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個人事業主が廃業時の消費税を節税する方法【脱税とみなされるケースに注意】

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 個人事業主が廃業した年も消費税の納税義務があることがわかる
  • 個人事業主が廃業するとみなし譲渡により課税されることがわかる
  • みなし譲渡による課税を避ける方法や対策を行う際の注意点がわかる

個人事業主の方も、一定の要件に該当すれば消費税を納税しなければなりません。

そして、要件に該当する場合には、事業を廃業した年の消費税についても納税しなければなりません。

また、個人事業主が廃業すると、みなし譲渡により消費税が課税されることがあります。

そのため、思わぬ負担が発生することがあるのです。

ここでは、個人事業主の消費税とみなし譲渡の注意点について解説していきます。

廃業した年も通常と同じように消費税の申告・納税を行う

そもそも、消費税の納税義務はどのような場合に発生するのでしょうか。

そして、消費税の納税義務者となった個人事業主が廃業する時にはどのような注意しなければならない点があるのでしょうか。

消費税の納税義務者とは

消費税は、その取引の内容によって、課税対象となるものと課税対象にならないものが決められています。

消費税の課税取引とは、日本国内で行われるもので、事業者が事業として相手方から対価を得て行われるものです。

ただし、取引の中には、別の規定で非課税になると定められているものがあります。

土地の売買や居住用建物の賃貸などは、非課税取引の代表的なものです。

たとえば、車を売却する行為は課税対象となりますから、事業として売却した者は購入した人から消費税を受け取ります。

一方で、個人的に使用していた車を下取りに出す場合は、事業として行われるものではないため、消費税は発生しません。

ただ、消費税を受け取った人が、すべてその消費税を国に納税しているわけではありません。

消費税を納税しなければならない人は、消費税の納税義務者に該当する者だけとされています。

消費税の納税義務者となるのは、前々年の課税売上高が1,000万円を超えている場合です。

毎年の課税売上高が1,000万円前後となっている場合は、消費税の納税義務者となったりならなかったりしています。

また、課税売上高が毎年1,000万円以下であれば、事業者であっても消費税の納税義務はありません。

廃業した年までは消費税の納税義務者となる

個人事業主として事業を行っていた人が廃業した場合、その人はいつまで消費税の納税義務者となるのでしょうか。

たとえば、2021年6月30日をもって個人事業を廃業したケースで考えてみましょう。

まずは、この人が消費税の納税義務者に該当するか否かを確認する必要があります。

納税義務者となるのは、前々年の課税売上高が1,000万円を超える場合です。

このケースでは、2019年1月~12月の課税売上高が1,000万円を超えていれば、2021年は納税義務者となります。

実際に事業を行った期間が1年に満たなくても、納税義務の判定は前々年1年分の課税売上で行います。

納税義務者となった場合、この人が2021年12月31日までに事業として行った資産の譲渡等について消費税が発生します。

このケースでは、2019年の売り上げが1,000万円を超えていて、2021年6月30日まで個人事業者として事業を行う場合は消費税が発生することとなります。

一方で、7月1日以降は廃業して事業を行わないこととなるので、原則、それ以後の取引について消費税は発生しません。

年の途中で廃業した場合も、確定申告は翌年に行います。

このケースでは、2022年2月16日~3月15日までに確定申告書を提出し、納税を済まさなければなりません。

また、消費税の申告については2022年3月31日までに申告・納税を行うのが原則です。

廃業時の消費税申告・納付にはみなし譲渡に注意

個人事業主がその事業を廃止した場合、みなし譲渡と呼ばれるルールで消費税が課税されることがあります。

このみなし譲渡とはどのような制度なのか、解説していきます。

みなし譲渡とは

みなし譲渡とは、時価と比較して著しく低い価格で資産を譲渡すること、あるいは無償で資産を譲渡することです。

低い価格で資産を譲渡すれば、その分発生する消費税額を抑えることができます。

また、本来は対価を受領しなければ消費税は発生しません。

しかし、これでは消費税逃れができるばかりか、消費税の不正な還付を招くことにもなりかねません。

そこで、著しく低い価格や無償で資産を譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして消費税を計算するのです。

廃業した場合にみなし譲渡が適用される理由

廃業した場合には、みなし譲渡の適用を受けることがあります。

それはどうしてなのか、実際の事例で確認しておきましょう。

廃業した場合には、事業に使用していた資産などを処分しなければなりません。

たとえば、事業専用の車を使用していた場合、事業をやめればその車は不要となります。

そこで、事業を廃止する直前に売却すればその車の売却代金には消費税がかかり、納税しなければなりません。

しかし、その車を売却しないまま廃業し、個人的に使用する資産に転用し、その後売却したとします。

この場合、車を売却した者は事業者ではないため、事業としての取引ではないこととなります。

そのため、車を売却しても消費税は発生しません。

同じ車を売却する行為であっても、事業者として行うか事業者以外のものとして行うかによって、消費税の取扱いが変わります

そこで、事業用資産を個人に転用する際には、みなし譲渡の規定を適用することで、課税逃れを防ぐのです。

仮に、事業を廃止した時点で車の時価が50万円であるとすれば、その金額を課税対象として消費税の計算を行うのです。

廃業時のみなし譲渡による消費税を節税する方法

個人事業主が廃業する際には、みなし譲渡の適用を受けることはわかりました。

それでは、みなし譲渡が適用されても消費税の負担が減らせる方法はないのでしょうか。

実際にみなし譲渡により発生する消費税額を節税するためには、いくつかの方法が考えられます。

免税事業者となって廃業する

みなし譲渡を回避する最もいい方法は、免税事業者となることです。

免税事業者とは、消費税の納税義務がない事業者のことであり、消費税の申告や納税を行う必要がありません。

つまり、みなし譲渡に該当する取引があったとしてもそこから消費税は発生せず、納税する必要もないのです。

消費税の納税義務者となる事業者については、すでに説明しました。

前々年の課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の納税義務者となります。

つまり、免税義務者となるには前々年の課税売上高が1,000万円以下でなければなりません

たとえば、2021年6月30日に廃業する場合、2019年の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となるのです。

間違えるといけないのは、免税事業者になるかどうかを判定する際は、前々年の課税売上高を使うことです。

廃業する際には業績が悪化していたり、年の途中で廃業したりして、売上高が1,000万円以下となることも珍しくないかも知れません。

しかし、消費税の納税義務の判定に使うのは、あくまで前々年の課税売上高です。

急激に業績が悪化した場合でも、前々年の段階で1,000万円を超える課税売上があれば免税事業者とはならないため、注意しましょう。

簡易課税制度を利用する

消費税の課税方法の1つとして、簡易課税制度があります。

この簡易課税制度は、前々年の課税売上高が5,000万円以下となった場合に、選択により適用することができるものです。

通常、消費税の納税額は売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して求めます。

しかし、簡易課税制度の場合は売上にかかる消費税額だけを集計します。

仕入に係る消費税額は、法律で定めるみなし仕入率を使って計算し、売上にかかる消費税額から控除するのです。

みなし仕入率は、業種によって定められています。

卸売業は90%、小売業は80%、製造業は70%・・・といった形で、全部で6段階の仕入率が決められているのです。

たとえば、小売業で年間の売上に係る消費税額が300万円だったとします。

この場合、小売業のみなし仕入率80%を適用して、仕入に係る消費税額は300万円×80%=240万円となります。

その結果、300万円-240万円=60万円が納税額となるのです。

個人事業主が事業に関連する資産を売却する場合は、本業の種類に関係なく、みなし仕入率は60%とされます

たとえば時価50万円の車がみなし譲渡により課税対象となったとします。

この場合、売上に係る消費税額は5万円、みなし仕入率から計算する仕入に係る消費税額は3万円となります。

結果的に、車のみなし譲渡による消費税額を5万円-3万円=2万円に抑えることができるのです。

簡易課税制度を利用するためには、その事業年度が開始する前に税務署に届出をしなければなりません

思い立ったらすぐに利用できるわけではないことに注意が必要です。

廃業する前に資産を処分する

事業用の資産を個人で使用する予定がまったくないのであれば、廃業する前に処分してしまうのが最善の方法です

使用するかどうかわからない資産を保有したまま廃業して、消費税が課税されてもメリットはありません。

また、事業を行っている間に資産の廃棄処分を行えば、その費用を経費とすることもできます。

廃業時のみなし譲渡対策が脱税と判断されるケース

個人事業主が事業を行っているかどうかは、その実態により判定されます。

法人の場合は登記によりその法人が存在するかどうかが確認できますが、個人事業主の場合は登記のような制度がないためです。

個人事業主が廃業した場合、税務署には事業廃止届出書を提出します。

基本的にはその日をもって事業者ではなくなり、保有している資産はみなし譲渡の対象となります。

そこで、みなし譲渡課税を避けるため、事業の実態がないにもかかわらず、事業廃止届出書の提出を遅らせる場合があります

しかし、このような行為は脱税行為とみなされ、ペナルティを含めた課税処分が行われることも考えられます。

脱税と判断されかねない行為は、絶対に行わないようにしましょう。

まとめ

個人事業者が事業を廃止する場合、法人の解散とは違って事業を行わない個人としての存在がなくなることはありません。

そのため、事業用の資産を残したまま廃業した場合には、消費税が発生することに注意しなければなりません

みなし譲渡による負担を軽減するためには、免税事業者になったり、簡易課税制度を利用したりすることができます。

また、使う予定のない資産については事業を行っている間に処分することが大事なことです。

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