東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
資金繰りが悪かったり、借入の返済に困っていたりして、法人破産を検討していても、どのような状況が破産原因として認められるのかわからないという方はいるでしょう。
あるいは、そもそも法人破産手続きがどのように進められるのかわからない、といった悩みを抱えている方も多いと思います。
破産は、法律で定められている法人破産手続きの開始原因に該当しなければ基本的に認められません。
この記事では、法人破産手続きの開始原因として法律で定められている「支払不能」と「債務超過」とはどのような状態をいうのかについて、法人破産手続き全体の流れと併せて、詳しく解説します。
Contents
法人の破産手続きを開始する原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
その前に、法人の破産とはどのような手続きなのか、簡単に確認しておきましょう。
まず、破産法という法律に基づいて、裁判所に破産手続き開始の申し立てを行います。
裁判所は裁判によって破産手続き開始決定をします。そうすることで初めて、法人の所有している財産を現金化し、債権者に対して債権額に応じて配当することになります。
これが法人の破産手続きの流れです。
裁判所によって破産が認められるには、まず、破産手続き開始の申し立てを行うことができる必要があります。
そして、裁判によって破産手続き開始決定がなされるには、破産法に認められた形式的要件と実体的要件を満たす必要があります。
この実体的要件の一つが、「債務者に破産手続き開始原因があること」とされているのです。
破産手続き開始の申し立ての条件となる形式的要件を満たす書類を用意するのは、素人では難しい部分があります。
申し立てが却下されないためにも、破産実務に精通した弁護士に任せるのがベストでしょう。
以下では、「破産手続き開始原因」が破産手続きの中でどのような意味合いを持つのかを明らかにするために、破産手続きが開始される際の申し立ての条件と、裁判で開始決定される要件を解説します。
法人の破産手続き開始の申し立ては、誰でも行えるわけではありません。
法律によって申し立てを行うことができる破産手続開始申立権者は、債権者、債務者、準債務者、監督官庁のいずれかとされています。
最も一般的な破産手続き開始申し立ては、支払不能等に陥った債務者自身が行います。いわゆる自己破産申し立てです。
法人の場合、取締役会等の議決に基づいて、その法人自らを破産手続き開始の申立人に決定します(破産法18条1項)。
法人自らではなく、法人内部の個人名義で破産手続き開始の申し立てを行うこともできます。
これが準債務者による、準自己破産申し立てです(破産法19条1項、2項)。
稀なケースではありますが、債務者が支払不能に陥っているのに自己破産しない場合、強制的に自己破産させて債権の回収をする目的で、債権者が破産手続き開始の申し立てをすることもできます(破産法18条1項)。
破産手続き開始決定にはまず、形式的要件が必要です。形式的要件では、申し立てが適法であるかが問題となります。
破産手続き開始の申し立てが適式に行われていることが必要です。
具体的には、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面によっていることです(破産法20条1項)。
書面には、債務者の収入・支出の状況、資産・負債の状況、破産手続開始となる原因となる事実などを記載することとされています。
また、債権者一覧表、破産手続き開始の日の直近に作成された貸借対照表・損益計算書、債務者の財産目録などを添付していることも条件になります(破産規則13条1項、14条1項・3項)。
そのほか、上述した申立権者であること、債務者に破産能力があること、手数料を納付したことが条件になります。
破産手続き開始決定の実体的要件は次の2つです。2つの要件のいずれかに該当すれば、破産手続き開始決定の実体的要件を満たすことになります。
第1に、債務者に破産手続き開始原因があることが必要です。
破産手続き開始原因とは、経済的に破綻している状態にあることで、支払不能と債務超過がこの原因になります。
第2に、債務者に破産障害事由がないことが必要になります。
破産障害事由とは、破産手続費用の予納がないこと、不当目的・不誠実な破産手続開始申し立てがなされたこと、民事再生・会
社更生・特別清算手続が開始されていること、が挙げられます。
破産手続きには一定の費用が必要になるため、最低限の費用分を裁判所に予納することになっています。これがないと破産手続き開始決定の障害とみなされます。
財産の隠匿や嫌がらせなどの不当目的・不誠実な破産手続き開始決定が行われることがあります。これも破産手続き開始決定の障害となります。
民事再生・会社更生の手続きが開始されているときは、清算ではなく、経済的再建が可能であるとみなされ、破産手続き開始決定はなされません。
特別清算手続きについても、破産手続きよりも簡便・穏便であるため、優先されます。
破産法では、法人の破産手続き開始原因として、支払不能と債務超過の2つを定めています。
このうち、「支払不能」とは、「債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあることとされています(破産法2条11項)。
この条文解釈から、「支払不能」とは一般的に次の要件を満たす場合とされています。
この4つの要件について、以下で詳細を解説します。
支払能力を欠いているとは、金銭などの財産上の給付をすることができる経済的能力がない、ということです。
この経済的能力がないことの判断基準は、債務者の財産・信用・労務の3要素を総合考慮して判断されます。
たとえば、財産がなくても信用によって債務を弁済する資金を調達できる可能性があれば、支払能力がないとはみなされません。
逆に、財産があったとしても、換金することが難しく、財産を債務の弁済に充当することができなければ、支払能力がないとみなされることになります。
弁済期にある債務を弁済できないとは、弁済期がすでに到来している債務を支払えない状態であるということです。
まだ弁済期が到来していない債務について、支払うことができないことが見込まれるとしても、弁済期が到来している債務を支払っていれば、支払不能にはなりません。
また、正当な理由によって弁済しない場合は弁済できないことにはならないので、支払不能には該当しません。
一般的かつ継続的に債務を弁済できないことは、弁済の一般性と継続性を欠くことが条件になります。
弁済の一般性を欠くとは、総債務を通常通りに支払うことができないということです。
一部の債務を弁済していたとしても、総債務を弁済できる資力が不足していれば、弁済の一般性を欠くとみなされます。
逆に、一部の債務を弁済できなかったとしても、総債務を弁済できる資力が不足していることが理由でないときは、弁済の一般性を欠くことになりません。
弁済の継続性を欠くとは、弁済できない原因が、一時的な資力の喪失でないということです。
今月はたまたま一般的に支払えなかったが、来月以降は通常通り一般的に支払えるようになるというときは、弁済の継続性を欠くことになりません。
上述の条件に該当する場合以外に、客観的に支払能力がなく、一般的かつ継続的に弁済期にある債務を弁済できない状態と判断されるときも、支払不能と評価されることになります。
客観的な事情の一つとして、支払不能を推定させる事情として、支払停止の状態があります。
支払停止とは、債務者が明示的または黙示的に外部に対して支払不能であることを表明していることです。
たとえば、明示的な支払停止としては、2回以上の手形不渡りがあり、銀行の取引停止処分を受けた場合、各債権者に支払ができなくなった旨の通知をした場合、事業所等に支払いができなくなった旨の張り紙をした場合、などが該当します。
黙示的な支払停止としては、廃業、店舗・事業所等の閉鎖、店舗・営業所等から夜間に什器等を持ち出す行為、手形不渡りの期限が迫っていたにもかかわらず決済資金を手当てしなかった行為、社債の弁済期前に弁済金を入金しなかった行為、債務者代理人弁護士が債務整理開始通知を送付した行為、などが該当します。
客観的に支払不能の状態に該当するかどうかは、実務上判断の分かれるところです。
迷ったら破産手続きに精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
破産法では、法人の破産手続き開始原因として、支払不能と債務超過の2つを定めています。
このうち、「債務超過」とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」とされています(破産法16条1項)。
わかりやすくいうと、客観的に、債務額の総計が資産額の総計を超過している状態にあるということです。
例えば債務が1,000万円あるのに、資産が100万円しかなければ、債務を返済できる状態ではなく債務超過といえるでしょう。
これは、法人(合名会社・合資会社を除く)のみに適用される破産手続き開始原因となっています。
法人は原則有限責任なので、「支払不能」になるまで破産できないとなると、債務に引当てるべき法人の財産が目減りしてしまうということになりかねません。
債権者が得るはずの配当が減少する不利益を防ぐために、法人の破産手続き開始原因の要件として、「債務超過」を認めているのです。
債務超過の判断基準は、客観的に、法人の債務の総計が資産の総計を超過している状態であることになります。
客観的に判断できることが条件になるため、債務の総額と資産の総額を客観的に明らかにできる資料が必要になります。
債務超過であることの判断時点は、破産手続開始決定の時点となります。
債務超過であるかどうかは、債務者の財産のみから判断します。支払不能の判断の場合のように、債務者の信用や労力などを考慮しません。
収益力があって債務の支払いが可能であったとしても、財産が債務より少なければ債務超過と認められます。
この債務超過を判断する際、対象となる債務は、弁済期が到来している債務かどうかを問いません。
弁済期が到来している債務だけであれば、債務が超過しているとは言えない場合でも、弁済期が未到来の債務を併せると債務が
財産を超過していれば、債務超過と認められることになります。
ただし、非金銭債権債務総額には含まれません。
また、財産・資産の評価には、清算価値と企業継続価値による方法があります。
清算価値とは、現在有している財産・資産をすべて換価した場合の金銭的価値です。
企業継続価値とは、営業を継続することによって将来得られる収益や失われる損失を加味した価値をいいます。
営業を継続することで得られる収益があれば、債権者は事業譲渡代金によって配当を得られる可能性もあります。
したがって、債務超過の判断に際しては、企業継続価値によるべきとされているのです。
債務超過に似た状態として「資金ショート」があります。
資金ショートとは、資金がなく期日までに支払いができない状態。
ただし債務超過・資金ショートには、下記のような違いがあります。
債務超過の場合は赤字であったとしても、追加でお金を借りれば、一旦の存続はできます。
対して資金ショートになると、銀行取引が停止になったり、資金が借りれない状況になります。
会社を存続するためのお金を調達できないため、すぐに破産に追い込まれます。
債務超過の場合だと存続は可能ですが、あまりに長期間になると、銀行から融資をもらえなくなるかもしれません。
まとめると、資金ショートはすぐに破産する・債務超過はすぐには破産しないけど、改善しなければいずれ破産する状態です。
債務超過と混同しがちなのが「赤字」だと思います。
赤字とは、売上に対して支出が多い状態です。
例えば年間で1000万円の売上があった場合に、経費が1100万円かかっていると、100万円の赤字になります。
赤字は会社の資産や負債は考えずに、あくまで一定期間において売上よりも経費が高い状態を指します。
対して債務超過の場合は、会社の全財産を売り払っても返済できない負債がある状態です。
どちらもすぐに倒産するわけではありませんが、早めの対処が必要になります。
債務超過は破産手続開始の要因になります。
すぐに破産手続きが開始するわけではありませんが、その他のリスク・会社への悪影響もあります。
債務超過になると、金融機関からの融資が受けにくくなります。
なぜなら金融機関側は、融資をしても返済ができない可能性が高く、融資するだけ損をする可能性があるからです。
長い付き合いのある金融機関・関係性ができている場合でも、債務超過になれば、金融機関からの印象は悪くなります。
会社経営や事業を運営するうえで、金融機関からの融資は重要なポイントになります。
融資が受けられなくなれば、自社の資金だけで会社経営していくことになるため、かなり経営が難しくなります。
債務超過になると、新規の融資が受けにくくなるだけでなく、すでに受けている融資の早期返済を求められるかもしれません。
なぜなら会社が債務超過になると、倒産のリスクが高くなり、融資の返済ができないまま破産する可能性があります。
会社が破産をすれば、その会社への融資が返済されることはありません。
そのため少しでも回収する金額を確保できるように、債務超過になった会社に対して、早期の返済を求めます。
債務超過の事実が取引先に広まると、信用を失う可能性があります。
経営状態が悪く、倒産のリスクがある会社との取引は危険です。
付き合いの長い会社であったとしても「この会社は倒産する可能性があるから、仕事の付き合いをやめておこう」と思われるでしょう。
取引先との連携が取れなくなると、それだけで経営・事業の継続が難しくなる可能性もあります。
債務超過になってしまったら、早めに対処をして、取引先との関係を維持できるようにしましょう。
会社を経営していると債務超過になるかもしれません。
そこで下記では、債務超過を解消する方法を説明します。
債務超過とは、負債の総額が資産の総額を超えている状態になります。
なので出費を減らして、利益を増やしていけば、債務超過も解消できます。
「そんなことわかっている!簡単にできない!」と思うかもしれませんが、まずは無駄な出費を削ることから始めましょう。
商品の原価・人件費を下げたり、仕入れ先・取引先を見直して経費を削ったり、活用してない資産を売却するなどが有効です。
経営していると、当たり前のように感じて見過ごしてしまうポイントに無駄に潜んでいるかもしれません。
すぐにできる「無駄を省く」という作業が終われば、次は長期の経営戦略を見直していきましょう。
経営の悪い箇所を見直すことで、長期的な債務超過の解消に繋がります。
民事再生とは、会社を消滅させずに事業を立て直す手続きです。
裁判所が介入して、会社の資産整理・債務の返済スケジュールの調整などを行うことで、事業の存続を目指します。
民事再生が成功すれば、会社を破産させることなく、事業の継続ができます。
債務超過になっている場合でも、債権者を集めて返済予定を決めたりすることで、破産を防ぎます。
民事再生の詳しい手続きについては、下記の記事をご覧ください。
債務超過は負債総額が資産総額を上回っている状態なので、資産額が増えれば、債務超過を解消できるかもしれません。
そのため「資産を増やす」という方法も有効です。
資産を増やす具体的な方法は、経営者自身が資金を出したり、ファンド・投資家からの援助などがあります。
ただし債務超過の状況になっている会社だと、資金援助されるのは難しいと思います。
今後の事業プラン・債務超過をどうやって乗り越えていくか、をしっかりプレゼンできるようにしておきましょう。
支払不能・債務超過になったら、ひとまず弁護士への相談がおすすめです。
会社の破産手続き・民事再生の経験がある弁護士なら、適切なアドバイスもできます。
債務超過や支払い不能の可能性がある場合は、1日でも早い対処が必要になります。
税理士に相談する方法もありますが、債権者と交渉する可能性もあるため、代わりに交渉までやってくれる弁護士の方が心強いでしょう。
多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で行っているため、費用をかけず気軽に相談できるのもメリットです。
ひとりで悩まずに、とりあえず弁護士に相談して、今後の方針を決めた方がいいでしょう。
法人破産手続きを開始するには、裁判所に破産手続きの開始を申し立てる必要があります。
申し立てが認められるには、申立権者が行うこと、一定の事項を記載した書面、添付書類によって申立てなければなりません。
申し立てが受理され、裁判所によって法人破産手続きの開始が決定されるには、実体的要件を満たしている必要があります。
実体的要件とは、破産手続き開始原因があることと、破産障害事由がないことです。
法人の破産手続き開始原因は、支払不能か、債務超過であることが必要です。
支払不能とは、弁済期にある債務を弁済できないこと、一般的かつ継続的に債務を弁済できないこと、あるいは、客観的に見て支払不能の状態であること、をいいます。
債務超過とは、客観的に、債務額の総計が資産額の総計を超過している状態にあることです。
どのような状況が支払不能の状態に該当するかは、判断が難しい部分もあります。
また、破産手続き開始原因に該当しそうな場合であっても、申し立ての形式要件を満たす書類を準備するのは容易ではありません。
破産実務に精通した弁護士に相談するのがベストでしょう。