登記をおこなう
  • ・清算手続きをおこなう
  • ・廃業について官報で公告
  • ・清算終了後の清算決了の登記をおこなう

この他に出資持分の払い戻し対応や病院に勤めるスタッフへの対応、病院を受診している患者への対応などもおこなわなくてはいけません。

医療法人の閉院は手続きが複雑です。

病院閉院の知識や実務経験のある専門家に相談することをおすすめします。

個人病院・クリニックの閉院手続きの流れ

個人病院・クリニックの閉院手続きの流れ

個人病院を閉院するときにすることは以下の3つです。

ひとつ目は、管轄の窓口に必要書類の提出や申請をします

ふたつ目が病院のスタッフへ閉院時の対応をおこなうことで、3つ目が患者への対応をおこなうことです。

病院の閉院を見据えて、3つのことをタイミングよく進める必要があります。

ただし、3つの病院閉院の流れをこなす前に、病院を本当に閉院すべきか検討する、閉院準備やスケジュール立案をする、なども必要なため注意が必要です。

個人病院の閉院の流れをもう少し詳しく見ていきましょう。

閉院が必要か考える

病院の閉院を進める前に、まずは本当に閉院が必要か考えることが重要です。

病院には閉院の他に売却などの方法もあります。

後継者不在の場合は閉院以外の方法でも対処できる可能性があるため、他の方法も検討してみてはいかがでしょう。

閉院以外の方法については後の見出しで解説します。

閉院準備とスケジュール立案

閉院が決まったら、病院閉院のスケジュールを立案します。

具体的にいつまでに病院を閉院するのか、スタッフや患者への対応や手続きの段取りなど、病院閉院に向けての計画を立てましょう。

病院閉院の際は、各種届出の提出などをおこなわなくてはいけません。

提出が必要な届出のテンプレートを取得するなど、病院閉院の手続きに向けて準備を進めます。

閉院の申請や届出の提出

個人病院を閉院するときは、管轄の保健所に閉院の旨を申請します。

保健所に「診療所廃止届」を提出することになる他、病院の業務に関する各種の届出も必要になるため複雑です。

たとえば、地方厚生局には保健医療機関廃止届を提出しなければいけませんし、各都道府県には麻薬施用者業務廃止届の提出を要します。

届出によって期限や窓口が異なるため複雑です。

閉院に必要な書類と提出先・提出期限は、以下のようになっています。

自治体によって違う場合がありますので、事前に自治体のホームページや提出先の機関に確認しておきましょう。

提出先名称提出期限
厚生局保険医療機関廃止届遅滞なく
福祉事務所生活保護法指定医療機関廃止届遅滞なく
医師会退会届遅滞なく
税務署個人事業廃止届遅滞なく
都道府県税事務所個人事業廃止届遅滞なく
医師国民健康保険組合資格喪失届遅滞なく
年金事務所運用事業所全喪届5日以內
年金事務所被保険者資格喪失届5日以內
保健所診療所廃止届 または開設者死亡(失そう)届10日以內
保健所エックス線廃止届 ※廃棄証明書の添付が必要10日以內
都道府県麻薬施用者業務廃止届15日以內
労働基準監督署確定保険料申告書50日以內

スタッフや患者へ対応

病院に勤めているスタッフや患者への対応も必要になります。

スタッフに閉院の旨を伝えて、退職金の支払いや社会保険の手続きなどを進める必要があります。

患者についても、病院の閉院に合わせて他病院への引き継ぎなどをおこないます。

病院の取引先への対応や未収金などの回収も必要です。

病院・クリニック閉院後も続く義務

病院は閉院後にも一定の義務を負うことになります。

病院は患者の診療について重要なデータを、病院閉院後も一定期間保存しなければなりません。

病院の診療データは、障害年金の請求や訴訟など、いろいろなケースでの利用が考えられます。

そのため、病院は閉院後すぐに診療データを破棄することはできず、閉院後も保管義務を負います。

保管義務を負う年数については、診療データによって異なります。

カルテの保管義務は5年

診断書などの作成に使うカルテの保管義務は5年になっています。

エックス線装置等の測定結果記録や、放射線障害が発生するおそれのある場所の測定結果記録についても保管義務は5年です。

なお、カルテの保管義務自体は5年ですが、病院によっては10年保管するケースもあります。

これは、病院と患者とのトラブルの損害賠償請求が10年だからです。

トラブル時の資料や対策のために、保管義務より長期で保管するケースがあります。

レントゲンフィルムの保管義務は3年

レントゲンフィルなどは撮影した疾患の診療行為終了後3年の保管義務になっています。

ただし、レントゲンフィルムなどのデータについてもさらに長期保管するケースがあります。

病院・クリニック閉院の理由が後継者不足なら売却も検討

病院・クリニック閉院の理由が後継者不足なら売却も検討

閉院すると病院自体がなくなってしまうため、閉院理由によっては「病院を残す方法はないだろうか」と悩むのではないでしょうか。

閉院理由が後継者不足などであれば、必ずしも閉院する必要はありません。

病院の売却という方法で対処できる可能性があります。

病院を閉院ではなく売却することは、経営者や院長にとってもメリットのあることです。

病院売却のメリットを具体的に3つ説明します。

患者の継続治療が可能である

病院を閉院する場合は、治療中の患者には他病院に移ってもらう必要があります。

病院を売却すればそのまま患者を継続治療できるというメリットがあります。

これは病院側のメリットでもありますが、患者にとってもメリットになるのです。

また、閉院後はカルテなどの保管が必要ですが、病院を売却すればそのまま病院に保管すればいいので、閉院のように病院閉院後のデータの維持管理に悩まされることがありません

売却代金を受け取れる

病院売却は病院を売ることなので売却代金の受け取りが可能です。

閉院の場合は閉院して終わりになりますが、売却すれば育てた病院を売却代金というかたちで評価してもらえる点や、売却金を手に入れてリタイアできるというメリットがあります。

病院の価値も評価してもらえる

病院を購入するのは、開院したい人やふたつ目の病院を開きたい人などです。

病院の買い手側にとっては、病院設備や患者の数、地域の信頼、病院の名前なども評価対象になります。

病院の評判が良いと、その評判ごと病院を入手できるわけです。

患者が多ければ治療中に患者の診療報酬が期待できますし、設備が整っていれば設備も病院を買うことによって入手できます。

買い手はゼロからすべてを準備する必要がなく、融資を受けたい場合も病院の評判や名前があるわけですからプラスになります。

これは買い手にとってメリットです。

病院の目に見えない価値なども売却金に反映されるため、売り手側にもメリットになります。

病院・クリニックを売却し継承するときの注意

病院の売却により医院継承する際に注意したいポイントはふたつあります。

治療中の患者が別病院へ移るリスク

病院継承により経営者などが変わると、病院の方針も変わるのが基本です。

そのため、病院継承により患者離れを引き起こす可能性があるため注意が必要になります。

たとえば、地方にある病院が病院継承により院長が変わったとします。

その病院の診察時の流れなども変わってしまいました。

その院長先生を慕っていた患者や診察時の流れを好んでいた患者などは他の病院に流れてしまう可能性があるはずです。

病院継承前に多くの患者を抱えている病院でも、病院継承後の診察の流れの変更や医師、スタッフなどの変更、方針の変更などによっては患者が別病院に流出するリスクがあります。

旧病院スタッフとの不仲や対立のリスク

病院継承で病院のスタッフを引き継いだとしても、必ずしも旧スタッフと良い関係を築けるとは限りません。

継承後の病院の方針や新経営者と対立するリスクもあります。

また、病院継承にあわせて優秀なスタッフなどが病院を辞めてしまうリスクも考えられます。

スタッフの流出があると病院継承後に人手不足に悩まされることになり、スキルの高いスタッフが流出することも痛手です。

病院継承するときはスタッフなどの面談の機会を設け、病院継承後の不仲や対立のリスク対策をしておくことが重要です。

病院継承に合わせて辞めるスタッフが出る場合は、人手不足におちいらないためにも、新しいスタッフの雇い入れなどをおこないましょう。

まとめ

病院の閉院理由によっては病院の売却で対処できる可能性があります。

しかし、病院の売却は評価してくれる買い手を見つけたり、売り手と買い手が納得する売買条件をまとめたりするなど、実務経験がないと難しい点が多いという特徴があります。

病院売却の際は法律や税金などの専門知識も必要なため、ただ売買すれば円満に解決するというわけでもありません。

病院売却を成功させるためにも、実務経験の豊富な専門家に相談することをおすすめします。

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