東京弁護士会所属。
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お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
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中小企業の中には、経営者の高齢化が進んでいる会社が増えています。
このような会社の中には、後継者不在を理由に会社をたたむ例も少なくありません。
会社の種類の1つである有限会社の中にも、そのように廃業を検討している会社があるでしょう。
有限会社の場合、廃業する際には株式会社とは異なる点があるため、注意して手続きを進める必要があります。
ここでは、有限会社の廃業に関する注意点について確認していきましょう。
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有限会社とは、2006年まで商法に規定されていた会社の形態の1つです。
設立時の資本金300万円以下、従業員の数が50人以下とされ、比較的小規模な会社ばかりです。
取締役の任期がない点、決算公告の義務がない点で株式会社とは異なり、簡便な運営ができる点に特徴があります。
2006年に会社法が制定された際に、有限会社の規定は削除され、それ以降新たに有限会社を設立することはできません。
そのため、現存している有限会社は少なくとも設立から15年以上経過していることとなります。
中には、半世紀以上経過している会社も少なくありませんが、高齢化や後継者不足といった問題を抱えている会社もあります。
そのため、有限会社の廃業を検討している経営者がいるのです。
有限会社の廃業を行うためには、会社を解散する手続きと、清算する手続きが必要となります。
解散とは法人を消滅させる手続き、清算とは会社の財産や債務をゼロにする手続きです。
この両者が完了して初めて、有限会社を廃業したこととなるのです。
それでは、有限会社が廃業手続きを行う際は、株式会社とどのような違いがあるのかを確認していきましょう。
後継者がいないために廃業する場合は、会社の経営自体は順調に推移していることが多いでしょう。
有限会社の事業活動は、地域に密着して古くからの顧客に支えられているケースが少なくありません。
また、家族だけでその会社の事業活動をすべて行ってきたという会社もあるかもしれません。
そのような会社が廃業する場合、会社を売却するという選択をするのではなく、会社をたたんでしまうことが多いです。
これは、会社ごとに特殊な事情があり、新たな経営者がやってきても経営をうまく引き継ぐことができないためだと言われています。
この点、経営状態が順調な会社は売却することも増えている株式会社の場合とは対照的と言えます。
会社の資産が多い状態で会社をたたむ場合、会社の株主には多額の所得が発生する可能性があります。
一般的に、会社の株式を売却した方が、個人に対する所得税の税負担が少なく済むのです。
この場合の廃業には、資産をどうするかについて注意が必要となります。
会社の経営状況が悪化し、融資の返済ができなくなったり買掛金などの負債を支払うことができなくなったりすることがあります。
このような場合には、法律にのっとった手続で、負債の返済を免除してもらう代わりに会社の破産を行うこととなります。
株式会社の場合、会社をたたむ方法の1つとして、特別清算を行うことができます。
しかし、有限会社の場合は、この特別清算を行うことはできません。
そのため、有限会社の手続きには大きく2つの方法が考えられます。
1つは、特別清算ではなく破産を行う方法です。
もう1つは、有限会社を株式会社に商号変更したうえで、特別清算を行う方法です。
ただ、一般的に会社をたたむ方法として広く利用されているのは破産であり、特別清算の件数は非常に少ないのが実態です。
登記手続きを行って商号変更を行い、その後に特別清算することに大きなメリットがあるわけではありません。
ここからは、有限会社が会社をたたむ方法として、破産を選択することを前提に解説していきます。
有限会社が破産手続きを進める際の流れはどのようになるのでしょうか。
また、その際に必要になる書類にはどのようなものがあるのでしょうか。
手続きの流れに沿って、その内容を確認していきましょう。
会社が破産する際にはいくつかのパターンがありますが、最も多いのは株主総会で解散を決議する場合です。
株主総会では特別決議が必要となるため、普通決議より要件は厳しくなっています。
また、株主総会で会社の解散を決議すると同時に、会社の清算手続きを進める清算人を選任することとなります。
会社の解散と清算人の選任を行った株主総会の決議にもとづいて、法務局で登記を行います。
登記に必要な書類は、以下のような書類です。
会社の解散や清算人の選任に関する登記申請は、株主総会で解散の決議をしてから2週間以内に行う必要があります。
あらかじめ書類の作成をしておいて、株主総会が終了したらすぐに登記の手続きを行うようにしましょう。
官報とは、政府が発行する機関誌であり、国民に関する様々な情報が掲載されています。
この官報に、会社が解散することを掲載してもらう必要があるのです。
官報で解散の事実を知らせることを公告といいます。
官報で公告を行うのは、会社が解散することで、債権者が一方的に不利益を受けることのないようにするためです。
ただ、実際には金融機関など一部の業種の人を除けば、官報を目にすることはほとんどありません。
官報公告を行うのとは別に、会社が認識している債権者に対しては、個別に解散の事実を伝える必要があります。
このことを個別催告と言います。
個別催告を受けた債権者は、解散に意義がある場合は催告を受けてから2か月以内に意義を申し出ることができます。
この期間を過ぎると、債権者は会社が解散することについて意義を申し出ることができなくなります。
解散日時点での会社の財産や負債の洗い出しを行い、その合計額を計算します。
財産や負債の明細を財産目録といい、解散する時には必ず作成しなければなりません。
また、解散日までを1つの事業年度として、貸借対照表などの計算書類を作成する必要があります。
事業年度が12か月に満たない期間になることも考えられるため、間違えないようにしましょう。
財産目録などを作成したら、株主総会で承認を得ることとなります。
解散日までの事業年度について、貸借対照表や損益計算書を作成し、それにもとづいて税金計算を行います。
税金計算を行った申告書は、計算書類とともに解散の日から2か月以内に税務署に提出しなければなりません。
また、利益となって税金が発生する場合には、納税も解散日から2か月以内に行う必要があります。
会社の清算とは、会社が保有する財産を換価するとともに、残った債務の支払いを行うことです。
そのうえで、最終的に残った金銭については出資割合に応じて株主に分配します。
清算を行う際には、すべての財産を処分しなければなりません。
有価証券や不動産、車などの固定資産については、売却してお金に換えます。
また、生命保険契約がある場合には、解約手続きをしなければなりません。
最終的には銀行口座もすべてゼロにしなければなりませんが、支払用の口座はすべてが完了するまで残すようにします。
リース資産を保有している場合は、その解約手続きを忘れないよう注意が必要です。
すべての残余財産の換価手続きが終了し、債務の支払いが完結すると金銭がいくらか残ることがあります。
この残った金銭が残余財産となります。
残余財産は、株主の出資割合に応じて分配されます。
この時、出資金額を上回る分配が行われると、その金額については配当所得として課税されます。
配当となった部分の金額については、会社で所得税の源泉徴収をしなければならないため、計算には注意が必要です。
残余財産が確定したら、税務署に残余財産が確定した事業年度の申告書を提出します。
清算手続きの中で不動産や株式を売却して利益が出た場合には、その利益に対して法人税がかかります。
原則として、残余財産が確定してから1か月以内に申告し、納税する必要があります。
ただ、残余財産の確定後、時間をおかずに最終分配が行われる場合はその最終分配の前日までに申告する必要があります。
すべての清算事務が完了したら、その内容を記載した清算事務決算報告書を作成しなければなりません。
作成した清算事務決算報告書については、株主総会において、株主の承認を受ける必要があります。
清算事務決算報告書の作成が完了し、株主総会で承認を受ければ会社で行う清算の手続きは終了します。
そこで、最後に法務局で清算結了の登記を行います。
清算結了の登記を行う際に必要な書類は以下のとおりです。
清算結了の登記は、株主総会で清算事務決算報告書の承認を受けてから2週間以内に行うこととされています。
期限後の手続きとならないように注意してください。
有限会社が廃業し、解散や清算を行う際には、どのような費用がどれくらいかかるのでしょうか。
ここでは、その費用の種類とおおよその相場について解説していきます。
解散や清算を行う際に、法務局に登録免許税を支払わなければなりません。
解散登記を行う際にかかる登録免許税は30,000円、清算人の選任に係る登録免許税は9,000円です。
また、最後に清算結了を行う際の登録免許税は2,000円です。
したがって、合計で41,000円の登録免許税がかかることとなります。
法人の解散について官報公告を行う際は、官報に掲載する行数によって金額が変わります。
解散の公告を行う際は、35,000円程度の公告費用がかかります。
解散や清算に関する登記を行う場合は、司法書士に依頼する方が多いでしょう。
司法書士に依頼した場合は解散と清算をセットにして依頼することとなり、その金額は70,000円~100,000円前後になります。
書類の作成などを自分で行えば、多少報酬を安くすることができる場合もあります。
解散と清算の2回、税務署に申告書を提出しなければなりません。
また、残余財産を分配する際にみなし配当が発生する場合には、源泉徴収税額の計算も依頼することとなります。
この一連の手続きについて税理士に依頼する場合、100,000円~200,000円程度の報酬がかかります。
つまり、専門家の力を借りながら廃業をする場合、全部で400,000円弱のお金がかかることになります。
有限会社の廃業手続きを行う場合、最低でも2か月半、急いで手続きしても3か月ほどかかります。
これだけの期間がかかる最大の理由は、解散の公告にあります。
債権者保護手続きの一環として行う官報公告は、その掲載日から2か月間は手続きを進めることはできないのです。
そのため、官報に掲載してから2か月後に清算に関する手続きを開始することとなります。
最終的な清算結了の登記が終わるまでは、最低3か月くらいはかかるものと思って手続きを進めましょう。
有限会社の解散・清算に関しては、株式会社とは異なる特有の注意点があります。
また、解散・清算の手続きをしてしまうと、さかのぼって会社を復活させることはできません。
ここでは、解散・清算するにあたっての注意点を確認しておきましょう。
みなし解散とは、休眠会社が決められた年数以内に登記を行わない場合、その会社が解散したものとみなす制度です。
会社を継続する意思があっても、登記を失念していることで解散させられてしまうことがあります。
ただ逆に言えば、わざわざ解散登記をしなくても自動的に会社を解散できる制度なのです。
しかし、このみなし解散があるのは株式会社などに限られ、有限会社には適用されません。
そのため、いくら休眠状態になっていたとしても解散登記を行わない限り解散することはできないのです。
有限会社の経営を継続するのが難しいと感じても、すぐに解散・清算するのが得策ではありません。
会社を守り、従業員の生活を守ることができるのであれば、その方がいいのです。
会社を残すことが難しいと考えていても、実際には買収したいという人が現れる可能性もあります。
また、身内以外の人にふさわしい後継者が現れる可能性もあります。
あらゆる可能性を考慮して、最もいい方法を選択するようにしなければなりません。
経営難となっている場合には、それ以上事業を継続することが難しいため、解散・清算の決断を早めにする方がいいかもしれません。
一方、後継者がいない有限会社については、必ずしも解散することが最善の方法ではありません。
様々な可能性を考慮したうえで、その会社を残す方法がないかを考えてみる必要もあるのです。
会社の未来について不安を感じているのであれば、まずは専門家に相談してみるといいでしょう。