東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
会社が倒産すると、残された財産を売却するなどして資金を集め、それを債権者に配分する清算が行われます。
清算は、破産管財人と呼ばれる裁判所から任命された弁護士が、担当する裁判官と一緒にその役割を担います。
破産管財人たる弁護士は、債権者に対して会社が倒産したことと、残された債務の規模を確認するために通知を送り、債権者に情報提供を求めます。
この時の通知が「破産手続開始通知書」と呼ばれるものです。
では、破産手続開始通知書との意味と、保証される債務にはどのようなものがあるのか、詳しく解説します。
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破産手続開始通知書は、会社が倒産した場合、裁判所から債権者に破産手続を開始したことを知らせる通知として送付されるものです。
書面には、破産手続の開始日時、破産管財人の連絡先と氏名、債権者集会の日時と会場、債権者が債権届出書を提出する期限などが記載されています。
ここで言う「債権」とは、その会社が支払うべき債務のうち、いまだに支払いがなされていないもののことを言い、企業間の取引で生じている支払いだけではなく、社員に対する給与が未払いの場合は、それらも債権として取り扱われます。
そのため、破産管財人が調査した結果、給与未払いが見つかった場合は、社員に対しても破産手続き開始通知書が送付されます。
破産手続きを行うと、破産管財人は会社に残された資産を確保し、必要に応じてそれらを売却するなどして、債権者に対して債務を弁済する作業に入ります。
この時、社員の給料や退職金などは他の債務に優先して弁済される仕組みがあります。
特に、破産開始直前3か月間の給料が未払いの場合「財団債権」として最優先で支払われます。
同様にそれ以前の給与が未払いであっても、「優先的破産債権」として優先されます。
財団債権とは、会社の残された財産の中より、破産手続の前に弁済を受けることができる債権のことをいいます。
つまり、破産手続きの前に財団債権部分を弁済し終えて、それで残された財産を今度は破産手続きに入り、債権者に弁済する流れになります。
ちなみに、財団債権に含まれる給料などには、基本給以外の固定手当、破産開始手続き開始3か月以内に発生した賞与も含まれます。
また退職金部分は、退職前3か月間の給料相当額が財団債権とみなされます。
破産手続開始通知書には、債権者集会への参加案内も記載されています。
会社が破産手続きを申し立てた場合、管財人は財産を調査し、残されている財産を処分して債権者に配当することになりますが、その調査や配当について報告する機会として、債権者集会があります。
債権者集会は、債権の規模や債権者の人数にもよりますが、定期的に行われることが多く、新たな財産が見つかれば、その配分について債権者集会を開いて報告することが繰り返され、財産が全て債権者に配当されるまで続きます。
債権者集会への参加は義務ではないので、無理に参加する必要がありませんが、倒産に至った経緯なども説明があるため、その点に疑念がある人は参加することに意義があるかもしれません。
社員が給料などを未払いになっても、債権を優先してもらえるので安心する人も多いでしょうが、あくまで会社に財産が残っているかどうかにかかっています。
現実的に、破産管財人が会社の財産を回収・売却しても、集まった資金が未払いの給料額を満たすだけ集まらない場合もあります。
たとえば、100万円の未払い給与があり、10万円を10人の社員に支払う必要があったとしても、回収した財産が50万円しかなかった場合、均等に10人の社員に弁済する決まりとなっているため、1人当たり5万円しか支払われず、残りは我慢することになります。
一方で、破産手続き時に優先されない給料や手当も存在します。
その代表的なものが「優先的破産債権」で、破産債権の中では優先的に配当されるものの、財団債権ほどの優先度はありません。
優先的破産債権の代表的な例は、破産開始手続き開始決定前3か月より前の給料等です。
また、解雇予告手当は原則として優先的破産債権として取り扱われます。
なお、優先的破産債権は財団債権をすべて弁済し終えた残りの財産から支払われるため、残りの財産が少ない場合は均等に配分されます。
その結果、本来支払われるべき額以下で弁済される場合もあります。
破産管財人は、未払いの給料や手当があるかどうか、会社の勤務履歴やタイムカードなどを確認しますが、この時に「サービス残業」など、実際に働いていたことを証明する証拠が残っていなければ、債権として認めてもらえない場合があります。
中小企業の場合、タイムカードで勤怠管理を行っていない場合もありますが、その際には自分自身で勤怠の証拠を残しておき、破産管財人に提示する必要があります。
この時の証拠として有効なのは、通勤用自動車のドライブレコーダー履歴や、自身が残している日記、家への帰宅時間の証拠となる資料などです。
実際に認められた証拠としては、電車通勤の社員がICカード定期券を使っていて、交通機関に問い合わせた結果、使用履歴を証拠として提出して認められた事例があります。
また、業務用の電子メールアカウントの送受信履歴から、会社に在席していた時間を把握できた結果、証拠として認められた事例もあります。
特に、分単位での勤怠管理を導入していない会社の場合は、万が一に備えてこれらの証拠を集めておくのもよいでしょう。
破産管財人は、様々な債権を調べ上げ、会社に隠された財産がないかを徹底的に調査するため、実際に破産管財人から債権が支払われるまでかなりの時間を要することになります。
弁済を待っている間に生活に困窮する社員もいることから、対象者を救済するために政府が会社に代わって未払賃金と退職金の一部を立替払する「労働者健康安全機構の未払賃金立替制度」が用意されています。
ただし、立て替えてもらえる額は、あくまで債権が支払われるその見込み額の一部となります。
経営者の方は、できるだけ従業員の給与・退職金に充てられる資産を確保してから破産手続きに臨むことが求められます。
もし、従業員の生活困窮が懸念される場合は、お近くの労働基準監督署で必要な手続きを行いましょう。
破産手続き開始通知書が届いた時点で、あなたは「債権者」と呼ばれる立場であると言えます。
そのため、通知の内容をしっかりと理解し、債権者として必要な書類の提出はもちろん、債権者集会などの機会をとらえて、主張すべき部分があればしっかり主張するべきです。
よく、未払いの給料等の支払いをめぐって裁判になりますが、これは会社の清算である程度の弁済を受けたものの、その額に納得できない場合に、かつての経営者を民事裁判で訴えることで訴訟に発展するものです。
とはいっても、訴訟になれば素人が証拠をそろえたりするのは困難ですから、弁護士に依頼して証拠集めや訴訟手続きを行ってもらうことになります。
今まで懸命に働いてきたのですから、請求すべき権利はしっかり請求するべきでしょう。