東京弁護士会所属。
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お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。
会社の経営を長く続けていると、様々な事情や外部環境の変化から事業を継続することが難しくなることがあります。
このような場合、経営者はすぐさま廃業と結論づけずに、会社休眠という選択をすることもできます。
そもそも会社休眠とは、一体どういう状態を指すものでしょうか。
また、会社に債務が残っている状態でも会社を休眠させることはできるのかという疑問を持つ経営者の方もいるでしょう。
本記事では、会社休眠の概要と、廃業との違いについて説明するとともに、債務が残った状態で会社を休眠させることができるのかについて解説します。
また合わせて、休眠会社にかかる税金、会社を休眠させる場合の注意点についても説明します。
Contents
会社休眠とは、一般的には会社の事業活動をすべて停止させた状態のことを指します。
法律で会社休眠手続きが規定されているわけではありません。
しかし会社を休眠させる際には、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場の3か所に休業届(異動届出書)を提出したり、年金事務所へ「適用事業所全喪届」や「被保険者資格喪失届」を提出したりして、休眠中に余計な税金や保険料が課せられないようにする必要があります。
法律上で「休眠会社とは何か」という規定はあります。
会社法第472条によると、休眠会社とは「最後に登記を行った日から12年経過した株式会社」とされています。
株式会社は、役員の任期が最長の場合でも10年です。
任期満了となったときは役員変更登記が必要になりますから、最低でも10年に1回は登記を行わなければならないということになります。
これを行わない場合は休眠会社として扱われ「みなし解散」の対象となります。
会社の事業活動を停止させたい場合、「休眠」「廃業」のいずれかを選択することができます。
廃業によって、会社の事業活動を停止させる場合、最終的に会社を消滅させることになりますので、二度と事業を再開することはできません。
さらに解散・清算続きをする場合は費用と時間が必要となります。
また、廃業には債務超過等により自主的な清算ができず、裁判所へ破産手続きを申立てるしか道がない場合もあります。
一方、休眠であれば、一旦事業活動を停止するだけで、休眠期間後に再び事業活動を始めることが可能ですから、廃業と違って会社が消滅することにはなりません。
また、会社を休眠させるための手続きは、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ休業届(異動届出書)を提出するだけですし、事業活動を再開させるときも同様に、3か所へ再開届(異動届出書)を提出するだけですから、簡単で費用もかかりません。
ただし、休眠期間中に会社を完全に放置できるわけではありませんので、事業を再開させる予定が全くない場合は、廃業してしまった方がすっきりできるでしょう。
会社休眠は、会社の事業活動をすべて停止させることですが、借入金などの債務が残った状態で休眠させることは可能でしょうか。
会社休眠の捉え方にもよりますが、事実として事業活動を行っていないことから、会社の課税所得に対する法人税、法人事業税、消費税、法人住民税の所得割等は、課税されませんが、休眠によって納税義務がなくなるわけではなく、法人住民税の均等割や固定資産税などは課税されます。
また休眠前には、税金の関係で税務署、都道府県税事務所、市区町村役場へ休業届(異動届出書)を提出しますが、これも事実の問題であって、法的効果を伴うものではありません。
ですから、会社を休眠させたからといって、債務が免除されるとか返済期間が延長されるといったことは一切ありません。
また、債務が残った状態で、会社の事業活動を停止して休眠させたとしても、休眠期間中に放置できるわけでもありません。
つまり、債務がある状態で会社を休眠させることは可能ですが、債務が免除されるとか、猶予を受けられるといった特典があるわけではありませんので、放置することはできず、債務の弁済が必要です。
会社休眠を、何もせずに放置できるという意味で捉えた場合、債務がある状態では会社休眠できません。
たとえば、会社を立ち上げる際に日本政策金融公庫より創業融資を受けていた場合や、保証協会を通して銀行などの金融機関から融資を受けていた場合、返済が残った状態で、会社を廃業せずに休眠させ、個人で債務を弁済しようと考えたとしましょう。
このように、会社の債務がある状態で、会社の事業活動を停止させて休眠会社とし、残った債務を個人で分割返済していくことは可能でしょうか。
まず、金融機関にとって会社休眠は債務を弁済するための収入がないことを意味しますので、一括返済を要求されることが一般的です。
その上で、返済方法の変更をお願いし承認してもらえるかどうかという問題になります。
金融機関にとっては、全額返済を受けられれば文句はないでしょうが、個人の返済計画が適正でなければ承認を受けることはできないでしょう。
しかし、注意していただきたいのは、休眠が返済方法の変更理由として認められるわけではないということです。
休眠には、何の法律的効果もありませんので、金融機関にとっては意味がありません。
また会社の借入契約に際して、経営者個人が連帯保証人となっている場合は、会社が休眠によって債務の返済ができなくなると判断されれば、連絡保証債務を請求されることになります。
ほかに、日本政策金融公庫の創業融資で会社代表者に返済負担がかからない契約であった場合でも、会社休眠により返済するための事業収入がストップするとなると、信用損壊として一括弁済を要求される可能性があります。
契約違反行為とみなされた場合は、個人資産での弁済を求められたり、連帯保証人となることを要求されたりすることになります。
そのような場合は、個人で所有する家などの不動産を差し押さえられる可能性もありますので、ご注意ください。
繰り返しになりますが、借入金のある金融機関等に会社休眠を知られると、すぐに回収するために一括返済を求められます。
休眠会社というのは、マジックワードと思われることもありますが、法律的には解散登記を職権で行う会社の状態を示しただけです。
会社を休眠したからといって、債務に関して何か優遇が受けられるというわけではありません。
ですから、会社に債務がある状態のときは、債務をしっかり清算した後に会社を休眠させなければなりません。
また債務の弁済が難しい場合は、会社を休眠させても何の解決にもなりませんから、会社を廃業し破産手続き等を行うしかないでしょう。
休眠期間中でも、会社の納税義務はなくなりません。
しかし、会社休眠中は全ての事業活動を停止していますから、事業活動によって生じる事業所得に課税される税金については、課税されません。
事業所得に伴って課税される税金には、法人税、法人事業税、消費税、法人住民税(所得割)などがあります。
一方、事業所得がゼロでも課税される税金がありますので、ご注意ください。
それぞれの税金については、次の通りです。
会社休眠中で事業活動を停止していても、登記上の会社はそのまま存続していますから、登記内容に変更が生じた際には、登記変更が必要で、それに伴い登録免許税も必要となります。
株市会社の場合、取締役の任期は一般的には2年ですが最長でも10年です。
休眠期間中であっても、取締役の任期が満了となった場合は、再任(同じ人が取締役を続ける)であっても、役員変更登記が必要です。
このとき必要となる登録免許税は、株式会社の資本金に応じて設定が異なります。
資本金が1億円以下の場合は1件当たり1万円ですが、資本金が1億円を超える場合は1件当たり3万円となります。
法人住民税には、事業所得に対して課税される所得割と、所在する事業所に対して課税される均等割があります。
基本的に、休眠会社の場合、事業活動を停止して事業所得がゼロとなっていますから、所得割は課税されません。
ですが、事業所得に伴わない均等割については、最低額の約7万円は、事業所得がゼロでも課税されます。
この法人住民税の均等割については、休眠期間中は免除されたり、減額されたりする自治体があります。
免除や減額を受けるためには、都道府県税事務所、市町村役場へ休業届(異動届出書)を提出しなければならないというのが一般的です。
休眠前に会社のある都道府県、市区町村へ免除の有無や手続き方法について確認しておきましょう。
休眠会社名義の不動産等がある場合、休眠期間中であっても会社に対して固定資産税が課税されます。
休眠会社だからといって免除されるわけでありませんので、ご注意ください。
休眠会社にする場合、事業の再開を見越して対外的な信用度を低下させないようにしなければなりません。
また、休眠中だからといって完全に放置できるわけではありませんので、ご注意ください。
基本的に休眠期間中で事業所得がゼロの場合でも、税務署への決算申告(確定申告)が必要です。
休眠前に青色申告の承認を得て確定申告していた場合、会社の決算期2期続けて提出期限を過ぎてしまうと、青色申告の承認を取り消されます。
事業を再開する際に、青色申告を取り消されている場合は、再度「青色申告承認申請書」を提出しなければならず、さらに青色申告の税制の優遇制度を受けられるのは申請の翌期以降となりますので、ご注意ください。
休眠期間中に、取締役の任期満了を迎えた場合、役員変更登記を行う必要がありますので、忘れずに行いましょう。
株式会社の場合、最後に登記してから12年が経過すると、法律上の休眠会社となります。
休眠会社となった場合、法務大臣の公告および休眠会社への通知が行われ、通知があった日から2ヵ月以内に「まだ事業を廃止してない」旨の届出、変更登記を行わないと、「みなし解散」として登記官によって解散登記されますので、ご注意ください。
休眠会社となっても、会社の債務が免除されたり、返済期限が延長されたりするような優遇は一切ありません。
当然、休眠期間中であっても債務の返済を滞らせることはできませんから、ご注意ください。
もしも債務の返済が遅れてしまうと、金融機関からの信用度が低下するだけでなく、事業を再開した後に新たに融資を受けることが難しくなってしまいます。
借入金のようなわかりやすい債務だけでなく、取引先への買掛金などの債務も休眠前に返済しておくようにしましょう。
会社休眠は廃業と違って、税務署等へ休業届(異動届出書)を提出するだけですから、手間も時間もかからずに会社の事業活動を停止させることができます。
しかし、会社に債務が残った状態では、会社を休眠させて放置することはできません。
休眠前に、必ず借入金などの債務は弁済するようにしましょう。
債務の弁済が難しい場合は、会社を廃業させ会社破産手続き等を行う必要があります。
また、会社休眠中であっても納税義務は残りますし、決算申告(確定申告)も行わなければなりませんので、ご注意ください。