東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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会社が倒産すると、給料をもらう権利や退職金を受け取る権利まで消えてしまうと思いがちですが、そのようなことはありません。
会社倒産後も、倒産した会社の財産から、給料や退職金を受け取る権利が消えることはありません。
しかし、会社が倒産すると給与担当者などもいないため、権利があっても「誰からもらえばいいのか」という疑問が残ります。
実際には、会社の倒産は手続きを踏んで行われるため、倒産したからといって即座に会社が消滅するわけではありません。
会社の倒産手続きがスタートすると、破産管財人(弁護士が就任)が資産や債務を整理することになります。
そのため、会社の給与や退職金などは、破産管財人から支払いを受けられるのです。
以上の2つのポイントを明確にしましょう。
会社倒産後も社員は給与や退職金を受け取る権利を失いませんが、実際に受け取ることができるかどうかは別問題です。
会社が倒産するのは、財産的な余力がないことが理由です。
破産管財人がいて給与や退職金を受け取る権利を失っていなくても、会社に財産がなければ給料や退職金の受け取りはできません。
「財産0円から1万円は出てこない(ない袖は振れない)」という理屈です。
ただし、会社が倒産手続きをスタートした段階で会社の財産が乏しくても、給与や退職金の受け取りが極めて難しくなるわけではありません。
倒産手続きのスタート後は、破産管財人が債権回収などを行います。
たとえば、取引先に大きな額の債権を有していた場合です。
このとき債権回収によって財産が入ってくることがあるため、取り立てた債権などから給与や退職金がもらえる可能性があります。
このような場合は、給与や退職金の受け取りは絶望的でしょう。
会社に財産がないと、現実問題として給与や退職金を払ってもらうことは難しいというわけです。
では、倒産した会社から給与や退職金を受け取れないときはどうしたらいいのでしょうか。
倒産した会社から給与や退職金を受け取ることができなかったときは「未払賃金立替払制度」の利用が考えられます。
未払賃金立替払制度とは、倒産会社から払ってもらえなかった未払いの賃金を立て替え払いしてもらえる制度です。
会社倒産後も給与や退職金を受け取る権利自体は消えません。
しかし倒産会社には支払う余力がないことも多いため、国が給料や退職金をもらえない社員を救済するための措置として行っています。
ただし、倒産会社の社員が無条件に制度を利用できるわけではなく、利用条件を満たしていないと使えません。
未払賃金立替払制度の利用条件は次の通りです。
未払賃金立替払制度の利用条件
倒産には「事実上の倒産」と「法律上の倒産」の2つの種類があります。
事実上の倒産とは、賃金支払い能力が欠如しており、事業が停止しているなどのケースで、労働基準監督署の署長が認定します。
一方、法律上の倒産とは裁判所の手続きによる倒産のことで、民事再生などが法律上の倒産に該当します。
未払賃金立替払制度を利用しても、未払いの給与や退職金の全額が支払い対象になるわけではありません。
未払賃金立替払制度で支払い対象になる給与や退職金は次の通りです。
ボーナスや総額2万円未満の支払いは立て替え払いの対象外になります。
解雇予告手当や会社の経費の立て替え分なども対象外です。
未払賃金立替払制度を利用する際は、注意しておきたいポイントがあります。
未払賃金立替払制度の注意点は以下の3つです。
未払賃金立替払制度の注意点
未払賃金立替払制度を利用するためには、実際に倒産した会社で働いていたことを証明する資料が必要になります。
たとえば、その会社で使用していたタイムカードや賃金台帳などです。
証拠資料がないと不正受給が起きる可能性があるため、倒産した会社で働いていた証拠を資料で証明しなければいけません。
また、資料をすぐに準備できても、実際に未払いの給与や退職金が支払われるまでには、1〜3ヶ月ほどの期間を要します。
これは、破産管財人が極めて多忙で、破産の諸手続きに追われて、立て替え払いの対処がなかなかできないためです。
会社の役員も立て替え払いの対象にならない点に注意が必要で、対象はあくまで社員(従業員)となります。
ただし、役員を兼務している従業員については、会社の仕事内容や立場・待遇などを考慮したうえで対象になる可能性があります。
役員の登記があるという事実だけで、即座に対象外になることはありません。
会社が退職金の準備に中小企業退職金共済事業(中退共)を利用していた場合、会社の倒産は退職金に影響を及ぼしません。
なぜなら、中小企業退職金共済事業と会社は別ものだからです。
会社倒産後も中小企業退職金共済事業から退職金が支払われます。
退職金の額も影響を受けません。
会社が倒産したときは、退職金が中小企業退職金共済事業の支払いかどうかを確認することをおすすめします。
中退共の他には、建設業退職金共済制度があります。
建退共は、建設業界で働く人たちの退職金制度です。
建設業退職金共済制度が支払う退職金についても、会社の倒産は関係ありません。
会社が倒産しても建設業退職金共済制度から支払われることになります。
建設業の社員は、建設業退職金共済制度の加入状況を確認してみましょう。
確定拠出年金についても、会社の倒産とは関係ありません。
確定拠出年金は会社の財産とは別に管理されているからです。
積み立てた年金については、会社が倒産しても残高が残る仕組みになっているため、確定拠出年金は保護されます。
会社の倒産は社員の生活にも大きな影響を与えます。
社員は勤務先の破産による生活への影響を可能な限り抑えるためにも、注意したいポイントがあります。
以下に、勤務先が倒産しそうなときに注意すべきことをまとめました。
こちらをぜひ参考にしてみてください。
倒産する会社には予兆があります。
前日まで活発に取引していて、翌日急に倒産というようなことは、基本的にはありません。
人の口に戸は立てられませんから、倒産しそうな会社の場合はそれとなく資金繰りなどについて噂話が伝わることがあります。
会社の倒産に備えるためにも、倒産の予兆は見逃さないようにしましょう。
倒産のよくある予兆は次のようなものです。
倒産の予兆が見えはじめたら注意しておきましょう。
倒産の予兆が見えたり、同僚などから倒産の噂を聞いたりしても、慌てて退職することは避けた方が無難です。
急な退職にはデメリットが多く、無計画に退職してしまうと、次の仕事を見つけるまでに時間がかかる可能性があります。
退職後に次の仕事に就くまでは収入が不安定になるため、生活への影響は避けられません。
急な退職はおすすめできませんが、勤務しながら「もしものために」転職を視野に動くことは問題ありません。
倒産の情報が同僚や上司、取引先などから伝わっても、その情報が正しいとは限りません。
噂を聞いただけで倒産を確実視するにはリスクがあります。
また、言葉の中には、倒産と混同されて使われがちな「廃業」、「破産」、「経営不振」などがあります。
経営不振などは倒産とは異なり、会社の経営状況が思わしくないことを表現する言葉です。
同僚や取引先、上司などが勘違いして使っていることがあるため、倒産の噂は必ず正確な情報を確認するようにしましょう。
会社倒産の可能性が高いと判断した場合は、あらかじめ当面の生活費にできる預金をしておくことが重要です。
未払賃金立替払制度を利用するとしても、実際の支払いまでは時間がかかります。
生活に困らないようにするためにも、可能な限り預金しておきましょう。
会社が倒産しても退職金や給与を受け取る権利はあります。
しかし、会社が倒産するのは支払いの余力が乏しいということなので、現実には受け取りが難しい可能性が高いです。
会社が倒産した時は、未払賃金立替払制度などを利用することで未払いの給与や退職金を受け取れる場合もあります。
中退共や建退共については会社と別なので、特に影響はありません。
会社倒産に伴う給与未払いや退職金の受け取りについて不安なことがあれば、専門家に相談することをおすすめします。