東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
法人を廃業しようと思っているときに、法人が払うべき税金を滞納していたらどうなるのでしょう。
税金を滞納していても、税金の支払い義務は法人廃業によってなくなるのでしょうか。
それとも法人廃業をしても、税金滞納分の支払い義務は残るのでしょうか。
法人の経営者にとって、滞納している税金の扱いは廃業時の重要事です。
この記事では、法人廃業の意味から法人廃業時の税金滞納の取り扱い、滞納している社会保険料の扱いなど、法人廃業を進めるうえでの疑問を解決します。
Contents
法人を解散するときの税金滞納の取り扱いの前に、まずは法人(会社)解散の基本的な知識についておさらいします。
法人(会社)の廃業(解散)と、法人の廃業に伴う清算手続きの流れについて順番に説明します。
まずは法人廃業の意味からです。
廃業とは「法人を終わらせること」のことを言います。
会社は、経営が続く限り人間のような死はありません。
しかしながら、以下のような事情や事由により会社を終わらせる(消滅させる)ことは可能です。
しかるべき手続きなどをおこない、法人を終わらせることが法人廃業になります。
以上のような事情や事由があると、法人は廃業(解散)します。
中でもよくあるのが、株主総会による法人解散です。
法人の経営状況が苦しい場合や経営者がリタイアしたい場合、法人の経営層が高齢化し後継者がいないなどのケースでは、株主総会で法人廃業を決定することがあります。
この他には法人の資金繰りの悪化から、破産手続き開始などにより法人廃業するケースなどもよくあるのです。
法人廃業をするためには「清算」という手続きが必要になります。
法人廃業の事由の発生や「法人廃業する」という株主総会の決定だけでは、法人の財産や債務がそのまま残ってしまうのです。
法人廃業をするためには、法人のプラスやマイナスをしっかり清算する、つまり後片付けが必要になります。
法人の後片付けをする手続きが清算です。
清算には大きく分けてふたつの方法があります。
「通常清算」と「倒産手続き」です。
法人廃業のひとつ目の手続き方法は「通常清算」という方法です。
通常清算とは、廃業する法人にマイナスよりプラスが多い場合の清算方法になります。
通常清算では、法人が商品在庫や不動産といった財産を換金し、債権者に債務の返済をおこないます。
通常清算は法人の財産(プラス)の方が債務(マイナス)より多いため、債務を返済して清算終了になるのです。
債務より財産の方が多いケースの清算なので、通常清算は裁判所が監督することもありません。
通常清算は以下の流れで進めます。
通常清算の流れだけを見ると、複雑そうに思うかもしれません。
しかし、手順はいたってシンプルです。
法人が廃業するような事由や株主総会の決定があると、法人は清算に入ります。
清算人や解散の登記をおこなうことで、対外的に「会社が廃業のために清算手続きに入っているのだ」とわかるようになります。
後は会社の債権者に弁済をおこなうために官報公告によって申し出てもらい、会社の資産状況や債務状況を整理します。
しかるべきタイミングで会社財産を換金したり、会社の債権を回収したりして、回収や換金分で会社債権者に弁済をおこなうという流れです。
通常清算はマイナスよりプラスが多い清算手続きなので、債権者に弁済をおこなって余った財産を分けて、最後は清算決了登記により「法人の清算が終了し、法人自体も終了しました」と対外的にわかるようにするわけです。
法人廃業の際に、プラスよりマイナスが多いと倒産手続きに進みます。
倒産手続きは、さらにふたつの種類「特別清算」と「破産」に分かれるのです。
特別清算とは、法人のマイナスがプラスより多い状態でおこなう清算になります。
会社だけでは債務を返済できないため、裁判所に申し立て、裁判所の監督のもとで清算手続きを進めることになるのです。
通常の清算が債務過多のためにできず、裁判所が特別に監督する清算である。
こう考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
特別清算は次のような流れで進みます。
特別清算の手続きの中でも特徴的なのが、協定案の作成や認可、実行です。
協定案とは、債権者と集団和解するための計画・内容のことになります。
廃業する法人はどうしても負債が多いため、債権者に納得してもらわなければいけません。
清算人が債権者と協定案の作成と内容の実行を進めることで債権者と和解し、財産で返済できないマイナスの処理をするかたちになります。
破産も、プラスよりマイナスが多いときの会社の廃業手続きになります。
法人が債務超過なので通常清算では会社の清算ができず、廃業もできないのです。
破産も裁判所に申し立てて、裁判所の監督のもとでプラスとマイナスの処理をおこないます。
こう説明すると、特別清算と同じではないかと思うかもしれません。
破産の場合は清算人ではなく、裁判所が破産管財人を選任するという点で異なっています。
なお、法人が廃業するときに債務超過になっているケースでは、特別清算より破産がおこなわれるケースの方が多いと言われています。
なぜなら、特別清算は債権者の協力が必要になるなどの理由があるからです。
特別清算の際に債権者の同意や協力を得られない場合は、会社廃業のために破産手続きをすることになります。
そのため、最初から破産を選んだ方が早いのです。
破産手続きは以下の流れで進めることになります。
以上が法人廃業のときの破産手続きになります。
破産後も残余財産があれば、その範囲内で法人は残るとされています。
法人を廃業するときに問題になるのは、税金滞納のケースです。
法人廃業に向けて手続きを進めている中で、税金滞納が発覚した場合や法人廃業したいが税金滞納がある場合などは、法人廃業できるかが問題になります。
税金滞納があっても法人の廃業は可能なのでしょうか。
「税法上は法人が存続し、税金滞納分の納税義務を負う」が結論です。
法人廃業のための清算手続きを進めることは可能ですが、税法上は会社の廃業は完了しません。
税金滞納分をしっかり納めるまで、法人は存続するという取り扱いです。
法人廃業の手続きを進めれば、税金滞納分の納税義務も消えてしまうのではなく、税金の点では法人が存続すると考えられるのです。
会社の清算決了の手続きや登記と、税法上の扱いは別物になります。
税金滞納分の納税義務を負うとして、法人廃業の手続き時は一体誰が義務を負うのかが問題です。
法人廃業の際に解散手続きをすると、会社としての実態がほぼなくなっていることも少なくありません。
税金ルールと会社廃業のための清算手続きやルールは別なので、税金滞納状態でも手続きを進めてしまって、法人の実態が希薄になっているケースが少なくないからです。
滞納している税金を払うまで会社は税法上残ると言われても、税金滞納分を誰が払うのでしょうか。
法人廃業に向けて手続きを進めている場合、税金滞納分の納税義務は廃業しようとしている法人そのものではなく、法人廃業・清算の手続きを進める「清算人」が負います。
税金を滞納しているのは法人ですから、本来は税金滞納の本人である法人が納税義務者になるはずです。
しかし法人廃業の場合は法人と一定の関係を持つ清算人が、第二次納税者として滞納税金の支払い義務(第二次納税義務)を負うことになります。
税金滞納の支払い義務者そのものではなく、税金滞納の本人と一定の関係を持つ納税義務を負う人のことを第二次納税義務者と呼びます。
税金のルールでは、税金滞納分を第二次納税義務者が支払ってはじめて法人は解散、終了するという考え方をするのです。
法人の廃業のための清算手続きと、税金の納税義務は違うからこそ、法人の廃業をおこなうときは、清算人が第二次納税義務者について考えて手続きを進める必要があります。
法人の廃業時に清算手続きを進める清算人としてよく選ばれるのは、取締役といったその会社と縁の深い人です。
取締役などが清算人を務める場合は、会社廃業のために清算手続きを進めることだけでなく、税金滞納にどのように対処するかという意識を持つことが重要になります。
滞納税金分の支払いや対処法についても、あらかじめ対策を考えておくことが必要になります。
ただ、法人の廃業が破産などによっておこなわれるケースでは、第二次世納税義務者になった取締役なども、すでに自費を会社に投じている可能性があります。
税金滞納分を支払ってはじめて税金ルール上も会社は廃業できる。
清算人になると、第二次納税義務者として税金滞納分を払わなければいけない。
わかっていることでも、すでに自費を投じていたり、法人の経営難などに悩まされていたりするケースでは、現実的に税金滞納分の支払いが難しいこともあります。
税金の支払いが困難な場合は、どのように対処したらいいのかが問題です。
会社廃業の際に税金滞納分の支払いが難しい場合は、税金の支払いを遅らせることのできる方法があります。
「納税の猶予」と「滞納処分の執行停止」というふたつの方法です。
税金の猶予とは、条件を満たすことにより、税金の支払いを1年間猶予してもらえる制度です。
税金の猶予期間に税金滞納分の支払資金を準備すればいいので、税金の支払いに苦慮するときに使えます。
税金の猶予を利用すると、税金滞納時の延滞税も半分あるいはすべて免除してもらえるというメリットがあるのです。
あらかじめ「税金の支払いに困っている」と申し出た納税義務者が、税金を払いやすい仕組みになっています。
ただし、税金の納税猶予はどのようなケースでも使えるわけではなく、納税猶予の条件に合致していないと使えない点に注意が必要です。
納税猶予を使うための条件は、以下のようになっています。
以上が条件となっています。
納税の猶予を申し出る際は、すべての条件を満たす必要はなく、このうちのひとつの条件に当てはまっていれば差し支えありません。
法人廃業の際は「災害や病気、事業の休廃止などにより国税を一時に納付することができない」という条件に合致しますので、納税の猶予が認められる可能性があります。
納税の猶予を申し出るときは「納税の猶予の申請書」を税務署に提出する必要があります。
納税の猶予の申請書には、財産状況や税金滞納額、今後の収支についての予想などを記載しなければいけません。
また、契約書などの添付書類も必要になるケースもあるため、注意してください。
納税を猶予してもらう税金の額が一定額を超えている場合は、原則的に担保が必要になる点についても注意が必要です。
滞納処分の執行停止とは、財産を差し押さえて換金のうえで税金分を回収してもらう方法になります。
債権の未払いなどがあると、よく強制執行が使われます。
強制執行とは、債務者の財産・財物をおさえて強制的に換金し、換金分から債権を回収する方法です。
この強制執行の税金版だと考えれば、理解しやすいのではないでしょうか。
滞納処分の執行停止は、このような税金の回収について、執行を止めてもらうことをいいます。
税金滞納の滞納処分の執行停止が3年間続くと、滞納している税金は消滅します。
本来は滞納処分で資産を差押えられて税金の回収がおこなわれるところを、滞納処分の執行停止によりやめてもらい、その間に立て直しをはかります。
滞納処分の執行停止は以下が条件です。
法人の解散は、以上のような条件に当てはまるケースが多いため、滞納処分の執行停止ができる可能性があります。
問題なのが、滞納処分の執行停止には申請手続きが存在しない点です。
納税猶予は税金滞納の際に手続きをすることで可能でしたが、滞納処分の執行停止には手続きが存在しないため、自分で申請できません。
手続きが存在しないからと放置した場合、税務署や自治体などが親切に滞納処分の執行停止をしてくれるようなことはまずありません。
滞納処分の申請停止のためには、手続き自体が存在しなくても、自分から執行停止してくれるように働きかけるのが基本です。
滞納処分の執行停止について検討している場合は、税理士や弁護士などに相談することをおすすめします。
法人廃業の際は、税金滞納の問題や対処も重要ですが、社会保険料の滞納も問題になり、対処が必要になるケースがあります。
法人廃業の際に滞納している社会保険料は、どのような取り扱いになるのでしょうか。
社会保険料についても、二次納税義務者が支払いを引き継ぐ可能性があります。
この他、法人の形態(合名会社や合資会社など)によっても、会社の破産手続きなどを進める中で社会保険料の支払い義務を負うケースがあるため、注意してください。
会社廃業の手続きの際は、手続き的な面と税金滞納などの税金ルールの両方を見て、扱いがどうなっているのかを確認しながら進めることが重要になります。
会社廃業により会社を終わらせるときは、会社のプラスとマイナス、つまり資産と債務の清算をおこなう作業があります。
作業や手続きが終わって、清算決了登記をすれば会社は終わりのときを迎えるわけですが、手続き的なルールと税金のルールは別物である点に注意が必要です。
会社廃業の手続きを進めるときは、手続き的なルールだけでなく、税金のルールや税金滞納への対処なども考えて進めることが重要になりますが、法人廃業時の納税義務などは専門的な知識がないと正しく対処することが難しい部分です。
法人廃業時に税金滞納に正しく対処するためにも、廃業を検討している段階で専門家に相談してはいかがでしょうか。
会社廃業や税金の専門知識を持っている専門家であれば、状況に合わせたアドバイスや対処が可能です。
まずは相談し、状況に合った方法を検討してみてはいかがでしょう。