東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
企業経営者には、どうやって営業して売り上げを伸ばすか、資金繰りをどうするかなど、悩みが多いものです。
事業が軌道に乗るまではもちろんですが、事業年度を重ねても、様々な悩みがついて回ります。
近年では、会社が赤字続きなど、業績不振の場合だけではなく、黒字の場合でも廃業が選択されることが多くなってきました。
黒字でも廃業を選ぶというのは、いったいどういう状況なのでしょうか。
本記事では、廃業の実態について解説していくとともに、実際に廃業する際に必要な手続きや費用について説明していきたいと思います。
Contents
「中小企業白書」に掲載されたアンケート調査に基づいて、廃業の実態について見ていきたいと思います。
まず、廃業した企業の組織形態を見てみましょう。
アンケート調査では、個人事業者が約9割を占め、株式会社・有限会社は約1割となっています。
次に、廃業者の年齢構成を見てみると、60歳代以上が約9割を占める結果となっています。
このような結果を見ると、廃業を決断した方の多くは、60歳代以上の高齢者で、個人事業者・個人企業であることがわかります。
廃業と倒産は、どちらも会社がなくなってしまうという意味で使われる言葉ですが、2つには大きな違いがあります。
経営者が計画的に会社をたたむことを、廃業といいます。
売上減少、経営不振という理由だけではなく、経営者が高齢で後継者がいないことや、健康・体力的な理由で自主的に廃業を選択する経営者も少なくありません。
廃業するには、会社の資産、負債の清算、株主総会の解散決議など、計画立てて、手続きを終える必要があります。
会社がなくなりますので、もちろん取引先や従業員に迷惑をかけることになりますが、廃業の場合、きちんと計画を立てることで、影響を最小限に留めることが可能です。
会社が債務超過となった場合や、債務の支払いが不能状態となった場合、会社を継続することができなくなります。
このような状態を倒産と呼びます。
会社を継続することができず、支払いもできないため、取引先や従業員には大きな影響を与えることになります。
倒産の場合は、一般的には法的な手続きによって、資産を換価し負債を精算することとなります。
たとえ法的な手続きをしなくても、手形の不当たりを出している場合、金融機関との取引が停止となりますので、事実上の倒産と呼ばれます。
廃業とは、自らの意思で事業をやめることですが、経営者が何をきっかけに廃業を考えたのかを、見ていきたいと思います。
平成26年度中小企業白書のアンケートによると、廃業の可能性を感じたきっかけとしては、「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」が38.1%、次いで「売上の減少」が28.1%となっています。
参考:2014年版中小企業白書 第3-3-29図(中小企業庁)
「経営者の高齢化の問題」とは、経営者としての体力や判断力の低下、経営者をバックアップする部下や後継者が存在しないことなどが考えられます。
さらに中小企業庁の報告によると、1995年の日本の経営者で最も多い年齢層が47歳前後であったのに対し、2015年では66歳前後と、かなりの高齢化が進んでいることがわかります。
参考:2018年版中小企業白書 第3-3-29図(中小企業庁)
また、経営者が高齢になったとしても、後継者がいれば、事業を承継することができますが、小規模企業や個人企業の場合は、「後を継ぐ子どもがいない」「能力のある後継者を育成できていない」等の理由で、事業承継が進まないことも廃業の要因といえます。
子どもがいる場合でも、「子どもに事業を継がせる意思がない」「子どもが親と違った仕事をしていきたい」といった場合は、事業承継が難しくなります。
廃業の可能性を感じたきっかけとして、一番多いのが「高齢化」でしたが、次いで約3割の理由が「売上減少」です。
廃業は自ら会社をたたむことですので、必ずしも売上減少だけが理由にはなりませんが、根底ではやはり、売上減少や業績不振が廃業理由となるのではないでしょうか。
何期にも渡って、売上減少が続いてしまうと、回復させることは難しくなっていきます。
また、売上減少によって資金が不足すれば、新たな融資を検討する必要もでてきます。
そのような状況になった際、無理に融資を受け事業を継続しても、最終的に倒産ということになってしまうこともあります。
倒産となって、取引先や従業員に迷惑をかけるよりも、ある程度余力のある時に廃業することを選ぶ経営者も多いのです。
また、現時点で売上が減少していない場合でも、会社の将来性に不安を持ち、今後業績不振が見込まれるような場合は、廃業が選択されることもあります。
企業が廃業する場合、以下のような流れで手続きを行っていきます。
例として、中小規模の株式会社が廃業する場合について説明します。
順番は多少前後することもありますが、手続の流れとして参考にしてください。
代表者が廃業を決意した場合、最初に株主総会を開催し、解散決議を行います。
解散決議は、原則として、株主総会において議決権の3分の2以上の同意が必要です。
書面決議を行う場合は、株主全員の同意が必要となります。
そして、解散決議と同時に清算人の選任も行います。
基本的に清算人は、代表者(社長)が選ばれます。
株主総会での解散決議と、清算人の選任が完了したら、企業の廃業と清算人の選任について登記を行います。
なお、解散と清算人選任登記は、廃業する日から2週間以内に法務局で手続きします。
企業を廃業する時は、税金関係の手続きも必要です。
解散届を税務署、市区町村の役所や都道府県税事務所へ提出します。
また、廃業する企業が許認可を受けている場合は、その許認可を受けている官公署に廃業する旨を、指定の書類に記載し提出する必要があります。
企業が廃業する際には、官報に解散公告を掲載しなければなりません。
解散公告を掲載する目的は、債権者(企業にお金を貸している人)に、企業の解散を伝え、借金の返済を要求する権利を保護することです。
この解散公告は、2カ月以上の掲載が必要です。
掲載期間が終了するまでは、廃業の手続きを進めることはできませんので、ご注意ください。
スムーズに廃業手続を進行するためにも、解散公告を適切に行いましょう。
企業が保有する資産を換価し、売掛金の回収を行って、帳簿上の資産をすべて現金化します。
そして、資産の現金化が終了したら、その現金で債務(借金)の返済を行って精算します。
清算終了後、現金が残った場合は、株主に財産の配当を行います。
清算手続きが終了したら、決算書類を作成し、株主総会による承認手続きを行います。
株主総会で、決算書類を承認することで、企業の法人格が消滅し、正式に廃業ということになります。
法人格の廃業は完了したことになりますが、最後に確定申告と清算結了登記の手続きを行います。
確定申告と清算結了登記を完了することで、広く社会に企業の廃業を示すことができます。
以上が、企業の廃業手続の流れですが、解散公告は2カ月以上の官報掲載が必要ですので、最低でも2カ月以上は期間が必要ということになります。
また、企業の資産や取引先が多い場合などは、清算にも時間が必要となるため、大規模な企業では、数年単位で廃業を進めることもあります。
廃業を検討するときには、廃業に必要な期間についても考慮するようにしましょう。
企業の廃業手続きには、費用もかかってきます。
費用を大きく分類すると、「登記関連」「官報公告」「専門家へ依頼した場合の支払報酬」となります。
これらの詳細について、順に説明していきます。
廃業手続きでは、解散登記、清算人選任登記、清算結了登記が必要となりますが、これらの登記には「登録免許税」という税金が発生します。
それぞれの登録免許税額は、下記の通りです。
解散公告を掲載する官報公告の費用も必要です。
官報の掲載料金は、掲載する行数によって異なりますが、1行3,263円となっています。
解散公告の場合、基本的には10行程度の掲載が必要になりますので、約3万2千円の費用が必要です。
破産手続きは、専門家へ依頼せず行うことができますが、登記や清算手続き等を専門家に依頼するとスムーズに手続きが進みます。
専門家へ依頼した場合の費用は、依頼内容や依頼先によって大きく変わってきますので、あくまでも相場ということになりますが、登記関連を司法書士に依頼した場合は5~10万円、会社の清算関連を税理士に依頼した場合は、20~30万円程度となります。
廃業を選択する際には、これら専門家に依頼する費用も必要となりますので、資金確保にご注意ください。
企業の廃業理由は様々ですが、近年では高齢化、売上減少が主な理由となっています。
企業の廃業手続きは、複雑ではありますが、あらかじめ内容を理解しておくことで、実際に廃業する時は、スムーズに進行することができます。
廃業には、費用と時間が必要となりますので、ある程度の余力を持って準備しましょう。