東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
Contents
会社を廃業すれば会社にまつわるすべての手続きが終了するわけではありません。
会社を廃業しても廃業年度の所得が黒字であれば確定申告をしなければいけません。
会社の廃業後は所得の状況により確定申告の要否が変わるため、税務上の所得が黒字になるかどうか計算し、廃業後の確定申告の要否を判断する必要があります。
計算後に税務上の所得が黒字つまりプラスであれば、廃業後の確定申告を行います。
廃業後に確定申告が必要になる場合、いつまでしなければならないかを確認しておく必要があります。
廃業後の確定申告は個人事業主と法人で手続きのタイミング・期限が異なります。
廃業後の個人事業主の確定申告は、個人の確定申告の時期と同じです。
廃業してすぐのタイミングで確定申告をするのではなく、1月1日から12月31日までの1年の所得・収支は翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。
事業を廃業してもしなくても、所得の確定申告期限とタイミングは変わりません。
一方、会社の廃業の場合は、確定申告の期限やタイミングが通常と異なり、清算登記をしたときに確定申告を行うことになっています。
個人事業主は事業の廃業後も個人として残りますが、会社は消えてしまいます。
また、会社を廃業するために清算という後片付け(会社のプラスやマイナスの整理整頓)を行います。
この会社を廃業する手続きに合わせて確定申告を行うという流れになります。
会社の通常の確定申告は決算から2カ月以内になっています。
会社廃業後の会社の確定申告は、タイミングと期限が異なりますので注意してください。
また、個人事業主と会社の廃業後の確定申告の期限とタイミングも異なっているため、混同しないようしましょう。
廃業という言葉から、廃業する会社は赤字や債務超過であることを想像するかもしれません。
しかし、廃業は必ずしも赤字になっているから行われるわけではなく、事業が黒字の状態でも行われることがあります。
もちろん、赤字の状態だからこそ廃業するケースや、廃業時に赤字と黒字がほぼ同じくらいというケースもあります。
このように、廃業にはいろいろなケースが考えられますが、廃業後の確定申告は全てにおいて必要なのかが気になるところでしょう。
赤字の場合は、廃業後の確定申告はどうなるのでしょうか。
簡単にいうと、赤字の場合は基本的に確定申告は必要ありません。
ただし、赤字には、税務上の赤字と会計上の赤字があります。
赤字のときの廃業後の確定申告の要否は、税務上の赤字になるかどうかで判断します。
税務上赤字であれば確定申告は不要、税務上は黒字であれば確定申告が必要となります。
また、所得がない場合や所得があっても20万円以下の場合は申告不要とされていますが、青色申告控除を受けている場合は注意が必要です。
青色申告をすると、最大65万円の控除を受けることができます。
この青色申告特別控除をした結果、所得が20万円以下になった場合には、確定申告が必要です。
申告をしないと青色申告特別控除が受けられないため、20万円以上所得があったにもかかわらず申告をしなかったことになってしまいます。
会社廃業にはいろいろなケースがあるため、廃業時に税務上と所得上の計算を行い、確定申告の要否を正しく判断しましょう。
廃業後の確定申告では経費に関する特例が使える可能性があります。
特例を使うことで税金の負担を軽減できるため、内容や利用の条件についておさえておくことが重要です。
次に、廃業後の確定申告で使える「必要経費の特例」について説明します。
廃業後の確定申告で使える「必要経費の特例」とは、会社の廃業にまつわる経費を確定申告で計上できる特例です。
経費を計上できればその分だけ税金負担をおさえられるという仕組みです。
事業を廃業すると、基本的に経費は計上できません。
なぜなら事業を廃業しており、廃業している事業の経費が発生するのはおかしな話だからです。
しかし、現実問題として廃業しても事業に関する経費が発生するケースは少なくありません。
たとえば、事業を廃業した後に、レンタルオフィスをクリーニングしたり、在庫を処分したりと、廃業後に事業の後片付け的な支出が発生することがあります。
事業を廃業しているのですから、このような支出は基本的に事業にまつわる必要経費とは考えられません。
しかし、現実問題として経費が発生する可能性があるため、確定申告では廃業後の事業にまつわる必要経費の特例が認められています。
必要経費の特例を使えば、廃業後の事業にまつわる必要経費も確定申告で計上することが可能です。
廃業後に利用できる必要経費の特例の対象者は個人事業主です。
ただ、すべての個人事業主が利用できるというわけではありません。
以下のような事業を営んでいた個人事業主が特例の対象になります。
山林所得とは山林の樹木伐採や売却などの事業です。
不動産所得とは不動産の賃貸や売却などで所得を得る事業のことになります。
これらは、商品などの後片付けが発生しやすい事業だといえるのではないでしょうか。
廃業後の後片付けが発生しやすいということは、それだけ廃業後に事業にまつわる必要経費が発生しやすいということになります。
廃業後に個人事業主が特例を使うときは、自分が必要経費の特例の対象になっているか確認することが重要です。
この他に、特例の対象になる必要経費についてもルールがあります。
廃業した事業に関係していればすべて認められるわけではないため注意が必要です。
廃業後の確定申告において必要経費の特例で経費に計上できるのは、以下のような費用になります。
つまり、事業を継続していれば計上できたはずの経費や、事業の必要経費の特例が使える事業を営んでいた個人事業主が支出した事業関連経費が対象であるということです。
個人事業主が確定申告で必要経費の特例を使うときは注意点がふたつあります。
ひとつは「経費として認められるかは税務署の判断である」という点で、もうひとつは「個人事業税」の経費計上についてです。
まず、ひとつめの注意点である「経費として認められるかは税務署の判断である」についてですが、個人事業主が確定申告のときに必要経費の特例を使っても、その経費を認めるかどうかはあくまで税務署の判断です。
税務署側から「本当に事業にまつわる経費ですか」と尋ねられたときにしっかり説明できるようにしておくことが重要になります。
また、手続きの管轄税務署によって必要経費の認定基準が異なるケースがあるため、事業を廃業するときに管轄の税務署や税理士などに必要経費の特例や必要経費の基準などについて確認しておきましょう。
廃業後に使える必要経費の特例のもうひとつの注意点は、個人事業税についてです。
廃業のときの個人事業税は、廃業から1カ月以内に申告と納税が必要です。
廃業時に個人事業税の申告と納税を行うことで、確定申告の際に経費計上できます。
期限内の手続きを忘れないように注意しましょう。
廃業時の問題のひとつに減価償却があります。
減価償却とは、資産の資産価値を年々減少させる・分配する方法です。
物は買ったときは新品かもしれませんが、経年と共に劣化します。
つまり、資産価値が落ちてしまうのです。
資産価値の減少に合わせて経費を毎年分配する方法が減価償却です。
たとえば事業に使う300万円の機械を買ったとします。
この300万円の機械を、機械を買った年だけに計上すると、今まで黒字だった事業がいきなり赤字になるかもしれません。
「赤字になって悪いの?」と思うかもしれませんが、融資などを受けるときは事業の状況も関係します。
赤字になれば資金繰りに苦労するなどのリスクがあるため、少しずつ経費の分配ができれば赤字を回避できるのではないでしょうか。
このようなときに使えるのが減価償却です。
廃業時には減価償却の扱いをどのようにすればいいのか戸惑うケースがあります。
実際、廃業時の減価償却はやや複雑になっているのです。
そこで、次に廃業後の確定申告に必要な知識として、廃業時の減価償却について説明します。
廃業年度の減価償却の取り扱いと、廃業後の減価償却の取り扱いについて順番に見ていきましょう。
廃業する年度については、廃業日までの分を減価償却します。
たとえば8月末日での廃業であれば、1月1日から8月末日までの分を減価償却費として計上する仕組みです。
計算した減価償却費は、もちろん確定申告でも計上可能になっています。
廃業後の減価償却はどうなのでしょう。
廃業すると減価償却しきれなかった分が帳簿に残ってしまいます。
たとえば製造業を営んでおり、事業に使う機会を購入したとします。
機械は10年かけて減価償却するつもりでした。
しかし、減価償却を行って2年目のときに事業を廃業したらどうでしょう。
廃業後に減価償却分が8年分残ってしまいます。
廃業後に残ってしまう減価償却分をどのように扱うかが問題なのです。
廃業後の減価償却については、減価償却の対象になっている物(資産)をどのように処分したかによって扱いが変わります。
廃業の際に減価償却が残っている資産を廃棄する場合は「固定資産除却損」として扱います。
減価償却の残り分は確定申告において損失として経費への算入が可能です。
廃業時の資産を売却する場合は、減価償却の残りについて「譲渡所得の取得費」として扱います。
個人事業主が廃業後も資産を使う場合は会計上の処理もなく、確定申告の手続きにおいても特に何かをする必要はありません。
例で挙げた8年の減価償却が残っている機械で説明すると、廃業時に機械を売却するなら譲渡所得の取得費扱いにし、廃業時に機械を捨てる場合は損失として経費への組み入れを行います。
個人事業主が廃業後も機械を個人で使うなら、特に処理も確定申告への影響もありません。
商品などを扱う事業の場合は、廃業後も在庫が残ってしまうことも少なくありません。
廃業後の事業の在庫を確定申告でどのように扱うかも問題です。
廃業後の確定申告の在庫処理方法は、前年度までの会計処理の方法によって変わってきます。
迷ったときは、税務署や税理士などに確認を取っておいた方が安心です。
前年度に在庫を資産として計上している場合は、廃棄する物として扱います。
確定申告では費用に計上されます。
前年度に在庫を費用として計上していた場合は、特に計算や処理は必要ありません。
確定申告時の処理も不要です。
転売などで在庫を売却した場合は売上高になります。
売却により売上が生じているからです。
廃業後に注意したいのは税務調査です。
廃業して事業の後片付けをし、確定申告なども済ませると、これで事業に関係する手続きはすべて終了だと気を抜いてしまうかもしれません。
しかし、事業の廃業後も税務署による税務調査が行われる可能性があります。
廃業後に確定申告などを済ませればすべて終了というわけではなく、税務調査があったときに対処できるよう対策しておくことが重要です。
最後に、廃業後の税務調査対策として、帳簿の保存期間や対処法などの知っておきたいポイントについて説明します。
税務調査は、事業を営んでいるときや会社を経営しているときだけ行われるものという印象があるかもしれません。
しかし実際は、廃業や倒産の後にも行われることがあります。
廃業によって税務調査が行われなくなるなら、廃業前に故意に脱税を行い、その後に廃業して脱税隠しをするといったルール違反もできてしまいます。
このようなルール違反を許さないため、あるいは税金関係の確認のため、廃業や倒産の後にも税務調査は普通に行われます。
廃業の手続きや廃業後の確定申告を一通り済ませても気を抜かず、事業や会社関係の帳簿はしっかり保存しておきましょう。
廃業後の税務調査対策としては「帳簿の保管」があります。
事業の帳簿を保管していないと、脱税などを疑われたときに潔白を証明する資料がありません。
税務署から「脱税していたので証拠隠しをしたのではないか」と疑われる可能性もあります。
疑いを晴らす、あるいは疑いを持たれないためにも、廃業後の帳簿などの保管は重要になります。
また、廃業や倒産したからといって、帳簿などを捨ててもよいというルールはありません。
そのため、書面・帳簿などの保管年数に合わせた帳簿などの保管は廃業後も行わなくてはいけません。
帳簿の管理は、個人事業主と会社で異なります。
帳簿・書類によって保管年数が変わってくるため、10年など最長の保管年数で帳簿類を保管しておいた方が安心です。
廃棄した後に保管年数が間違っていたなどのミスを防げます。
個人事業主の帳簿や書類の保管義務は5年ないしは7年です。
帳簿や書類によって保管の年数が異なっているため注意してください。
すべての帳簿や書面を7年という最長の保管期間に合わせて保管しておくと安全です。
よくあるのが、個人事業主の死によって廃業する際に、帳簿類などを相続人や家族が捨ててしまうケースです。
個人事業主が亡くなり事業を畳む場合は、相続人や家族は「事業のことはわからないし」「廃業したのだから不要だろう」という判断で帳簿類を捨てることがあります。
しかし、確認もせずに捨ててしまってはいけません。
廃業するケースでも、相続人などが準確定申告といった税金の手続きをしなければいけません。
また、税務署から問い合わせなどがあった場合も、家族や相続人が対応しなければならないのです。
個人事業主が亡くなったからと帳簿類を捨ててしまうと、準確定申告などの税金手続きができなくなる可能性もありますし、税務署などから問い合わせがあっても対応が難しくなりますので、事業関係の帳簿などはしっかりと保管するよう注意が必要です。
この場合も、最も長い保管年数に合わせた方がいざというときに役立つ他、誤って保管年数以下で廃棄するミスなどを防げます。
会社(法人)の帳簿や書類の保管期間は個人事業主とは異なります。
帳簿などの保管期間は最大で10年ですが、この他に7年や9年などの保管期間が細かに定められているのです。
帳簿や書類によって保管期間がかなり違うため、やはり最長期間である10年はすべて保管しておくと安心です。
会社の帳簿類の保管期間は、欠損金を使える年数に合わせて設定されています。
欠損金の繰越は10年使えますので、欠損金にまつわる資料を10年に満たない年数で廃棄されてしまうと確認できなくなるのです。
そのため、保管期間は最長で10年に設定されています。
また、7年という保管期間にも意味があります。
税務署の税務調査は最大で7年です。
税務調査ができるのが7年というわけではなく、税務調査で追徴課税できるのが最大で7年分になっているためです。
このように、会社や個人事業主の帳簿や書類の保管年数は税金手続き面で意味のあるものになっているため、廃業後も保管はしっかり行うことが重要です。
廃業後の税務調査を考えて帳簿などを保管しておくことも重要ですが、実際に税務調査が行われる際は税理士などの専門家に相談することも重要です。
たとえば個人事業主が亡くなって廃業し、廃業後に税務署の税務調査が行われることになったとします。
その際、相続人や家族などが税務調査に対応しようにも、事業内容や書類などを把握していないケースもあります。
また、適正に税金の申告などをしていても、いざ税務調査となると「何を答えていいかわからない」「どのように対処したらいいのだろう」と不安に思うのではないでしょうか。
このようなときは、税務調査へ適切な対応をするために専門家に相談するのがおすすめです。
廃業後の確定申告は経費の計上や減価償却、特例利用の可否など、考えるべきことが多く複雑です。
自分で廃業後の税金の手続きをしようとしても、複雑さからミスをする可能性があり、ミスなどがあると税務調査につながることもあります。
ミスを防いで使える特例はしっかり使えるよう、廃業後の確定申告をはじめとした税金手続きで迷うことがあれば、複雑な手続きは専門家に任せることをおすすめします。